
物流の進化を導く荷主と物流統括管理者が創る新たな連携モデル
「荷主と物流統括管理者が創る新たな連携モデル」という視点から、物流の進化をリードするために必要な物流統括管理者の役割や具体的な実践内容について考察します。
グローバル企業の調達リスク管理は、外部データと最新テクノロジーを活用しTier1からTierNまでのサプライヤー階層や輸送経路を可視化しています。一方、国内企業は出遅れており、システム導入、デジタルリテラシーや分析力、コミュニケーション能力が求められます。国内企業はこれに追随しなければ競争力で今後大きく劣る可能性があると考えます。本稿では、調達リスク管理の重要性について解説し、調達部門の今後の取り組むべきことについて提言します。
調達リスク管理は、これまでTier1サプライヤーのQCDや財務状況を管理することが中心でしたが、昨今の外部環境の変化によってサプライチェーンが複雑になり、より広範囲なリスクに対し迅速な対応が求められています。
これからは、Tier1から末端のTierNまでのサプライヤー階層に加え、輸送経路、輸送ハブ拠点までのサプライチェーン全体の可視化が大前提で、ロケーションごとにどのようなリスクが潜んでいるのか、事前に察知することが必須となります(図表1)。グローバル企業は国内企業より先行して取り組んでいますが、国内企業ではごく一部にとどまっています。しかし、2030年以降は多くの国内企業が当たり前のように取り組んでいることでしょう。
グローバル企業が進めているポイントは大きく2つです。
外部データとは、サプライヤーデータ、ソーシャルメディアデータ、外部機関が発行するデータなどさまざまあり、多様化した潜在的リスクの抽出や対策の検討に欠かせません。サプライヤーデータは、評価結果、下請け情報などのサプライヤーごとにユニークな情報、ソーシャルメディアは政治的な動きや自然災害などの情報、そして外部機関が発行するデータは、財務情報、各国または地域の規制情報、調査機関の公開情報、貿易情報などで膨大にあります。これだけさまざまな外部データがあるものの、未だに一部のサプライヤーデータと財務データで管理している国内企業は多いのです。
前述のとおり、外部データは膨大な量があり、これを人が表計算ソフトで分析するのには限界があり効率的ではありません。リスクの種類によっては専門知識がなければ予測が難しく現実的ではないため、分析にはビッグデータ解析やAIの活用が欠かせません。
前述のとおり、外部データや最新のテクノロジーの活用にはシステムが不可欠です。システム導入無しで情報を収集するには、以下のような懸念があります。
外部データとしては、財務、人権、地政学などそれぞれに特化したものや、国・行政が発行する地域に特化したものなどさまざまなデータソースがあります。例えばEUでは、環境規制に関する物質情報を定期的に更新しており、企業としてはこのような規制情報をいち早くキャッチしなければ、EU域内のサプライヤーから調達できず生産停止、またはEU域外から調達し生産できたとしても、EUへの輸出時に税関で止められる可能性があります。このようなデータソースはグローバル全体でみると何百万と存在するため、グローバルに事業を展開している企業は、サプライヤーやロケーションごとに適切なデータソースを見極めるのは不可能に近いといえます。
表計算ソフトなどを活用してサプライヤーから情報を集めるには以下のような懸念があります。
サプライヤーから協力を得るには下記のような対応が必要と考えます。
このようにシステムを導入せずに調達リスク管理業務を行うことは、サプライヤーおよび管理するリスクを限定すれば可能ではあるものの、リソースや工数の負荷は高くなります。国内では人口減少が懸念される中、アナログ的な管理はそう長くは続かないでしょう。
ここで、最新の調達リスク管理システムの特徴について紹介します。Tier1サプライヤーとTierNサプライヤーの関係性や輸送経路、輸送ハブ拠点などを自動的または半自動的に可視化できる点、多様化したリスクを一元的に管理できることから、生産性が非常に高まります。数百万もの外部データをシステムと繋ぎ、AIがそれらを分析して適宜更新しビジュアル化してくれます。
グローバル企業はいち早く導入メリットを理解しレジリエンスを高めているため、国内企業もこれに追随しなければリスク管理の面で後れを取り、競争力で劣ってしまうことが危惧されます。
テクノロジーとAIは絶え間なく進化し続けており、今後も想定以上の速度で発展していくことが考えられます。調達業務にデジタルツールは不可欠となることから、調達人材がデジタル時代を生き抜くには次のようなスキルが重要となるでしょう。
PwCの第27回世界CEO意識調査によると、日本のCEOの27%が企業の価値創造の阻害要因の1つとして「テクノロジーに対する自社の技術不足」を挙げているように、企業が競争力を維持・向上していくには、こうしたデータとテクノロジーを適切に活用しながら戦略的な判断と実行を下せる人材は貴重で、育成や登用が急務となるのではないでしょうか。
国際情勢はこれまで以上に目まぐるしく変わり、調達部門にも影響が及ぶでしょう。本稿ではM&A、トランプ関税、台湾有事の3つの点について触れ、調達部門の取るべき対応について説明します。
レコフデータの集計によると日本企業が関連するM&Aは2010年以降右肩上がりで増加し、コロナ禍以降は毎年のように年間4,000件を超え、世界全体では年間50,000件近く行われています。この要因は、経済環境の変化、技術革新、グローバル化、規制の変化などによるもので、それらを鑑みると今後のM&Aは著しく減ることはないと思われます。このM&Aが調達に及ぼすリスクとして次のようなことが考えられます。
これらリスクを乗り切るために調達部門は、リスク管理を常時見える化し、サプライヤーを定期的に評価しておく必要があります。加えて、重要部品や一社購買品においては複数購買の推進や代替サプライヤー候補を開拓しておくことが重要でしょう。自社にとってその部品や製品が競争力維持に欠かせないコアなものであれば、事業ごと買い取って内製化することも戦略の1つとなりえます。そのためには、デジタルツールを活用したサプライチェーン全体の可視化、重要部品との紐づけ、シナリオ分析、サプライチェーン再構築のシミュレーションを行うなど、いつでも切り替えられるよう事前準備が肝要です。
米国のトランプ政権の今後の動きは間違いなくグローバルサプライチェーンに大きな影響を及ぼすでしょう。不透明であり不確実性が高く、中でも米国の関税政策は中国などからの一部製品の輸入に対し高関税を課す動きに出ていますが、他の国も他人ごとではありません。調達部門としては、調達金額が大きいものに限定してでもTier1からTierNまでのサプライチェーン全体を可視化し、どのTierのサプライヤーが関税の影響を受けそうか事前に検証やサプライヤーからヒアリングするなどし、サプライチェーンの再構築の検討が必要となるしょう。事前に動かない企業はいつの間にか調達部品の価格が上昇し、サプライチェーンの混乱に巻き込まれるなど、企業利益に影響が及ぶ恐れがあります。
中国による台湾侵攻のリスクが指摘されています。仮に、それが現実的なものになるとサプライチェーンに大きな影響を与えることは間違いないでしょう。ウクライナ情勢の際に対応が後手に回り影響を受けた企業は少なくないですが、日本企業は中台依存が大きく影響はそれ以上に大きくなるのは明白です。よって、まずやることは前述の1、2同様に、サプライチェーン全体を可視化することです。ただここで気を付けていただきたいのは、影響は中台だけではないことです。台湾有事が起きると台湾海峡を通る海上輸送が妨げられ、中台以外のアジア諸国からの貿易停滞、もしくは航空輸送への切り替えにより物流コストが大きく上昇します。事前対策の検討に向けて、輸送経路を含めたサプライチェーンの全体可視化が必要です(図表2)。
(参考)IPO(International Procurement Office)について
上記3つ以外にもグローバルサプライチェーンではさまざまな問題が起こりえるでしょう。グローバルサプライチェーンを構築している企業は、IPOを設置しているケースが多いと思われますが、調達リスク管理の観点から、今後その重要性は増していくと考えます。主な理由は、調達の基本である品質への対応とサプライヤーとのリレーション構築に加え、現地情報の収集が重みを増すという点にあります。国際調達の懸念点はサプライヤーとの価値観の違いなどから品質リスクが低下することが大きいことですが、定期的な工程監査でサプライヤーに品質指導を行うことで改善が可能です。これはサプライヤーにとっても品質が上がり、良好なリレーションの構築につながり、Win-Winの関係を築きやすくなります。日本にしか調達機能が無い場合、システムを導入しAIがリスク情報を事前に察知したとしても、情報の確からしさを確認するのに時間がかかる可能性があります。IPOがあることで、現地の規制情報などを正しくかつ事前に把握することが容易になり、リスクの対策検討、代替サプライヤーの開拓などの事前対処がしやすくなることは大きなメリットでしょう。
調達リスク管理は、「さまざまな問題を事前に予測し事前に手を打つ」段階に移行しており、これにどう対応できるかかが、今後の企業の競争力を左右するでしょう。この業務は利益に直結することから、調達部門には下記の強化が求められるのではないでしょうか。
このように調達部門の考えるべきことや取るべきアクションはたくさんあります。調達部門が事業継続のカギとなっている今、未来を見据えたシステム投資、業務の高度化、リスキリングが必要ではないでしょうか。
PwCコンサルティングでは、本稿で述べた内容に限らず、調達リスク管理全般において現状把握からあるべき姿の立案、システム導入支援、そして業務が定着するまでの伴走支援、リスキリング支援など調達リスク管理DXの総合サービスを提供しています。
本稿が調達リスク管理に悩みを抱えている全ての読者の皆さまにとって、課題解決の検討の一助になれば幸いです。
「荷主と物流統括管理者が創る新たな連携モデル」という視点から、物流の進化をリードするために必要な物流統括管理者の役割や具体的な実践内容について考察します。
企業における調達リスク管理は、外部環境の変化によってサプライチェーンが複雑になる中で、より広範囲なリスクへの迅速な対応が求められています。先行するグローバル企業の取り組みや最新の調達リスク管理システムをもとに、取るべき対応について解説します。
今後、10年以内を目途に多くのベテラン人材が定年を迎えるなか、調達領域におけるベテラン人材が持つ貴重なスキルを効果的かつ短期間で継承するための実施ステップ・要諦、さらに、その先の高度化を実現するうえでの論点を解説します。
近年、地政学的事象が企業のサプライチェーンに影響を及ぼしていますが、大半の企業では地政学リスク対応が十分になされていないのが現状です。そうした企業が今後対策を行うにあたり、考慮すべき点について解説します。