{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2022-02-17
2021年6月に、金融庁より、東証再編後にプライム市場で上場する企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実を求めるコーポレートガバナンス・コードの改訂が公表されました。
PwCあらた有限責任監査法人では、今後日本国内でも上場企業に対して気候変動リスク・機会を評価するための開示を義務化する動きがさらに加速すると考え、2021年9月末時点ですでに有価証券報告書で気候変動関連の開示を行っている企業のTCFD提言に関する開示状況に着目し、調査を行いました。
前編では、有価証券報告書でTCFD提言に関する開示を行っている非金融企業124社※1について、業種別、会計基準別、企業の規模別(売上高、時価総額)といった観点で開示状況を分析しました。
後編となる本稿では、有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている非金融企業124社が具体的にどのような開示を行っているのかを分析します。
なお、本稿における基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。
はじめに、TCFD提言に基づく推奨開示について紹介します。TCFDは2017年6月に、財務に影響のある気候関連情報について年次の財務報告の中での開示を推奨する最終報告書を公表しました。ここで推奨される全セクター共通の開示項目は、以下の4項目です。
出典:TCFDコンソーシアムウェブサイト「TCFDとは」
さらに、2021年10月には改訂附属書が公表され、「指標・目標の開示」および「戦略としての移行計画と財務影響の開示」にかかるガイダンスが示されました。
このような推奨開示を踏まえ、本調査では有価証券報告書にTCFD提言に関する開示を行っている124社の開示内容を以下の5つに分類して分析を行いました。
対象企業124社の有価証券報告書における開示内容に基づき、PwCあらた有限責任監査法人作成
定性文のみの分類①からTCFD提言に基づく推奨開示を行う分類④に近づくにつれ、開示内容が拡充されています。なお、TCFD提言に関する開示を行っている非金融企業124社のうち、117社は、2021年11月までにTCFD提言への賛同を表明しています。
ここからは、有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている124社について、図表2の分類に基づいた調査結果を紹介します。
以下は、①から⑤に分類した際の、分類ごとの対象企業の割合を示しています。
2021年9月末時点企業情報データベース抽出情報よりPwCあらた有限責任監査法人作成
124社のうち約50%の企業(63社)は、有価証券報告書では分類①TCFD提言に関する賛同などの言及のみを行っており、TCFD提言に基づく4項目の推奨開示といった有価証券報告書における情報開示はまだ進んでいないことが分かります。
続いて、分類②CO2やGHG(温室効果ガス)排出量の削減目標まで開示している企業は21.8%(27社)、分類③移行リスク、物理リスクおよび機会を開示している企業は12.9%(16社)、TCFD提言に基づく推奨開示を行っている企業は、7.3%(9社)にとどまっていました。
業種別※2の開示状況を分析しました。開示分類ごとに開示企業の多い業種を取り上げ、その割合を示します。
有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている企業のうち、分類①「TCFD提言への賛同などの言及のみ」の開示を行っている割合が多い業種は、以下の3業種でした。
2021年9月末時点企業情報データベース抽出情報よりPwCあらた有限責任監査法人作成
3業種とも70%以上の企業が、有価証券報告書において、TCFD提言への賛同などの言及のみの開示を行っており、コーポレートガバナンス・コードの改訂で求められるTCFDまたはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を満たすためには、今後さらなる情報開示の拡充が求められると考えられます。
続いて、有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている企業のうち、分類②「CO2、GHG排出量の削減目標の開示」の開示を行っている割合が多い業種は、以下の3業種です。
2021年9月末時点企業情報データベース抽出情報よりPwCあらた有限責任監査法人作成
この3業種の特徴として挙げられるのは、約30%の企業が、CO2、GHG排出量削減目標について開示しているということです。
4-1で見たように、「陸運業」は残りの71%の企業が分類①の「TCFD提言への賛同などの言及のみ」の開示にとどまっており、TCFD提言に基づく推奨開示を満たすためには、情報開示の拡充がとりわけ求められるといえます。
一方で、「電気機器」「建設業」は、分類③「移行リスク、物理リスクおよび機会の開示」、分類④「TCFD提言に基づく推奨開示」を開示している企業も一定程度(約17%)見られました。
有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている企業のうち、分類③「移行リスク、物理リスクおよび機会の開示」を行っている割合が多い業種は、以下の4業種です。
2021年9月末時点企業情報データベース抽出情報よりPwCあらた有限責任監査法人作成
4業種とも、約20%は、分類③「移行リスク、物理リスクおよび機会」を開示しており、気候変動の影響により原材料の影響を受けやすい食料品や商社(卸売業)などは、シナリオ分析に基づくリスクおよび機会を有価証券報告書に開示している企業が一定程度あることが分かります。
また、「食料品」「建設業」「卸売業」では、分類②「CO2、GHG排出量削減目標の開示」と分類③「移行リスク、物理リスクおよび機会の開示」を合わせると40%~50%となり、比較的情報開示が進んでいることが分かります。
最後に、有価証券報告書においてTCFD提言に関する開示を行っている企業のうち、分類④「TCFD提言に基づく推奨開示」を行っている企業は、124社中9社※3ありました。ここでは、そのうち分類④の開示を行っていた3業種に着目します。
2021年9月末時点企業情報データベース抽出情報よりPwCあらた有限責任監査法人作成
「電気機器」は、分類④「TCFD提言に基づく推奨開示」を行っている割合が16%(19社中3社)でした。また、「小売」は、分類④「TCFD提言に基づく推奨開示」を行っている割合が40%(5社中2社)と高い水準でした。ただし、「小売」全体のTCFD関連の開示率は、前編にて紹介したとおり、2.5%(198社※4中5社)にとどまっており、業界内でもTCFD提言に関する開示が進んでいる企業とそうでない企業の間に差があるといえます。
「食料品」は、分類④「TCFD提言に基づく推奨開示」を行っている割合が8%(13社中1社)でした。「食料品」は、ある特定の分類に偏っているというよりは、分類①から分類⑤の各分類に該当する企業があり、業種内での開示状況にばらつきがあることが分かります。
有価証券報告書におけるTCFD提言に関する開示は、業種により差があり、また、TCFD提言への賛同などの言及やCO2排出量削減目標の開示にとどまっている企業が、全体の約70%を占めています。今後、日本国内の上場企業に対し、有価証券報告書で気候変動リスクに関する情報開示を義務化する方向で検討が進められていることから、上場企業は、有価証券報告書でのTCFD提言に基づく情報開示に向けて、準備を進めていくことが重要になると考えられます。
※1 東証一部上場企業は、金融企業が138社、非金融企業が2,037社(合計2,175社)で、そのうち四大監査法人が監査している企業1,685社(金融企業119社、非金融企業1,566社)を調査対象としています(2021年9月末時点)。
※2 東証の業種別分類に基づいて対象企業を分類し、有価証券報告書でTCFD提言に関する開示を行っている企業が業種内に5社以上ある場合に、業種別分析の対象としています。
※3 有価証券報告書へTCFD提言に基づく推奨開示を行っている企業(9社)の業種は、「電気機器(3社)」「小売(2社)」「食料品(1社)」「輸送用機器(1社)」「サービス業(1社)」「その他製品(1社)」です。
※4 東証一部上場企業で四大監査法人が監査している企業1,685社のうち、「食料品」に属する企業は198社です(2021年9月末時点)。
※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。