IFRSを開示で読み解く(第44回) IFRS第16号の適用から見る日本の新リース基準の財務的な影響

2024-05-31

2024年5月31日
PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部

IASBは、「借手のオペレーティング・リース取引が貸借対照表に計上されておらず、企業のレバレッジ(負債比率)や事業に用いる資産に関する情報が正しく報告されていない」という問題意識のもと、2016年にIFRS第16号「リース」(以下、IFRS16)を公表しました。

ASBJは、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取り組みの一環として、2023年5月2日付で「企業会計基準公開草案第73号『リースに関する会計基準(案)』等」を公表しました(以下、新リース会計基準案)。新リース会計基準案は、現行のリースに関する会計基準(企業会計基準第13号および企業会計基準適用指針第16号。以下、現行日本基準)を大きく変更し、短期リースと少額リースの例外を除き、借手のオペレーティング・リースについてもファイナンス・リースと同様にオンバランス処理することを提案しています(新リース会計基準案の解説はこちらをご参照ください)。

本稿は現行日本基準を適用している企業が新リース会計基準案を適用した際の財務的な影響を推し量る上で参考になると考えられます。

なお、本文中の基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。

IFRS16適用時の影響度調査

(1)調査対象企業

IAS第17号「リース」(以下、IAS17)および現行日本基準では、借手のオペレーティング・リースについて支払リース料を費用として認識するため、IAS17および現行日本基準からIFRS16への移行による財務的な影響は、新リース会計基準案を適用した際の財務的な影響を想定する際に参考になると考えられます。そこで、過去にIAS17および現行日本基準からIFRS16へ移行した際の財務的な影響を把握するため、2023年9月末までにIFRS連結財務諸表を公表していた企業のうち、以下のIFRS適用企業(計198社)について、以下の①または②の移行が行われた年度の有価証券報告書を調査しました(図表1)。

①IAS17からIFRS16への移行
②現行日本基準からIFRS16への移行(IFRS16適用開始以降におけるIFRS初度適用)

図表1 調査対象企業

(2)調査対象項目

IAS17および現行日本基準からIFRS16への移行に伴う借手のオペレーティング・リースのオンバランス処理により、財務諸表の次の科目に影響が生じます(図表2)。

  • 使用権資産
  • リース負債
  • 使用権資産の償却費
  • 利息費用
  • 支払リース料

上記のうち、リース負債は多くの企業で情報が提供されており、企業間で比較が可能であることから、本稿ではリース負債を調査対象としました。

図表2 借手のオペレーティングリースのオンバランス処理により影響を受ける科目

(3)調査結果(リース負債への影響)

調査対象企業のIFRS16適用前の総資産額に対するリース負債増加額の割合(以下、IFRS16適用による総資産増加割合)を分析した結果、調査対象企業全体の増加割合の単純平均は6.4%、中央値は3.0%でした。また、IFRS16適用による総資産増加割合を業種別*1に分析すると、以下の通りでした(図表3-1、3-2)。
その結果、特にサービス業、商業については、IFRS16適用による影響が大きい企業が見られました。

図表3-1 【業種別】IFRS16適用による総資産増加割合
図表3-2 【業種別】IFRS16適用による総資産増加割合の分布

続いて、各社のIFRS16適用前の総資産額を横軸、リース負債増加額を縦軸に置いて業種別の分布状況を見ていきます(図表4-1、4-2)。各業種の分布状況を、全体の単純平均値6.4%、中央値3.0%、統計上の外れ値*2を除いた平均値3.7%を用いて比較したところ、製造業では全体の単純平均6.4%および外れ値を除いた平均3.7%の線よりも下に多くあります(図表4-1)。一方、運輸・情報通信業やサービス業、商業では全体の単純平均6.4%の線よりも上に多くあることが見て取れます(図表4-2)。

図表4-1 IFRS16適用前の総資産残高に対するリース負債増加額
図表4-2 IFRS16適用前の総資産残高に対するリース負債増加額

最後に

本稿では過去のIFRS16適用時の影響を調査しました。調査結果を俯瞰する限りでは、製造業においてはIFRS16適用の影響が比較的小さく、それに対してサービス業、商業においては比較的影響が大きかったことが確認できました。ただし、IFRS16適用による総資産の増加割合は各社ごとにばらつきが大きく、オペレーティング・リースのオンバランスによる実際の影響は各社の状況によりさまざまである点にご留意ください。

新リース会計基準案が最終化され公表された際には、今回調査したIFRS16適用時の影響が参考になると考えられます。新リース会計基準案は、①財務諸表の国際的な比較可能性の向上、②すべてのリースのオンバランス化に対する財務諸表利用者からのニーズ、③重要なオペレーティング・リースについて財務諸表上認識しないことにより日本の市場および企業に対する信頼性が損なわれるリスクの3点を踏まえ、検討が続いているものです。本稿執筆時点で公開草案の最終化に向けた審議は続いており、引き続き状況の注視が求められます。

*1 業種分類については日本取引所グループの業種別分類表の大分類を利用しています。

*2 外れ値については四分位数を利用する方法により判定しており、「第1四分位数 - 1.5 × 四分位範囲」以下の値、および、「第3四分位数 + 1.5 × 四分位範囲」以上の値を外れ値として扱っています。

執筆者

飛田 朋子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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川手 朝美

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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前上 薫佑季

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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髙倉 太一

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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王 怡然

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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