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2022-02-28
VUCA時代において新産業創出や産業変革を実現するためには、テクノロジー、ガバナンス、ビジネスをステークホルダーとともに一体的かつアジャイルにデザインし、実装していくことが求められます。第1回では、新産業創出における「アーキテクチャ視点」の有効性について概況を紹介しました。今回は、自動配送ロボット分野における「アーキテクチャ視点」の重要性・有用性を考察します。
EC市場の拡大に伴い、宅配サービスの受容が高まっています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響からEC市場は一層拡大の傾向を見せており、令和2年度の宅配便取扱個数は、48億3,647万個(うちトラック運送が47億8,494万個、航空等利用運送が5,153万個)に達し、前年度比11.9%増の増加となっています※。
※国土交通省「令和2年度宅配便取扱実績について」
一方で、配送スタッフの不足や労働環境の悪化などの問題も顕在化し、いわゆる「宅配クライシス」が発生しています。人手不足などの問題に対処しながら、今後ますます需要が高まると予測される宅配サービスに対応していくに際し、自動走行ロボットなどの手段によって省力・省人化を推進していくことに期待が寄せられています。
すでに海外では、ラストワンマイル配送の代替補助手段として、自動走行ロボットによる配送が検討・社会実装され始めています。欧州では無人配送ビークルを活用したデリバリーサービスなどが始まっているほか、中国では大手EC事業者が自動走行ロボットによる配送を展開しています。他方日本においては、多様な事業者が自動走行ロボットの社会ニーズに応えるべく、実証を始めているところですが、海外において自動走行ロボットによる事業化・ユースケースが先行すれば、これらの機体や運行に関する水準がスタンダードとなり、世界的に普及することになります。日本として、海外での実装に向けた動向に注視し、取り残されることなく、むしろ先手を打ち、日本発の安全で高品質な自動配送ロボットによる配送サービスが展開できるよう動きを進めていくことが重要です。
国内外で自動走行ロボットによる配送の需要や重要性が高まる中、日本政府も自動走行配送ロボットの実用化に向けた制度整備を重要視した方針を打ち出しています。成長戦略実行計画(令和3年6月18日閣議決定)では、自動配送ロボットの制度整備の必要性に言及されました。
国内での自動配送ロボットの実用化に向けては、まずは低速・小型を対象とした検討が関連ステークホルダーを巻き込み進められています。警察庁による「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」では、低速・小型の配送ロボットを「自動歩道通行車」として位置付ける方向で検討が進められているほか、経済産業省では「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」での官民間の対話、「自動走行ロボットによる配送実現のためのWG」での社会実装に向けた事業者間での情報共有が令和元年から開始され、令和3年度は新たに「サービス向上に資するルールの在り方検討WG」が設けられ、業界基準策定を見据えた場合に重要と考えられる論点の取りまとめなどが進められています。
上述の通り、自動走行ロボットの社会実装によって、物流現場での人手不足の解消、労働集約的な労働作業の省人化・生産性の向上のほか、配送車両やバイクなどの削減による交通環境の改善、より柔軟なオンデマンド配送による消費者の利便性向上、買い物弱者の支援などの効果も見込まれています。他方で、社会実装の加速に向けては互換性・協調領域の担保、既存ガバナンスとの整合、コストの削減・経済合理性の確立、社会受容性の確立などの観点から、関連ステークホルダー間での協働が重要です。
例えばロボットメーカー、ロボットの運用・配送事業者、ITベンダーなどがそれぞれ自社最適のみの視点で開発や運用を進めるよりも、互換性・協調領域を担保したほうがリスク対応やコストの最適化を図れるようになります。また、自動運転車やドローンなどの他の新技術との連携や一体的な検討、物流情報の産業横断的な共有方法や、安全かつ効率的な配送のための交通情報・消費情報・取引情報などの連携・デジタル化の方法、路上での他社ロボットとの協調動作などの検討も重要でしょう。
既存ガバナンスとの整合の点では、企業による安全な機体・運用に係る業界基準の策定、それを担保するための試験・認証制度などの検討、産業界でのこのような自主的な取り組みを踏まえた、現行の道路交通法の改正に向けた取り組みが進められています。ガバナンス整備においては、社会受容形成のための安全・安心の担保と、早期の社会実装や産業振興のバランスが重要となるでしょう。
さらに社会受容性の確立という点では、従来の交通インフラに「自動配送ロボット」という新たなモビリティが加わるため、遭遇した際に互いに驚いて立ち往生する、けがをするといったことが起きないよう、市民に対し交通ルールの再確認や認知度向上の活動を展開し、自動配送ロボットが安全に受け入れられる土壌を整備していくことも求められます。
このように、多様なステークホルダーやその利害が複合的に絡み合う中で、協調領域の特定、ガバナンスとの整合や事業化の促進、社会受容性の担保を図るためには、アーキテクチャ視点での検討が有用です。アーキテクチャ視点により産業の在るべき姿を全体俯瞰し、それに対して各事業者が具備すべき技術や機能、官民で進めるべきガバナンス、他産業も含めた役割を可視化していくことで、ユースケースの実現や事業者の強みを活かした製品・サービスの提供が期待できると考えられます。
前述の互換性や協調領域に関する課題について、実装に向けた在るべき姿から共通に定めるべき事項や共通のプラットフォームにて管理すべき事項を決めていくことで、中長期的に安定した産業の基盤を構築でき、結果として自社の短期的な最適解に囚われた施策よりもビジネスの市場自体を大きくすることができると考えられます。
また、官民が共同してルールの在り方を設計していくことで、クリティカルな部分での実効性担保とともに、業界基準などのソフトローによって必要な安全性を担保しつつも、技術革新やサービス展開の段階に合わせた柔軟な対応を行っていくような制度設計も行いやすくなります。
加えて、どのようなビジネスソリューションを提供していくのか、産業振興や採算性などの観点から官民が複合的視点から検討していくことで、企業によるマネタイズと、買い物難民などの地域視点での社会課題の解決を両立していく突破口を開くことができます。
最後に、自動走行ロボットが社会から広く受け入れられ、我々の日々の生活の中で共存していくためには、企業のみが安全性担保のための技術革新やコスト削減に勤しむだけでは限界があります。アーキテクチャという産業の「見取り図」から俯瞰し、自治体や関連機関と連携した住民への啓発活動や、ロボットと人が安全に通行するためのインフラ整備も同時に進めていくことが大切です。
昨今自動走行ロボットの本格的な社会実装に向けて、事業者や政府が大きく動き出しています。産業アーキテクチャの視点を持つことで、事業者は単純に公道を走ることができるロボットを開発・運用するだけでなく、既存の官民協議会・検討会などの場を活用しながら、自社の技術の強みを活用できるルール作りや安全性の考え方を広く訴求していく機会を創出することができるでしょう。また、行政においても、関係する経済産業省、警察庁、国土交通省などが業界の全体最適を見据え、それぞれの所管の垣根を超えた連携により社会実装の実現に貢献していくことが期待されます。
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