2024年度予算案(英国)

2024-06-17

2024年3月6日、財務相は、以下を含む予算案を公表した(注)。事業関係税として、以下が含まれる。

(注)2024年3月14日、2024年財政(第2号)法案が公表された。また、同日、政府は、第2の柱ルールに濫用防止規定(OECD・第2の柱GloBE執行ガイダンス(第3弾)(2023年12月18日公表)に含まれる、「移行期間CbCR(国別報告)セーフハーバーに係る裁定取引防止ルール」(本誌2024年2月号参照))導入の意向を表明した(2024年3月14日から適用、今後の財政法案で立法化予定)。

資本控除(Capital allowances) - 2023年の秋季声明を受け、適格プラントや機械に係る100%の資本控除制度が恒久化された。政府は現在、財政状況が許す限り、100%控除をリース用資産にも拡大するとしており、近く法案を公表する予定である。

クリエイティブ産業 - 政府は、英国のクリエイティブ産業に対して10億ポンド超の新たな税制優遇措置を公表した。これには、今後10年間における、英国内の対象映画スタジオに係るビジネスレートの40%軽減、英国インディペンデント映画税額控除の導入、音響映像支出控除に係る税額控除率の5%引上げ・視覚効果費用に係る80%上限の撤廃などが含まれる。さらに、劇場、オーケストラ、博物館、ギャラリーに対する税額控除を恒久的に延長する。

Reserved Investor Fund - 政府は、機関投資家向けの税効率の高い投資ファンド・ビークルであるReserved Investor Fundを導入し、その範囲と設計に関する2023年コンサルテーションへの回答の概要を公表した(政府は、2024年春の財政法案でこの法制化を開始予定)。

投資区域プログラムの拡大 – 現在の投資区域に関する詳細が発表された。スコットランドとウェールズでも投資区域が5年から10年に延長される予定であり、詳細は今年後半に公表される。北アイルランド投資区域の詳細も近く公表される。

エネルギー関連超過利潤税 - 政府は、エネルギー関連超過利潤税を2029年3月まで1年間延長する。政府はまた、2029年3月までに石油・ガス価格がエネルギー安全保障投資メカニズムによって設定された水準を下回った場合、同税を終了させることを確実にするための法律を施行する。

研究開発税制 - HMRC(内国歳入庁)は、研究開発税制の執行を支援するため、専門家諮問パネルを設置する。同パネルは、ハイテクやライフサイエンスなどの主要セクターで行われている最先端の研究開発に関する情報を提供し、HMRCと協力して関連ガイダンスを見直し、ガイダンスが常に最新で、申請者に明確なものとなるようにする。

個人関係税としては、以下が含まれる。

国民保険料(NIC)率 - 2024年4月6日より、第1種従業員NICの主要料率が10%から8%に2ポイント引き下げられる(2023年秋季声明で公表された2024年1月6日からの2ポイント引下げに追加)。一方、自営業者が支払う第4種NICsの主要料率は、2024年4月6日より9%から6%へ3ポイント引き下げられる(2023年秋季声明で公表された8%への引き下げに代わるもの)。また、政府は、第2種国民保険の完全廃止という公約を実現するため、今年後半に協議を開始する予定である。これは、2023年秋季声明での公表に続くもので、2024年4月以降、自営業者は第2種国保を納める必要はなくなる(任意継続も可能)。

Non-domiciled individuals - 政府は、英国に住所地を持たない個人(non-UK domiciled individuals)に対する現行の税制を廃止し、2025年4月6日より、居住地ベース(residence-based)の税制に置き換える。新制度では、4年以上税務上の居住者である個人は、その住所地にかかわらず、国外所得・キャピタルゲインに対して英国で課税される(新規入国者(直前10年間、税務上の非居住者であった場合に限る)に対する4年間の救済措置がある)。なお、移行措置として、送金時課税適用の現行非住所者について、資本資産の価値を2019年4月5日に再評価するオプションおよび初年度(2025-26年)の国外所得課税50%免除がある。政府はまた、2025年4月6日前に送金時課税の適用を受けた個人を対象に、過去に発生した国外所得・キャピタルゲインを12%の税率で英国に持ち込むための2年間の一時的な本国送金制度を導入する。適格従業員は、国外勤務所得について、税務上の居住者となって最初の3年間は、一定の救済(Overseas Workday Relief)も申請できる。政府はまた、相続税を居住地ベースの制度に移行する意向である(追って協議予定。2025年4月6日前の改正はない)。

以上のほか、住宅用不動産に係るキャピタルゲイン税率の引き下げ等や、家具付き賃貸住宅(furnished holiday lettings)税制の廃止(2025年4月6日から)などもある。年金関連では、確定拠出年金基金に係る英国株式を含む資産配分の内訳公開の前倒し(金融監督機構(FCA)が追って公開協議の予定)などがある(イングランドとウェールズの地方政府年金基金についても、早ければ2024年4月に同等の要件を導入予定)。新たな英国ISA(英国資産に特化、5千ポンドまで非課税)と英国貯蓄債券(2024年4月から、3年固定金利)も公表された。個人所得税に係る租税回避防止(海外資産移転(ToAA))規定関連では、本規定回避のために法人を利用できないように法制化の予定である(2024年4月6日以降、国外にいる個人に発生する所得から適用)。HMRCのデジタルサービス投資関連では、所得税の自己申告納税者の分割納税支援のため、デジタルサービスを改善・簡素化する(2025年9月から実施予定)。相続税関連では、2024年4月1日以降、遺産(estates)の代表管理者(personal representatives)は、HMRCからの一定の選任(grant on credit)を申請する前に、相続税支払いに係る商業融資を求めている必要がなくなる。間接税その他の措置もあり、付加価値税(VAT)の登録閾値の90,000ポンドへの引上げ、登録解除閾値の88,000ポンドへの引上げ(2024年4月1日から)などが含まれる。

出典:PwC UK
「月刊 国際税務」2024年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修