
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」で提示された言葉であり、企業の持つ既存のITシステムが老朽化してレガシーシステムとなってDX推進の妨げになることで、国際競争力を失う問題を指しています※1。
本稿では、その「2025年の崖」に伴う問題について、ITシステムの観点ではなく、人口ピラミッドの推移による生産年齢人口の変化に起因する問題の観点から解説します。この「もう1つの2025年の崖」とは、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)に占めるZ世代とミレニアル世代(80年代~90年代半ば生まれ)の割合が、2025年に初めて上の世代を逆転するといわれていることに起因しています※2,3。このZ世代・ミレニアル世代は、物心ついたときからデジタル環境の中で生活している「デジタルネイティブ」とも言われ、スマートフォンをまるで身体拡張のように扱うことで、情報の探索や発信、人とのつながり、ショッピングなどをいつでもどこでも自由に行っています。それは、リアルとバーチャルの空間に同時共存しているといっても過言ではないと思います。
デジタルネイティブとそれ以前の世代とでは、「デジタルファースト」への意識や、次項で述べる「消費に対する考え方」の意識の差が大きい※4と捉えており、本稿ではその差を「もう1つの2025年の崖」と称しています。
経済産業省の生活製品産業研究会によると、デジタルネイティブ(Z世代・ミレニアル世代)は、モノの消費からイミ・コト消費を重視する世代であると考えられています※5,6。「コト消費」としては、カーシェアリング、シェアハウスなどの「モノのシェアリング消費」や、登山、サイクリング、ラフティング、パラグライダーなどの「観光アクティビティ消費」が挙げられます。
「イミ消費」とは、消費そのものに意味を求めるものであり、例えば、社会貢献や地域貢献、歴史・文化への貢献といった文脈において、「自分らしさ」や「自分がどうありたいか」を指標として消費する特徴があります。具体的には、ふるさと納税やクラウドファンディングによる応援、規格外野菜によるフードロス削減が挙げられます。
つまり、デジタルネイティブは単なるモノの消費から、そのモノが誕生した背景やモノづくりに対する職人の熱量、コミュニティの温かさやおもてなしなどにイミを感じ、そのイミに「自分らしさ」や「自分がどうありたいか」を文脈的に結びつけて消費の選択をする傾向にあると言えます。
PwCは、価値創造のプロセスの1つに、「価値構造の拡張」を掲げています※7。これは、従来の財務的・短期的思考から、非財務的・中長期的思考への変革の重要性を述べているもので、それをまちづくりに当てはめた場合、魅力あるまちづくりの価値創造には非財務資本、すなわち人的資本、知的資本、社会関係資本などの無形資産を重視した価値づくりがカギを握ると考えます。
具体的には、他の地域資源に対する“ないものねだり”ではなく、その地域ならではの自然・歴史・文化・人・コミュニティに存在する背景や思い、世界観などに着眼し、それらを文脈的に統合して旅行者の体験に結び付けることで、手触り感や驚き、感動も含めた経験価値の創出につなげることが重要になります。
日本では少子高齢化の進行、生産年齢人口の減少が2065年に向けて加速すると予測されています。それに伴い、全国の地方自治体の約半分は消滅可能都市になるとも言われています※8。そのような状況下においても、地域に差別化優位性のある魅力あるまちづくりができれば、旅行者が増え、地域外からの外貨(国内の地域外からのお金も含む)が増加することが期待できます。
観光庁によると、1人の定住人口の年間消費額は130万円であり、これを旅行者の消費に換算すると外国人旅行者であれば8人分、国内旅行者(宿泊)であれば23人分と試算されています※9。持続的な地域経済循環を実現するには、旅行者による交流人口を増加させ、関係人口から定住人口への増加(減少幅の縮小を含む)を実現する「稼ぐまちづくり」を推進していく必要があります。
それには、これから重要消費者層になるデジタルネイティブから選択されるイミ・コト消費の価値を創造するまちづくりが重要になります。地域の特徴は多様にある中で、そのまちづくりを実現していくには、1つの策として以下の構築プロセスがポイントになります。
※1:経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
※2:総務省統計局「年齢別人口」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2022np/index.html
※3:月間経団連(2021年 9月号)「サステイナブルな資本主義を実現する、若者・ミレニアル世代」
https://www.keidanren.or.jp/journal/monthly/2021/09_kantougen.html
※4:日経BOOKプラス『Z世代ヒット予測~若者の心をつかむ「4つのカギ」~』(2022年10月11日)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/100500181/
※5:経済産業省「市場拡大の方策」(2022年6月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/seikatsu_seihin/pdf/004_03_00.pdf
※6:経済産業省「今後の生活製品の可能性 ~若者・世代マーケティングの立場から」(株式会社インフィニティ作成、2022年6月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/seikatsu_seihin/pdf/004_04_00.pdf
※7:「価値創造経営イニシアチブ」
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/value-innovation-accelerator.html
※8:日本創成会議・人口減少問題検討分科会「ストップ少子化・地方元気戦略」 (2014年5月8日)
http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03.pdf
※9:観光庁「関連データ・資料集」(2022年4月20日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/iinkai/content/001478971.pdf
山口 平八郎
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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