
サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威 最終回:デジタルと監査
PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とアシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長の近藤仁が、現行の監査業務における課題、その解決に資するPwCのリアルタイム監査やAI監査ツール「Cash.ai」について語ったセクション「デジタルと監査」の様子をお届けします。
2021-12-23
社会と資本市場を構成する制度、企業、サプライチェーンシステムなどに求められる役割はESGやデジタルトランスフォーメーション(DX)を切り口として近年急速に増えており、その提供価値はますます多様化が進んでいます。
例えば、2022年4月の東京証券取引所の市場区分再編により、プライム市場上場会社には「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」が求められることが正式に決定しました。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、社会全体でDXが加速度的に進む中、デジタルや人工知能(AI)のガバナンスも本格的に問われ始め、企業はデジタルやAIに強い人財の育成が急務となっています。
これらが「機会」となるか「脅威」となるかは、各企業の取り組み方次第ですが、企業が激しい競争を勝ち抜き、市場に残り続けるためには「企業活動において、信頼を構築する」ことにより、これらの脅威をコントロールし、機会を活用していくことがカギとなります。
こうした背景を踏まえ、PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、2021年11月25日、メディア関係者を対象とするセミナー「サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威-2022年、東証市場再編やデジタルガバナンス・コード対応が本格化-」を開催しました。監査およびブローダーアシュアランス(以下、BAS)業務で培った知見に基づき、2022年、そしてその先に企業にとってどのような機会と脅威があるのか、それを見据えて企業が取り組むべきことは何か、そのうえでPwCあらたがどのようなサポートを提供できるかを解説しました。これからコラムの連載を通じ、当日の様子をご紹介していきます。
第1回目は、PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とパートナーの宮村和谷が、マーケットの将来ビジョンとPwCあらたの未来像、私たちが果たすべき役割などを語ったセクション「PwCあらたが考えるtrust innovations」をお届けします。
登壇者
PwCあらた有限責任監査法人
久保田 正崇
執行役副代表・企画管理本部長・AI監査研究所副所長
宮村 和谷
システム・プロセス・アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)
田原 英俊
パートナー
サステナビリティ・アドバイザリー部リーダー / ESG戦略室リーダー
鈴木 智佳子
銀行・証券アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)
PwC Japan DX Internal Lead
アシュアランス Culture Change Officer
近藤 仁
パートナー
アシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長
(左から)近藤 仁、鈴木 智佳子、久保田 正崇、田原 英俊、宮村 和谷
久保田:
東証市場再編、ESG、デジタル――。本セミナーのタイトルを見て「バズワードを並べた」と捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちはこの3つが「非常に密接につながっている」と考えています。2020年頃から、企業がESGやデジタルを重要な課題と捉える動きが増え、これに対応する形で、多様な情報が世の中に発信されてきました。しかし、これらの中に「正確性や信頼に足る情報」がどの程度あるかは、不明瞭です。
現在、プライム市場の基準や在り方に関する議論が特に活発に行われていますが、プライム市場とは基本的に「信頼できる企業の場所」といえます。よって、ESGやデジタルなどを含めた「総合的な信頼の確立」が、プライム市場に上場する企業には特に強く求められるようになると考えています。本日は、この「信頼」を具体的にどう構築していくかについて、PwCあらたにおけるESGとデジタルのスペシャリストが解説します。
本セクション「PwCあらたが考えるtrust innovations」では、まず、私たちの考える「信頼」について紹介します。2021年度、PwCはグローバルで新たな経営ビジョン「The New Equation」を発表しました。これは、今後クライアントが直面するであろう、相互に深く関連する「Trust:信頼の構築」と「Sustained Outcomes:ゆるぎない成果の実現」という2つのニーズに焦点を当てています。ここでいうTrustは、安心・安全といった守りの意味に加え、企業の継続的な成長に資する意思決定、投資といった攻めの意味も持ちます。
私たちは、今後の社会・企業は「Trust」と「Sustained Outcomes」の相互連関、循環によって成り立つと考えています。この連関性は、長寿企業にみることができます。生き残るには信頼が必要で、幅広いステークホルダーから信頼を得られれば、長期的に存続できるのです。そして、このサポートにこそ、PwCの存在意義があると考えています。
PwCあらたのミッションは「社会や資本市場を構成するステークホルダーが、各種取引や活動を円滑に行えるよう、トラストを構築・維持するためのガバナンスの一翼を担う」ことです(図表1)。昨今、社会と資本市場を構成する制度や企業、サプライチェーンシステムなどに求められる役割はESGやDXを切り口として急速に増え、その提供価値はますます多様化しています。
私たちは監査業務だけでなく、幅広い信頼構築と課題解決をサポートするBAS業務を通じ、企業や社会の信頼確保、未来において期待されるガバナンスやアシュアランスづくりに取り組んでいます。この中で、特に中心的な取り組みを行っている宮村から、詳細をご説明します。
宮村:
まず、マーケットの将来ビジョンから説明します。これまでは現実世界を主とした商流であったことから、顧客側から食品や自動車、金融商品などの提供事業者にアクセスし、商品・サービスを選び、取引していました。これが、あらゆる物事がデータ化され、サイバー空間と現実世界が高度に融合する世界、すなわち「Society 5.0」に移っていくと、既存のインダストリーの垣根を超え、顧客の趣向性や行動様式に応じて商品・サービスが連動的に紹介され、取引されていくと考えられます(図表2)。こうしたデジタルツイン、Society 5.0が実現されていくと、より一層さまざまなデータの信頼性が求められるようになります。
マーケットがSociety 5.0に向けて変革していくにつれ、信頼が求められる範囲も拡大していきます。私たちは従来から、自身の役割の1つとして財務情報の監査を行っていますが、もう1つ大切な役割として、サイバーセキュリティやSDGs、ESG、あるいはAI、デジタルガバナンスといった「企業価値評価に利用される非財務情報」の信頼性向上にも貢献していかなくてはならないと考えています(図表3)。
図表4は、私たちが「Beyond」と呼んでいる、Society 5.0に移り変わっていく未来で求められる「アシュアランスの概念図」です。例えば、右のサークル内の①は、久保田からご案内した非財務情報に関わるBAS業務を指しています。財務情報に留まらない、広い範囲のアシュアランスが1つ目の大切な機能として挙げられると考えています。ここでいうアシュアランスには、会計監査などの保証業務のみならず、保証業務で培われた知見を活かしたアドバイザリー業務も含まれており、これを私たちはBAS業務と呼んでいます。
私たちがこうした業務を実際に提供し、貢献していくために何よりも重要なのは「何を強みとし、活かしていくか」に他ならないと思っています。図表5はそれを表したものです。私たちは、監査をはじめとした保証業務で得た知見を、アドバイザリー業務を含めたBAS業務で活かし、BAS業務で得た新しいテクノロジーに関する知見などを、将来の監査や保証業務で活かすといった、循環・進化のサイクルをもって取り組んでいます。
次のセクションからは、これらの具体的な内容について、「ESG」、デジタルガバナンスの1つである「AIガバナンス」、「デジタル監査」の3つの観点から説明します。(続く)
PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とアシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長の近藤仁が、現行の監査業務における課題、その解決に資するPwCのリアルタイム監査やAI監査ツール「Cash.ai」について語ったセクション「デジタルと監査」の様子をお届けします。
PwCあらたのフィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)を務める宮村和谷と鈴木智佳子が、AI活用のリスクや、DX/AIにおける信頼を確保するためのガバナンスと人財、PwCあらたの取り組みなどを語ったセクション「DXの先に求められるAIへの信頼と、それを担う人財」の様子をお届けします。
PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とサステナビリティ・アドバイザリー部リーダー/ESG戦略室リーダーの田原英俊が、ESGの動向や非財務情報開示の変遷、PwCあらたが果たすべき役割などを語ったセクション「今後企業が取り組むESG情報開示」の様子をお届けします。
PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とパートナーの宮村和谷が、マーケットの将来ビジョンとPwCあらたの未来像、私たちが果たすべき役割などを語ったセクション「PwCあらたが考えるtrust innovations」をお届けします。
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