何から始める? 統合報告の作り方・使い方 第1回 なぜいま統合報告なのか

2022-10-17

※本稿は、「旬刊経理情報」2022年6月1日号(No.1645)に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元である株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
※一部の図表に関しては「旬刊経理情報」に掲載したものをPwCあらた有限責任監査法人にて編集しています。

この記事のエッセンス

  • 企業の存在意義や経営戦略をステークホルダーに対して積極的に発信しなければならない。そのために、企業経営者を中心に役職員全員が、統合報告の枠組みを積極的に活用する必要がある。
  • 統合報告を展開するにあたっては、国際的なフレームワークを意識しつつも、企業独自の判断を加えて、短期・中期・長期の時間軸に合わせて、丁寧に発信する。
  • 発信した統合報告を携えてステークホルダーと積極的に対話を行い、常に、統合報告の内容を改善する心構えを持つ必要がある。

はじめに ~ ステークホルダーへの情報発信に統合報告の活用を ~

高まる地政学的リスク、世界的な金利や物価の上昇、長引く新型コロナウイルス感染症の影響などが、企業ビジネスの環境を大きく変化させている。このような環境下で、上場企業は自社の経営戦略や存在意義を明確に定め、投資家・債権者・取引先・従業員・顧客・社会(NPO・NGO)などさまざまな関係者(以下、「ステークホルダー」という)に対し、適時・適切に発信していく姿勢がこれまで以上に求められている。

ステークホルダーへの情報発信には、統合報告を活用することが有効である。ここでいう統合報告とは、一般に理解されている年次統合報告書の作成を軸としつつも、これに限るものではない。環境変化や意思決定の変化に応じて展開される適時・適切な情報開示を含むとともに、開示情報をベースにステークホルダーと対話を行い、常に、企業報告を改善させる行為全体として捉えている。

そこで、今号から10回程度にわたり、「何から始める? 統合報告の作り方・使い方」と題し、PwCあらた有限責任監査法人で企業の統合報告を含めた情報開示を研究・支援している専門家より解説をさせていただきたいと思う。第1回は、統合報告に関する意義や最新動向を考察し統合報告の重要性を再認識することで、今後の各論考にて紹介される具体的な対応に向かうためのイントロダクションとしたい。

なお、本稿において意見に関する部分は私見であり、筆者の属する組織を代表するものではないことをあらかじめ申し添える。

統合報告に取り組もう

最初に、統合報告への取組みにあたって意識しておくことが有用と考える論点を、いくつか取り上げる。

ポイント① 統合報告は財務報告と非財務報告を統合するツールである!

統合報告の普及度合いをチェックする際に、よく、年次統合報告書の作成企業数に関する調査が注目される。こうした調査結果はさまざまな団体から発信されており、作成企業数自体は、発信団体によって相違があるものの、どの調査をみても、作成企業数は年々増加している。統合報告は、企業の任意開示媒体としての重要な位置づけを担いつつある。

ここで統合報告とは、「財務報告」と「非財務報告」とが統合された企業報告全般の形を意味する。

上場企業の開示情報は、これまで、次の二本柱で形成されてきた。

① 取引所規則に基づく決算短信や、会社法に基づく事業報告等、金融商品取引法に基づく有価証券報告書などの会計基準等に準拠した財務諸表を中心とした、「財務報告」
② 環境省が策定した環境報告ガイドラインなどに準拠する形で、企業が環境や社会等に対して与えるさまざまな影響や取組みを整理した、「非財務報告」

報告の対象者について、「財務報告」では、主として投資家と位置づける一方、「非財務報告」では、投資家を含めた幅広いステークホルダーと位置づける整理のしかたもされてきた。

21世紀に入ってから、投資家が投資企業の財務パフォーマンスに加え、社会的責任(CSR)に関しても投資視点に加味する社会的責任投資(SRI)が生起し、2010年代以降には、「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」と呼ばれるようになった。

こうした投資家の潮流に呼応する形で、「財務報告」と「非財務報告」との双方を統合した開示媒体が生まれた。これが統合報告である。

統合報告の内容は、時の経過とともに変遷しているが、おおむね次の3段階で整理することが可能である。

ⅰ 当初、年次の「財務報告」と「非財務報告」とを単に結合させただけで統合報告書と称した作成事例が散見された。両報告の連携は必ずしも密ではない。
ⅱ その後、統合報告書に、企業の存在意義、理念、経営戦略などを中核に据える志向が定着し、その参照情報として、「財務報告」と「非財務報告」が並列的に叙述される事例へと発展した。
ⅲ 最近では、「財務報告」と「非財務報告」のエッセンスのみが統合報告書に記載され、詳細な情報は、別冊あるいはウェブサイト情報で開示される形が出現した。

ポイント② 国際統合報告フレームワークを参照しよう!

年次で統合報告書を作成する企業の多くは、国際統合報告評議会(IIRC)が公表する国際統合報告フレームワーク1に基づいたり、これに言及したりしている。それゆえ読者には、ぜひ、58枚(英語原文の場合)のスライドで構成される当該フレームワークを参照していただきたい。
フレームワークは、ⅰ冒頭の8枚にて表示・序文・目次・要旨、ⅱ次の15枚にてイントロダクション、ⅲ次の29枚にて統合報告書、ⅳ最後に用語一覧・付属資料で構成されている。ⅱのイントロダクションではフレームワークの利用・基礎概念、ⅲの統合報告書では、指導原則・内容要素・一般報告ガイダンスについて記載されている。

当該フレームワークの象徴的な内容は次のようなものと考える。

①7つの指導原則と8つの内容要素
統合報告書の作成・表示のための指導原則として、「戦略的焦点と将来志向」、「情報の結合性」、「ステークホルダーとの関係性」、「重要性」、「簡潔性」、「信頼性と完全性」、「首尾一貫性と比較可能性」の7つが掲げられている。
統合報告書の内容要素としては、「組織概要と外部環境」、「ガバナンス」、「ビジネスモデル」、「リスクと機会」、「戦略と資源配分」、「実績」、「見通し」、「作成と表示の基礎」の8つが掲げられている。

②6つの資本を用いたモデル
企業は、外部から6つの資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関連資本、自然資本)をインプットし、事業活動を通じてアウトプットを算出し、その事業活動とアウトプットが外部に対してアウトカムをもたらすことで、再度インプットすべき6つの資本に戻る、というモデルが紹介されている。
モデルの図のタイトルになっている「価値が創造、保全または毀損されるプロセス」は、企業内部において、存在意義・ビジョン・使命を踏まえつつ、一定のガバナンス体制のもと、リスクと機会が特定され、リスクの軽減・管理や機会の最大化のための戦略が示され、資源配分を通じて実行されることを意味する。実績のモニターには意思決定を行うための測定基準やモニタリングシステムが必要であり、見通しを有して改善を加える、と説明されている。

ポイント③ 価値協創ガイダンスを参照しよう!

統合報告への取組みにあたって、経済産業省が2017年5月に公表した「価値協創ガイダンス(価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス)」2を参照することも有用と考える。本ガイダンスでは、企業経営者が投資家に伝えるべき情報(経営理念、ビジネスモデル、戦略、ガバナンス等)を体系的・統合的に整理し、企業の情報開示や投資家との対話を、質を高めるためのツールと位置づけているところが特徴である。

本ガイダンスの全体像は、価値観、ビジネスモデル、持続可能性・成長性、戦略、成果と重要な成果指標(KPI)、ガバナンスの6項目の連携とされている(図表1)。そしてこれら6項目につき、それぞれ第1章から第6章までに分ける形で論点を整理している。

2021年10月、経済産業省内に設置されている「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」は、本ガイダンスの改訂に向けたワーキンググループを立ち上げた。そこでは、これまでの戦略を、長期戦略と実行戦略とに分け、さらに、長期戦略を、長期ビジョン・ビジネスモデル・リスクと機会に整理し直すとともに、実質的な対話・エンゲージメントを付加することが検討されている。今後、改訂版である「価値協創ガイダンス2.0」が公表される形で、当該6項目の進化形が提示されることが想定される3

ポイント④ 同業他社の統合報告書を参照しよう!

統合報告書をより具体的に理解するためには、自社と事業領域やビジネスモデルが類似すると考える他社の統合報告書を読んでみることが有効であろう。さまざまな団体が優れた統合報告書として評価する企業のものを読んでみることもよいだろう4

その際、筆者は、2つの立場で統合報告書を読み込むことが大切だと考えている。

① 外部のステークホルダーの立場

最初に、外部のステークホルダーの立場で、先入観を持たずに統合報告書を概観し、どのような部分が印象に残るかを意識して読んでみることである。

統合報告書の重要な要素は、「企業がどのように伝えたか」もさることながら、「読者にどのように伝わったか」である。文章の簡潔性、データの総覧性、図示の参照性、写真やイラストの効果などに留意して、当該企業の価値把握にあたり、どのような部分が参考になるかを意識すると、自社の統合報告書作成のヒントを得る好機になろう。

② 統合報告書作成者の立場

次に、統合報告書作成者の立場で、取り上げているデータの内容、準拠する基準やガイダンスなど、詳細情報に留意しつつ、丁寧に読んでみることである。

自社のケースに当てはめて、たとえば、データがすでに収集されているかの確認、新たに収集する場合の時間・コスト・方法の模索、意識を持つと良いであろう。

統合報告書に掲載する素材データは、通年で把握・検討が可能な部分と、財務報告数値の確定を踏まえて把握・検討する部分とに分かれる。統合報告書の作成作業が年間を通して展開させることを前提に、素材データ収集のスケジューリング、統合報告書作成事務局による経営陣や関連部署との連携体制作り、英語等への翻訳手続き、などを整備することが肝要と考える。

ポイント⑤ 意識する時間軸・制度改正対応とのバランスを考慮しよう!

今までみてきたように、統合報告書の作成は、大きなフレームワークを参照しつつ、各企業が創意工夫をこらして展開されるべきものである。その際に留意すべき切り口として、意識する時間軸が挙げられる。統合報告書の作成者たる企業、統合報告書の読み手たるステークホルダー双方において、意識する時間軸の優先順位は多様であると思われる。

一例として図表2をご覧いただきたい。ここでは、①企業役職員が意識する時間軸、②主たるステークホルダーである投資家が意識する時間軸、③主たるビジネスのライフサイクル、などに分けて、比較的高い優先順位を有すると思われる時間軸をモデル化してみた。異なる時間軸を優先順位とする関係者との意見調整を踏まえたうえで、1つの統合報告書を作成していかなければならない点に留意が必要である。

図表2:各関係者が主に意識する時間軸
企業の役職員が
主に意識する時間軸
月次新設・四半期報告(経理・財務部門)
年次報告(経理・財務部門、人事部門)
中期経営計画(CEO、社外役員、経営企画・IR部門・サステナビリティ部門)
長期ビジョン(経営企画部門、次世代リーダー、等)
投資家が
主に意識する時間軸
即日(デイ・トレーダー)
3か月(ヘッジファンド)
3年(ロング・オンリー)
10年ターム(超長期)
30年以上(生命保険、GPIF)
市場が主に意識する
ビジネスモデルの時間軸
比較的短い:テクノロジー、IT、エンターテイメント 等
比較的長い:住宅、自動車、素材 等

(出所)PwCあらた有限責任監査法人

また、統合報告書の作成にあたって、日本の上場企業として対応しなければならない制度改正とのバランスも意識する必要がある。制度改正への対応が、統合報告書作成作業の優先順位に影響する場合が少なくないからだ。

制度改正の代表例として、財務報告に影響を及ぼす会計基準の改正、非財務報告に影響を及ぼすコーポレートガバナンス・コードの改訂などが挙げられる。今後は、日本でも、サステナビリティ開示基準の新設が視野に入ってきた。

図表3で、こうした制度改正スケジュールの主なものを一覧にした。網羅性があるものではないことと、2023年3月期以降の項目には筆者の推定が含まれている点について留意されたい。

特に注目に値するのが、短期的に展開されている海外における制度改正である。国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)の開発するIFRSサステナビリティ開示基準に加え、欧州委員会(EC)による欧州サステナビリティ報告基準や米国証券取引委員会(SEC)による気候関連開示規則の開発が進みつつあり、世界各国・地域でサステナビリティ基準対応が加速している。

統合報告書作成プロセスを検討するにあたっても、こうした制度改正スケジュールが、優先順位づけの参考に資すれば幸いである。

図表3:国内における留意すべき制度の新設・改正
時系列 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期・2025年3月期(短期的対応) 2030年に向けて(中長期的対応)
コード・ガイダンス・ガイドラインの公表時期等 2021年6月(改訂)
コーポレートガバナンス・コード
投資家と企業の対話ガイドライン

2021年10月(改訂)
グリーン投資ガイダンス2.0

2022年1月
知財・無形資産ガバナンス ガイドラインVer1.0
2022年4月
東証上場市場区分の見直し

各種のコード、ガイダンス、ガイドライン、レポート(新設・改訂)
各種のコード、ガイダンス、ガイドライン、レポートの継続的な改訂
有価証券報告書等     サステナビリティ情報全般・気候変動関連 等に関する開示の充実

「四半期決算短信と四半期報告書の一本化」

「有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載事項の整理」
「有価証券報告書と事業報告等との共通化・一体化」
時系列 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期・2025年3月期(短期的対応) 2030年に向けて(中長期的対応)
会計基準 (改正)企業会計基準29号
「収益認識に関する会計基準」

(修正)企業会計基準30号
「時価の算定に関する会計基準」
実務対応報告42号
「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」
(改正)企業会計基準27号
「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」

実務対応報告「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」
(改正)企業会計基準13号
「リース取引に関する会計基準」

(改正)企業会計基準10号
「金融商品に関する会計基準」
サステナビリティ開示基準     サステナビリティ開示基準(全般的要求事項・気候変動関連) サステナビリティ開示基準(人的資産・多様性)
【参考 海外での動き】
ISSB:IFRS サステナビリティ開示基準
「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
「気候関連開示」
欧州委員会(EC):欧州サステナビリティ報告基準
米国証券取引委員会(SEC):気候開示関連規則
監査報告書(注3) その他の記載内容
(720)
リスクアプローチの強化
(315・540)
「サステナビリティ開示における保証の在り方」

(注1)時系列は3月期決算企業を想定して整理。有価証券報告書等、会計基準、サステナビリティ開示基準、監査報告書については、適用時期を示す。
(注2)2023年3月期以降の項目には、筆者推定が含まれている。
(注3)監査報告書のカッコ内は、関連する監査基準委員会報告書番号を示す。
(出所)各種資料をもとにPwCあらた有限責任監査法人

ポイント⑥ 統合報告書作成後にステークホルダーと対話をしよう!

統合報告書は作成・公表をもって一段落ではあろうが、翌年以降の作成・公表に向けて、改善を加えることが必要と考えられる。

そのための有効な手段は、統合報告書を題材としたステークホルダーとの対話である。ステークホルダーへの説明と意見聴取という双方向のコミュニケーションを通じて、企業経営者の真意を発信するとともに、改善すべき点に関する気づきを得ることが大切である。

作成・公表までに時間的な制約があるなかで、企業が考える優先順位と、ステークホルダーの考える優先順位の相違点を発見することも、継続したコミュニケーションに向けて、重要な要素と考えることができよう。

さまざまな情報開示発信物

ここでは、統合報告への取り組みにあたって参考に資すると思われる最近の情報開示発信物について、いくつか取り上げてみよう。その内容は、サステナビリティ全般、気候変動開示、知的財産、アジャイル・ガバナンス、人的資本など多様である。

(1) ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)

ISSBは、IFRS財団内に設置された国際会計基準審議会(IASB)と併存する会議体であり、2022年から、IFRSサステナビリティ開示基準の開発を進めている。

2022年3月31日には、第1号「サステナビリティ関連財務情報開示の全般的要求事項」と第2号「気候関連開示」の2つを公開草案として公表し、7月29日までのコメント募集期間に入った5。コメント募集を経て、2022年内の正式採用を目指す。

本公開草案は、気候関連財務情報タスクフォース(以下、TCFD)による提言との連携が意識されており、同提言でも示されている「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4本柱で構成されたサステナビリティ関連財務情報の開示体系を示している。また、公開草案に付随して、TCFD提言の推奨事項と公開草案「気候関連開示」との比較文書も公表している。

本公開草案が注目される背景には、2021年6月に公表された改訂「コーポレートガバナンス・コード」6がある。
ここでは、「サステナビリティを巡る課題への取組み」が示され、自社の経営戦略の開示にあたって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきとされ、人的資本や知的財産への投資等についても情報開示の要請がある。

また、プライム市場上場企業に対しては、気候変動のリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益等への影響に関する開示について、TCFDまたはそれと同等な枠組みに基づく開示の充実と量の充実が要請されている。

ここで、同等な枠組みとは、ISSBが開発するIFRSサステナビリティ開示基準が含意されていることから、本公開草案への注目度合いが高まっている。

(2) 知的財産戦略本部(内閣府)

2022年1月28日、知的財産戦略本部は、「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0」を公表した7

前述の「コーポレートガバナンス・コード」の改訂を受けて、上場企業は、知的財産への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであることとされた。さらに、知的財産への投資の重要性に鑑み、経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、取締役会が、実効的に監督を行うべきともされている。

企業の価値協創にあたって知的財産戦略は重要な戦略と思われるなか、本ガイドラインは、当該知的財産に代表される無形資産の投資・活用戦略に関する開示とガバナンスについて、詳細な検討を加えたものとなっている。また、前述の「価値協創ガイダンス」との併用も期待されている。

(3) 経済産業省

2022年3月3日、経済産業省は、「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書(案)を公表した8。意見募集は、4月28日に締め切られており、今後、報告書の確定作業へと入る。これまで2編のガバナンス・イノベーション報告書で示した「アジャイル・ガバナンス」の全体像の整理、アジャイル・ガバナンス実装のために必要な環境整備とインセンティブ設計などに言及した内容となっている。

また、2022年3月18日、経済産業省内に設置された第9回人的資本経営の実現に向けた検討会では、「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2・0~」(案)の検討がなされている。ここでは、経営戦略と人材戦略を連動させるための取組みについて、具体的な検討が試みられている9

なお、筆者らでは、こうした情報開示発信物の紹介をはじめとして、統合報告を展開するにあたって参考に資する情報を、定期的に発信している。折に触れて参照していただきたい10

おわりに

今回は、連載の第1回として、統合報告を展開するにあたってのポイントと、参考に資すると思われる情報開示発信物を、筆者なりの視点で整理・紹介した。本連載では、これから、統合報告に関するさまざまな論点を、多面的に紹介する予定である。ぜひ、ご注目いただきたい。

1 国際統合報告評議会(IIRC)「国際統合報告フレームワーク」https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/01/InternationalIntegratedReportingFramework.pdf

2 経済産業省 価値協創ガイダンスhttps://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/ESGguidance.html

3 経済産業省 価値協創ガイダンス改訂案
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_sx/kachi_kyoso/002.html

4 一例として、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」」
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/20220207_integration_report.pdf

5 IFRS財団 ISSB公開草案
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/03/issb-delivers-proposals-that-create-comprehensive-global-baseline-of-sustainability-disclosures/

6 東京証券取引所 「コーポレートガバナンス・コード」https://www.jpx.co.jp/news/1020/20210611-01.html

7 知的財産戦略本部 「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/governance_guideline_v1.html

8 経済産業省 「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」報告書(案)https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220303003/20220303003-1.pdf

9 経済産業省 「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2・0」(案)https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinteki_shihon/pdf/009_02_00.pdf

10 一例として、「 ESG 10 minutes」(PwCあらた有限責任監査法人)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/esg-10minutes.html

執筆者

野村 嘉浩

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

本ページに関するお問い合わせ