【2020年】PwCの眼(6)DXを踏まえた新規事業の着眼点

2020-09-30

前稿では、既存事業の深化として、デジタル時代の自動車購入体験と実現要所を提示した。本稿では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を踏まえた新規事業を考える上での着眼点を、完成車メーカーと部品メーカーそれぞれの視点から提示する。

まず完成車メーカーの場合、「モビリティエコシステムのどのレイヤーで事業展開していくか?」を具体化し、事業構造を変革していくことが重要だ。

IoTで製品からデジタルデータが収集され、それらがネットワークで接続・連携されるとエコシステムが形成されていく。昨今、さまざまな産業で新たなエコシステムが誕生しているが、特に先行しているのがモビリティ産業だ。

エコシステムは大きく3つのレイヤーに区分できる。製品の使用で生まれる個別のデジタルデータが散在した「エレメントデータ層」、エレメントデータ層の個別データが集積・管理された「データプラットフォーム層」、データプラットフォーム層で管理されているデータを組み合わせて社会に付加価値のあるサービスが提供される「アプリケーション層」の3つだ。エレメントデータ層には「データサプライヤー」、データプラットフォーム層には「データプラットフォーマー」、アプリケーション層には「アプリケーションベンダー」といったプレイヤーが存在し、各レイヤーおよびエコシステム全体で覇権争いが激化している。

このような中、どのレイヤーにフォーカスして事業を行うと有利か?その中で、異業種も含めて誰と組むか?どう儲けるか?といった、モビリティエコシステムにおけるビジネスモデルの具体化や、データの蓄積・活用、APIの設計などを完成車メーカーは進めていく必要がある。その際、自動車の開発・製造・販売の延長線上に自社の将来があるとは限らないという意識を持つことが重要だ。

部品メーカーは、電動化が進み不要な部品が増える中、これまで培った技術に加えて、デジタル技術も駆使した新たな事業の探索が急務だ。部品メーカーの場合、モビリティエコシステムでのポジショニングを考えるべき完成車メーカーとは異なり、従前から事業成長の検討基軸であった「市場・顧客軸」と「製品・技術軸」の2つの方向で考えるとよい。

モビリティエコシステムにおいて、自動車は「完成品」ではなく「部品」として捉えられる。自動車から抽出されるデジタルデータも「部品」の一種だ。つまり、完成車メーカーは「部品メーカー」の位置付けに変わることになる。完成車メーカーがモビリティ全体の覇権を握ろうとするのは、エコシステムにおいて「完成品」を取り扱う企業になりたいという意図の表れだと考えられる。

一方、部品メーカーの場合、完成車メーカーよりも扱っている製品や技術をさまざまな領域へ用途展開しやすく、従前からの2つの検討基軸で事業展開を考えた方が、拡張性が高くなる。「市場・顧客軸」では、自動車市場での既存顧客拡大と新規顧客開拓、自動車以外の市場での新規顧客開拓という方向性がある。「製品・技術軸」では、単品部品から周辺部品への製品領域の拡大、部品売り切り(モノ売り)から部品に関わるデジタルデータを活用したモノ+コト売りへの拡大、これまで培った開発技術・評価技術・製造技術などのノウハウ外販といった方向性がある。まずは自社が持つ技術を棚卸しし、コア技術を特定した上で、将来の有望市場・顧客への用途展開を進めることが重要だ。

執筆者

渡辺 智宏

渡辺 智宏

ディレクター
PwCコンサルティング合同会社
tomohiro.w.watanabe@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年9月19日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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