{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
サステナビリティ経営に取り組む日本企業13社が参画する「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」(発起人:PwC Japanグループ)の第3回会議が2023年11月28日、12月5日の両日にわたって東京都内で開催されました。会議では、日本とASEAN地域におけるサーキュラーエコノミーの現状やビジネスモデルの未来像などが議論されました。
左上:三菱UFJフィナンシャル・グループ 三毛兼承会長、右上:三菱重工業 泉澤清次社長
左下:JERA 可児 行夫会長、右下:帝人 内川 哲茂社長
会議は出席者を入れ替え、2日に分けて開催しました。PwC Japanグループは前回の会議(2023年6月)以降、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポールに赴き、計約50の企業・団体を訪問して各地におけるサーキュラーエコノミーの取り組みと課題、展望に関する実態調査を進めてきました。会議ではまず、PwCが提唱するサーキュラーエコノミーのフレームワークを説明したあと、現地の実態調査に基づき取りまとめたASEANにおける最新のサーキュラービジネスを紹介しました。
サーキュラーエコノミーとは「採取と拡散を極小化し、物質を循環させることで、環境課題解決と経済の両立を図るものである」と定義したうえで、マテリアル、カーボン、バイオの3つのサーキュラリティごとに、日本企業とASEAN企業が手を携えて循環型ビジネスと経済性を両立させるアプローチの可能性を提示しました。
マテリアルでは廃棄物の再加工や再販売を手がける「静脈産業」の育成が欠かせません。ただ、ASEAN地域では、公的な登録を行っていないインフォーマルな業者が多く、静脈のサプライチェーンを整えるのが容易ではないのが現状です。課題解決の手段の1つとして、インフォーマルな業者をまとめている現地企業との協働を挙げました。貴重な鉱物資源については域内の循環を回していくことが地政学的リスクにおいても非常に重要となります。そのためには、リサイクル技術を持つスタートアップとの連携も有効であることを示しました。「日本企業が現地企業との長期継続的取引を進めることで、現地ベンチャー企業による投資を可能とする役割を期待している」との要望が現地企業から寄せられたことも報告しました。
カーボンに関しては、グローバルのエネルギー企業が脱炭素へ向けた事業ポートフォリオの入れ替えを模索しています。日本企業もCO2の回収・再利用・貯留(CCUS)や水素、アンモニアなど新エネルギーの製造などで技術とノウハウを磨いています。ただ、現時点では再生可能エネルギー(再エネ)や脱炭素技術の社会実装には多額のコストがかかり、高いリターンが実現できないというのが実情です。1つの解として、再エネだけでなく、モビリティや充電サービス、バッテリーリサイクルなど関連するエコシステムを同時並行的に手がける現地企業との提携を例示しました。そのうえで、エコシステムを形成すべき分野ごとに日本企業の強みを生かし、関連市場を徐々に広げていく戦略を示しました。
バイオについては、窒素の循環をどう正常にするかに焦点を当てました。窒素はアミノ酸をつくるなど生物に必須な元素である一方、硝酸などの窒素化合物は水や土壌を汚染します。窒素肥料を過剰投与すれば農地がやせ細り、作物の供給が不足し、将来世界の人口分の食料を賄いきれなくなりかねません。こうした課題への対策として「リジェネラティブ産業」が重要テーマとして上がりました。リジェネラティブとは「土壌の持つ自然の力を改善しながら自然環境を回復する」ことを指します。リジェネラティブを実践するプレーヤーの1つ1つは小規模ですが、企業群としてそれぞれのノウハウや資源を結び付け、大きな市場につなげることが必要となります。本フォーラムにおいても、バイオサーキュラリティの更なる検討の深化のため、リジェネラティブ産業にも注目していくことが議論されました。
左上:国際協力銀行 林信光総裁、右上:第一生命保険 隅野俊亮社長
左中段:味の素 藤江太郎社長、右中段:日本政策投資銀行 太田充副社長
左下:本田技研工業 三部敏宏社長、右下:三井住友トラスト・ホールディングス 高倉透社長
テーマに関連するASEANの企業もオンラインで出席しました。サーキュラーエコノミー分野のスタートアップに投資するシンガポール企業の幹部は「私たちはアジアにおけるサーキュラーエコノミーへの投資会社で、特にプラスチックサプライチェーンの構築に注力している。私たちは再利用を可能にするビジネスモデル、プラスチックに代わる革新的な素材、リサイクル、バイオテクノロジーなどの破壊的イノベーションに投資している」と語りました。
同企業幹部はアジアにおけるサーキュラーエコノミーの現状を「インド、フィリピン、タイ、その他の市場でも、持続可能なプラスチックリサイクルのサプライチェーンの構築を支援する動きが出てきた。社会においても追跡可能で透明性の高いサプライチェーンを構築することへのプレッシャーが強まっている」としました。一方で「東南アジアのサーキュラーエコノミーを促進するには大きな資本が必要だ」とも分析。「東南アジアの基本的な廃棄物管理インフラを構築するために必要な資金と比べると、毎年の民間取引の流れは著しく不十分で、より多くの資金が必要となっている。必要とされる資金は数十億ドル規模だが、現在はごくわずかな資本を主に初期段階のスタートアップに投じているにとどまる」との課題も指摘。そのうえで「東南アジア市場が投資価値のある地域であることを実際に示し、必要な資本を呼び込んでいきたい」と結びました。
マレーシアでプラスチックリサイクルを手がける企業の幹部は「最も重要なのはデジタル技術によるトレーサビリティ(生産履歴の追跡)だ」と強調しました。ある企業と提携して「専用のアプリを開発し、2万8,000ものごみ収集事業者が各家庭を回ってリサイクル可能物を回収するプロセスを最適化している。またケミカルリサイクルにより品質の安定性に優れた純度の高い基材を作るアプローチを実現。一連の取り組みによって循環性が向上している」と手応えを口にしました。
「ビジネスをスケールアップする際の障壁は何か。技術か、人材か。規制のあり方や、人々の関心や行動、そして供給される資金も影響しているだろうか」との参加企業からの質問に対し「それらは全て重要な要素だ。加えて、サーキュラリティを構築する上で必要となる戦略的パートナーシップも大事だ」とし、いくつかのパートナー企業との取り組みに触れつつ「私たちは変化を起こす触媒になっていく」と語りました。
「政府や地方自治体との連携をどうとればいいか」との問いには「政府のアプローチがトップダウンだとすれば、マレーシアで私たちが今考えていることはボトムアップの取り組みであり、その双方が重要だ」と応じました。家庭ごとに協力するスマート回収システムをボトムアップの例に挙げ「私たちは地区レベルと州レベル、できれば全国レベルでトップダウンとボトムアップの両方を一緒に行おうとしている」と語りました。
ASEAN域内でも、地理や気候、地質や商習慣は国によってまちまちです。それぞれの課題に対応しつつ、日本とASEANがサーキュラーエコノミーをともに推進するパートナーであり続けるには実行力のある取り組みが欠かせません。参加企業からは「何から取り組むか、順番を決めて実行していくことが大事だ」「勝てるゲームプランを示し、コンセンサスをしっかり得るのが重要だ」との意見が出ました。
PwC Japanグループ代表 木村浩一郎
当フォーラムは、日本企業とASEANの企業との協業体制をより広く、強く築くには、国際会議などで発信し、フィードバックを得てともに作り上げていくことが有効となり得ると考えます。会議ではグローバルにどのように発信するか、フォーラムの役割も含めて話し合いました。
参加企業からは「アジアは世界の成長ドライバー。サーキュラーエコノミーの展開と経済成長のバランスを保ちつつ、どうポジティブなメッセージを打ち出せるかがカギだ」との声がありました。「日本の技術やノウハウはたくさんの分野で貢献できる」「現地の企業や政府、市民と連携して輪を広げるのが重要だ」との指摘もありました。「日本がサーキュラーエコノミーのハブとなる」「アジアの声を聞き、一緒に解決する道を探る」ことを柱とし、技術開発を進め、経済合理性を保つための「ストーリー」をASEAN企業と共有していく必要性についても議論がありました。
また、当フォーラムへの期待として、ASEAN企業との情報交換、意見交換の場として有意義であり、連携しながら取り組みを発信していくことが重要であるとの認識で一致し、これまでの議論も踏まえてまとめた『サーキュラーエコノミーおよびカーボンニュートラルに関する共同宣言』を2024年1月のダボス会議にあわせて発信することについて大筋合意しました(2024年1月16日に発表)。こうした発信により、ASEAN企業との情報交換や意見交換を活発化させ、サーキュラーエコノミーのエコシステムに貢献していくことを進めていきます。
当フォーラムは、サステナビリティ経営の実現という目標を国際社会でしっかり共有しつつ、地域の実情に即した対策を講じることが日本を含むアジアの持続可能な成長に不可欠である、という認識のもと2022年に発足しました。参加企業は当初の11社から2023年12月時点で13社に拡大しました。欧米とは異なるアジア特有の事情を考慮しつつ、さまざまな事業を展開する企業の経営者による意見交換を通じて世界のサステナビリティの実現に向けた現実解を引き続き検討していきます。
※会社名、役職などは開催当時のものです