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自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2023年9月19日にフレームワークの最終提言となるv1.0を正式に公開しました。2022年5月公開のベータ版v0.1に始まり、v0.4までの改訂を経て、今回正式なフレームワークが確定しました。この最終提言のリリースを機に、すでにベータ版から準備を進めている事業会社や金融機関に加え、今後さらに多くの企業や金融機関においてTNFD対応が進んでいくと考えられます。
そこで本稿では、改めてTNFDの基本的な概要から、今回のv1.0にてアップデートされたポイント、企業としての対応する必要のある要求事項とその対応方向性について解説します。
本コラムの構成は以下の通りです
TNFDは、世界の金融の流れを自然にとってマイナスの結果から、プラスの結果へとシフトさせることを目的として立ち上がったタスクフォースです。常に変化する自然関連のリスクと機会を組織が報告し、行動を起こせるようにするためのリスク管理と情報開示に関するフレームワークを開発し、提供することを目指しています。
TNFD フレームワークは、全ての企業や金融機関が、その規模の大小、セクターの種別、バリューチェーンの規模を問わず、また資金提供者や規制当局、その他のステークホルダーへの開示義務の有無にかかわらず、自然関連課題を特定し、評価できるように構築されています。
TNFDが提供するフレームワークは種々ありますが、開示項目を4つの柱(「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」)で示した開示推奨項目、開示のための推奨評価ステップを示したLEAPアプローチ、セクターなどにかかわらず共通の枠組をまとめたTNFD提言、セクターやバイオーム別のガイダンスおよび指標一覧、シナリオ分析や目標設定などの個別ガイダンスなどから成り立っています。
具体的には、v1.0においては主に以下のようなドキュメントが公開されています。
今回、v1.0の主要フレームワークにおいて、前回のv0.4からアップデートされた主なポイントは以下のとおりです。
① 開示推奨項目に、先住民族と地域コミュニティ(IPLCs)、影響を受けるステークホルダー、その他のステークホルダーに関する人権方針と管理活動に関する新たな勧告が追加(ガバナンスC)
② LEAPアプローチのスコーピングフェーズ項目の変更
③ LEAPアプローチの「L2:影響と依存のスクリーニング」として重要な影響依存に関係する事業や部門、バリューチェーンをスクリーニングする項目が追加
④ LEAPアプローチの「E4:影響の重要性評価」「A4:リスク機会の重要性評価」として、それぞれ影響とリスク・機会の重要性評価の項目に変更され、ISSBやCSRDの要求項目に整合
「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクト管理」「指標と目標」の4つの柱からなる開示推奨項目はTCFDとの整合性が高められており、TCFDが推奨する11項目全てを含む、14の項目によって構成されています。TNFD特有のポイントとしては、「影響」と「依存」の観点で説明することが求められていること、「上流」「直接オペレーション」「下流」からなるバリューチェーン全体が説明の対象範囲となっていること、重要エリアのロケーション情報を公開すること、影響を受けるステークホルダー(主に先住民と地域コミュニティ:IPLCs)との関係性を説明することなどが挙げられます。
基本構造は、TCFDと整合するよう設計されていますが、「自然」と「気候」の概念や考え方の違いを正しく理解して、各要求事項に対応していくことが重要です。
TNFDでは、組織の情報開示までのプロセスとして、LEAPアプローチというフレームワークが提示されています。LEAPとは、Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)という4つの単語の頭文字を合わせた造語であり、これは自然への配慮を企業のバリューチェーンや金融機関などのポートフォリオのリスク管理プロセスに組み込むための実践的なガイダンスとして公表されたものです。
LEAPアプローチにおいては、まずスコーピングを実施します。これは企業や金融機関など自らの組織活動にはどのようなものがあるかを把握し、財務データや人的データなどの観点から必要なリソースを割り当てる段階です。v0.4では企業と金融機関それぞれに向けたスコーピングフェーズが設定されていましたが、最終提言では共通のステップに統一されました。
スコーピングの次は、LEAPの最初のステップであるLocateフェーズです。このフェーズでは組織と自然の接点をスクリーニングし、より具体的にロケーションベースで把握することで、脆弱性の高い地域や重要なセクターおよび事業活動などを特定します。次に、Evaluateフェーズでは、特定した重要地域における組織からの影響や組織の依存関係を特定し、その程度や重要性を診断します。このように特定した自然との影響依存関係に基づき、Assessフェーズでは、自社のリスクと機会を特定し、こちらも同様に重要性を評価します。最後に、Prepareフェーズでは戦略の策定、パフォーマンスの測定、報告公表を実施し、これらをレビューしながら繰り返していきます。
このLEAPアプローチ全体においては、先住民、地域コミュニティ、影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント、さらにシナリオ分析がかかわっていることも重要なポイントです。
ただし、LEAPアプローチは、あくまでTNFDが推奨するステップを示したものであり、必ずしもこのステップに沿った評価を行う必要はありません。各社の対応状況などに応じて、柔軟に対応していくことが可能です。
TNFDでは指標例をいくつか示していますが、最も中核となるグローバルコア開示指標は9つの指標(C1.0~C3.1)と2つのプレースホルダー指標(C4.0~C5.0)から構成されています(図表5)。「侵略的外来種」と「自然の状態」は、まだ広く受け入れられる指標がありませんが、可能な限り検討し、報告することを推奨しています。
この開示指標のほかに、アセスメントを実施するために使用するアセスメント指標というものもあります。企業は事業との関連性に鑑みて適切なアセスメント指標を設定する必要があります。
また、リスクと機会についてもコアグローバル指標が設定されています。以下のとおり、主に自然関連のリスクおよび機会に関連する財務的数値を報告することが求められています。
サステナビリティ関連開示の枠組みにはさまざまなものがありますが、TNFDでは4つの柱からなる要求事項のパートで紹介したとおり、TCFDと基本構造は同じ形が採用され、整合性が取れるように設計されています。これは、TNFDの一般要求事項において「気候変動など、他のサステナビリティ課題と自然の関係性を見るべき」とされていることから、今後の統合性を意識されているものと考えられます。企業には、気候と自然を別々のものとしてとらえるのではなく、それぞれのトレードオフ、シナジー関係を統合的に把握することまで最終的には要求されてくることになると予想されます。将来的にTNFDはTCFDと統合される可能性が高いため、現時点から気候と自然を統合的にとらえていく必要があります。
TNFDと並行して開発がされているSBTs for Natureは、TNFDと同じく自然を対象としたフレームワークですが、TNFDがリスクおよび機会の特定を主眼としているのに対して、SBTs for Natureは主に目標設定を目的としています。TNFDでは、目標設定を行う際にはSBTs for Natureのガイダンスを参照することを推奨しています。
2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、2030年と2050年に向けて目指すべき生物多様性の国際目標が採択されました(詳細はCOP15解説コラム参照)。企業は今後、このような世界の大きな方向性を見据えながら、TNFDのような枠組みを活用することで自社と自然の関係を把握し、「ネイチャーポジティブ」な組織への転換を進めていくことが求められます。これは、自然や社会のためだけでなく、自社の持続可能性という観点からも不可欠な対応と言えるでしょう。
PwCでは、TNFDをはじめとする自然資本に係る最新の国際動向を踏まえた企業の自然資本および生物多様性に係る影響や依存度の評価や、情報開示の準備対応、さらにはネイチャーポジティブ戦略の策定から実行までを一貫して支援しています。詳しくは生物多様性に関する経営支援サービスをご覧ください。