
宇宙から見た地球規模の課題解決-真の「循環社会」の実現へ。ヒューマンセントリックな宇宙・空間産業の実現に不可欠な、「システム・アーキテクチャ」の要諦
「宇宙・空間産業」への期待や、新たなエコシステムを創出する産業を強力に推し進めるフレームワークとして注目を集める「システム・アーキテクチャ」について、慶應義塾大学大学院の白坂成功教授と意見を交わしました。
2022-12-28
「宇宙ビジネスを地方創生につなげよう」──
若年層の人口流出という課題を抱える鳥取県を舞台に、産・官・学が連携して夢のあるテーマに取り組んでいます。そこで、各分野から4名の関係者にご参集いただき、お話を伺いました。ガスや電気などインフラサービスの提供を通じて地域の生活と産業を支える山陰酸素工業株式会社代表取締役社長の並河元氏。宇宙体験のコンテンツをICT技術で制作する株式会社amulapo(アミュラポ)代表取締役CEOの田中克明氏。鳥取県の宇宙ビジネスを推進する産業未来創造課課長補佐の井田広之氏。鳥取県の私立高校で教鞭を執った後、現在は徳島県で神山まるごと高等専門学校の立ち上げに携わっている大山力也氏。ファシリテーターは、宇宙ビジネスや地方創生を推進するPwCコンサルティングの榎本陽介が務めました。
対談者
山陰酸素工業株式会社
代表取締役社長
並河 元氏
株式会社amulapo(アミュラポ)
代表取締役CEO
田中 克明氏
鳥取県
商工労働部産業未来創造課
課長補佐
井田 広之氏
神山まるごと高等専門学校
大山 力也氏
(ファシリテーター)
PwCコンサルティング
マネージャー
榎本 陽介
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)田中 克明氏、並河 元氏、井田 広之氏、大山 力也氏、榎本 陽介
榎本:
はじめに鳥取県における宇宙ビジネスの可能性から探っていこうと思います。まずは井田さん、「宇宙」に関連する企画を県が始めて6年が経つとのことですが、取り組みの全体像はどのようなものでしょうか。
井田:
鳥取の美しい星空を観光資源として活かす「星取県(ほしとりけん)」プロジェクトを県が活動をスタートしたのは、2017年のことでした。2021年度からは星取県プロジェクトのネクストステージという位置付けで産学官が連携し、宇宙ビジネスを推進する取り組みを進めています。現在、大きく3つの領域でその可能性を開拓しています。
1つ目は、鳥取県ならではの存在感を示すこと。その柱が「鳥取砂丘月面化プロジェクト」です。宇宙ビジネスを興そうとする動きは全国で見られます。他地域との違いを出すために、鳥取県だけにしかなく、しかも全国的に知られた特別なもの、つまり鳥取砂丘を活用しようと考えました。多くの県民にとって砂丘は「観光資源の1つ」という認識でしたが、視点を変えて見直すと、砂丘には「月面」に近似する特性がいくつもあるのです。そこで鳥取大学と連携して、現在、学内にある鳥取砂丘の一部を月面に見立てた実証フィールドとして整備しています。
2つ目は、衛星データの産業面への活用です。衛星データの利活用は宇宙ビジネスのなかでも普及が進んでいる分野で、これを鳥取県でも推進しています。一例として、米子市出身の方が経営するベンチャー企業「株式会社スペースシフト」が、地元名産である白ネギの生産者と連携し、ネギの生育状況を衛星データで把握するという実証プロジェクトに2022年6月から取り組んでいます。
3つ目が、より多方面の産業への展開です。宇宙関連事業は裾野が広く、食やエネルギーなど多くの産業にビジネスチャンスがあります。例えば、月面を開拓する際の補給計画では、限られた食糧や資材をいかに効率よく活用するかが重要になります。そうした物資の研究開発に一般企業が参入すれば、世界規模のビジネスへ、そして持続可能性に対する貢献へとつながっていきます。ほかにも、米子空港や鳥取空港の滑走路を宇宙旅行に活用し、出発前と帰還後に鳥取県を周遊してもらうようなことも考えられます。
これらの動きを後押しするため、2021年11月に「とっとり宇宙産業ネットワーク」を設立しました。74団体(2022年10月14日時点)が参加し、そのうちの約8割が県内企業、約2割が県外企業です。メンバー同士を結びつけながら新たなビジネスの機会を探る。行政がそれを支え、芽がきざせば、さらに応援していきます。
ただ、こうした取り組みを始めた背景には、私たちが直面する大きな課題があります。それは多くの他県と同様、人口減少です。特に10~20歳代を中心とする若い層の流出は顕著で、生まれ育った鳥取を離れ、ほかの都道府県で活躍する方が多く存在します。優秀な若者が帰って来たくなるような仕事・産業を早急に創出しなければ、という強い問題意識を私たちは共有しています。
鳥取県 商工労働部産業未来創造課 課長補佐 井田 広之氏
PwCコンサルティング マネージャー 榎本 陽介
榎本:
「人口減少」という課題のご指摘がありました。どんな要因から生じ、さらに、どうすればその流れを変えられると皆さんはお考えですか。
大山:
要因の1つとして、「情報格差」があります。私が教鞭を執っていた県内の私立高校は生徒数が1,100〜1,200人くらいで、地元で就職する生徒から県外に進学する生徒まで、多様な若者たちが通っていました。担任として進路指導をして気付いたのは、生徒や保護者の視野にある進路の選択肢が限られている、ということでした。
進路面談の際に「将来の進路」として挙がるのは、もっぱら既存のサービス業や資格系の仕事が中心で、「新たな価値を生み出す仕事に就く」「将来的に起業する」という発想はあまり感じられません。これは、生徒たちが日常で接する情報の質と量の影響によるものです。インターネット検索がそうであるように、何をターゲットとしてどのように「探す」かは、検索者が備える情報の質と量で決まります。
進路の選択に関しても同様に、新たな価値の発見につながるような良質で最新の情報を提供してあげれば、自ら進んで世界を切り開こうとする人材が若者のなかから出てくるはずです。起業家の方などを学校に招き、授業してもらう活動を私が積極的に行ってきたのは、そういう思いがあってのことです。
並河:
暮らしに直接関わる仕事以外の選択肢が少ないという点は、大山さんがご指摘のとおりでしょう。若い人材の県外流出を抑えるには、未来を見据えてもっと心が沸き立つような、創造的な破壊やイノベーションを起こすことが必要です。
これからの働き手の中心となりつつあるZ世代や、SDGsを常識としながら育った世代にとっては、働くことのプライオリティは給与額の多寡などにはなく、「社会にどう貢献するか」「生み出した価値をいかに社会に還元するか」なのかもしれません。私たちはその土壌を用意する必要があるのではないでしょうか。
田中:
情報格差がもたらす影響の大きさは、鳥取と東京の両拠点を行き来する私も感じています。首都圏在住のいわゆる高感度な人たちなどには、ある種独特の情報感覚が確かにあります。その一方で、地方の若者たちは、最先端情報との日常的な接触に関しては不利な側、言うなればマイノリティとしての立場に置かれています。
実は宇宙ビジネスにも「3つのマイノリティ」が存在する、と私は考えています。1.リソースがない若者、2.参画の機会が限られている女性、3.情報が少ない地方在住者、の3者です。3.の地方在住者には、宇宙開発に携わる人や情報に身近に接する機会がありません。情報格差の現実がそこにあります。
有用な情報を知見として蓄えておくことは、モノの見方を広げてくれます。例えば、世界的に見ても貴重な鳥取砂丘の環境。井田さんのお話のとおり、その真の価値に気付くためには、いったん地場の目の高さを離れ、俯瞰的な視座からとらえ直すことが必要です。例えば県外まで足を延ばして声を聴いてみる、外から人を招いてみる、外部の情報を集めてみる。そうやって触れた情報こそが、「真の価値」への到達をより早く可能にします。
さまざまなチャンスが、本当は目の前にあるにもかかわらず、それに気付けないことも多い。地方が陥りがちなジレンマの1つです。ただし、気が付きさえすれば、大きなポテンシャルを呼び起こすことにつながるはずです。
並河:
情報格差に加えてもう1点、「体験格差」という側面も指摘できるのではないでしょうか。例えば自動運転技術や電動キックボードの実証事業など、首都圏にはITをはじめとする最新技術を実体験する機会が溢れていますが、地方に住んでいるとそうした体験機会にはなかなか恵まれません。そのため、「電動キックボードが公道を走る」とは実際にどのようなことなのかが分からないことも多いのです。
神山まるごと高等専門学校 大山 力也氏
株式会社amulapo(アミュラポ) 代表取締役CEO 田中 克明氏
大山:
私は高校の教員でしたので、生徒たちの実態はよく分かります。例えば「VRゴーグル」の存在は知っていても、それを使ったことがないという体験格差。こうした偏りは、いろいろなところで実感します。
井田:
情報格差や体験格差の話にもつながりますが、何か面白い取り組みをする個人や組織が日常に少ないという実情も、影響が大きい要因と考えます。こうしたさまざまな格差が、若い世代が鳥取県から出て行きがちな理由だと、皆さんのお話から改めて痛感しました。
並河:
ただ一方で、是が非でも若者を鳥取県にとどめるべきかというと、必ずしもそうではありません。もちろん鳥取県に残ってくれるのがベストですが、それを選ばなかったとしても、県外で働きながら鳥取県との関わりを維持する「関係人口」であり続けてもらうことが重要になってきます。私たちはそのような関係人口の人材による活動が鳥取に還流されるように導く動きをつくり、大きくする必要があります。
榎本:
並河さんが言及された「鳥取県の関係人口」というご指摘は、極めて示唆に富む視点ですね。人口流出という趨勢がプラスに転じるアプローチであると同時に、県外における鳥取県のプレゼンスをいかに高めるかというテーマにも直結するからです。日本全国に、そして世界に向けて、どんな強みを示すことが関係人口を鳥取県に引きつけることにつながるのでしょうか。
並河:
鳥取県を県外者に印象づける最大の強みは、一般的には「豊かな自然」ですが、ビジネスの観点から指摘すべき鳥取県のアセットは、実は「過密の逆」であること、すなわち「疎」なのではないでしょうか。いろいろなモノやコトが、密ではなく、まばらであることに由来する強みや存在感です。
例えば衛星データなどの技術が、「疎」の状態にある鳥取県の課題を1つ解決し、持続可能な社会に向けた前進につながったとしたら、それは「鳥取モデル」として、同じような問題を抱える全国の自治体で通用するはずです。さらにはそのモデルを世界へと広げられるかもしれない。「疎」であることを逆手に取るような着想を探ることが、私たちが今チャレンジすべきことだと考えます。
田中:
鳥取県の「疎」には私も可能性を感じます。日本は人口減少や高齢化などの問題を抱える「課題先進国」と言われます。その日本で最も人口が少ない鳥取県は、まさに課題の「最先進県」。鳥取県がいま直面している課題は、数年から数十年後にほかの自治体が解決を迫られる課題です。鳥取県の取り組みは、「成功モデル」をつくる試みでもあるのです。
また、私のようなスタートアップの立場からも、「疎」であることはとても魅力です。都市圏などの密な環境ではステークホルダーが多すぎて実行しにくいことにも、鳥取ならばチャレンジできるからです。スタートアップは、試行錯誤を重ねながら新しいものをスピーディにつくらなければなりません。「疎」の環境はそれを可能にしてくれます。鳥取県が、実は世界の最先端だということに気付いた東京のスタートアップが鳥取県に拠点を構えるという動きは、いま実際に生まれ始めています。
榎本:
皆さんの発言から、これまでは見えにくかった「鳥取県の知られざるアセット」が浮かび上がってきたようです。後編ではこの点を踏まえ、世界市場の規模が現在約40兆円、2040年には100兆円を超えるとも予測される宇宙ビジネスについて、鳥取県のもつ可能性をさらに考えていきます。
山陰酸素工業株式会社 代表取締役社長 並河 元氏
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