【日本で存在感を増すデジタルディスラプター】―既存の電力・ガス小売事業のビジネスモデルを破壊―

2025-02-28

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電力・ガスの小売り自由化で先行する海外で注目されていたデジタルディスラプターが、ここ数年で日本国内においても関心を呼んでいます。国内事例や事業所が存在しなかったので、存在は認知されつつも、あくまで海外先進事例の1つという位置づけでした。本ニュースレターでは、デジタルディスラプターが既存事業に対してどのような変化をもたらすのか紹介します。

デジタルディスラプターとは「何者」か

海外ではエネルギー業界にもデジタルディスラプターと呼ばれる企業がテック業界などから参入し、顧客と共同での商品開発、スマートフォンの活用、IoT・AIといったテクノロジーを使った多様なサービスの提供で存在感を高めています。これまでの安定的かつユニバーサルなエネルギーの供給から踏み出し、顧客の生活に入り込み、パーソナライズされた体験を提供しシェアを拡大してきていることから注目されています。

ここではデジタルディスラプターを以下のように定義します

  • デジタルテクノロジーの活用により、既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊するプレイヤー
  • 自身の持つ技術によって新たなコスト構造に適した形のビジネスモデルを構築し、従来型のビジネスモデルや商習慣に風穴を開け既存企業の存続を困難にさせる存在

図表1:デジタルディスラプターのポジション

日本国内に進出するデジタルディスラプター

リサーチ会社のフロスト&サリバン社のレポート(Frost & Sullivan, Digital Platforms for Electric Utilityand Energy Retail Customer Care and Engagement, 2023)では、小売り事業向けデジタルプラットフォームとしてERP系の大手を抑えてKraken、Kaluza、Gentrackの3社がマーケットリーダーであると独自分析しています。統合システムとしての延長ではないプラットフォームが市場に受け入れられていることが読み取れます。このうち、Gentrackは国内事業所の情報はありませんが、2社については国内事業所を設置済みです。

KrakenはTGオクトパスエナジー株式会社(東京ガス株式会社とオクトパスエナジー<英国>の共同出資、2021年)のプラットフォーム提供を行い、KaluzaはKaluza Japan(三菱商事株式会社とKaluza<英国>の合弁会社)を設立し、国内の自動車大手向けにスマート充電サービスの商用化に向けた実証事業を開始しました。国内のメディアでも取り上げられています。

デジタルディスラプターが入り込む背景

近年、欧米を中心とする海外の有力デジタルディスラプターが日本にも進出し、国内企業との協業や国内事業所の開設を進めています。こうした取り組みはメディアでも取り上げられ、注目が増しています。

デジタルディスラプターが注目される背景としては従来のCIS(Customer Information System:顧客・料金・請求システム)に課題があることが考えられます。

  • 電力、ガス小売り自由化後に構築したCISは6~8年が経過しており機能の陳腐化や保守コストが重荷
  • パッケージ型のCISはカスタマイズによる複雑化により、追加改修コスト、改修期間が増大
  • 自由化当時のCISではEVやIoT機器の外部連携や、CO2削減対応、当局で制度化が示唆されているダイナミックプライシング対応(EUでは2025年施行)など市場の変化に合わせた改修がパッケージの思想と不適合
  • オンプレミス型の構築で開発されており専任のIT担当者が必要

一方で、デジタルディスラプターの提供価値としては、以下のようなことが訴求されています。

  • データに基づいた顧客のパーソナライズ体験
  • 顧客満足度を経営指標とした業務・運用設計、サービス開発
  • アジャイル型の実装による顧客ニーズ、最新機器、制度への素早い対応
  • 高いコスト効率(必要なところに人手をかけ、それ以外は自動化)
  • クラウドによる顧客セグメント単位での段階移行

顧客体験と料金メニューの関係について補足すると、仮想メニューとして「CO2削減メニュー」を例示します。

  1. 顧客はCO2削減目標を対前月比で「20%」のように選択する
  2. 所有する機器を登録する(エアコン、給湯器、蓄電池、EV等)
  3. 機器制御の目安が表示される(設定温度や利用時間帯)
  4. 承認ボタンをクリックする

以上のような4つのステップで新しい料金メニューが適用されます。実際には料金メニューを自動生成するのではなく、AIで機器や時間帯制御が行われるだけで、kWhやm3当たりの単価の割引はしていません。もちろん、コンタクトセンターに問い合わせも発生していません。

しかしながら顧客にとっては「自らが意思決定した自分に合ったメニュー」が提供されたということになります。

CO2削減からスタートしていますが月額料金もおそらく下がり、顧客満足度も向上します。

このような顧客体験の仕組みを取り入れています。

まとめ

これまで日本では、自由化後のカーボンニュートラル(CN)時代に対応したエネルギー業界の変革を後押しするサービスやプラットフォームが不足していました。エネルギー業界の企業には単純にデジタルディスラプターを採用するという意思決定にとどまらず、下記のような変革を自ら実践することが求められています

められています。

  • 小売り事業における従来型の仕事のやり方からの転換
  • CN時代に対応した「kWh」、「m3」に依存しない(販売量のみを追求しない)サービス設計
  • 自社の強みとなる顧客体験

PwCの提供サービス

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  • 電力・ガス事業者CIS構想/開発支援
    料金規制の撤廃などによりサービスや価格競争が激化する業界において、料金計算システム(CIS)を中心として顧客のニーズを捉えた新たな体験の設計やサービス追加、料金プランの迅速な適用を支援します。
  • CX&マーケティング立案支援
    業界構造の再編・消費者行動のデジタルシフトに対応したカスタマーエクスペリエンス(CX)の高度化に向けて、「戦略策定から実行まで(Strategy through execution)」を支援します。
  • デジタル営業改革の実現支援
    営業のDXステージを識別し、それぞれのステージに合った変革メニューを提案し、実行を支援します。
  • クロスセルのための戦略的新サービス立ち上げ支援
    再生エネルギー発電の活用やスマートメーターのデータを用いた省エネ診断サービスとのセットメニューなど、競争力を高める戦略的料金メニュー設計・収益性評価を支援します。

さらにご興味のある方は、下記のサイトをぜひご覧ください。

【エネルギー・ユーティリティ業界におけるデジタルビジネスの成熟度】

Value Navigatorは、信頼の構築と持続的な成長を目指すビジネスリーダーに、指針となるインサイトをお届けするPwC Japanグループの広報誌です。

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/value-navigator.html

執筆者

佐野 慎太郎

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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