「ベンチャーとの共創エコシステム」の形成に向けて―出資判断時の落とし穴と対処法【前編】

2021-07-29

本稿のスコープ

本稿の スコープ

はじめに

ベンチャーとの共創は、出資の有無で関係性が大きく異なってきます。単純な商取引関係に留めるケースもあれば、拘束力の弱い業務提携関係、ベンチャーキャピタルを経由した間接的な出資関係、事業法人がベンチャーに直接出資する関係などさまざまな形態がある中で、最もリスク・リターンが大きい選択肢は当然ながらベンチャーへの直接出資となります。

図1 ベンチャーとの共創方針
図2 ベンチャーへの出資方針(直接出資 vs 間接出資)

直接投資に際してまず直面するのが、「結局、いくら出資することが適切なのか」という論点です。この論点を分解すると「A. そもそも対象ベンチャーの事業価値はいくらなのか」「B. 目的達成に向け、対象ベンチャーに対しどの程度の出資が妥当なのか」の2つに分けられます。いくつかの事業法人ではあらかじめベンチャー出資の予算を設け、その枠内で少額出資を行っているケースが見られますが、その出資額が対象ベンチャーの事業価値や目的と照らし合わせて本当に妥当であるかは、たびたび議論に挙がっています。

ベンチャーとの共創エコシステム形成に向けた出資判断時の落とし穴と対処法について、前後編に分けて解説します。前編ではビジネス・デューデリジェンス特有の難しさを取り上げます。

A. デューデリジェンス(特にビジネス・デューデリジェンス)の難しさ


事業価値算出やビジネス・デューデリジェンスの方法論については、これまでのさまざまな試みが蓄積され、典型的な進め方が整備されています。

図3 ビジネス・デューデリジェンスの標準的進め方

他方で、その対象をベンチャーとした場合、対象会社の商材が先進的すぎるあまり、需要に関する定量的および定性的な裏付けが集まらず、業績見立てや事業価値算定が困難なケースがあります。以下はその代表例です。

信頼できる市場データが乏しい

既存市場の規制や価値観が強固で、まだ明確な市場需要が存在しない商材・サービスについて、成長を試算する上で根拠となり得る信頼性の高い市場予測データが乏しいケースが散見されます。デジタルなど一部領域においては、先進的な商材・サービスにおいても将来動向を予測したレポートが発行されているケースがみられるものの、メッシュの粗さやデータソースの拙さなどがみられ、事業価値算出の明確な根拠とまではしづらいことが実情です。

有識者インタビューにおける見解が否定的

明確な市場需要が存在しない商材・サービスについて、客観的な市場データを得られないことから、有識者インタビューの積み重ねを通じ、見立てをつくる方法があります。しかしながら、こうした商材・サービスについては有識者が否定的な見解をとり、定性情報による需要裏付けをとることが困難なケースがあります。頑強な規制や長年の商慣習に守られた市場であるほど、当該市場の論理への精通が有識者としての信頼性に繋がるため、信頼性の高い有識者であればあるほど、当該商材・サービスに対する見解はネガティブになりやすいことを考慮すべきです。

他社における挫折・頓挫経験

明確な市場需要が存在しない先鋭的な商材・サービスであっても、「完全に新しいアイデア」であることはレアケースであり、大手・ベンチャー問わず他社が以前に何かしらの検討や実証実験を進めた経緯があるというケースが多いです。しかしながら、過去の経緯は概して、需要見通しの不透明さやタイミングの悪さなどから頓挫することが多く、経験者には往々にして否定的な見解が醸成されているケースが見られます。

フラットなビジネス・デューデリジェンスのアプローチを採用した場合、市場・競合調査を通じて対象ベンチャーの商材・サービスに対して極めて厳しい見立てが集まり、想定売上がゼロに近い形となることが多々あります。しかしながら、新たな市場環境(規制・価値観)に基づいて初めて売上が立つようなベンチャーに対し、既存の枠組みの中で評価することはフェアではありません。仮に新たな市場環境に到達した場合を想定し、その際に対象ベンチャーはどの程度の売上・利益を創出するのか、そもそも当該市場環境に到達する可能性はどの程度あるのか、といったことを見極め、論理的に事業価値を算出することが求められます。

まとめると、以下のような動きが必要となります。

① 対象ベンチャーが狙う新市場が勃興する為の成功要件/環境を整理する

図4 事業展開に向けた成功要件/環境

② 当要件実現後に想定される事業計画シナリオを整備する(通常ベース・アップサイド・ダウンサイドの3シナリオ準備)

図5 事業計画シナリオ4つのケース

③ 売上と連動する成長ドライバーおよび、各成長ドライバーと連動する成功要件・環境前提を整備する

※ベンチャーの場合、売上(数量×単価)に直接紐づく成功要件・環境を整理することが難しい局面が多々ある為、売上と連動する成長ドライバー(例えばアプリケーションの場合はユーザー数・ダウンロード数・滞在時間など)を見極めることがポイントとなる

④ 対象ベンチャーの事業計画作成/修正を行った上で、事業別P/Lモデルなどを整備する

⑤ 成功要件の実現可能性診断を行い、定量的に算出した実現可能性を以て事業価値を割引する

図6 事業価値算出方針

⑥ 同時に事業リスクを整理し、抑止に向けたアクションを対象ベンチャーへの依頼事項として併せて整理する

図7 主な事業リスクおよび対象会社への依頼事項

執筆者

岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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