【開催報告】

DEIB推進の鍵となる従業員意識改革 ―共感を高める理論と実践―

  • 2024-08-27

DEIB推進の鍵となる従業員意識改革―共感を高める理論と実践― 第2回セミナー登壇者

近年、日本企業の間に人財を資本として捉える人的資本経営の考え方が広まってきました。PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)では、人的資本経営の実現にはDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)にBelonging(ビロンギング:帰属意識)を加えた「DEIB」が重要であると考え、2024年1月より開催している全4回のセミナーにて、人的資本経営におけるDEIB戦略の実現に向けたヒントを探っています。

その第2回が2024年6月21日に開催され、第1部では東京女子大学准教授の正木郁太郎氏が、ダイバーシティがシナジーを生みだす組織文化の作り方を解説しました。また第2部では、味の素株式会社(以下、味の素)の小池愛美氏、株式会社日立製作所(以下、日立)の中田やよい氏を招いて、PwCコンサルティングの吉田亜希子、北山乃理子とともに、従業員の意識改革に向けた企業の取り組みについてパネルディスカッションを行いました。以下、各セッションの要旨を記載します。

第1部:ダイバーシティがシナジーを生みだす組織文化の作り方

〈ダイバーシティ理論から考える組織文化の重要性〉

ダイバーシティとはある集団に占めるメンバーの特徴のばらつきを指す概念です。集団の中の多様性が高まることによりさまざまな情報や視点が集まり、イノベーションやパフォーマンス向上をもたらされる可能性が高まるとされています。しかし同時に、カテゴリーに分類して理解する人間の思考により、集団が分断されやすくなります。この2つの対比した考えから、ダイバーシティは諸刃の剣とも言えます。

ダイバーシティの良い効果を強めるには主に2つの方法があります。

①仕事に直接影響があるスキルや経験などのダイバーシティを増やすこと
②ビジョンの設定や施策の実施など、ダイバーシティを高めることにプラスアルファで何かを行うこと
②は組織改善につなげやすいと考えます。

東京女子大学 現代教養学部 心理・コミュニケーション学科 心理学専攻
准教授 正木 郁太郎 氏

〈多様な人材が活躍できる組織づくりのために実施すべきこと〉

組織の中で施策や制度の効果を発揮するには2つの点が重要です。

  • 一貫したメッセージの発信
    ダイバーシティに関する組織文化には大きく2つのタイプがあると考えられています。属性より個性が重要という「平等型」、属性が重要で尊重されるべきという「配慮型」です。理論的には平等と配慮を両立することが大事と言われていますが、最適解は企業ごとに異なるため、業界のトレンドや組織の現状から自社の組織文化のタイプを見極めたうえで、目指していることに一貫性を持ち、発信し続けることが重要です。

  • 職場レベルの継続的な取り組み
    身近で取り組めることとしては、感謝を伝えることが挙げられます。感謝には、助け合いなどの誰かのためを思う行動を促し、人同士のつながりを深める効果があります。また相手の個性や特徴を認めて受け入れることにもつながるため、インクルージョンの本質を表しているとも言えます。

〈組織文化を醸成する際の注意点〉

意識改革のみでは不十分である理由の1つが「多元的無知」です。多元的無知とは、集団の多くのメンバーが「自分は信じていない」が「他の人は信じている」と推測することで、不本意な慣習や集合行動が生まれることです。ダイバーシティの推進にあたっても、当人の価値観に加えて適切な相互理解も促す必要があるため、意識改革以外にも分かりやすいメッセージを発信し、対話を行うことが重要です。

〈最後に〉

この領域においてはまだ不明なことが多く、さらに集団が平等に近づいた時に何が起きるかも分かりません。理論・データ・実践を組み合わせて、皆さんの会社でもチャレンジいただきたく、知見を溜め、社会を良い方向に向けて行きましょう。

第2部:従業員の意識改革に向けた企業の取り組み

冒頭、味の素と日立の両社の取り組みについてお話しいただきました。

味の素株式会社
コーポレート本部 人事部 人事グループ
シニアマネージャー 小池 愛美 氏

小池氏:
味の素では2017年からDE&Iの活動を通して、「“当たり前”をUpdateする」取り組みを行っています。当時の当社はその退職率の低さから、「味の素の当たり前」の中にある同質性の高さが課題として挙げられていました。以来、DE&I推進チームの組織風土づくりチームが中心となり、変革よりも今の社会に合わせてアップデートしていくことを伝えてきています。

当社ではコーポレート・ガバナンスに関する基本方針にも記載のとおり、「社員と会社がともに成長できる職場づくり」を目指すためにDE&Iの活動を推進しています。「DE&I推進=会社の成長のため」とし、経営戦略の一部として位置づけています。

当社の活動は2008年から始まっており、働き方改革や制度策定がすでに着手されていたことから、DE&Iを推進しやすい土壌がありました。2017年の専門組織発足以降、なぜDE&Iの推進が必要かを伝え、そのためにも、制度をきちんと使える組織風土づくりに注力しています。アップデートを促す仕組みと、柔軟な働き方・納得いく評価が得られる制度がセットで定着するようにしています。

〈最終目標は定着・DE&Iチームの解散〉

具体的には、アンコンシャスバイアスのトレーニングを全社員に対して実施するほか、評価前の(バイアスをコントロールする)セルフチェックシートの提供や、管理職の負担を減らし公平な判断を促すタレントマネジメントシステムの導入を行い、多様な価値観を企業の成長に活かせるような取り組みを行っています。当社の1つの大きなゴールとして、2030年までにDE&Iを組織カルチャーとして定着させ、専門組織が解散する状態を目指しています。

株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス人事総務本部
Chief Diversity, Equity & Inclusion Officer (CDEIO)
中田 やよい 氏

中田氏:
日立ではデータとテクノロジーでサステナブルな社会を実現していく社会イノベーション事業を推進しています。地球を守りながら、そこで暮らす世界中の人々が快適で、活躍できる社会づくりに貢献することをミッションとしています。社会イノベーションのグローバルリーダーとしてサステナブルな社会の実現に向け、人的資本の充実を経営戦略の軸に据えています。中でもDEIは多様性が大きな力を生むとして経営戦略の中でもしっかりと謳われており、組織のトップによるコミットメントは高いと思います。

ポイントとしては、“D”(ダイバーシティ)はすでにリアリティであることを出発点とし、皆が当たり前に行っている慣習なども含め“E”(エクイティ)のメスを入れ、それを活かす“I”(インクルージョン)を推進していることです。

私が2022年に入社して最初に取り組んだのは、DEIにおいてトップダウンの意味合いを強めることでした。当社の経営陣には意思決定者として、しっかりとオーナーシップを持って従業員に対しDEIの重要性を語りかけてもらうことを徹底しました。メッセージを伝えるために、ビデオやインタビューの発信を地道に進めてきました。

〈DEI・カルチャーの目標設定〉

それと併せ、ボトムアップでの仕掛けづくりにもフォーカスしてきました。特にインクルージョンを推進するために必要な「DEIの自分ゴト化」として、全社員に非財務目標を導入しました。これは、従業員一人ひとりが全体目標の5%をDEIもしくは組織カルチャーに関するゴールとして割り当てるというものです。こうして、評価の側面からも個人の行動変容を促しています。

続いて、味の素の小池氏、日立の中田氏、東京女子大学の正木氏、PwCコンサルティングの吉田亜希子と北山乃理子によるパネルディスカッションを実施しました。

PwCコンサルティング合同会社
マネージャー 北山 乃理子

北山:
小池さん、中田さん、各社の取り組みをご紹介いただきありがとうございました。DEIBに関して目指す姿に対して、現在は何合目くらいを歩いている感覚でしょうか。

中田氏:
日立は、制度や仕組みといったツールはほぼ揃っている状態なので、あとは勇気を持ってツールを使いこなすだけです。今は山を登り始めた段階です。

小池氏:
味の素でも制度は整備されており、制度活用を促すためにアンコンシャスバイアスのトレーニングを実施しているところで、4合目辺りかと。ただ、コロナ禍を経て「総論賛成、各論反対」といった揺り戻しが起きていると感じており、課題だと捉えています。

吉田:
両社とも制度は整備されており、次は社内の意識改革が課題という状況ですね。さまざまな企業と会話させていただくと、目標だけが独り歩きしてしまった結果、実際の運用が迷走してしまうというケースに遭遇することがあります。そうならないためには、ミドルマネジメントを含む現場社員の腹落ち感が重要です。

正木氏:
両社のお話を伺い、トップダウンとボトムアップの両方が重要だと改めて感じました。トップからのメッセージは、100を伝えてやっと1が伝わる程度と思いますので、一貫したメッセージを何度も発信することが求められます。その上で、ERGなどのボトムアップアプローチを考えることが大切だと思います。

 Employee Resource Group(従業員リソースグループ)の略。共通の属性や価値観を持つ従業員が自発的に形成するコミュニティを指し、課題や悩みの共有などを通じてメンバーが相互にサポートを行う。

中田氏:
まさに当社でも、戦略のキーワードである「成長」を軸に、「グロースマインドセット」、すなわち、社員一人ひとりが自身の成長に責任と組織の成長に貢献する意欲を高く持つ、というメッセージを繰り返し発信しています。成長機会の平等という観点や、日立のグローバルネットワークとつながりながら成長するという観点で、DEIにも通ずるメッセージです。

北山:
味の素では、現在の「揺り戻し」に対し、社員へどのようなメッセージを発信していますか。

小池氏:
取り組みを開始した当初、役員が自分自身の言葉で語ったメッセージ動画を配信したところ、社員の共感を得ることができました。しかし、次第にDE&Iと経営の結びつきが見えなくなり、社員の中に「なぜDE&Iを推進しているのか」という疑問が生まれてきたように思います。そこで現在は、さまざまなチャネルを通じてメッセージの刷り込みを行っています。先日は、社長が自発的に手話で冒頭挨拶を行ったメッセージ動画を社内SNSに投稿し、社員から大きな反響がありました。

正木氏:
時には失敗する姿をさらけ出しても良いので、上位者がチャレンジする姿を社員に見せることも大切ですね。そうすることにより、前向きにチャレンジできる雰囲気を社内に醸成できると思います。

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー 吉田 亜希子

吉田:
最後に、これまでのディスカッションを踏まえ、PwCが考える意識改革についてお話しさせていただきます。

一口にダイバーシティと言っても正解はなく、企業の状況や経営目標に応じてDEIB推進の効果も変わってくることを実感しています。自分の組織が今どういう状況で、そのようなコミュニケーションが必要なのか見極める必要があります。

組織の中にはダイバーシティに関して関心を持っていない層もいれば、当事者として鬱々とした想いを抱えている人もいます。この内在する課題を放置すると、ますますギャップが広がっていきます。それを食い止めるためにも、まずはみんなが安心した状況で組織としての実態を自己開示できる環境づくりが有効だと考えています。

ある意味健全なコンフリクトをどんどんオープンの場でさらけ出し、「多様な人材が存在する場ではそのようなぶつかり合いは当たり前なのだ」というメッセージングが重要だと思います。その過程を通じて、自分の組織にとってどのようなダイバーシティがより良い効果につながるかを自分で考え、自分で解を見つけることができるようになります。

そのような議論の活発化の第1歩として、トップ層が社員の見ている場でダイバーシティに対する想いをさらけ出すことが重要です。そうすることで組織の中での心理的安全性が醸成され、ポジティブな効果も生まれます。

PwCとしては、各社特有のコンフリクトを見定めたうえで、その打ち手となる意識改革やコミュニケーション施策などを皆さんと一緒に考えていきたいと考えています。

オンラインセミナー:人的資本経営の実現に向けたDEIB戦略の重要性―DE&Iのその先―(全4回)

近年、日本企業の間にも人財を資本として捉える人的資本経営の考え方が広まっています。それにより、働く人の多様性を認め尊重する従来のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に、不公平な競争環境の是正(Equity:エクイティ)を加えたDE&Iの推進が不可欠になってきました。その流れは、男女賃金差異の公表義務化により加速しています。

加えて、企業における従業員の居心地や心理的安全性などの帰属意識(Belonging:ビロンギング)が従業員のパフォーマンスに大きく影響することも分かっています。

このような背景から、PwCコンサルティング合同会社では、人的資本経営の実現にはDE&IにBelonging(ビロンギング)を加えたDEIBが重要であると考えています。

本セミナーでは、人的資本経営におけるDEIB戦略の重要性を解説するとともに、DE&Iの先のDEIBを実現する道筋を作るヒントを4回にわたってお伝えします。

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主要メンバー

吉田 亜希子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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北山 乃理子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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