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2022-06-28
気候変動対策は、世界共通の課題として日々注目度が高まっています。日本では、政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにするカーボンニュートラルを実現すること、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを宣言し、脱炭素化に向けた積極的な取り組みを表明しています。
2050年のカーボンニュートラル実現のために、地方自治体には地域循環共生圏の考え方に基づいた地域の脱炭素化と経済活性化の両立が求められています。
また、2021年の地球温暖化対策推進法の改正に伴い、地方自治体は地方公共団体実行計画を策定し、複数のステークホルダーと連携して地域の脱炭素化を積極的に推進することが義務化されました。
地域の脱炭素化を実際に推進するには、地方自治体が自らの地域特性を把握し、これに応じた取り組みを実施し、事業者、市民など、地域のステークホルダーと密接に協働することが不可欠です。
本コラムでは、地方自治体の気候変動政策の担当者へのインタビュー結果などをもとに、①地方自治体の地域特性を反映した打ち手の明確化、②施策の推進に向けたデータ活用の有用性、③持続的な地域脱炭素の取り組みを実現するためのインセンティブスキームの在り方について、全3回にわたり議論します。今後の地域脱炭素のさらなる加速化に向けた検討の一助になれば幸いです。
前回(第1回)では、脱炭素化を効率的に推進するには地域特性を把握し、その特性に応じた推進方針を定め、ベンチマーク先となる他の自治体の取り組みなどを参照しながら、施策を進めることが重要であると述べました。
第2回では、地方自治体が推進する上で抱えている課題と対策を整理し、施策の推進に向けたデータ活用の可能性について議論します。
地方自治体においては、公衆衛生や経済対策、福祉など、地域に紐づくさまざまな社会課題に取り組むにあたり、限られたリソース(時間・人手・予算)を効率的に活用することが求められており、脱炭素化においても同様です。成果を最大化するためには、優先すべき課題や阻害要因を特定し、限られたリソースを効率的に配分し、解決に向けて具体的に行動することが重要です。
筆者は第1章でご紹介した各クラスター分類の結果を踏まえつつ、複数の市区町村にヒアリングを実施しました。これを通じて、脱炭素化を推進する上で市区町村における共通の課題と解決の方向性、ステークホルダーへの期待を明らかにしました。
図表1に示す通り、地域の脱炭素化を推進する際、ヒト・モノ・カネ・情報と、温室効果ガス(GHG)排出量の定量分析、可視化、効果検証などに課題を感じていることが分かりました。また、地域の脱炭素化の課題解決に向けては、国・都道府県・市区町村、さらには地域住民・事業者といった主要なステークホルダーとその役割を明確にするとともに、それぞれのCO2排出量や再エネ導入量など、個々の事業者が独自に持つ情報のデータ連携が重要となります。
さらに、地域脱炭素化を効率的に推進するには、部門ごとの排出主体や排出活動を特定するなど、課題の深堀りが欠かせません。深堀りに向けて、主要な論点について整理した結果を図表2に示します。
実態に即したデータを基に正確な現状把握を素早く行うための「①データ収集」、ステークホルダーが前向きに脱炭素化を進める「②インセンティブ設計」、高い専門性と細かな支援を可能とする「③推進体制」、カーボンニュートラル実現に向けた連携先を検討する「④自治体間連携」、地域脱炭素の活動を持続的に支援するための「⑤金融機関連携」などが主な論点となります。これらの論点について、課題を解決するための具体的な施策を進めることが地域脱炭素化への突破口となります。
多くの自治体では現場の人手不足が深刻であり、現状把握におけるデータ収集に大きな負荷がかかっています。一方、特定事業者のGHG排出量等のデータなど、主要なデータについては、保有者から一元的に収集する仕組みを導入することにより、解決が可能です。
地域の脱炭素化を効率的に推進するためには、事業者との協働が重要です。一方、こうしたステークホルダーを巻き込む材料が不足しており、協働に向けた議論が進んでいないのが現状です。特に、事業者の視点で考えると、市区町村に情報共有を行う意義を見出しにくいと言えます。
つまり、インセンティブの提供と規制強化の双方から、事業者に脱炭素化に向けた行動変容を促すためのアプローチが求められています。インセンティブは金銭的な補助だけとは限らず、グリーン企業としてのブランド化なども含まれます。また、インセンティブが難しい場合は条例等の規制の導入でも行動変容を促すことが可能です。
地域脱炭素は環境部局だけでなく、庁内全体での連携が求められる広範なテーマです。一方、気候変動対策に取り組む庁内人材の不足、他部門からの理解不足などにより、計画策定や施策の検討・検証、ステークホルダーとの対話などに十分に注力できていないというのが現状です。この現状を打破するためには、外部人材の登用や専門人材の人事制度の見直しに加えて、より一層のデータ活用を進展させていくことが必要です。
約55%の自治体は単独でカーボンニュートラルを実現することが困難です。そのため、先進的な自治体はすでに連携先の自治体の確保に動き出しています。一方、他の自治体の取り組み状況の把握にまで手が回らず、具体的な行動に移せていない自治体が数多く存在しています。効率的に連携を推進している先行事例の多くは、ネットワーク会議の開催やトップダウン型のマッチングにより、連携が進んでいます。つまり、市区町村の連携を全国的に推進するには、他自治体の状況を把握し、具体的な連携を促すための仕組みづくりが必要です。
日本の企業数で99%を占める中小企業は、地域経済を支える基盤であり、地域の脱炭素化においても重要な役割を担うことになります。一方、多くの中小企業は、脱炭素に向けた活動をコストと感じる傾向にあり、積極的な投資を進めることができていません。そこで、資金提供を行う地域の金融機関の役割が重要となります。特に、脱炭素関連データを重要成果指標(KPI)とする評価スキームの確立と、その評価スキームに基づく投融資の実績作りが求められます。
ここまで、地方自治体が地域の脱炭素化を推進する上で抱える課題とその対策について述べました。
2021年の地球温暖化対策推進法の改正に伴い、地方自治体は地域の事業者と連携し、取り組みをさらに促進することが求められます。
今後、「ステークホルダーと議論を行う土台となる共通データ基盤をいかに整備できるか」が重要な論点となります。
この論点を検討する上で欠かせないのが、データ収集と活用、さらに、これを促進するためのインセンティブスキームの構築です。
特に、地域の脱炭素化の進捗状況を容易に把握でき、主要なステークホルダーとも情報共有できる仕掛けづくりが決定的に重要となります。
筆者は、地方自治体と地域の主要なステークホルダーが、共通のデータ基盤を共有し、これを土台に議論できる環境を創出することが、双方にとって“利益”につながり、地域脱炭素の実現に大きく貢献すると考えています。
次回は、持続的な地域脱炭素化の取り組みを実現するためのインセンティブスキームの在り方と取り組むべきアクションについて議論します。