
宇宙から見た地球規模の課題解決-真の「循環社会」の実現へ。ヒューマンセントリックな宇宙・空間産業の実現に不可欠な、「システム・アーキテクチャ」の要諦
「宇宙・空間産業」への期待や、新たなエコシステムを創出する産業を強力に推し進めるフレームワークとして注目を集める「システム・アーキテクチャ」について、慶應義塾大学大学院の白坂成功教授と意見を交わしました。
PwCコンサルティング合同会社は2024年2月、宇宙・空間産業に関する知見を有するプロフェッショナルを結集させ、組織横断型イニシアチブ「宇宙・空間産業推進室」を立ち上げました。「宇宙・空間」をリアルとデジタルの双方から俯瞰した視点で捉えていくことで、陸・海・空、そして宇宙における分野横断的な場づくりや関連産業の推進、技術開発、事業活動を支援しています。
本稿は前編・後編の二部構成となっており、前編では「宇宙・空間産業推進室」を立ち上げた背景や狙い、関連する産業の概況、デジタルスペースとしてのビジネスの可能性についてメンバーが語り合います。
登壇者
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 渡邊 敏康
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 佐々木 智広
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 片桐 紀子
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 井上 陽介
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 榎本 陽介
モデレーター
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 石川 慶紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
左から 石川慶紀、井上陽介、渡邊敏康、榎本陽介、片桐紀子、佐々木智広
PwCコンサルティング パートナー 渡邊 敏康
石川:昨今、月面開発や衛星データ利活用など多岐にわたるテーマで宇宙ビジネスが盛り上がりを見せていますが、このほどPwCコンサルティングが立ち上げた「宇宙・空間産業推進室」ではどういった取り組みを進めているのでしょうか。設立の背景も含めて教えてください。
渡邊:宇宙・空間産業推進室は2024年2月に立ち上がりました。今回の座談会に参加している皆さんとは、実は1年以上前から、どのようなビジョン・コンセプトで宇宙領域や空間情報に向き合い、「宇宙・空間」や「スペース」というキーワードでどのように活動を展開していくべきか議論してきました。
以前からPwCコンサルティングのTMT(テクノロジー/エンタテイメント&メディア/情報通信部門)では宇宙チームとしての活動があったのですが、1つの部署だけでなく、組織・業界横断で展開できる形にするにはどうすべきかを模索していました。そして今回いらっしゃる方々やPwCの各領域のプロフェッショナルの皆さんと議論を重ねる中で、リアルとデジタルの2つのスペースを組み合わせる形で、地球が抱える本質的な課題に向き合い、さまざまなサービスや支援をクライアントへ提供する機会があるのではないかと考えました。
宇宙の話といえば、月面や火星でのフロンティアな活動も考えられますが、PwCコンサルティングが注目しているのは、このようなテーマに加えて地球の課題を解決する手段としての宇宙関連技術です。例えば、最近では衛星がコンステレーションとして活用され、通信やリモートセンシングなどを利用する敷居が下がってきています。また、日本の衛星測位システム「みちびき」やGPSといった測位技術もあり、これによって地球上のあらゆるものがリアルタイムで特定・可視化でき、通信技術によってシームレスにつながる可能性が広がっています。そしてこれらの技術が、地球上の課題への新たなアプローチを提供する手段となり得ると考えています。
既にさまざまなユースケースが創出されていますが、陸・海・空・宇宙の全てにわたって地球全体の課題解決に取り組む新しいフェーズがスタートしたと考えています。
石川:宇宙・空間産業推進室では、リアルとデジタルの2つのスペースを組み合わせて宇宙ビジネスを考えていますが、宇宙ビジネス全体をどのように定義・整理したのか教えてください。
榎本:宇宙ビジネスに関しては世の中に統一された明確な定義が存在しないため、私たちとしては、横軸をバリューチェーン、縦軸を事業エリアとして事業領域を定義・整理しています。
現時点で18領域を宇宙産業として定義していますが、その事業領域については今後もどんどん拡大したり、変遷していったりする部分があると考えています。なお、2021年時点でのGlobal全体の市場規模は約49兆円と推計しています。将来的にも継続的な成長が見込まれ、100兆円を超える一大産業に発展すると見込んでいます。
ご存知のとおり、アップストリーム領域ではここ数年で新たなプレイヤーが台頭してきており、製造・開発、打ち上げや軌道投入のコストが大幅に削減されています。これに伴い、数多くの衛星が宇宙に打ち上げられるようになり、打ち上げた衛星を活用した産業がダウンストリーム領域で拡大しています。特に、地上において地球観測データや位置情報の活用、通信・放送としての活用が広がっており、今後さらに衛星の数が増えていくことで、地球上の陸・海・空のあらゆる場所が通信ネットワークとして繋がり、そこに流通するデータを活用したビジネスも益々発展していくことになると思います。また先ほど述べたアップストリーム領域の発展に伴い、どんどん様々なアセットを宇宙に打ち上げることができるようになるため、今後10〜20年の中長期的な観点で見ると、宇宙ビジネスの事業領域は地上に留まらず、軌道上や月面などの深宇宙に広がると考えています。軌道上については、国際宇宙ステーション(ISS)の後継として民間主導での活動の検討が始まっていたり、月面に関しては米国の「アルテミス計画」等をはじめ世界各国を巻き込んで官民連携による月面経済圏の創出の可能性も出てきています。
PwCコンサルティング マネージャー 榎本 陽介
PwCコンサルティング ディレクター 佐々木 智広
石川:PwCが考えるリアルとデジタルの2つのスペースのうち、リモートセンシングなどのデジタル技術を活用したビジネスの可能性をどのように考えていますか。
佐々木:私はPwCコンサルティングにて空間IDソリューションのリードを務めているのですが、デジタルスペースとしてのビジネスの可能性を考えるにあたっては空間IDが重要となるので、その概要について簡単に説明したいと思います。
まず、空間IDとは以下のとおり定義されています。
世の中のさまざまな事物を表す空間情報には、建物情報、モビリティ・機械の移動、人の流れ、気候など、多岐にわたる情報が含まれます。しかし、これらの空間情報について、3次元の「位置」を特定するルールはまだありません。
これまで、2次元の地図では緯度や経度により「位置」を特定していましたが、この「位置」に相当するものが3次元の世界において必要となってきます。基本的な空間IDの概念は、この2次元の「位置」に高さの情報を加えて、3次元空間を一意に識別するためのIDを付与する仕組み・ルールを指します。
この空間IDでは、3次元の空間を「ボクセル」と呼ばれる箱型に区切り、それぞれにIDを付与することになるのですが、そのIDをキーにすることで複数の空間情報を重ね合わせることができるようになり、3次元上の位置をシステムまたはデバイス間で共有・処理ができるようになります。
これにより、シームレスな処理を実現したり、重ね合わせた空間情報から以前見えなかった情報を可視化したりすることで、新しい価値創出につながる可能性があります。現在、この空間IDを活用したさまざまな実証の取り組みが進行中です。
このような状況の中で、改めて空間IDと宇宙の関連性を見ると、リモートセンシングなどで得られる空間情報の1つのソースとして衛星データを活用する可能性があります。衛星は幅広い領域のデータを短時間で取得できますし、この特性を活かせるユースケースの開発が今後進んでいくと考えます。その意味で、宇宙ビジネスにおいては、リモートセンシングを取り扱う情報を効率的かつ安価に取得することが商機となると考えています。
今後、リモートセンシングを含む空間情報の普及が期待されますが、農地面積の把握、太陽光発電のエネルギー効率向上、CO2排出量の監視、防災分野の被災範囲把握などさまざまなユースケースが開発されているところです。特に投資対効果のハードルが比較的低い、公共性の高いユースケースの発展が想定されますが、防災や環境の分野においては衛星データの強みを活かした活用が進んでおり、空間IDを絡めた宇宙ビジネスの可能性は今後一層広がると期待しています。
石川:さまざまなデータを組み合わせながらデジタルスペースの可能性を見出すにあたって、衛星データと空間IDを組み合わせることで、どのようなユースケースが生まれてくるとお考えでしょうか。
井上:具体的なユースケースとして、防災、環境、農業などでの活用のほか、保険分野では災害被害の規模算定などが挙げられます。一方で、リモートセンシングを利用した衛星データの活用においては、「リアルタイムに欲しい情報が取れない」「雲があると撮影できない」といった入手の不確実性や、「入手できたデータを利用するまでの取り扱いや加工が難しい」という課題があります。
ただ、将来的には小型の衛星が多数打ち上げられることにより、データの取得が迅速化するでしょうし、また地上においても点群、人流データ、屋内、地下、海底などのさまざまな空間データの整備や流通が進むことで、これらのデータと衛星データを組み合わせることで、ビジネスにつなげていくことが考えられます。
また、日本が衛星データなどの宇宙技術を活用して海外展開していく上では、リモートセンシングデータ、測位データ、地上データなどを組み合わせたソリューションを、空間IDなども活用しながら、防災、環境、都市づくりなどの分野において現地ニーズを踏まえながら提供していくことで進展があると期待しています。
PwCコンサルティング シニアマネージャー 井上 陽介
PwCコンサルティング ディレクター 石川 慶紀
石川:今後、衛星データと空間IDを掛け合わせた情報を活用したビジネスが発展していくと想定されますが、ビジネスを検討していくうえでどのような課題に直面するとお考えでしょうか。
佐々木:まずはユースケースを導出できるかどうかという点が1つ挙げられます。ユースケース導出に向けた最初のステップとして、ユースケースの価値につなげていくためにも、衛星データそのものをきちんと理解することが必要です。PwCコンサルティングでは、衛星データに関連するビジネスに取り組む際、その衛星データに関連する有識者から技術的な情報をいただくなどして、衛星データの可能性を検討しています。
衛星データは、幅広い領域を短時間で取得できるのが良いところですが、宇宙に4,000機以上飛んでいる衛星のそれぞれのデータ精度の差分をどう埋めていくかといった課題もあり、現在解決に向けて研究が進められている状況です。
「衛星データとして何を取れるのか」「何が技術的な課題で、解決の可能性はどこまであるのか」といったところを踏まえた上で、実現性の観点から腹落ちできるユースケースを導出することが重要ですし、同時に衛星データの魅力を理解しながらバックキャスト型のアイデーションを行うことが必要になってくるでしょう。
石川:私たちとしてはPwCの強みを活かしてクライアントとともにユースケースを生み出し、今後、衛星データと空間IDを掛け合わせた領域をリードしていきたいですね。衛星データと言えば、既に私たちは数々のユースケースに関わっており、その1つに農業分野があると思います。農業分野では具体的にどのような活用方法があるのでしょうか。
片桐:私は、アグリ&フードというチームをリードしており、官公庁のクライアントにおける農業分野の衛星データ利活用の検討を進めています。おっしゃるとおり、農業分野での衛星データの利活用については既に多くのユースケースがあります。日本における農業行政業務の中には、補助金や交付金の申請どおりに農地が利用されているかを現地で確認する業務が多くあるのですが、行政職員の方々も高齢化が進む中で、現地に赴き確認作業を行うのは難しいのが現状です。
そこで、農地がどのように運用されているのか、何の作物が作られているのかなどを衛星データの解析を通じて判断できるようになれば、大幅な業務の効率化が見込まれます。日本としても宇宙産業に注力し始めていることを踏まえると、衛星データを活用するための土壌が整備されているように感じます。農業分野に特化したユースケースをご紹介しましたが、農業分野以外でも衛星データ活用のユースケース導出は加速するのではないでしょうか。
石川:ありがとうございます。ここまで宇宙・空間産業推進室を立ち上げた背景や、宇宙・空間産業推進室で注目しているリアル・デジタルの2つのスペースのうち、デジタルに特化したビジネスの可能性について考えました。後編ではリアルスペースにおけるビジネスの可能性と、宇宙・空間産業推進室としての今後の取り組みについて考えていきます。
PwCコンサルティング ディレクター 片桐 紀子
「宇宙・空間産業」への期待や、新たなエコシステムを創出する産業を強力に推し進めるフレームワークとして注目を集める「システム・アーキテクチャ」について、慶應義塾大学大学院の白坂成功教授と意見を交わしました。
PwCコンサルティングが組織横断型イニシアチブ「宇宙・空間産業推進室」を立ち上げた背景や狙い、産業概況、デジタルスペースとしてのビジネスの可能性などについて、そのメンバーが語り合います。
PwCコンサルティングが立ち上げた組織横断型イニシアチブ「宇宙・空間産業推進室」のメンバーが、月輸送、月データ、月資源活用といった月面ビジネスの可能性や、今後の取り組みについて語り合いました。
若年層の人口流出という課題を抱える鳥取県を舞台に、産・官・学が連携して「宇宙ビジネスを地方創生につなげよう」というテーマへの取り組みついてお話をうかがいました。
本レポートは、宇宙分野に関する全体のマクロトレンドおよび地球観測、衛星通信、ナビゲーション、宇宙へのアクセス、宇宙の安全保障、地球外経済の6つの個別領域について詳細に分析・解説します。また、宇宙政策、規制、ガバナンス等、宇宙産業の根底に関連する要素についても併せて解説します。
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PwCコンサルティングが立ち上げた組織横断型イニシアチブ「宇宙・空間産業推進室」のメンバーが、月輸送、月データ、月資源活用といった月面ビジネスの可能性や、今後の取り組みについて語り合いました。
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PwCは、宇宙ビジネスに関する戦略策定からデータ分析までを提供しています。地球観測データとクライアントが持つさまざまなデータを組み合わせることで、ビジネス課題を共に解決します。
先端技術に関する幅広い情報を集約し、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。
PwCグループは農業ビジネスを支援し、「農業DX」「サステナビリティ」「スマート農業」「イノベーション創出」の分野に重点的に取り組んでいきます。
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