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2022-06-21
気候変動対策は、世界共通の課題として日々注目度が高まっています。日本では、政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにするカーボンニュートラルを実現すること、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを宣言し、脱炭素化に向けた積極的な取り組みを表明しています。
2050年のカーボンニュートラル実現のために、地方自治体には地域循環共生圏の考え方に基づいた地域の脱炭素化と経済活性化の両立が求められています。
また、2021年の地球温暖化対策推進法の改正に伴い、地方自治体は地方公共団体実行計画を策定し、複数のステークホルダーと連携して地域の脱炭素化を積極的に推進することが義務化されました。
地域の脱炭素化を実際に推進するには、地方自治体が自らの地域特性を把握し、これに応じた取り組みを実施し、事業者、市民など、地域のステークホルダーと密接に協働することが不可欠です。
本コラムでは、地方自治体の気候変動政策の担当者へのインタビュー結果などをもとに、①地方自治体の地域特性を反映した打ち手の明確化、②施策の推進に向けたデータ活用の有用性、③持続的な地域脱炭素の取り組みを実現するためのインセンティブスキームの在り方について、全3回にわたり議論します。今後の地域脱炭素のさらなる加速化に向けた検討の一助になれば幸いです。
第1回では、地方自治体の地域特性を可視化した上で、効率的な脱炭素化推進の方針をご紹介します。
地方自治体では、「ゼロカーボンシティ宣言」をはじめとし、全国で脱炭素化に向けた動きが活発化している一方、各地域の特性が多様であることから、全国の市区町村で共通の施策を実施することが必ずしも適切であるとは限りません。
そこで筆者は、温室効果ガス(GHG)排出量および排出構成などを考慮して市区町村を分類し、各自治体の特性を反映して、効率よく脱炭素化を進める方向性を検討しました。
図表1は、排出量の大きい市区町村から順に積み上げて作成した累積比率のグラフです。日本における総排出量90%を約700の市区町村が占め、残りの総排出量10%を約1,000の市区町村が占めていることが分かりました。つまり、排出量の多寡やその特性により、脱炭素化推進には複数のアプローチがあり、隣接市や先進自治体の取り組みを真似ることが必ずしも適切とは言えません。
全国の市区町村は大きく3つに分類することができます。具体的には、排出削減よりも再エネ創出に重きを置くことが望ましい「再エネ重視型(総排出量の10%:約1,000)」、排出削減に重きを置くことが望ましい「削減重視型(総排出量の50%:約600自治体)」、双方の取り組みを推進するべき「バランス型(総排出量の40%:約100自治体)」に分類できます。
こうした自治体の特性を理解し、その全体像を把握することが地域の脱炭素化を進める第一歩と言えます。
地方自治体では、脱炭素化推進が重要施策である一方、公衆衛生や経済対策、福祉など他にも多くのテーマを抱えており、限られた予算で効率的に脱炭素化を進めることが求められます。
効率的に脱炭素化を進めるためには、当該自治体においてどの領域に注力すべきかを明確にし、ターゲットを絞り込むことが重要です。そして、全国には「注力すべき領域が似ている地方自治体」が存在します。地域特性が類似している自治体と、効果的な施策を双方で共有することが、日本全体の脱炭素化を加速させるために必要です。
日本の地方自治体の特性をマクロ視点で把握するため、GHG排出量の多寡で分類した上で、高GHG排出型の自治体は主要GHG排出部門で、低GHG排出型の自治体は域内での電力需要を賄える再エネポテンシャル(環境省の再生可能エネルギー情報提供システムREPOSの太陽光エネルギーポテンシャルにて算出)を有するかどうかでさらに分類しました。この結果、全国の地方自治体を「①工業都市クラスター」「②商業都市クラスター」「③交通都市クラスター」「④住宅集中都市クラスター」「⑤単独カーボンニュートラル(CN)実現可能クラスター」「⑥単独CN実現困難クラスター」の6つに分類しました(図表2)。
図表2から、排出量削減を重視すべき自治体(以下、高GHG排出型とする)は、713件に上り、日本の総排出量の90%を占めています。特に「①工業都市クラスター」に属する自治体が469件にのぼり、これは高GHG排出量型の約66%(全国総排出量の約62%)にあたります。つまり、日本におけるカーボンニュートラルの実現には「①工業都市クラスター」にて、どれだけ効率的に排出量を削減できるかがポイントの一つとなります。
また、①〜④以外の市区町村(1,016件)の排出量は、日本の総排出量の10%で、排出量が小さいエリア(以下、低GHG排出型とする)となります。低GHG排出型の自治体は、自らの排出量を削減するとともに、再エネ創出に注力することが求められます。マクロ視点で考えると「⑤単独CN実現可能クラスター」に属する619件の自治体は、再エネポテンシャルが高いことから、当該自治体のカーボンニュートラルだけでなく、他の市区町村のための再エネ創出を行うことが期待されます。
①〜⑥のクラスター分類別におけるそれぞれの特徴と、そこに属する主要な自治体を一覧化したものが図表3となります。
図表3から、高GHG排出量型クラスターにあたる「①工業都市クラスター」「②商業都市クラスター」「③交通都市クラスター」「④住宅集中都市クラスター」に属する約70%~90%の市区町村と、低GHG排出量型クラスターにあたる「⑥単独CN実現困難クラスター」に属する市区町村は、単独でカーボンニュートラルを実現することは困難であることが分かります。つまり、これらの市区町村では、再生エネルギーを他の市区町村と連携し獲得することが求められます。
一方、低GHG排出量型クラスターにあたる「⑤単独CN実現可能クラスター」に属する619の市区町村は、再エネポテンシャルが大きく単独でカーボンニュートラルの実現が可能です。域内の再エネポテンシャルを可能な限り有効に活用するための施策を打ち、創出した再エネを他の自治体へ供給することで、地域経済活性化につなげる機会とすることができます。
ここまでの整理により、自治体の特性を踏まえることで、優先的にアプローチすべきターゲットがより具体的に見えてきました。一方で、上記の分析は施策を検討するにはまだデータの解像度が粗いと言えます。
そこで施策の実施を加速させるべく、ターゲットとする自治体の排出量に関するデータの解像度を高め、施策をより具体的かつ明確にしていくことが求められます。
ターゲットとする自治体の排出量の分析解像度を高めるために、自治体の排出量を構成する排出部門の中で排出量が最も多い部門とその次に多い部門との乖離の大小を確認して分類します。次点との乖離が大きければ、最大の排出部門(以下、主排出部門とする)にターゲットを絞り、逆に、乖離が小さければ次点の排出部門(以下、副排出部門)もターゲットに含めた施策を打つべきです。
つまり、ターゲットとすべき排出部門を主排出部門の一つに定めるべきか、副排出部門も含めて複数を見据えるべきか、という観点で施策の打ち手を具体化します。
高GHG排出量型クラスター(①~④)の場合は、主要排出部門との乖離が少ない副排出部門が存在するか、低GHG排出量型クラスタ(⑤~⑥)の場合は、主排出部門を特定できるか、という観点でさらに分類し、脱炭素化推進方針を定めた結果が図表4となります。
図表4から、GHG総排出量と主排出部門を起点とした特化型・複合型の施策展開と、再エネ需給マッチング促進を基本路線とした施策展開があり、これらを合わせると13の推進方針が考えられます。
以上の分析を通じて、脱炭素化推進の取り組みに注力すべきはどの部門のどの事業者か、同様に、主要排出部門との乖離が少ない副排出部門を持つ場合は、注力すべきはどの部門のどの事業者か、主排出部門と副排出部門の重点配分をどの程度でバランスすべきか、バランスを検討する際のベンチマーク先となる自治体はどこかを明確にすることができます。
これまで総合計画や環境基本計画を策定する際にベンチマーク先としてきた、近隣自治体や人口規模が近い自治体、といった視点だけでなく、自治体の地域特性および注力すべき排出事業者を加味することで、効率的な脱炭素化推進のための方針を定めることが可能となります。
これまで、一般に、社会的コストとして見られてきた脱炭素化への取り組みは、今や世界的な潮流であり、後世に向けた持続的な社会基盤を構築するための重要なアクションと認識されています。
一方、従来の取り組みとは異なる行動が求められ、多くの変革や投資が必要なことも事実です。より効率的な脱炭素化への取り組みを推進するには、全ての主要なステークホルダーを巻き込みつつ、考え、行動し、情報発信することが重要です。
次回は、地方自治体が脱炭素化への取り組みを推進する上で抱えている課題と対策を整理し、施策の推進に向けたデータ活用の可能性について議論します。