2021年12月に自由民主党・公明党両党が公表した2022年度(令和4年度)税制改正大綱※1(以下、「2022年度税制改正大綱」)は同年12月24日閣議決定されました。2022年度税制改正大綱は岸田政権下で最初の税制措置ですが、いくつか注目すべき変更点があります。本稿では、2022年度税制改正大綱の法人課税に焦点を当てて注意すべき点について解説します。なお、今後の審議状況等によっては、内容に変更を生ずる可能性もありますのでご留意ください。
本稿の内容を含む2022年度税制改正大綱の概要については、オンラインセミナーでも解説を行っております。ぜひご参照ください。
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自由民主党・公明党両党は2021年12月10日に2022年度税制改正大綱を公表し、12月24日には当初予算案としては過去最大となる令和4年度予算案(一般会計107兆5,946億円)が閣議決定されました。2022年度税制改正大綱は「新しい資本主義」の実現を掲げる岸田政権下で初めての税制改正大綱として策定されたもので、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」※2(2021年11月19日閣議決定)において示された、「新しい資本主義」を起動させ、「成長と分配の好循環」を実現するための税制措置と位置付けられます。
国際的にはこれまでの資本主義を含めた社会の在り方を見直すグレート・リセットの議論※3の展開や、サステナブルな資本主義の提言※4等にも見られるように、企業による社会的課題への取り組みが内外で拡大している中で、わが国ではさらなる取り組みの余地があると指摘されています※5。米国の「ビルド・バック・ベター」、欧州の「次世代EU」など、世界では、弊害を是正しながら、さらに力強く成長するために新たな資本主義モデルの模索が始まっています。わが国でも、成長と分配を実現する「新しい資本主義」を具体化する※6ことが岸田政権の経済対策の柱に据えられました。
2022年度税制改正大綱には、以下の改正が盛り込まれています。
(1)成長と分配の好循環の実現のための既存の特別措置の見直し(人材確保等促進税制、オープンイノベーション促進税制、5G導入促進税制等)
(2)経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し(個人所得課税、相続税・贈与税等)
(3)国際的な租税回避や脱税への対応も含めた国際課税制度の見直し
(4)円滑・適正な納税環境整備(適格請求書等保存方式、記帳義務、スキャナ保存制度、電子取引情報の電磁的記録保存)等
以下では、2022年度税制改正大綱の法人課税に関わるものを次の項目に分けて解説していきます。
(1)所得拡大促進税制(旧賃上げ・生産性向上のための税制)は、2021年度(令和3年度)税制改正により、大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制の要件が、新規雇用者の給与等支給額及び教育訓練費の増加に着目した人材確保等促進税制に見直されたところです。岸田政権下では、「成長と分配の好循環」の実現に向けて、長期的な視点に立って賃上げを促すとともに、株主だけでなく従業員、取引先などの多様なステークホルダーへの還元を後押しする観点から、賃上げに係る税制措置を抜本的に強化することとされました(図表1)
2022年度税制改正では、新規雇用者に係る措置を改組し、継続雇用者給与等支給額及び教育訓練費を増加させた企業に対し、給与等支給額の増加額の最大30%を控除する制度に見直され、適用期限が2年延長されます。大企業(資本金10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上)については、給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項についてインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限り、適用されることとなります。
なお、教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置の適用を受ける場合の教育訓練費の明細書の確定申告書への添付要件が、明細書類の保存要件に見直されます。
(2)研究開発税制その他生産性の向上に関連する税額控除の規定(特定税額控除規定)の不適用措置について、大企業(資本金10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上)の前事業年度の所得が零を超える一定の場合には、継続雇用者給与等支給額の増加割合が1%(2022年度は0.5%)以上に見直されます(図表2)。なお現行制度では、継続雇用者給与等支給額が、継続雇用者比較給与等支給額を超える場合に特定税額控除が適用されます。
(3)オープンイノベーション促進税制とは、特別新事業開拓事業者(スタートアップ企業)に対して特定事業活動として出資をした場合の課税の特例を指します。この税制は、2020年度(令和2年度)税制改正で、「既存企業の有するリソースを最大限活用したオープンイノベーションの促進とユニコーン級ベンチャーの育成を図り、第4次産業革命における日本企業の国際競争力を強化すべく、新たな税制措置」(経済産業省「令和2年度経済産業省税制改正要望」※7)として創設されたものです。「ウィズコロナ・ポストコロナの世界を見据えて、新たな付加価値の創出・獲得に資する大企業の有する資金・技術・販路等のスタートアップ企業での活用を促進するとともに、企業の事業再構築を加速することが重要」(「令和4年度経済産業省税制改正要望」※8)であるとの認識から、2022年度税制改正では、出資の対象となる特別新事業開拓事業者の要件を拡充し、特定株式の保有見込期間要件等を緩和した上で、適用期限が2年延長されます(図表3)。
(4)地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、①地方拠点強化税制(地方活力向上地域等において特定建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度及び地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除制度)の対象資産、対象雇用者および計画の認定要件を見直した上で、適用期限が2年延長され、②5G導入促進税制(認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)の対象設備および税額控除率等を見直した上で、適用期限が3年延長されます。
5G導入促進税制は、特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律の認定法人(一定のシステム導入を行う認定特定高度情報通信等システム導入事業者)が、2022年3月31日までの間に、特定高度情報通信用認定等設備を取得し、事業供用した場合に税制優遇措置を与える制度として、令和2年度税制改正で導入されたものです。
デジタル田園都市国家構想実現に向けては、5G全国ネットワークについて、高度なインフラを都市・地方で一体的に整備しつつ、特に条件不利地域における整備を加速することが重要であり、企業等の多様な主体が自らシステムを構築するローカル5Gについても、社会課題解決や事業革新等に向け、導入を後押しすることが必要であるとの認識に立ち、5Gインフラに係るベンダーの多様化と基地局のオープン化に資する形で、より効果的に5Gインフラを整備するため以下のように見直されます。
①特定高度情報通信技術活用システムの適切な提供及び維持管理並びに早期の普及に特に資する基準について、(i)「特定基地局が開設計画に係る特定基地局の開設時期が属する年度より前の年度に開設されたもの」という要件を廃止し、5G高度特定基地局を加える、(ii)ローカル5Gシステムについては、導入を行うシステムの用途がローカル5Gシステムの特性を活用した先進的なデジタル化の取組みであるものに限定、(iii)補助金等の交付を受けたものを除外。
②特定高度情報通信技術活用システムを構成する上で重要な役割を果たすもののうち、一定の周波数の電波を使用する無線設備の要件について、多素子アンテナを用いないものを加え、マルチベンダー構成のもの及びスタンドアロン方式のものに限定。
③税額控除率について、令和4年度(2022年4月1日から2023年3月31日)の事業供用設備は15%または9%、令和5年度の事業供用設備は9%または5%、令和6年度の事業供用設備は3%。
(5)「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(仮称)において規定される予定の「環境負荷低減事業活動実施計画」(仮称)または「特定環境負荷低減事業活動実施計画」(仮称)に基づき導入される環境負荷の原因となる生産資材の使用量を減少させる設備等(環境負荷低減事業活動用資産)、および「基盤確立事業実施計画」(仮称)に基づき導入される、化学農薬または化学肥料に代替する生産資材を製造する設備等(基盤確立事業用資産)に対し、税制上の措置(法律の施行日から2024年3月31日までに事業供用した資産についての特別償却制度(機械装置等32%、建物等は16%)の適用)が創設されます。
(1)2022年4月1日以後開始事業年度より適用となるグループ通算制度について、以下のように見直されます。
①投資簿価修正制度について、通算子法人の離脱時にその通算子法人の株式を有する各通算法人が、その株式(子法人株式)に係る資産調整勘定等対応金額について離脱時の属する事業年度の確定申告書等にその計算に関する明細書を添付し、かつ、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存している場合には、離脱時に子法人株式の帳簿価額とされるその通算子法人の簿価純資産価額にその資産調整勘定等対応金額を加算することができる措置が講じられます。
②通算制度からの離脱等に伴う資産の時価評価制度について、時価評価資産には、帳簿価額1,000万円未満の営業権が含まれることとされます。
③通算税効果額から、利子税の額に相当する金額として各通算法人間で授受される金額が除外されます。
④共同事業性がない場合等の、通算法人の欠損金額の切捨て、損益通算の対象となる欠損金額の特例、通算法人の特定資産譲渡等損失の損金不算入の適用除外となる要件のうち支配関係5年継続要件について見直されます。
⑤認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例における欠損金の通算の特例について、各通算法人の控除上限に加算する非特定超過控除対象額の配賦の計算方法が見直されます。
(2)グループ通算制度における外国税額控除制度の適用について、①税務当局が調査を行った結果、進行事業年度調整措置を適用すべきと認める場合には、通算法人に対し、その調査結果の内容(進行事業年度調整措置を適用すべきと認めた金額およびその理由を含む)を説明するものとし、②この説明が行われた日の属する事業年度の期限内申告書に添付された書類に記載された金額等(進行事業年度調整措置を適用した金額)がその説明の内容と異なる場合には、その事業年度に係る税額控除不足額相当額または税額控除超過額相当額に係る固定措置を不適用とする等の見直しが行われます。法人住民税の外国税額控除制度についても同様に見直されます。
(1)所得拡大促進税制について、税額控除率の上乗せ措置の要件が見直され、その適用期限が1年延長されます。
(2)中小法人に係る交際費の損金算入の特例の適用期限が2年延長されます。
(3)中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例制度について、対象資産(取得価額が30万円未満である減価償却資産)のうち貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産を除外した上で、適用期限が2年延長されます。
(1)海外投資等損失準備金制度の適用期限が2年延長されます。
(2)交際費等の損金不算入制度および接待飲食費に係る損金算入の特例制度の適用期限が2年延長されます。
(3)少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度について、対象資産(取得価額が10万円未満の減価償却資産)のうち貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産が除外されます。
(4)一括償却資産の損金算入制度について、対象資産(取得価額が20万円未満の減価償却資産)から貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産が除外されます。
(1)過大支払利子税制について、国内に恒久的施設を有しない外国法人の法人税の課税対象とされる以下の所得も、過大支払利子税制の適用対象となります。
①恒久的施設を有する外国法人に係る恒久的施設帰属所得以外の国内源泉所得
②恒久的施設を有しない外国法人に係る国内源泉所得
(2)保険会社等に関する外国子会社合算税制(CFC税制)の適用については、特定外国関係会社等の判定における特例(保険委託者特例)が設けられ、一定の保険委託者は合算課税の対象外とされています。しかしながら、この保険委託者特例が、保険業法上の保険会社または保険持株会社が保有する外国保険会社を対象にしていることから、国内における中間持株会社を通じて海外に子会社等を保有する場合は、この特例の対象外とされています。2022年度税制改正により、保険委託者特例に関する「一の保険会社等」および「その一の保険会社等との間に特定資本関係のある保険会社等」によってその発行済株式等の全部を直接または間接に保有されている外国関係会社である旨の要件について見直されます。
(3)子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避防止措置(子会社株式簿価減額特例)について、①適用除外要件(特定支配日利益剰余金額要件)の判定の見直し、②適用除外基準を満たす子会社を経由した配当等を用いた本制度の回避を防止するための措置(適用回避防止規定)が不適用となる場合の拡充等が改正されます。改正は、2020年4月1日以後開始事業年度に受ける対象配当の額から適用されます(制度開始に遡及して改正を適用)。
(1)一定の内国法人が支払を受ける、以下の配当等については、配当等に係る所得税の源泉徴収を行わないこととされます(2023年10月1日以後の配当等から適用)。
①完全子法人株式等に係る配当等
②配当等の支払に係る基準日において、当該内国法人が直接に保有する他の内国法人の株式等(当該内国法人が名義人として保有するものに限る)の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1を超える場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等
(2)利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(混合配当)が行われた場合の最高裁判所の判決(2021年3月11日)を受けて、国税庁は本件最高裁判決を踏まえた今後の取扱い等(「最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえた利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の取扱いについて」)を2021年10月27日に公表しました※9。2022年度税制改正により、みなし配当の額の計算に係る「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算方法が、次のように見直されます。
①資本の払戻しに係るみなし配当の額の計算の基礎となる払戻等対応資本金額等及び資本金等の額の計算の基礎となる減資資本金額は、その資本の払戻しにより減少する資本剰余金の額を限度とされます(出資等減少分配に係るみなし配当の額の計算及び資本金等の額から減算する金額についても同様)。
②種類株式を発行する法人が資本の払戻しを行った場合におけるみなし配当の額の計算の基礎となる払戻等対応資本金額等及び資本金等の額の計算の基礎となる減資資本金額は、その資本の払戻しに係る各種類資本金額を基礎として計算することとされます。
(1)タイムスタンプの国による認定制度の創設に伴い、スキャナ保存制度等が整備されます。
(2)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置が整備されます(2022年1月1日から2023年12月31日までの間に申告所得税および法人税に係る保存義務者が行う電子取引に適用)。
※1 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2022/20211224taikou.pdf
※2 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/1119/shiryo_01.pdf
※3 新しい資本主義実現会議(第1回)資料3「新しい資本主義の実現に向けて(論点)」(2021年10月26日)
※4 「新成長戦略」2020年11月17日 日本経済団体連合会
※5 新しい資本主義実現会議(第1回)資料5 参考資料
※6 第207回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説(2021年12月6日)
※ 7 経済産業省「令和2年度経済産業省税制改正要望について」2019年8月30日https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2020/zeisei_r/index.html
※ 8 経済産業省「令和4年度経済産業省税制改正要望について」2021年8月31日https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2022/zeisei_r/index.html
※9 当該取扱いについては、当法人発行の以下のニュースレターをご参照ください。「令和3年3月11日の最高裁判所判決を踏まえた剰余金の配当の取扱いについて」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/tax-jtu/taxnews-issue193.html
PwC税理士法人
ディレクター 荒井 優美子
PwC税理士法人
シニアマネージャー 山田 盛人