{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
世界で最初に誕生した会社といわれるものの1つに、日本の建設会社があります。これは寺社仏閣の建築を朝廷から請け負った宮大工を束ねる、現在で言うゼネコン(General Contractor)的機能を持ったものであったと考えられています。
それから約1,500年の間、アジアや欧米から新技術を取り入れつつ、建設業はほぼその業態を変えずに今日まで続いてきました。図1で示したのは、建築プロジェクトにおける請負構造です。
建築生産は大きく、「企画」「設計」「施工」の3段階で実施されます。ハードとしての建築物を生産するのはこのうちの「施工」であり、重層的な請負構造の下で施工プロセスは遂行されています。
まず、発注者から建築工事を請け負うのが総合建設事業者、いわゆるゼネコンです。ゼネコンが施工において担う範囲は幅広く、材料調達や予算管理、日々の工事状況の調整や記録、建築現場の環境整備など、工事全体の計画や管理を行っています。
ゼネコンから実際の各種工事を請け負うのが専門工事業者、通称サブコン(Sub Contractor)であり、鉄筋工事や左官工事、設備工事など、建築工事を構成するさまざまな工種ごとに存在しています。サブコンの下で実際に工事を行うのが技能労働者(職人)であり、直接サブコンに所属している場合もあれば、二次請け、三次請けのような形で重層的な下請け構造が構成されることもあります。いわゆる「一人親方」のような個人事業主もここには含まれています。
このような請負構造のもとで一品モノたるビルやマンションなどの建築物を作り上げるのが、建築業に特有の業態と言えます。
請負という特殊な業態である建設業においても近年、少子高齢化やワーク・ライフ・バランスの改善に伴い、働き手が不足するという課題に直面しています。
日本建設業連合会(以下、日建連)が2015年に発行したレポート「再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン―」によると、2014年時点で343万人だった建設技能者(建設工事の直接的な作業を行う、技能を有する労働者)の数は、2025年までに216万人にまで減少すると予測されています。
さらに2024年4月からの時間外労働上限規制への適応も必須となることから、建設現場においては1人当たりの労働生産性を向上させる、生産性向上の取り組みが必要となっています。しかしながら、これまで述べたような業態構造が主な原因となって、建設生産の上流から下流まで一貫した取り組みが進んでいるとは言い難い状況です。
これらの課題は近年深刻化しているものですが、日本の建設業における生産性向上に向けた取り組み自体は、高度経済成長期以降の大きな建設需要に対応する必要性から、早くから取り組まれてきました。このうち、生産実行を担う施工作業の自動化については、Single Task Construction Robots (STRC) として1980年代初頭のロボットブームとともに企画・開発が始まりました。このSTRCは作業単体としては一定の生産性効果を実現したものの、コスト高や人共存性、STRCを導入する現場環境の未整備が主な原因となり、結果として普及には至りませんでした。
そこから時代を経て2016年からは、日本政府は調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスでICTなどを活用して建設現場の生産性向上を図る 「i-Construction」の政策を開始しました。i-Constructionは国や自治体の土木公共事業を中心にロボティクストランスフォーメーション(RX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を着々と進めてきたところですが、民生利用がそのほとんどを占める建築分野においては、政策としての予算化や後押しがされづらく、特にロボットなどの自動化技術の導入はあまり進んでいません。
こういった状況のなか、建築分野においてRXを推進するために、日建連は「建築ロボット専門部会」を2020年に立ち上げ、「ロボット活用のための建設エコシステム組成」「ロボットが働きやすい環境の整備」「人とロボットの協調の在り方整理」について検討を進めています。また業界の枠を超えた活動としては、2020年に設立された任意団体「建設RXコンソーシアム」があります。建設RXコンソーシアムでは、技術開発の重複解消やロボットの相互利用、価格低減・普及促進を目的に、10の分科会活動を展開しており、これまで建設事業者、非建設事業者合わせて150社以上が参加しています。
上述のように、建設業を取り巻く近年の状況に対応して、政府や業界団体による建設DX/RXの取り組みが進んでいます。しかしながら、その社会実装は特に建築分野においては順調に進んでいるとは言い難い状況です。それは建築生産が人中心の、重層的かつ、一品モノ製造を毎回条件が異なる現場環境で施工するという特殊なプロセスであるためです。下図2に示したのは建設業の標準的なプロセスです。
近年登場してきたさまざまなITツールやDXのほとんどは人間が施工を行う前、または後の段階をサポートするものでした。一方で、建設技能者の減少が最も影響を及ぼすのは施工プロセスです。つまり、建設技能者に代わって施工を行う自動化技術(RX)と、それらが建築現場環境で活躍できるためのDXを一体的に進めていくことが課題となっています。
そこで、施工段階における建設DX/RXを推進していくためのものとして、アーキテクチャ視点が重要と考えられています。
本連載の第1回では、多様なステークホルダーや利害が絡み合う環境下において新産業を創出するにあたっては、アーキテクチャ視点を取り入れることで、協調領域の特定、個社では実現困難な規模の市場創出、社会受容性や経済合理性の実現が可能になることをご紹介しました。建設DX/RX領域においても、アーキテクチャの中で望ましい全体像を俯瞰することで、技術・制度・運用における協調/競争領域の特定、エコシステムの形成、エコシステム内での役割分担の明確化が可能になります。
建設DX/RXにアーキテクチャ視点を導入する際の一例として、3次元アーキテクチャモデルであるRAMI4.0の援用可能性があります。RAMI4.0はIndustry 4.0の全ての参加者・関係者が共通の見方、共通の理解を深め、製造業の標準化に向けて邁進するためのフレームワークです。3次元モデルであるRAMI4.0は、「Layers」(アーキテクチャレイヤー:バリューチェーン全体の論理的なレイヤー構成)、「Life cycle & Value stream」(ライフサイクル・価値の流れ:機械・製品などアセットのライフサイクル)、「Hierarchy level」(階層レベル:生産システム全体の物理的な構成)の3軸から構成され、Industry4.0ではRAMI4.0をスマートファクトリー標準化のための参照モデルと位置付けました。DX/RXを通じた建設業の一種の標準化に、この3次元構造を活用することが可能です。
これを仮にReference Architecture Model for Construction(RAMC) DX/RXとした場合、3次元軸として設定すべき軸がどのようなものになるのかを考察してみましょう(図3)。まず、バリューチェーン全体の論理的なレイヤー構成を定める垂直軸として、「リアル―デジタル―リアル」とデジタルの接続による価値創造を設定します。リアルにおいて物理的な手段を用いて実行された処理が、デジタル化された情報と接続されながら、新たな提供機能やビジネスモデル創出していくという概念的なDX/RX化の階層です。ライフサイクルに該当する軸は建築生産のバリューチェーン軸を設定します。このRAMCは建築生産に特化したモデルを想定しているため、建築バリューチェーン全体から資材製造と施工を抽出して軸を設定します。最後に、階層レベルとして、建築生産システムのワークレベル構成を、建築生産のマネジメント単位としてミクロ(個別の建築現場)からマクロ(企業、産業/社会)として設定しています。
このように、建築生産におけるロボットの社会実装においては、産官学の関係者がアーキテクチャという「全体像」から俯瞰しながら進めることが重要です。企業個社の技術開発や実装努力に限界があることについては冒頭で述べたとおりですが、実際にアーキテクチャ視点を踏まえた建設DX/RXの広がりも一部で広まりつつあることは、大きな前進であると期待されます。一方で、建築物が完成した後の運用段階における関係者を巻き込んだアーキテクチャについての議論はいまだ始まっていません。建築物が生む付加価値の多くは建築物の運用(使用)段階であることを考慮すれば、アーキテクチャ視点を建築の企画や運用にも拡大し、テクノロジーによる建築の「全体最適」を目指すことが期待されます。
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。