【クリティカルミネラルを取り巻く現状と課題】―EVバッテリーの開発動向とクリティカルミネラル―(第1回)

2024-07-31

※2024年6月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

クリティカルミネラルの現状

脱炭素化によるエネルギートランジッションを背景として、今後、クリティカルミネラルの急速な需要拡大が見込まれており、各国政府はクリティカルミネラルの確保に向けてさまざまな政策の導入を進めています。

中でも需要が急拡大しているのは、リチウム、ニッケル、コバルトといった鉱物で、需要に対して今後の供給不足が懸念されています(図1参照)。また、クリティカルミネラルに関するサプライチェーン上のリスクについては日本においても指摘されるところとなっており、政府もその確保に向けて対応を急いでいます。

図1 リチウム、ニッケル、コバルトの需給推移

(出所)IEAよりPwC作成

このクリティカルミネラルの需要の急拡大を牽引する大きなドライバーは自動車のEV化であり(図1参照)、今後の自動車向けのEVバッテリーの動向は、必要とするクリティカルミネラルの調達のみならず、それに関連する川下のビジネス動向に多大な影響を与えるものと考えられます。本ニュースレターでは、EVバ ッテリーの開発動向と、それに必要となる主要なクリティカルミネラルの需要量変化について解説します。

1.EVバッテリーの現状と開発動向

ここ数年でEVバッテリーの使用構成は大きく変わってきています(図2参照)。コバルトの供給不安から脱コバルト化が進み、それに伴う電池開発の進展などにより、以前主流であったHigh cobalt NMC(NMCはニッケル・マンガン・コバルトを正極材に使用し、三元系とも呼ばれる)とNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウムを正極に使用するニッケル酸リチウム電池)の割合は大きく低下し、Low cobalt NMCや希少なレアメタルを使用するのではなく安価なリン酸鉄を使用する電池であるLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)が主流となりつつあります。

図2 EVバッテリーの構成動向(2017~2022年)

(出所)IEA「Critical Minerals Market Review 2023」をもとにPwC作成

また、UBS Forecast、IEAのそれぞれの予測(図3参照)が示すとおり、EVバッテリーにおけるLFPの使用割合は今後も上昇し、広く活用されることが予想されます。

図3 EVバッテリーのLFP構成比率に関する予測

(出所)S&P 「Global UBS raises LFP global battery market share outlook to 40% by 2030」、IEA 「Global Critical Minerals Outlook 2024」よりPwC作成

現状のEVバッテリーの開発のドライバーとしては、主に①クリティカルミネラルの使用量低減もしくは非使用化、②低コスト化、③安全性向上の3つがあると考えられ、この3つの観点を踏まえて要求されるバッテリ ー性能(図4参照)の研究開発が進められています。

図4 EVバッテリーの性能比較

(出所)PwC作成

このような中で、①クリティカルミネラルの使用量低減もしくは非使用と②低コスト化の2つの観点からLFPの使用割合が増えつつありますが、そのLFPの進化型としてのLMFP(LFP正極材に使用する鉄の一部をマンガンに置き換えたリン酸マンガン鉄リチウム電池)や、リチウム、コバルト、ニッケルといったクリティカルミネラルではなく資源量豊富なナトリウムを活用するナトリウムイオン電池(NiB)の開発が、中国企業が先行する形で進んでいます。

LMFPは、安定性の高い構造のため充放電に際しての変形が少ない、熱安定性が優位で作動電圧もLFPより高いためエネルギー密度もLFP比で約15~20%高い、クリティカルミネラルを使用していないためコストもLFPと同等あるいは低いといった特徴を有しており、LFPやNMC系を代替する可能性が指摘されています。

NiBはクリティカルミネラルを使用しない、資源量が豊富なナトリウムを活用した電池です。エネルギー密度は低いものの、使用温度範囲が広く、急速充電スピードが速い(15分で80%充電可能)ほか、資源コストやLiB生産設備の流用性が高く生産設備投資コストを抑制できるなどの特徴を有していることから、低速もしくは小型のEVではNiBを利用する形で棲み分けが進むことも予想されています。本年6月には、北海道大学や東北大学などがナトリウムイオン電池の容量を5割高めて、リチウムイオン電池並みにする技術を開発した旨の報道もあり、技術開発の進展によっては、ナトリウムイオン電池がEV分野で広く使用される状況となることも考えられ、注視すべき動向と考えられます。

一方、③の安全性向上などの観点でポストLiBと期待され、開発が進められているのが全固体リチウムイオン電池です。これは日系メーカーが先行しているものの、韓国、米国、中国などの企業も開発に注力していることからその差は縮まりつつある状況で、その量産化は2020年代後半にずれ込むことが想定されてます。

こうした状況下、2024年に入ってから日系の素材メーカーが全固体ナトリウムイオン電池のサンプル出荷を開始した旨の発表をしており、NiBと全固体電池の双方の特徴を持つNiB全固体電池の技術開発動向にも注目すべきと考えられます。

本ニュースレターでは、調達が懸念されているクリティカルミネラルの需要を牽引するEVバッテリーの開発動向について解説しました。次回は、EVバッテリーの使用構成によって必要となるクリティカルミネラル、鉱物量がどのように変化するかをシミュレーションした結果をお届けしたいと思います。

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さらにご興味のある方は、下記のサイトをぜひご覧ください。

【エネルギー転換時代における鉱業界の変革と課題-重要鉱物の確保をめぐる企業動向と政府の役割】
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/energy-utilities-mine-2023.html

【Mine 2022 A critical transition】
https://www.pwc.com.au/mining/global-mine.html

執筆者

佐藤 稔

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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臧 哲

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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