
グローバルと日本の観点から見たサブスクビジネス導入の課題とは
PwCコンサルティング合同会社とPwCあらた有限責任監査法人でクライアントのサブスクリプションビジネス導入を支援してきた2人に、グローバルと日本の観点から見た、サブスクリプションビジネス導入の課題とその解決アプローチを語ってもらいました。
2022-08-26
「モノ売り」から「コト売り」の時代へ――。近年、注目されているサブスクリプションビジネスは、日本でもその市場規模が拡大しています。しかし、サブスクリプションビジネスを開始するには、既存のビジネスモデルや社内組織、取引会社との関係も大幅に見直す必要があります。では、これらの課題を克服し、サブスクリプションビジネスを開始するにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。PwCコンサルティング合同会社とPwCあらた有限責任監査法人でクライアントのサブスクリプションビジネス導入を支援してきた2人に、グローバルと日本の観点から見た、サブスクリプションビジネス導入の課題とその解決アプローチを語ってもらいました。
登壇者
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
大槻 玄徳
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー 公認会計士
安田 裕規
(左から)安田 裕規、大槻 玄徳
――そもそもサブスクリプション(以下、サブスク)とはどのようなビジネスモデルなのでしょうか。「サブスク=定額課金」というイメージがありますが、その認識は合っていますか。
安田:
確かにサブスクといえば月額○○円といった定額課金が特徴的ですが、これはサブスクの一側面に過ぎません。サブスクとは課金体系ではなく、顧客に対してサービスを継続的に提供し、収益獲得を目指すビジネスモデルを指します。
大槻:
サブスクビジネスで重要なのは、LTV(Life Time Value:生涯価値)を高めることです。サブスクは「モノ売り」から「コト売り」への転換だと言われますが、モノを長期間利用してもらい、そのモノが生み出す「価値」に対価を払ってもらうのがサブスクのビジネスモデルです。
安田:
サブスクには「顧客の選択肢を増やす」という側面もあります。これにより企業は、今までリーチできていなかったターゲットにアプローチできます。その結果、自社製品・サービスのシェアを拡大し、収益向上を実現できるのです。
大槻:
サブスクに似たビジネスモデルは複数あります。たとえば、会費制のスポーツジムは、一定料金で高価なトレーニング機器が使いたい放題です。そうしたサービスに会員が価値を感じればジムに通い続けますよね。製品やサービスを継続して利用してもらうことで、ジム側は継続的に利益を上げられる。つまり、会員(顧客)の継続年数がLTV向上のカギになるのです。
安田:
LTVを最大化するためには常に付加価値の高いサービスを提供し、顧客との関係を長く持続させることです。そのためには顧客ニーズを先回りして予測し、サービスから離脱させない工夫が必要です。
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー 公認会計士 安田 裕規
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 大槻 玄徳
――次に東南アジア諸国におけるサブスクビジネスの普及について教えてください。お二人が駐在していた東南アジアのサブスクビジネスはどのような状況でしょうか。
大槻:
東南アジアで最大の市場であるインドネシアではSVOD(Subscription Video on Demand)が著しく成長しています。東南アジア諸国の携帯電話保有率は急伸していますから、サブスクビジネスが浸透する可能性は高いでしょう。たとえば、ミャンマーの携帯電話普及率は100%を超えています。
安田:
近年、急速に経済発展を遂げた東南アジア諸国は、ITが一足飛びに普及しました。日本の戦後復興は道路や生活インフラの再建にはじまり、経済成長や技術発展に伴って自動車や家電製品が世の中に普及しました。その後ITの波が来たのは皆様のご理解の通りかと思います。しかし、東南アジア諸国はそのプロセスを超えるスピードで、現在のデジタル社会に足を踏み入れています。ITに対する投資意欲は旺盛で、バイクよりも先にスマートフォンを購入する人もいるほどです。
――現地が抱えるITの課題は何でしょうか。先進国と比較してインフラ整備面で課題が多いのでは?
安田:
国土全体の通信エリアカバー率は日本よりも低い国があるものの、国民のITに対する感応度は日本よりも高いように思います。特に東南アジア諸国の人口構成比を見ると、圧倒的に若者が多い。ですから新サービスの浸透が速いのです。
大槻:
2015年のミャンマー赴任時は現地の通信状況が悪く、動画配信サービスを見るのにも苦労しました。しかし、2017年には4Gが普及しており、日本と変わらない通信環境になりました。2012年ごろまでは電話での通信障害も多発していた環境だったことが信じられません。そのような状況の中、2016年ごろからモバイルマネーサービスも開始されました。あくまでも肌感覚ですが、東南アジア諸国の方々は、日本人よりも違和感なく電子決済のような新たなサービスを抵抗することなく受け入れています。
安田:
一方、課題として想定されるのは、銀行口座やクレジットカードなどの保有率が先進国と比較して低く、それがサブスク普及の足かせになることです。
文化的な背景を説明すると、東南アジア諸国の支払いはプリペイドが浸透しています。プリペイドは前払い決済ですから、入金した金額がゼロになったら使えません。サブスクの資金回収モデルはサービスの継続利用による定額課金なので、プリペイドとは相性がよくないのです。とはいえ、決済手段さえ整えば、サブスクビジネスが普及する土台はあると思います。
大槻:
東南アジアではヘアワックスなどの日用生活品を小分けして買う文化が浸透しています。その商品が気に入れば継続して購入しますが、気に入らなければ次回は購入しない。こうした「試して気に入れば使う」という文化は、サブスクに合っていると思います。
――東南アジア諸国は「IT化やデジタル化が遅れている」というイメージが持たれがちしたが、「遅れているというイメージが遅れている」のですね。
安田:
そうですね。新しいデジタルサービスを受け入れる人々のマインドは、日本よりも東南アジア諸国のほうがあると思います。
――次に日本でのサブスク導入に向けた課題についてお聞きします。日本は銀行口座やクレジットカードの保有率が高く決済インフラも整っており、スマートフォンの保有率も高い。つまり、サブスクビジネスが普及するインフラは整備されています。サブスク型サービスの国内市場規模は拡大していますが、欧州や米国と比較し、日本におけるサブスクビジネスの普及は緩やかです。その背景には何があるのでしょうか。
大槻:
日本は「前例」の文化です。同業他社に先駆けて新たなビジネスモデルを構築するチャレンジ精神よりも、ミスをしないよう慎重に事を運ぶことが求められますから、普及が緩やかなのは理解できます。逆に成功事例を知れば、企業は一気に同様のビジネスモデルを採用するでしょう。
安田:
「慎重な姿勢」はユーザー側も同様です。たとえば、MVNO(Mobile Virtual Network:仮想移動体通信業者)が提供する格安スマホは、当初想定していたほど普及していません。その背景には「新規事業者のサービスは不安」というマインドがあると思います。特に「昔からの信用」を大切にする年配者は、新サービスの受け入れまでに時間がかかると思います。
大槻:
さらに日本独自の規制や既得権益に関わる課題もあります。米国でタクシー業界に破壊的な影響を及ぼしたライドシェアサービスが日本に進出しようとした際、タクシー業界から猛反発を食らいました。その結果、タクシー業界との共存という日本独自のサービス形態になりました。
――サブスクのビジネスモデルは既存のビジネスモデルを大きく転換する必要がありますが、その際に留意すべきことは何でしょうか。
安田:
1つは思考の転換です。動画・音楽配信サービスなどの普及で、消費者の思考は「モノを所有する」ことから「モノを通して得られる体験価値を重視する」という方向にシフトしています。ですから、「体験価値が収益を産む」という思考を身につけなければなりません。
大槻:
これまで「モノが提供する価値」を得るためには、「モノを購入して所有する」しか手段がありませんでした。しかし現在は「貸したい人」と「借りたい人」をマッチングできるプラットフォームがあります。ライドシェアサービスや旅行者と宿泊先をマッチングするオンラインサービスはその典型例ですよね。
シェアリングエコノミー市場の拡大が示すとおり、高価な時計や限定車のように「所有することに価値がある」モノでなければ、買わなくてよいと考える人は増加しています。そうした人たちの「体験価値が欲しい」というニーズをうまくすくい上げ、継続的に価値を提供することです。そのためには「データ活用」が必須です。
【参考資料】
大平翼・野﨑宇一朗「シェアリングエコノミーの拡大がもたらす経済への影響」ファイナンス(財務省広報誌) 2020年6月号
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202006/202006k.pdf
安田:
LTVを高めるには、そのユーザーがどのような嗜好性を持ち、何に価値を見出しているかを理解する必要があります。動画配信サイトやオンラインストアは過去の視聴・購入履歴データを分析し、「お勧め」を提示してサービス利用の継続を促します。それがユーザーニーズにマッチしていればそのサービスに対するロイヤリティも高くなり、継続的な利用が期待できます。
もう1つの留意点は、モノの利用で収集したデータから新たなサービスを創出し、「+αの付加価値」を提供することです。具体的にはテレマティクス保険が利用できるコネクテッドカーやバイタルデータが取得できるモバイルデバイスなどです。
これらは「モノ」を使うことでさまざまなデータを収集できます。そのデータを分析することで、これまでになかったサービスを創出できるのです。たとえば、これまでは血圧しか測定できなかった機器にヘルスケアアプリと連動する機能が備わり、毎日の健康状態を可視化・判定するサービスが利用できたらどうでしょう。保守的と言われる日本の高齢者も、「血圧を測るだけで生活習慣アドバイスをもらえるなら使ってみよう」となるのではないでしょうか。
――ここまでのお話から、サブスクビジネスを実現するためには克服すべきハードルがいくつもあることが分かりました。PwCグループではサブスクビジネスに取り組むクライアントに対し、どのような支援を実施しているのでしょうか。
大槻:
サブスクに関わるビジネスモデル構築、またそれらを支える仕組みの構想策定からシステムの導入までを一貫して支援できる体制が整っています。
安田:
PwCの強みはグローバルネットワークを擁し、各国のメンバーファームと連携していることです。そのため、サブスクビジネスが先行している米国やシンガポールのPwCが持つ知見を提供できます。今後、東南アジア諸国でサブスクビジネスが普及するのは間違いないでしょう。その際、現地でサブスクサービスの展開を考えている日本企業に対し、現地の商習慣や法規制などに鑑みた支援が可能です。
――安田さんはPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)で会計監査をされています。サブスクビジネスを始めるにあたっては、既存の会計処理を大幅に変更しなければならないと考えますが、そうした部分でも支援が可能でしょうか。
安田:
もちろんです。実際、PwCあらたでも会計視点でサブスクビジネスを支援するサービスを提供しています。これまでの「売り切り」は販売時に売上を計上していましたが、サブスクビジネスの場合はこれとは異なる取引実態となりますので、実態に応じた会計処理が求められます。たとえば、機器販売後のデータ分析による付加価値サービスの課金や「3カ月無料で4カ月目以降から料金が発生する」といったサービスモデルの場合は、どのタイミングでいくら売上を計上するかを慎重に判断しなければなりません。
こうした会計処理は会計基準に沿って決定する必要がありますが、サブスクモデルそのものを定めた会計基準はありませんので、企業ごとに会計方針を定める必要があります。
大槻:
サブスクビジネスを始めるにあたり最初に実施することは、自社の製品ポートフォリオとマーケットにおける他サービスや製品との組み合わせを考慮した上で「何をサブスクサービスとして提供するのか」「それによってユーザーが享受できる付加価値は何か」「それは継続的に提供可能か」を見極めることです。
また、これまで「モノ売り」しかしていなかった企業は、社内の組織変革も必要ですし、それに伴う仕組みを整備する必要もあります。さらに、新たなビジネス領域拡大の手段として、M&Aも選択肢としてあるかと思います。そうした部分でもPwCは支援することが可能です。
【参考URL】
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/anything-as-a-service.html
PwCコンサルティング合同会社とPwCあらた有限責任監査法人でクライアントのサブスクリプションビジネス導入を支援してきた2人に、グローバルと日本の観点から見た、サブスクリプションビジネス導入の課題とその解決アプローチを語ってもらいました。
サブスクリプションビジネスの基本からその将来性、PwCが提供するソリューションの詳細まで、多岐にわたって若手社員がPwCコンサルティングのパートナー福田健にインタビューしました。
第10回は、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 白坂成功氏を迎え、PwCコンサルティングのパートナー渡邊敏康とシニアマネージャー南政樹が、システムズエンジニアリングの発想に基づいた価値創出と課題解決の方法について議論しました。
PwCコンサルティング合同会社は2025年2月26日(水)に、表題のセミナーを対面で開催します。
製造業界出身で、現在はPwCコンサルティングで製造業を対象としたERP導入を手掛けるディレクター佐田桂之介と、シニアマネージャー尾中隆喜が、基幹システムを導入する際のシステムの「標準化」の意義や克服すべき課題について語ります。
テクノロジーが急速に発展し、複雑な環境変化を引き起こしている昨今、リスクに迅速に対応し得るデジタルガバナンス態勢構築の重要性は高まっています。この領域での支援に豊富な経験を有するディレクター本田弦にデジタルガバナンスの本質やPwCコンサルティングの取り組みについて聞きました。