サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威 第2回:今後、企業が取り組むESG情報開示

2022-01-20

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は2021年11月25日、メディア関係者を対象とするセミナー「サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威-2022年、東証市場再編やデジタルガバナンス・コード対応が本格化-」を開催しました。

当日の様子を振り返る連載の第2回は、第1回でご紹介した「PwCあらたが考えるtrust innovations」を受けて、PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とサステナビリティ・アドバイザリー部リーダー/ESG戦略室リーダーの田原英俊が、ESGの動向や非財務情報開示の変遷、PwCあらたが果たすべき役割などを語ったセクション「今後、企業が取り組むESG情報開示」の様子をお届けします。

登壇者

PwCあらた有限責任監査法人

久保田 正崇
執行役副代表・企画管理本部長・AI監査研究所副所長

宮村 和谷
システム・プロセス・アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)

田原 英俊
パートナー
サステナビリティ・アドバイザリー部リーダー / ESG戦略室リーダー

鈴木 智佳子
銀行・証券アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)
PwC Japan DX Internal Lead
アシュアランス Culture Change Officer

近藤 仁
パートナー
アシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長

(左から)近藤 仁、鈴木 智佳子、久保田 正崇、田原 英俊、宮村 和谷

(左から)近藤 仁、鈴木 智佳子、久保田 正崇、田原 英俊、宮村 和谷

久保田:
ESG投資やSDGsは2020年頃から爆発的なブーム、トレンドとなり、企業のESG対応も多く見られるようになってきました。こうした中、2022年4月の東京証券取引所の市場区分再編により、プライム市場上場会社には「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」が求められることが正式に決まりました。

これまでESG・非財務領域の情報開示は、あくまでも「任意」で、企業にとっては言わば「自由演技的な開示・コミュニケーション」でした。ところが、コーポレートガバナンス・コードの改訂や東証市場再編の中で、今後は自由演技ではなく規定演技、つまり制度として求められることとなります。したがって、継続的かつ組織的に、エビデンスをもって対応していくことが極めて重要になります。

従来のESG情報開示はマルチステークホルダーを対象としており、結局、誰が何のために情報を利用しているかが不明瞭でした。しかし、今回の東証市場再編の中で「投資家に対する情報開示」と定められ、情報の受け手・利用目的が明確になったことで、これまで以上に「ステークホルダーに対する信頼性」が問われるようになります。

現在はまだ、開示したESG情報が誤っていたことで事故が起きるようなこと、例えば企業が不正開示によって粉飾を行い、投資家から訴訟を起こされるといったことはイメージしにくいと思います。しかし、今後は情報開示そのものが投資家の意思決定に利用されるため、企業の故意/過失を問わず、誤った開示が大きな不正や事故につながるリスクは十分に考えられます。

2022年からはプロ投資家に加え、一般投資家もESG情報を意思決定に織り込むようになります。2022年は、ESG情報の「信頼性」が問われる1年になるということです。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が設立され、非財務情報の開示基準を開発していくなど、社会のインフラが整いつつある中で、私たちPwCあらたは企業におけるリスクの捉え方、開示のあり方などについて、しっかりと助言できる立場になっていかなければならないと考えています。

田原:
それでは、これまでのESG動向や非財務情報開示の変遷を振り返りつつ、PwCあらたが社会や企業に対してどのような役割を果たしていくかを具体的にご紹介したいと思います。まずはサステナビリティ全般や、財務・非財務情報の融合に関する動向をご説明します。

図表1 ESGを取り巻く直近の動向- サステナビリティの理解

図表1の下部が、サステナビリティの大きなコンテクストの中でも企業の情報開示、財務・非財務情報の融合、統合報告のトレンドを示したものです。日本企業の非財務情報開示は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)以降の「環境情報開示」に端を発し、1990年代後半には多くの企業が環境報告などを始めるようになりました。

ルール化という観点では、1997年のGlobal Reporting Initiative(GRI)設立が大きな出来事となりました。GRIは任意のスタンダードではあるものの、非財務情報におけるグルーバルスタンダードとして、日本企業も非常に重要視しています。GRIの設立により、マルチステークホルダー向けの情報開示が普及し始めたと言えるでしょう。

この状況に変化が現れたのは、2010年以降のことです。統合報告のフレームワークを作った国際統合報告評議会(IIRC)が2010年に、投資家向けの非財務情報開示指標のスタンダードを作ったサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が2011年にそれぞれ設立されたことがその変化のきっかけとなっています。2013年と2018年にIIRCとSASBの基準がそれぞれ開示され、これと相まってESG投資が急増した点からも、「非財務情報開示」は投資家にとって重要であることが明らかになったといえます。

そして、2021年に英国で開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、IFRS財団がISSBの設立を発表しました。2022年には東証市場再編やISSBの詳細な基準の発表などが予定されており、国内外で急激な変化が今まさに起きようとしているのが現状です。

次に、今の話を異なる角度から、具体的には資本市場における非財務情報開示に関わる主要プレイヤーの関係からご説明します。図表2では、ピンク色のプレイヤーが「アクティブに活動している」ことを示しています。

図表2 ESGの主要プレイヤーとその関係 -財務と非財務の融合/マルチステークホルダーから投資家向け開示へ

図表2の左上、1990年代~2000年代後半は、企業がマルチステークホルダー向けに「環境・CSR情報」を中心として積極的に情報開示を行っていましたが、投資家がそれを基に意思決定を行うことはありませんでした。この時代、非財務情報の開示基準は存在したものの、財務からは完全に独立しており、非財務情報開示は「資本市場に向けたもの」とは言い難かった側面があります。とはいえ、基準が存在していたことから、基準策定機関もアクティブになっています。

2010年代になると統合報告フレームワークが登場し、非財務情報開示は投資家向けの側面が強くなり、図表2の左下、投資家がアクティブになっています。ESG投資が急速に進展する中、投資判断の際に非財務情報が重要視されるようになり、投資家が主要プレイヤーとして台頭してきたのです。ただ、開示基準は依然として非財務単独であり、基準を策定する機関が財務・非財務それぞれ乱立する一方、規制当局や証券取引所の関与はありませんでした。

そして、図表2の右が2020年代以降の状況です。IFRS財団のISSB設立によって財務・非財務情報が融合されようとしており、まさに今「非財務情報開示に関わる全てのプレイヤーがアクティブとなった状況」が実現しました。ここからが真の意味で財務・非財務が統合された情報開示が行われ、それをステークホルダーが意思決定に活用していくという流れになっていきます。

このような社会環境の変化を受けて、PwC Japanグループは2020年7月、企業のサステナビリティ経営へのトランスフォーメーションを総合的に支援する専門組織「サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス」を設立しました。PwCあらたとしても、2021年7月に「ESG戦略室」を設置し、監査やESG財務報告の品質向上に寄与する活動を推進しています。

図表3 サステナビリティ推進- ESG戦略室設置、専門家育成

ESG戦略室では監査/BAS業務の観点から、企業がステークホルダーに対して信頼を構築するために、PwCが何をどのように支援できるかという戦略を策定し、実践しています。その施策の1つとして、2021年10月6日付で公表したとおり、バリューレポーティング財団が実施しているサステナビリティ会計の資格「Fundamentals of Sustainability Accounting(FSA)Credential」の保有者を、今後3年のうちにグループ全体で200人以上に拡大する計画を策定しました。

最後に、ESGの動向と監査法人の役割についてご説明します。図表4は企業のESG・サステナビリティの捉え方、それに伴う施策の変遷を示したものです。

図4 ESGの動向と監査法人の役割

図表4の左「『守り』のサステナビリティ経営」において、社会・環境問題に関する対応は、あくまでもリスクマネジメントとしての施策でした。

それが時代とともに変遷し、中央の「一歩進んだサステナビリティ企業へ」では、オペレーションの改善につながる施策にシフトしています。例えば「環境マネジメントシステムに関する国際規格(ISO14001)を取得すれば、環境負荷が下がるとともにコスト削減につながる」ことや「労働安全衛生の基準を取得すれば、従業員の健康も守れ、企業も健康を担保するコストの削減につなげられる」といったような、オペレーションの改善とサステナビリティがアラインするところで打ち手を探ることがCSR・ESGの中核となりました。

図表4の右「リーディングカンパニーへ」では、今後ESG領域が「戦略的競争優位の領域」となることを示しています。これは中長期的な社会・環境課題の中に自社にとってのリスクとビジネス機会を見極め、リスクを低減させつつ機会を最大限活用することで、企業として中長期的に成長していく姿勢こそがサステナビリティ・ESGの根源であることを意味しています。この領域に企業が進んでいくにあたり、監査法人には果たすべき役割が非常に多くあると考えています。

例えば、財務・非財務情報の融合では統合思考、統合マネジメント、統合報告の実践が当たり前となっていきます。現在の統合報告は「合体されただけ」で、まだ真の意味での統合とは言えません。これが企業の情報開示の仕組みとして統合される中で、企業の情報・活動に対して信頼性をどのように担保・付与していくのかというところが、私たち監査法人の大きな役割になると考えています。

ESGは、企業にとってステークホルダーの信頼を得るために非常に重要な領域となります。信頼を軸として、2022年から社会に大きな変化が起きる中で、私たちはPwCのパーパスである「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことを実践することで、社会のために貢献していきます。

第3回はこちら

主要メンバー

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

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宮村 和谷

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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鈴木 智佳子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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近藤 仁

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威

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