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本レポートでは、PwC Japanグループが掲げる7大アジェンダのうち、自動車・モビリティ産業が迎える「避けられぬ事業再編」について論じます。
自動車産業では、電動化や自動運転といったCASE対応などを背景として、次回「両利きの経営、財務管理」で論じる「両利きの経営」に加え、自社単独ではなくM&A、アライアンスなどの事業再編を活用していくことが期待されます。本稿では、変革期における事業再編のパターン、再編を通じた将来像、日系企業が直面する課題と進むべき方向性について論じます。
自動車産業は、電気自動車の普及に伴う内燃機関部品の不要化や、シェアリング普及に伴う販売台数の頭打ちなどを背景に、既存製品群が成熟期または衰退期を迎えることは避けられません。一方、新規製品・サービスの立ち上がりも不確実性をはらんでいます。
自動車・モビリティ産業における今後の事業再編は、主に以下の3パターンで進むと想定されます。
売り手企業がノンコア事業の切り出しを図り、買い手企業がスケールメリットや残存者利益を狙うパターンです。買い手がベストオーナーであれば、当該事業の成長も期待できます。
CASE、MaaS領域などにおいて、これまで自動車産業が持ち合わせていないメカトロニクス、IoTおよびAI技術、新たなエコシステムを獲得するパターンです。
自動運転のように多額の開発・生産投資を要する一方で、不確実性の高い領域では、新しい技術に広く網を掛けつつも、個々の投資リスクを分散するために業務や資本の提携、事業の統廃合が進んでいます。
事業再編の結果、「システム/サービス」「機能・感性価値」「ドミナントコモディティ(良品廉価な汎用部品)」を提供できる完成車メーカーやサプライヤーが生き残るでしょう。すでに欧米メガサプライヤーを中心に、成熟期、衰退期が迫った事業を事業価値があるうちに切り出し、導入期または成長期のシステムおよびサービスに投資する動きが見られます。また、半導体をはじめ、今後求められる機能や感性価値を有する新興企業は、既存自動車産業のプレイヤーを凌駕する企業価値がすでに認められています。さらに、中国では政策としてサプライヤーの統廃合が進んでおり、欧米サプライヤーの汎用部品領域も合わせて取り込んでいます。このような水平分業によりレイヤーマスターが台頭するグローバル競争環境下において、日本にみられる「系列」の延長にある垂直統合型の事業構造が維持されるようでは、規模の経済性でますます劣ってしまうでしょう。
これまで完成車メーカー主導のもと、安定的に事業を推進してきた自動車産業において、事業再編を行うことは一筋縄ではいきません。まず、自社ポートフォリオ内の各事業について、成長性を踏まえてバリュエーションを行い、コア・ノンコアの判定が必要です。
ノンコア事業のカーブアウトを行う場合、対象事業の財務諸表を作成し、スタンドアロン課題を特定して対応計画を策定する必要があります。しかし、カーブアウトを推進する「M&A経営人材/専門組織・機能」の不足は否めません。また、終身雇用・メンバーシップ型の事業運営の場合、一部事業を切り出すことへの抵抗が大きい傾向があります。さらに、日本には業界の再編を推進するリーダーが不足しているという課題もあります。
日本の自動車・モビリティ産業が生き残るための事業再編を円滑に推進すべく、これらの課題に対して適切なアクションが求められます。