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2022-12-22
PwC Japanグループのサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスでエグゼクティブリードを務める坂野俊哉とリード・パートナーの磯貝友紀、『エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来』の著者でJX石油開発国内CCS事業推進部長のある古舘恒介氏による鼎談の前編では、「5つのエネルギー革命」を経て人類が自然界のくびきを離れ、大きく発展すると同時に、エネルギー消費を飛躍的に増大させてきた長い歴史を振り返りました。その結果見えてきたのは、有限なエネルギーに過剰に依存する、持続可能性を欠く現代の社会モデルでした。
では、そうした社会モデルを転換するために、私たちはどのような一歩を踏み出すべきなのでしょうか。そして、次世代にどのようにバトンを渡していけばいいのでしょうか。後編では、エネルギーをめぐる人類の未来について議論しました。
鼎談者
『エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来』著者
(JX石油開発 国内CCS事業推進部長)
古舘恒介氏
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
エグゼクティブリード
坂野俊哉
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
リード・パートナー
磯貝友紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)坂野俊哉、磯貝友紀、古舘恒介氏
坂野:エネルギー問題に向き合う上で、エネルギー革命とともに押さえておかなくていけないのが、資本主義だと思います。資本主義とは理念的な主義主張ではなく、無限成長を加速させるメカニズムであり、それがエネルギー革命と合わさることで産業の発展と人口の増加、そしてエネルギーの大量消費をもたらしたと言えるのではないでしょうか。
古舘:おっしゃるとおり、資本主義とは無限成長が可能だと信じることで成り立つ経済モデルです。それを信じることができたのは、エネルギーの大量投入が可能だと信じてきたからで、産業革命以降の200数十年間、その幻想が続きました。
しかし、化石燃料などのエネルギー資源や利用できる土地の限界、そして人口の増加などを考慮すると、無限成長を担保できるキャパシティはもはや地球にはなくなってきています。そこが問われているので、資本主義への信頼も揺らぎ始めているのだと思います。
私は資本主義を捨てるべきだと言っているのではありません。例えば、公害対策として煤煙浄化装置を開発するにも、それを実装するにもコストがかかり、そのコストは一定の経済規模がないと賄えません。「衣食足りて礼節を知る」と言いますが、経済的にある程度余裕がないと、環境投資に費用を振り向けることはできないのです。
ただ、富の追求だけが自己目的化し、地球環境を蝕み続けていると、結局は私たち人類の存続そのものを脅かすことになります。一定の経済規模を保ちながら、地球環境とどこでバランスさせるか。それが大事だと思います。
坂野:際限のないエネルギー獲得を欲する私たちの脳。私たちに内在するエネルギー消費を増大させる本性を、うまくコントロールしなければならないということですね。
古舘:そこが非常に重要なポイントです。脳をあまり自由に解放せず、理性でいかにコントロールするかです。
世界最古の物語として有名な「ギルガメシュ叙事詩」(紀元前1300〜1200年ごろ)には、森の守り神フンババを打ち倒して、森林伐採を進めたギルガメシュ王の話があります。金属製の斧を携え、最高品質のレバノン杉を切り倒していく王は、文明社会の象徴です。しかし、森の乱伐は神の逆鱗に触れ、人々はその後、7年にわたって飢饉に苦しんだという話です。
この物語を書いた人たちは、文明社会がいったん森に分け入れば、森は破壊され続け、その結果、洪水の頻発や土地の砂漠化などのしっぺ返しを受けることを経験から知っていたのだと思います。
人類は木を切り続ければ何が起きるかを知っていながら、森林伐採の誘惑を止めることができませんでした。そうして豊かな土地を失っていったのです。
これは化石燃料を大量に消費し、地球温暖化を止められない現代と全く同じ構図だと思います。気候変動に関してはいまだに懐疑派の人たちがいますが、化石燃料は遅かれ早かれ必ず枯渇する運命にあるので、気候変動を深刻と捉えるかどうかにかかわらず、どのみち化石燃料に頼らないエネルギー消費のあり方を考えていく必要があります。
だとしたら、温暖化についての危機感が高まっている今こそ、エネルギー資源枯渇の問題に対して対策を考え、行動する絶好の機会ではないでしょうか。
JX石油開発 国内CCS事業推進部長 古舘恒介氏
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー 磯貝友紀
磯貝:脱炭素に向けてさまざま次世代技術の開発が進んでいます。テクノロジーの進化がもたらす可能性をどう捉えていらっしゃいますか。
古舘:今後、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率は高まっていくと考えられますが、太陽光発電は大規模な用地と大量の資材を必要とし、土地の占有と将来的な廃棄物の増加という問題があります。火力には温暖化ガス排出という問題があり、原子力は安全性や高レベル放射性廃棄物といった問題をクリアしなくてはなりません。
再エネ発電は自然環境に左右され、供給の安定性に課題があるので、蓄電池とセットで開発を進めていく必要があります。しかし、蓄電池をどこまで安価につくれるかという技術的な問題や、原材料として使うレアメタルの供給問題、採掘の際の環境問題を避けて通れません。
磯貝:次世代エネルギーとして水素への期待が高まっており、官民挙げて水素サプライチェーン構築の取り組みが進められています。水素エネルギーの実用化については、どうお考えですか。
古舘:水素(グリーン水素)は、太陽光や風力などの再生エネルギーを使って発電し、その電力を利用してつくることができますが、水素をつくるためにはエネルギーの投入が必要になるため、効率が悪くなります。
このようにエネルギーを投入することによって創り出す、加工されたエネルギーのことを2次エネルギーといいます。2次エネルギーの代表例は電気ですから、水素には電気が苦手とすること、例えば船舶を必要とするような超長距離のエネルギー移送であったり、還元反応を必要とする製鉄やメタネーションなどを担っていくことが期待されます。しかしながらそもそも水素は、地球上では酸素と反応した水として存在するのが一番安定している物質ですので、水素だけを切り出して扱うことは容易ではありません。また、水素の発熱量は体積当たりで見ると天然ガスの3分の1ほどで、熱源としても効率が良いとは言えません。したがって、あくまでも脱炭素に資する2次エネルギーのひとつとして、用途に応じて活用していくものと思います。
磯貝:第6次エネルギー革命は起こり得るとお考えでしょうか。
古舘:エネルギー問題の解決につながるテクノロジーとして、この先ゲームチェンジャーとなり得るのは、核融合反応による原子力エネルギー技術の実用化です。これまでの技術とはけた違いのエネルギーを取り出せますし、高レベルの放射性廃棄物が発生することはなく、連鎖反応も起こらないので、万が一の事故の際には反応を直ちに停止できます。そして、燃料となるエネルギー源は、海水中に豊富に含まれる重水素です。
ただ、「反応時間をどうやって長くするか」「エネルギーをどのように取り出すか」など、技術的に乗り越えなければならない壁が厚く、今世紀末までに普及が進めば御の字だと思います。一方で気候変動問題は待ったなしの状況であり、それまでの間は既存の技術でどう乗り切るかを考えなくてはなりません。
坂野:そうすると、脱炭素化に向けてどのようなエネルギーミックスで乗り切っていくべきかとお考えですか。
古舘:既存の技術はいずれも一長一短があるため、再生可能エネルギーを中心としつつも、複数のエネルギー源を特性に応じて使い分け、まさにエネルギーミックスで乗り切るほかありません。
その上でこの先重要なのは、限りあるエネルギーを今まで以上に大切に使うという私たち一人ひとりの意識であり、問われているのは私たちの覚悟だと思います。
坂野:エネルギー多消費社会から、より少ないエネルギーで経済活動や日々の生活を成り立たせる社会へと舵を切る。難問ではありますが、企業も生活者としての私たち一人ひとりも、その方向に向かって意識と行動を変えるべき時ですね。
古舘:例えば、エネルギー消費を抑えるには、誰もが知っているリデュース、リユース、リサイクルの3Rを徹底することが第一歩ですが、大事なのはその順番です。まずは使う量を減らす、使用頻度を下げるリデュース。次にすぐに捨てずにできるだけ再利用するリユース。そして最後に原材料のリサイクルです。廃棄して新たにモノを作るよりは少ないですが、リサイクルするにも新たなエネルギーの投入が必要となるので、3番目なのです。
企業側も、なるべくモノの消費を抑えるビジネスモデルにシフトすべきだと思います。サーキュラーエコノミー(循環経済)を前提に、最初から循環させやすい製品設計にしたり、「モノの所有から利用へ」の世の中の流れに沿って売り切り型のビジネスから、長く使ってもらうサービス型のモデルに転換したりするなど、できることはまだまだあるはずです。
特に若い世代は、モノを所有することへの執着が少なく、地球環境の有限性に対する意識が高い傾向にあるので、そうしたニーズに応えていくことは、経済合理性の観点からも重要だと思います。
磯貝:世界に目を向けると、資源や環境に有限性がある中で、経済合理性を成り立たせながら持続可能な社会の実現に向けて能動的なチャレンジを行う企業が増えています。そうしたイノベーションを起こすには当然リスクも伴いますが、金融市場もそうした前向きなリスクテイクを評価する傾向が強まっています。しかし、その流れに日本はまだ十分対応できていないのではないでしょうか。
古舘:政府が2050年のカーボンニュートラルを宣言したこともあり、日本では大きな目標にだけ関心が集中しがちですが、サーキュラーエコノミー実現に向けた地道な活動など今すぐできることにも、もっと努力を払うべきだと思います。
坂野:エネルギーの語源であるアリストテレスの造語「エネルゲイア」には、事物が運動や変化を通じて目的を達した状態という意味があるそうですね。エネルギーをめぐる私たちの旅の未来を展望する上で、とても示唆に富む逸話だと思います。
古舘:アリストテレスは、種子が持つ潜在能力のことをデュミナスと呼び、目的を達して花となった状態のことをエネルゲイアと呼びました。旅に例えて言えば、移動に伴って使った運動エネルギーだけでなく、その人が旅をする目的や旅への情熱もエネルギーの構成要素として組み込まれる概念です。
こうした視点を取り入れると、人類がつくり上げた社会は多かれ少なかれ、人の意志の力、すなわちエネルゲイアが反映されたものだと捉えられます。志を持ち、こうありたいという未来を想像できなければ、デュミナスは蓄えられずエネルゲイアは発現しません。
私たちの次の世代を含めた長い旅の先にあるエネルゲイアを見通し、そこからバックキャスティングして将来に至る道程を考え、今できることをすぐに実行する。次の世代にどのような流れをつないでいけるかが、私たちに問われていると思います。
坂野:エネルギー活用の効率化、低コスト化一辺倒で発展してきた社会を、エネルギーを大切に使う社会に転換するために、私たち一人ひとりがやるべきことを再認識できた気がします。
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス エグゼクティブリード 坂野俊哉