何から始める? 統合報告の作り方・使い方 第2回 国内先進企業の事例に学ぶ

2022-10-17

※本稿は、「旬刊経理情報」2022年6月10日号(No.1646)に寄稿した記事を転載したものです。
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※一部の図表に関しては「旬刊経理情報」に掲載したものをPwCあらた有限責任監査法人にて編集しています。

この記事のエッセンス

  • 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、投資家等ステークホルダーと企業との間の「建設的な対話」が重要であり、その土台として「よい開示」が必要である。
  • 統合報告への挑戦を始める際には、金融庁の好事例集や各種表彰制度を参考にして、「よい開示」の国内事例を多角的に理解することが有効である。
  • 「よい開示」にあたり、8つの表彰制度や統合報告の作成や利活用に資すると思われるコミュニティが参考となる。

はじめに ~論より証拠、先行する好事例から学ぶ~

前回(第1回)は、「なぜいま統合報告なのか」と題し、統合報告に関する意義や最新動向を考察し、統合報告の重要性を再確認した。第2回は第1回で解説したポイントのうち、「同業他社の統合報告書を参照しよう!」、「統合報告書作成後にステークホルダーと対話をしよう!」についてもう少し詳しく紹介したい。

企業が自社の経営理念に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、投資家等ステークホルダーとの建設的な対話が重要である。その建設的な対話の基礎、きっかけを提示するのが開示であり、よい開示は投資家との建設的な対話につながり、対話と開示高度化の好循環を生む。さて、「建設的な対話」については金融庁「投資家と企業の対話ガイドライン1」(2018年6月策定、2021年6月改訂)が、「よい開示」については金融庁「記述情報の開示の好事例集」2が公表されている。また、国内既存のさまざまな情報開示関連の表彰制度も「よい開示」を探すうえで有用である。以降、順を追って説明したい。

金融庁の取組み

(1)投資家と企業の対話ガイドライン

金融庁は、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、コンプライ・オア・エクスプレインベースでの企業と投資家との実効的な対話を促進するため、対話に際して重点的に議論されるべき論点を本ガイドラインに取りまとめている。同ガイドラインはスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの附属文書という位置づけであり、コーポレートガバナンス・コードの改訂と同時に公開された2021年6月改訂版では、「1. 経営環境の変化に対応した経営判断」、「2. 投資戦略・財務管理の方針」、「3. CEOの選解任・取締役会の機能発揮等」、「4. ガバナンス上の個別課題」について29の重要な論点が提示されており、サステナビリティをめぐる課題への取組みについても内容が拡充されている。

(2)記述情報の開示の好事例集

同事例集は、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を踏まえ、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促し、開示の充実を図ることを目的として取りまとめられている。同事例集に掲載されている事例の大半は有価証券報告書であるが、一部、統合報告書など任意の開示書類における開示例も含められている。なお、2021年度分については本稿作成時点で有価証券報告書のみとなっている3が、それはすなわち必ずしも統合報告「書」にしなくとも、統合思考を反映した開示と対話はさまざまな開示形態・方法・タイミングを通じて可能である、ということを示唆しているように思われる。同事例集に取り上げられている統合報告書等の一覧を図表1にまとめてあるので、気になるトピックに合わせて参照していただきたい。

(図表1)「記述情報の開示の好事例集」で統合報告書等が取り挙げられている企業の一覧

開示トピック 掲載年度 企業名

ESG(経営者メッセージ)

2020

三井化学(株)、キリンホールディングス(株)

ESG(気候変動)

2020

JFEホールディングス(株)

経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

2019

ANAホールディングス(株)、(株)三井住友フィナンシャルグループ、アサヒグループホールディングス(株)、コニカミノルタ(株)

2018

ANAホールディングス(株)、トヨタ⾃動⾞(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ、オムロン(株)、コニカミノルタ(株)、住友化学(株)、(株)ローソン、アサヒグループホールディングス(株)、東京海上ホールディングス(株)

事業等のリスク

2019

東京海上ホールディングス(株)

2018

カゴメ(株)、東京海上ホールディングス(株)

MD&Aに共通する事項

2019

三菱重工業(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ

2018

三菱重⼯業(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ

キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容等

2019

オムロン(株)、大和ハウス工業(株)、不二製油グループ本社(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱重工業(株)

2018

オムロン(株)、(株)丸井グループ、不⼆製油グループ本社(株)、コニカミノルタ(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱重⼯業(株)、伊藤忠商事(株)

(出所)金融庁HPより筆者作成

わが国における情報開示関連の表彰制度

国内外には優れた情報開示を表彰するためのさまざまな制度・団体が存在する。各々の評価の対象や視点を理解したうえでこれらを参照することで、効率的に自社がお手本とするに相応しい他社事例を見つけることができる。ここでは、統合報告書そのものの表彰制度((1)~(3))に加え、開示/IR全般やESG/SDGsの取組みの表彰制度((4)~(8))を紹介する。また、これら表彰制度の評価ポイントを次頁図表2に出典とともにまとめているので、詳細は出典リンクを参照されたい(なお、本稿で紹介するものの他にもさまざまESGに関連するアワードやランキングは存在する)。

(1)GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」4

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は毎年、国内株式の運用を委託している運用機関に対して、「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」の選定を依頼しており、その結果を公表している。複数の運用機関が評価しているため統一された評価基準はないものの、主要な読み手の1つである運用機関からの評価が高い報告書は、現実のニーズに即した報告書として参照する意義があるだろう。2021年度では、「4機関以上の運用機関から高い評価を得た『優れた統合報告書』」として、日立製作所、リコー、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングス、オムロン、伊藤忠商事が挙げられており、それらが選ばれた理由・コメントも掲載されている。また、2021年度からは、「統合報告のなかで運用機関が特に重視する項目や記載を充実してほしいと考えている項目」も記載されており、統合報告書を作成するうえで何に重点をおくべきかという観点から参考になるだろう。

(2)日経統合報告書アワード5

日本経済新聞社が主催し、日本企業の発行する統合報告書のさらなる充実と普及を目的として行われているものであり、機関投資家、監査法人、コンサルティング会社、学識経験者などが参加企業の統合報告書を審査し、企業ごとに審査結果レポートとしてフィードバックする。1998年より毎年「日経アニュアルリポートアウォード」と称して実施されてきたが、2021年度からは「日経統合報告書アワード」に改称された(ただし、報告書の名称は「年次報告書」等でも可)。評価の視点は、「企業価値創造プロセス描写のストーリー性」、「トップマネジメントのメッセージ」、「長期企業価値創造を実現するためのマテリアリティの抽出」など10のテーマから成っている。第1回となった日経統合報告書アワードでは、グランプリに双日(株)を、ESGの面を重点的に審査する「ES賞」には三井化学(株)、「G賞」にはオムロン(株)、準グランプリには伊藤忠商事(株)、(株)荏原製作所、(株)三菱ケミカルホールディングスが選ばれた。

(3)WICIジャパン 統合リポート・アウォード6

WICI(The World Intellectual Capital/Assets Initiative)は2007年に発足し、事業会社、財務アナリスト、投資家、官公庁や大学等の研究者が参加し構成されている。日本における活動拠点として2008年にWICI Japanが設立された。WICIはIIRCの協力団体でもあり、無形資産(特に人的資産等の知的資産)の報告・開示に重点を置いて活動している。「WICIジャパン 統合リポート・アウォード」の評価の対象は統合報告書(ただし、報告書の名称は「年次報告書」等でも可)で、評価の視点は、「IIRCが定める<IR>フレームワークとの整合性」、「過去・現在・未来の実績・課題・戦略・リスクの展望」、「ESGにかかるガバナンス」などである。2021年度のGold Award(優秀企業賞)は、伊藤忠商事(株)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(株)、(株)ニチレイ、日本精工(株)が受賞している。

(4)日本証券アナリスト協会 証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定制度7

日本証券アナリスト協会は、企業情報の専門ユーザーとしての証券アナリストの立場から企業のディスクロージャーを評価する「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」制度を1995年から実施している。評価の視点は「経営陣のIR姿勢」、「説明会、インタビュー、説明資料等における開示」、「フェア・ディスクロージャー」等であり、評価対象は統合報告書に限らず開示全般である。業種別の表彰に加え、「新興市場銘柄」、「個人投資家向け情報提供」についても表彰している。2021年度の業種別の表彰は、例えば食品セクターではアサヒグループホールディングス(株)、ITサービス・ソフトウェアセクターでは(株)野村総合研究所などが選定されている。HPには業種ごとに過去の受賞企業一覧が掲載されているので、自社が属する業種の優良事例を探しやすい8

(5)日本IR協議会 IR優良企業賞9

日本IR協議会は、1993年に設立され、IR(Investor Relations)活動の普及と質の向上を目指して活動している民間の非営利団体である。「IR優良企業賞」は、2021年度で26回目を迎え、毎年1回、優れたIR活動を実施している企業を会員企業のなかから選定し発表している。こちらの評価対象は統合報告書のみならずIR活動全般である。2021年度の評価の重点は、「with & after コロナの経営戦略」、「建設的な対話の進化」、「サステナビリティ情報開示の拡充」、「株主・投資家とステークホルダーとの結びつけ」、「新たな株主が参加しやすい活動」、「リスクの早期認識と対応」であり、J. フロントリテイリング(株)と三井物産(株)がIR優良企業大賞を受賞した。

(6)日本取締役協会 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー10

日本取締役協会は、取締役会の改革を実践している企業、コーポレートガバナンス・コードを遵守しCGSガイドラインを踏まえた取組みを行う企業を表彰している。こちらも評価対象は統合報告書というより取組みそのものであり、評価の視点は、「社外取締役3名以上」、「ROE/ROAが基準以上」、「時価総額2000億円以上」、「開かれた株主比率30%以上」、「独立社外取締役比率3分の1以上」等である。2021年度は、Grand Prize Companyに東京エレクトロン(株)、Winner Companyにソニーグループ(株)とピジョン(株)が選定された。

(7)環境省/一般財団法人地球・人間環境フォーラム 環境コミュニケーション大賞11

本賞は、統合報告書等での優れた環境報告を表彰する。2020年度は環境報告大賞(環境大臣賞)に住友林業(株)、気候変動報告大賞(環境大臣賞)にキリンホールディングス(株)が選定された(ただし、2020年度の開催をもって本制度は休止)。

(8)SDGs推進本部 ジャパンSDGsアワード12

本賞は、報告書そのものではなく、SDGsに資する優れた取組みを行っている企業・団体等を表彰する。SDGs推進円卓会議構成員から成る選考委員会が「普遍性」、「包摂性」、「参画型」、「統合性」、「透明性と説明責任」の視点から選考する。2021年度のSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞にはユーグレナが選定されている。13

(図表2)本稿で紹介した各表彰制度の評価ポイント一覧

表彰制度名 評価ポイント(公開情報より筆者一部抜粋、再構成) 「評価ポイント」の出典
(1)GPIF国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」 複数の運用機関が評価しているため統一された評価基準はない https://www.gpif.go.jp/esg-stw/20220207_integration_report.pdf
(2)日本経済新聞社
日経統合報告書アワード2021
  1. 企業価値創造プロセス描写のストーリー性
  2. トップマネジメントのメッセージ
  3. 長期企業価値創造を実現するためのマテリアリティの抽出
  4. 中長期財務政策と事業ポートフォリオ管理
  5. 意欲的で緻密な中長期経営計画の設定
  6. 投資家の分析に必要十分な財務情報
  7. コーポレートガバナンス・システムの整備
  8. 取締役会の質的充実度(モニタリングボードとしての機能発揮、社外取締役の機能発揮)
  9. 企業特性にあった重要な環境・社会項目の抽出とKPIの提示
  10. サステナビリティー・ガバナンスの運営状況とその評価

https://ps.nikkei.com/nira/criteria.html
(3)WICIジャパン 統合リポート・アウォード
  1. IIRCが定める<IR>フレームワークに定める必須記載事項を反映して、財務情報と非財務情報が定量的、定性的に整理され、またそれらが統合的に企業の価値創造力を示すよう工夫され、当該発行体の「価値創造ストーリー」が簡潔明瞭に記されているか
  2. 過去の事業活動で達成された成果と残された課題が整理され、それと今期の実績とのつながりが明確にされているとともに、それらを踏まえた将来の事業展開に関する戦略が、そのリスクと合わせて適確に見通せるようになっているか
  3. 営む各事業活動の価値創造ドライバーがKPI等を使って示され、経時的ないしピアグループ間で比較できるような形で提供され、また他の財務・非財務のデータとのつながりが示されているか
  4. 事業活動の長期にわたる持続可能性を支えるESG情報が提供され、当該発行体に相応しいガバナンス、経営監視体制が保たれているか
  5. 経営執行陣が自社の資本コストを自覚し、上場企業として株主への意識、およびその他のステークホルダーへの配慮とのバランスをもって経営に取り組んでいるか

https://wici-global.com/index_ja/event/integrated_report_award/

(4)日本証券アナリスト協会
証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定制度(2021年度)
  1. 経営陣のIR姿勢、IR部門の機能、IRの基本スタンス
  2. 説明会、インタビュー、説明資料等における開示
  3. フェア・ディスクロージャー
  4. コーポレート・ガバナンスに関連する情報の開示
  5. 各業種の状況に即した自主的な情報開示
https://www.saa.or.jp/disclosure/pdf/disclosure_2021.pdf
(5)一般社団法人日本IR協議会
IR優良企業賞2021
  1. 【with&afterコロナの経営戦略】コロナ禍を経た経営戦略を資本市場の関心を踏まえて公表し、進捗や成果を説明・対話する取組み。DX(デジタル・トランスフォーメーション)や情報セキュリティ、サプライチェーンマネジメントなどの環境変化に対する姿勢の明確化
  2. 【建設的な対話の進化】経営層や社外取締役による対話機会を設けるとともに、事業別の資本収益性情報や取締役会関連情報を充実させるなど、開示面でも対話の進化を後押しする取組み
  3. 【サステナビリティ情報開示の拡充】統合報告書のレベルアップなどにより、気候変動や人権といったサステナビリティ(持続可能性)関連の情報開示を拡充・対話する取組み
  4. 【株主・投資家とステークホルダーとの結びつけ】さまざまなステークホルダーに配慮した経営理念に基づき、株主・投資家とそれ以外のステークホルダーの期待する企業価値をつなげるしくみを工夫して説明・対話する取組み
  5. 【新たな株主が参加しやすい活動】新たな株主候補である個人投資家や国内外の機関投資家の情報ニーズを踏まえ、ウェブ会議なども活用して参加しやすいIR活動や対話を実現させる取組み
  6. 【リスクの早期認識と対応】先行きの見通しが難しいなか、リスクの認識を早めに示し、対応していることを示す取組み
https://www.jira.or.jp/download/newsrelease_20211118.pdf
(6)日本取締役協会
コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021
  1. コーポレートガバナンス・コード全原則が適用される東証1部上場企業、かつ2019年~2021年を通じて社外取締役3名以上を選任
  2. 稼ぐ力の指標として、非金融3期平均ROE10%以上、ROA4%以上、金融3期平均ROE10%以上、ROA2%以上
  3. 社会への貢献度の指標として、時価総額2,000億円以上
  4. ガバナンス体制整備の指標として、特定の大株主がいない、開かれた株主比率(30%以下)、独立社外取締役比率(3分の1以上)、組織形態(指名委員会等設置会社)、指名・報酬委員会(任意も含む)の設置
  5. 取締役会の多様性
  6. 指名・報酬委員会(任意も含む)委員長の独立性、取締役会議長の執行からの独立性
  7. パフォーマンス評価として、みさき投資による経営指標分析を活用、時価総額や営業利益の安定性などを総合評価
  8. 審査委員によるトップマネジメントへのインタビュー調査
https://www.jacd.jp/news/cgoy/cgoy_220112_01.pdf
(7)環境省/一般財団法人地球・人間環境フォーラム環境コミュニケーション大賞

<環境報告部門の採点基準>

  1. 環境報告の基礎情報(環境報告の基本的要件、主な実績評価指標の推移)
  2. 環境報告の記載事項(経営責任者のコミットメント、ガバナンス、ステークホルダーエンゲージメント、リスクマネジメント、ビジネスモデル、バリューチェーンマネジメント、長期ビジョン、戦略、重要な環境課題の特定方法、重要な環境課題)
https://www.gef.or.jp/24th_ecom_selection_criteria/
(8)SDGs推進本部
ジャパンSDGsアワード
  1. 普遍性(①国際社会においても幅広くロールモデルとなり得る取組みであるか、②国内における取組みである場合、国際目標達成に向けた努力としての側面を有しているか、③国際協力に関する取組みである場合、わが国自身の繁栄を支えるものであるか)
  2. 包摂性(①「誰一人取り残さない」の理念に則って取り組んでいるか、②多様性という視点が活動に含まれているか、③ジェンダーの主流化の視点が活動に含まれているか)
  3. 参画型(①脆弱な立場におかれた人々を対象として取り込んでいるか、②自らが当事者となって主体的に参加しているか、③さまざまなステークホルダーを巻き込んでいるか)
  4. 統合性(①経済・社会・環境の分野における関連課題との相互関連性・相乗効果を重視しているか、②統合的解決の視点を持って取り組んでいるか、③異なる優先課題を有機的に連動させているか)
  5. 透明性と説明責任(①自社・団体の取組みを定期的に評価しているか、②自社・団体の取組みを公表しているか、③公表された評価の結果を踏まえ自社・団体の取組みを修正しているか)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/japan_sdgs_award_dai3/02jisshi.pdf

こうしてみてみると、それぞれの表彰制度や好事例集で評価の基準や視点は少しずつ異なるものの、何度も目にする企業があることに気づく。特にこれから初めて統合報告を作成する企業においては、こうしたいろいろな所で表彰あるいは好事例として取り上げられている企業の報告書や取組事例をまず参照し、自社が深掘りしたいテーマや目的に応じて参照範囲を広げていくことが効率的であろう。

統合報告に関連するさまざまなコミュニティに参加し、他社の実務を知る

本稿の最後に、外部のコミュニティに参加する有用性に触れたい。参考となる他社事例を確認し、目標・到達点の具体的イメージが持てたところで、実際に統合報告を作成していくなかでは、どうしても大小さまざまな点で「実際のところ他社はどのように対処しているのか?」といった疑問も生じてくるだろう。そうした疑問を解消できる場として、さまざまな情報開示関連のコミュニティがある。たとえば、一般社団法人ESG情報開示研究会14は、ESG(サステナビリティ)経営、ESG情報開示のあり方を探ることを目的に2020年6月に設立された団体であるが、月1回のペースで勉強会を開催している。他にも、表彰制度の紹介部分で既出のWICIジャパン、一般社団法人日本CFO協会15、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)16、一般社団法人日本IR協議会17等も研究会や分科会等のコミュニティを形成して各種セミナー、調査・研究等を実施している。これらコミュニティのテーマは多様なので、社内のさまざまな担当部署・担当者がそれぞれの担当分野はもちろんのこと、担当が異なるコミュニティにも積極的に参加することで、お互いの垣根を取り払い、統合報告・統合思考を行ううえで必要不可欠となる社内横断的な連携が図られる一助になるであろう。

おわりに

今回は、連載の第2回として、先行する優良事例から学ぶべく、金融庁の好事例集や国内の各種表彰制度を紹介するとともに、実務を進めるうえで、他の会社の開示・報告の作成メンバーや対話メンバー、投資家等をはじめとする開示の読み手と接点・対話をすることの有用性を説明した。本稿が統合報告を作成する読者の方々にとって最初の一歩を踏み出す際に、少しでも参考になれば幸いである。

執筆者

荒木 裕

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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