【2020年】PwCの眼(2)今後の自動車・モビリティ産業における経営アジェンダ

2020-06-02

前稿では、これまで比例関係にあった経済成長と移動拡大が「ポストコロナ」時代にはデカップリング(分離)される可能性を論じた。本稿では、今後、移動が量的・質的な変化をとげる中で、自動車・モビリティ産業の経営者が優先的に考えるべきアジェンダを提示したい。

まず何より難しいのは、今後は多くの企業において「両利きの経営」が求められることである。従来は自動車事業の拡大のために全社一丸となって市場での競争に打ち勝つことが至上命題であった。しかし、右肩上がりの市場成長に世界的にも疑問符が付くこの先は、新たな収益の柱を生み出し、育てていくことの重要性が増す。各事業の自律性と収益責任を徹底できるよう遠心力を働かせるとともに、企業体としての存在意義の再定義や事業間シナジーの見極めにより求心力を利かせる、という絶妙なバランスを実現することが経営者の重要な役割となる。

そして、既存の自動車事業においては、収益の盤石化が求められる。これまでも各現場での改善活動による効率化は行われてきているが、今後は組織の抜本的改革やチャネルの統廃合など、旧来聖域とされてきた領域にもメスを入れた構造的な改革を行わなければ、市場の成熟・縮小に対応できない可能性もある。また、同業種・異業種問わず合従連衡の動きに乗り遅れてしまうリスクにも留意すべきである。ゆでガエル状態になる前に、経営者は改革の方向性とタイミングを不確実性の中で勇気をもって決断する必要がある。

またデジタル技術を活用し、研究開発から販売・アフターサービスまでバリューチェーン全体を徹底的に高度化・効率化することも求められる。既に世の中には、開発、生産、マーケティングなどの各領域においてさまざまなデジタルソリューションが提供されている。経営者は、担当部門からの提案に受け身になって闇雲にそれらを導入するのではなく、事業全体を俯瞰して律速となる領域に優先投資し、限られた経営資源を最適に活用できるようにすべきである。最小の人員かつ遠隔でも操業できる体制を構築することは、有事の事業継続性の観点からも有効であることは昨今、皆が認識している通りである。

新事業においては、多くの企業がCASEやMaaSの進展に合わせて、モビリティサービスに関連した事業機会を見出している。自社がハードの製造・販売にとどまるにせよ、サービス領域にまで拡大するにせよ、留意しなければならないのは、既存事業とは大きく異なる戦略や組織運営が必要になるということだ。良いものを作れば売れるという発想は捨て、最初から業界のエコシステムそのものを他社連携も含めて構想することが重要である。そして新事業組織は、従来とは別次元のスピード感やリスク許容度などに基づいた新しい働き方で運営することが成功の鍵となる。

以上のように、今後経営者は、両利きの企業運営を実現する上で、大鉈をふるうことも含めて既存事業を盤石化すると同時に、従来とは大きく異なるアプローチで新事業開発を進めていくことが求められる。来月以降は、このような大アジェンダを念頭に置き、より具体的なテーマについて議論を深めていく。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

北川 友彦

北川 友彦

ディレクター
PwC Strategy&
tomohiko.t.kitagawa@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年5月23日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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