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PwC Japanグループは2023年10月31日、「『価値創造経営』の実践顧客基盤 人的資本を活用した企業価値の高め方」と題したオンラインセミナーを開催しました。
人的資本経営が大きなキーワードとなり、無形資産である人材は企業の成長にとって不可欠なものであり、企業の価値の源泉であると捉える企業が増えてきました。しかし、多くの企業は人的情報の開示対応に終始しているのが現状であり、具体的な価値創造に至っていないことが課題です。
このような状況を踏まえて、本セミナーでは顧客基盤の価値向上と、人的資本に基づくマネジメント施策について解説しました。
セミナーの第1部では「顧客・従業員起点で推進する価値創造経営」をテーマとし、PwCコンサルティング合同会社執行役員パートナーの小林たくみが価値創造経営の必要性について講演を行いました。
PwCコンサルティング合同会社
執行役員パートナー
小林たくみ
価値創造経営が求められている背景には3つの理由があります。
1つ目の「危機感」は、PwCが実施した第26回世界CEO意識調査の結果に定量的に示されています。この調査は、世界105の国と地域にて4,410名のCEOから世界経済の動向や経営上のリスクと対応策について聞いた調査です(2022年10月から11月にかけて実施)。その中で、現在のビジネスのやり方を継続した場合に10年後に自社が経済的に存続できないと考えているCEOの割合は、世界全体が39%であったのに対し、日本のCEOは72%と非常に高く、経営者自身が将来に極めて強い危機感を持っていることが明らかになりました。
2つ目の「企業価値」は、経営や株価の主要な指標の1つであるPBR(1株当たりの簿価に対して株価が何倍かを示す指標)の変化から読み解くことができます。PBRは、1999年12月末の東証上場企業平均は1.5倍でしたが、2023年4月末時点では、プライム市場が1.2倍、スタンダード市場が0.8倍にまで低下しています。また、TOPIX500企業の40%以上がPBR 1倍を下回っています。このことから、経営者自身が持続性の危機感を持っているだけではなく、市場も同じように強い危機感を持っていることが分かります。
3つ目は、経営者の「成績表」に相当する開示制度の変更から読み解けます。会計ビッグバンの時がそうであったように、経営者の成績表に相当する開示制度が大きく変わっているなかでは、それに合わせて経営も変わる必要があり、経営者が経営の在り方を変えるべき時が到来していると考えています。
これら3つの理由から、企業は社内外から経済的価値と社会的価値の向上を求められ、そのために価値創造経営の実践が求められていると言えます。
また、日本は先進国の中で過去30年間、1人当たりの国民所得上昇率が非常に小さいという特徴があります。世界銀行のデータによると、1991年から2021年までの1人当たり国民所得の推移は、米国が1.66倍の上昇であったのに対し日本は1.18倍でした。
このことから、海外の企業と比べて日本企業が企業価値を生み出せていない、もしくは企業価値をマネタイズできていないことが分かります。これは、企業価値創造が日本企業の喫緊の経営課題であるということを間接的に示しています。
経営の本質は、企業価値を高めて企業の未来を作ることです。不確実性が高く、将来を見通せない状況が続いているからこそ、経営者は過去と現在だけに焦点を当てる業績管理のような経営ではなく、未来の焦点を加えて長期的に予測し、バックキャストによって価値創造のストーリーを描き、可視化することが求められます。また、そのストーリーを通じてステークホルダーの共感を得ることも非常に重要です。
これが価値創造経営の要点の1つである、「時間軸の拡張」による「志向の変革」です。
また、志向の変革によって将来を見通すことで、経営者は短期的な財務成果だけではなく、人的資本、知的資本、研究開発、サプライヤーや顧客との関係性といった無形資産にも目を向けざるを得なくなります。足元だけを見ていた時には見えなかった情報が、目線を上げて遠くを見ることによって自然と把握できるようになることと同じ原理です。
これが、価値創造経営のもう1つの要点である「価値構造の拡張」であり、価値と捉える範囲や要素を変える「思考の変革」です。
この2つのシコウ(「志向」と「思考」)によりマネジメントを変革することが、価値創造経営を実現するための重要なポイントです。
企業価値向上に資する重要な要素として、企業価値を評価する主体である「顧客」や「社会」に対する取り組みと、企業価値向上を実践する主体である「従業員」に対する取り組みが挙げられます。
企業価値を向上させる上で重要なのは良い顧客と良い関係を構築することであり、「良い顧客とはどんな顧客か」という問いを通じて、顧客に着眼した中長期的なアクションを取ることが、競争優位性の獲得と企業価値の向上につながると考えています。
また、顧客に価値を提供する従業員に着眼したアクションが重要であることは、人的資本開示が要請されていることからも自明です。
企業価値向上のサイクルは、消費と分解と生産を繰り返す自然の摂理である「生態系」に例えることができます。企業価値を評価する主体である「良い顧客」と「良い関係」を構築し、良い消費関係を構築できた暁には、それを顧客と相対する従業員が咀嚼・分解し、価値向上に取り組み、その結果を結集して、経営がより良い製品・サービスを生産し、顧客・社会に提供することが企業価値向上につながると言えます。
この消費、分解、生産のエコサイクルが「企業価値向上のサイクル」だとすれば、消費と分解を司る顧客と従業員に目を向けることの重要性をご理解いただけるのではないかと考えています。
セミナーの第2部では「顧客起点で推進する価値創造経営」をテーマとし、PwCコンサルティング合同会社ディレクターの伊藤賢が収益のトップライン向上につながる施策について講演を行いました。
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
伊藤賢
企業の売り上げ(トップライン)は成り行きで伸びるものではなく、戦略と意思を持って作り上げていくマネジメントの対象領域です。
例えば、商品やサービスのリピート率や利用継続率が高く、利益率が高い商品やサービスを購入する顧客が増えれば、中期的な収益が伸びやすくなり、経営が安定します。「どうすればもっと貢献できるか」「どうすればもっと付加価値を創造できるか」といった視点が持てるようになり、それが成長を加速させていく好循環を生み出します。
このような成果は良い顧客基盤から生まれます。良い顧客基盤を構築していくために、私たちは優良顧客(HVC:High Value Customer)を増やすことにフォーカスして、クライアントのマーケティングプランや営業プランの作成を支援しています。
その具体的な方法として、私たちはあるクライアントを支援するにあたり、既存顧客を以下の3つの観点で分析し、機械学習を用いて既存顧客の中からHVCを絞り込みました。
当社が支援したある企業の例では、既存顧客の半分をHVCに分類でき、これら顧客に重点を置くマーケティングを行う戦略をまとめることができました。また、HVCに絞り込んだ営業リソースの配置や配分を整理し、1年後には売上と利益を向上させることができました。
別の会社を支援した際には、顧客をHVCにナーチャリング(育成)していく戦略を立案しました。その結果、顧客の現状をマッピングでき、それぞれの特性を踏まえたうえでHVCに育て、売上を伸ばしていく道筋を明らかにできました。
顧客基盤価値を最大化していくためには、顧客ポートフォリオの構築と、マーケティング活動などを通じた顧客基盤価値マネジメントの実践が求められます。
顧客ポートフォリオは、LTV(顧客生涯価値)を縦軸、顧客への投資から得られるリターンの大きさを横軸として、4象限に分類できます。
この4つのうち、LTVと投資によるリターンが両方大きい層(左上)はHVCで、さらなる投資によって売り上げを伸ばしていくことができます。つまり左下や右上の顧客をどのようにして左上の顧客に育てていくかが、顧客基盤価値マネジメントの重要な論点となります。
そのための方法は、顧客基盤の現在価値を高めることです。現在価値は、顧客を「HVCの強化対象か」「維持対象か」「HVC候補か」といったセグメントに分けて貢献利益を見ます。
また、顧客基盤の現在の価値を継続的に高めていくことも重要です。そのためにはマーケティング戦略、組織、オペレーション、人材を正しく整備する必要があり、「マーケティング戦略を実行できているか」「実行状況の振り返りができているか」といったことも確認する必要があります。
ここで重要なのは、自分たちにとってのHVCを定義することです。具体的には、売り上げへの貢献や成長性という点で顧客の経済性は重要ですし、自社の戦略や顧客ニーズと合致しているかどうかも重要です。コミュニケーションやエンゲージメントも重要です。コミュニケーションが取れる顧客、エンゲージメントが高い顧客の方が戦略を実行した時の影響力も大きくなるはずだからです。
顧客ポートフォリオについては、大きい顧客ほど売上貢献度も大きくなります。ただし、大きな顧客は失った時の売り上げへのダメージが大きくなるトレードオフであるため、特定の大口顧客に依存しすぎず、資産運用のポートフォリオと同じようにリスク管理の観点も踏まえてHVCを定義していくことが大事です。
価値創造経営を実現するためには、顧客ポートフォリオの最適化にコミットすることが重要です。その役割を担う人を私たちはCCPO(Chief Customer Portfolio Officer)と呼んでいます。CCPOは、事業単位ではなく顧客単位でPDCAを回し、事業部門単位ではなく事業横断で顧客にアプローチする組織づくりが求められます。
また、事業は人が行いますのでコア人材の獲得も不可欠です。コア人材は、スキル、会社に関するナレッジ、周囲への影響力を持つ人が理想的です。
企業の目標が継続的な成長を実現していくことであるとすれば、顧客基盤価値マネジメントは経営の本丸です。顧客起点で売り上げを伸ばしていくことを経営アジェンダの重要なイシューと捉えて、顧客基盤価値マネジメントに取り組んでいくことが重要です。
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
土橋隼人
事業戦略の実現に貢献する人材を獲得し、その人材を引き止めるための施策をいかにして講じるかは、多くのCEOにとっての重要な課題です。しかし、日本企業の人材投資額(OJT除く)を見ると、1980年代をピークに下がり始め、2000年以降は急激に下がっています。海外と比較しても、米国やフランスがGDP比で2%前後、ドイツ、イタリア、英国が1%の投資をしているのに対し、日本は0.1%とかなり低い水準にあります。
外部環境を見ると、日本国内の労働力人口は2000年前後をピークに右肩下がりであり、2010年に8,000万人だった労働力人口は2040年には5,700万人にまで減ると予測されています。また、国内の人材投資水準が低い一方で、機関投資家は人材投資や人的資本への関心が高く、人材の力が今後の企業の収益性に影響を与える、人的資本が企業の将来の成長性を左右すると考えられています。
このような背景から、企業は企業価値向上につながる人材への投資を行い、その取り組みや効果を外に向けて示す必要性が増しています。
人材マネジメントに関する日本企業の取り組み状況を把握するため、PwCは日本企業600社を対象に人的資本の情報開示についての実態調査を行いました。また、各社の取り組み状況をまとめ、人事施策と事業戦略や財務指標との連動性を縦軸、人的資本を高めるアクションへの落とし込み度合いを横軸として、4タイプに整理しました。
結果をマッピングしてみると、人材への投資に係る施策を紹介する企業は2017年から21年の期間で増えていますが、事業戦略などと連動させた人材マネジメントを行っている企業はいまだに少ないのが現状です。
この状況を変えていくために、私たちが提唱しているのが人的資本KPIツリーの活用です。
このツリーは、売り上げ増加やコスト減少といった財務価値を出発点として、そのためにどんな事業や施策を行っていくかを考えていきます。例えば、売り上げ増加のために海外に拠点を広げる場合には「海外拠点のマネジメントができる人が必要である」、新規事業を立ち上げるなら「アプリ開発の担当者が必要である」など、必要な人材像が質と量の観点から明らかになります。必要な人材像が見えれば、既存社員のスキルや経験などと照らし合わせることで、「新たな人材を採用する」「既存社員を育てる」「外部に依頼する」といった対応方法が絞り込みやすくなります。
このように、人材のタイプと充足の施策をトップダウンで考え、それぞれの項目についてKPIを設定して進捗を追っていくことが人的資本KPIツリーのコンセプトです。
ツリー化のポイントは3つです。
1つは、事業戦略との連動性を確認・検証することです。前述の調査結果からも読み取れるように、事業戦略などと人事マネジメントが連動してないケースが多いため、トップダウンで考えることでこの課題を解決できます。
2つ目は、戦略実現に必要な人材を調達し、調達した人材を引き止めるために動機付けていく施策についての抜けや漏れを防ぐことです。質と量の両面で人材を確保できても、エンゲージメントやウェルビーイングの観点が欠けると彼らが発揮できる能力が制限されてしまいます。
また、企業それぞれのカルチャーも重要です。社員同士のコラボレーションを生み出し、活性化させていくために、どういったカルチャーの中で働くことが望ましいのかを考える必要があります。
3つ目は、ツリーで示すそれぞれの項目にKPIを設定し、人事施策の効果を検証することです。人材育成の施策では外部研修などに力を入れる企業が多いのですが、それが戦略実行につながる人材やスキルの充足につながっているかというと、そうとは言い切れない企業は少なくありません。それを防ぐためにはアウトプットに注目して検証を行う必要があり、そのためにはKPIを設定することが重要です。
人的資本経営の実現に向けては、人事部門が3つの点でマインドを変革することが大事です。
1つ目は、トレンドありきの人事施策ではなく、事業戦略から落とし込んでいくことです。人事の領域は、他の分野に比べて流行語に左右されやすい傾向があり、例えば「成果主義」などその時々のトレンドに影響を受けることが多く、自社の目標や戦略との連動性について本質的な議論しないまま採用を進めてしまうケースが散見されます。その点、目標や事業戦略からスタートするツリーの活用は、この状況を変えていく1つの方法になり得ます。その上で、経営層や各部門のリーダーも人事の議論に加わり、必要な人材について考えていくことが重要です。
2つ目は、今の延長ではなく、未来からのバックキャストで考えることです。しかし現実には、人事戦略は現状の採用や雇用の状況、人件費予算などから成り行きで考えてしまうケースが多く、事業戦略と獲得する人材との乖離が生じてしまう可能性があります。そうならないためにも、まずは企業が目指す中長期の目標を明らかにし、そこにたどり着くために必要な人材の要件を割り出す必要があります。
3つ目は、データを踏まえて人事施策を遂行していくことです。「人事は勘と経験と度胸」と言われることが多く、データで示せない領域と考える人もいます。しかし、事業部門と同じ土俵で議論していくためにはデータも踏まえて意思決定していく必要があります。その点、ツリーを活用すればKPIやアウトカムを定義し、データで示すことが可能となります。これらを念頭において、目標に至る道のりや進捗状況をデータで共有できる仕組みをつくり、実行していくことが重要です。
5年、10年先にわたって企業価値を高めていくためには、無形資産をいかに成長の原動力にしていくのかが問われています。そのためには、将来志向(将来・未来からのバックキャスト)と統合思考(非財務資本の活用)という2 つの「シコウ」での価値創造経営の実現が鍵となります。本セミナーでは、企業成長・企業価値の源泉となる無形資産のうち、顧客基盤・人的資本において2つの「シコウ」を用いた企業価値の高め方について、その勘所をご紹介します。
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