ギャップ解消に向けて:秩序あるエネルギーシステム移行への土台を整える

エネルギートランジション

Long exposure, drone shot of cars moving in different directions at night, with triangle graphics on top
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世界が排出量の大幅削減を目指す中で、重要な技術・インフラ・投資の現在の水準と、近い将来に求められる水準との間には、未だに大きな隔たりがあることが浮き彫りになりました。

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現在、エネルギーとモビリティ分野におけるトランジションが進んでいます。気候変動がもたらす危機や混乱に対処するため、長期的な解決策に関する合意形成や、エネルギー、産業、運輸システムの脱炭素化に役立つ革新的技術の普及など、世界はすでに大きな進歩を遂げました。多くの政府や関係機関は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つことを目指す2015年パリ協定の目標に同意した上で、排出量のネットゼロ達成という大きな目標実現に向け尽力しています。気候変動問題への対応の緊急性については、明確な課題として世界的に共有されています。

すでに、政府、公益事業者、企業は100%エミッションフリーなエネルギーシステムへの移行に向けた計画を策定しています。ただし、目標設定はある程度容易であり、重要なのはその次のステップです。なぜならば、世界の現在の排出量水準および排出曲線と、2050年の目標との間には、未だに大きな隔たりがあるからです。そして、公正かつ持続可能で、経済成長を可能にする新しいエネルギーパラダイムへの移行を確実に実現するために、今私たちが取り組むべきことは膨大にあります。

温室効果ガス(GHG)排出量削減の道筋は、地球規模のエネルギーシステムの脱炭素化に密接に関わっています。2021年現在、世界のエネルギー消費量は年間624EJ(exajoules=10の18乗ジュール)にも上り、これは中国の年間エネルギー消費量の4倍に相当します。このエネルギー消費には電気、熱、輸送、そして炭化水素を用いたプラスチックや肥料の製造などを含む幅広い用途が含まれます。アジアやアフリカで経済発展が急速に進む中、毎年何百万人もの人々が、初めてエネルギーシステムとの繋がり(自家用車の購入、照明の導入、飛行機の利用など)を持つようになっています。世界のエネルギー需要は年1%ずつ増加することが見込まれ、その増加幅はイタリアの年間エネルギー需要に相当します。その結果、2050年には、エネルギー需要は2021年よりも20%増加する、とも言われています。

GHG総排出量の約73%は、エネルギー消費によるものです。私たちのエネルギーシステムは、分子と電子で構成されています。現在、一次エネルギー需要の約80%は分子によってまかなわれており、その大部分は石油、ガス、石炭などの炭化水素によって供給されています。

残りの20%は電子、すなわち電力セクターによって供給されるものです。すでに、電力の38%は原子力、水力、太陽光、風力など、CO2を排出しない技術で発電されています。

信頼性が高く、手頃な価格で、環境を汚染しない、かつ経済成長に対応でき、さらなる成長をも促せるエネルギーシステムの構築は、困難な課題です。現在実施されている調査や用いられているレトリックの多くは、最終目標、つまり30年後の私たちの姿に焦点を当てたものです。しかし、そこに到達するために埋めなければならないギャップについては、あまり注目されていません。全体的に見て、現在の状況、既存の誓約が全て遵守された場合に達成されるであろう進捗、既存の政策の中で設定されている目標、および2050年までにネットゼロを実現するという最終目標との間には、未だに大きな隔たりがあります。

特に今後数十年の間にギャップが世界全体で最も顕著になっていくのは、発電、輸送・送電網、貯留、変換、クリティカルミネラル(重要鉱物)、資金調達の各分野です。これらのギャップは互いに密接に絡み合っています。私たちが歩みを進めるためには、リーダーとなる人たちがギャップを見極め定量化し、ギャップ解消を加速させる手立てを理解し、それらのギャップを埋めるための戦略を立てなければなりません。また、全ての見通しを現実のものにするためには、集団の意思を結集し、必要な実行体制を整え取り組まなければなりません。

Chapter two

1. ネットゼロを達成するために埋めるべき主なギャップ

発電のギャップ

近年、補助金制度、税額控除、均等化発電原価(Levelized cost of electricity:LCOE)の低下などを背景に、再生可能エネルギー(特に太陽光と風力)の発電設備の導入が大幅に拡大しています。陸上と洋上におけるこうした発電設備の設置状況および設置数は、一般的な市場予測を上回っています。

世界的には、2016年から2021年の間に1,282ギガワット(GW)の再生可能エネルギー容量がエネルギーシステムに追加されました。国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、2022年から2027年の間に、さらに2,400GWの再生可能エネルギー容量が追加導入されると予測しています。しかし、世界が2050年までにネットゼロを達成するには、設備容量を2021年の水準の8倍にあたる27,000GW以上に増大させる必要があります(図表1参照)。再生可能エネルギーの設備構築を加速することは、現在の消費電力の脱炭素化だけでなく、輸送や家庭用暖房のような一次エネルギー消費の分野において、炭化水素分子を確実にカーボンフリー電子に置き換えるためにも必要です。

図表1 加速が求められる発電容量の計画的拡大
  1. Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZEシナリオ):2050年のCO2排出ネットゼロ達成を想定したシナリオ
  2. Announced Pledges Scenario(APSシナリオ):未実施のものも含め、政府の発表済み公約が仮に全て実施された場合のシナリオ
  3. Stated Policies Scenario(STEPSシナリオ):すでに公表や実施がされている政策に限定して推計したシナリオ

送電網のギャップ

発電は、脱炭素化の最初の一歩に過ぎません。洋上に浮かぶ風力タービンや砂漠に設置された太陽光パネルで発電された全ての電力を、消費者の元に届けなければなりません。供給を効率的に需要に結びつけるには、送配電インフラに投資する必要があります。送電網の拡大と強化は、コストと時間を要する取り組みです。過去10年の間に、世界は年間平均3,000億米ドルの投資を行ってきました。IEAによれば、2030年代には年間投資額を5,600億米ドルから7,800億米ドルの範囲にまで引き上げる必要があるとされています(図表2参照)。

ただし、資金さえ調達できれば送電網を拡大できるわけではありません。長期に及ぶ許認可手続き、複雑な技術、技能を有する労働者の不足など、解決すべき課題は他にもあります。しかもこれらの課題がコスト増加の要因となる可能性があります。政府は、政策やライセンス制度の導入、プロジェクトの承認や開発に必要な時間の短縮、投資に対するインセンティブの提供において重要な役割を果たします。さらに、エネルギー生産の分散化が進み、電気をより長距離に送る可能性が高まるにつれ、送電ロスの少ないシステム運用能力がますます重要視されるようになるでしょう。

図表2 世界の送配電システムへの投資を3倍にする必要がある

貯留のギャップ

太陽光や風力による発電量は季節や天候に左右されるなど、再生可能エネルギーは得てして断続的な性質を持っています。一方、電力需要は比較的一定で予測可能です。このため、送電網の脱炭素化を確実に実現するためには、電池や揚水発電のような形で、かなりの量の蓄電を可能にする仕組みが必要です。電力を貯留することで、需要に応じた柔軟な供給が可能になるだけでなく、補助的な送電網サービスとしても利用可能になるため、高価な送配電プロジェクトの事業費を削減できます。

系統用蓄電池に対しては、多額の投資が行われています。2022年には、世界全体で16GWの系統用蓄電池が新設されました。IEAによれば、ネットゼロの目標に到達するためには、2050年までにこれを2021年比で143倍に拡大する必要があり、2022年から2030年の間に年間の追加容量を平均80GW以上にまで引き上げなければなりません(図表3参照)。

図表3 143倍もの蓄電容量が今後必要に

変換のギャップ

全ての化石燃料は、水素と炭素からなる炭化水素で構成されています。これらの伝統的な分子の用途は、貯留、発電、暖房、車の動力源、肥料やプラスチックのような製品の原料など、無数にあります。そして、私たちは今後数十年にわたりこれらの炭化水素を大量に必要とすることでしょう。世界の一次エネルギー消費を電化することは、間違いなく不可能です。例えば、飛行機は航空燃料以外の何かを動力とするには程遠いのが現状です。事実、IEAはSTEPSシナリオ(図表1注釈参照)において、従来の炭化水素は2050年になってもエネルギー需要の60%を占めると予測しています。

CO2排出量の約20%は、電化に特有の課題があり、脱炭素化が困難(hard-to-abate)な鉄鋼、セメント、アンモニア、プラスチックの4つの製品に由来しています。これらの領域では、規模と量に加え、コストの面でも、炭化水素の代替物を見出すことは困難です。意外に思えるかもしれませんが、炭化水素産業に属する企業は、エネルギートランジションを実現するために必要な資本、ノウハウ、エンジニアリング能力、規模をすでに有しています。したがって、持続可能なエネルギーシステムへの移行を確実に実現するには、こうした企業からの協力も不可欠です。

テクノロジーやイノベーション、再生可能エネルギー生産量の急増などにより、脱炭素分子がさまざまな道筋で生成される可能性があります。

再生可能エネルギーを利用した電解槽は、グリーン水素分子を作り出すことができ、さらにその水素を原料にして、グリーン肥料やグリーンアンモニアを製造できます。また、回収されたCO2を建築資材として有効活用することもできます。

現在、電解によって電子を分子に変換するのには費用がかかるため、まだ十分に浸透しているとは言えません。世界で導入済みの低炭素水素電解槽の容量は、2022年末時点でわずか1GWでした。しかし、投資は活発化しています。IEAによれば、現在進行中の全てのプロジェクトが実現すれば、2030年までに設置済み電解槽の容量は134GWから240GWに到達する可能性があります。このことから、投資規模の大幅な拡大の必要性が分かります。IEAによれば、2050年までにネットゼロを達成するには、水電解による低炭素水素の年間生産量を、現在の非常に低いレベルから、452メガトンにまで増加させる必要があります(図表4参照)。それ以外の技術では、少量の低炭素水素の生産しか見込めないためです。

図表4 今後期待の集まるグリーン水素技術

クリティカルミネラルのギャップ

ネットゼロへの世界的な移行には、再生可能エネルギーインフラ(ごく一部の例として太陽光パネル、風力タービン、蓄電池、コンプレッサーなど)の大規模展開が必要です。しかし、この前例のないハードウェアの需要は、採掘や精製から、半製品および最終製品の製造に至るまで、基盤となるサプライチェーンに大きな圧力をかけています(詳細については、Mine 2023: 第20版 エネルギー転換時代における鉱業界の変革と課題 ―重要鉱物の確保をめぐる企業動向と政府の役割―を参照してください)。

既存および想定されている生産力で、世界的な需要は満たされると考えられます。しかし、原料鉱物の中には依然として供給が不十分なものが複数あり、こうした鉱物はクリティカル(重要)と見なされています。リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト、アルミニウム、銅、白金族金属、レアアースなどのクリティカルミネラルは、電気自動車の製造および電池の蓄電容量の要となります。その結果、これらの鉱物が不足すると、エネルギートランジションのスピードと規模に重要な影響が及ぶ可能性が高いと言われています。IEAは、2050年までにネットゼロ達成を目指すためには、2030年の世界経済において、2021年の4倍量のクリティカルミネラル投入が必要になると予測しています(図表5参照)。

図表5 大規模なクリティカルミネラル新規供給が直ちに必要

資金調達のギャップ

2022年に、重大なマイルストーンが達成されました。BloombergNEF(BNEF)によれば、エネルギートランジションの投資額が炭化水素への投資額と同額の1兆1,000億米ドルに上りました。いくつかの地域でエネルギーの安全保障上の懸念から石油・ガス設備への投資が急増したにもかかわらず、この数値が達成されたのは驚くべき成果です。しかし、世界のエネルギートランジションの目標を達成するためには、より大規模な投資が必要です。IEAと気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)は、その投資の規模を、年間4兆米ドルから6兆米ドルと推計しています。

IEAは、2050年までにネットゼロ達成を目指すためには、クリーンエネルギーへの年間投資を、2023年の予測レベルである1兆8,000億米ドルから、2030年には、4兆6,000億米ドルまで大幅に増加させる必要があると推定しています(図表6参照)。このギャップの大きさは、持続可能な未来のエネルギーシステムへの移行を支える金融業界の果たすべき役割の重要性と、投資を促す政策の必要性を浮き彫りにしています。

Chapter two

2. エネルギートランジションを可能にするソリューション

上述のギャップが組み合わさると、安定が強く求められるエネルギーシステムに大きなボラティリティがもたらされることとなります。複数存在するこれらのギャップは、計画に沿って同時に埋めることはできません。早く進められるものもあれば、時間を要するものもあり、その過程で別の新たなギャップが生まれるかもしれません。すでに圧迫されている既存のシステムに、さらに負荷がかかることも予想されます。末端のわずかな変化であっても、積み上がれば供給と価格に変動をもたらす可能性があります。

エネルギーシステムの移行が複雑なものであれば、混乱が生じるのは当然です。しかし、私たちが特定した大きなギャップの数や、現状からは程遠い目標との距離が、エネルギートランジションを確実に実現することの難しさを物語っています。エネルギートランジションに必要なテクノロジーや変革の意思があったとしても、物事がスムーズに進む保証はありません。だからこそ、私たちがこの変化にどのようにアプローチし、管理するかについて、慎重かつ注意深く考えることが重要なのです。

私たちはエネルギートランジションを達成するための構想、それに必要な手段やソリューションを用意し、ギャップ解消に着手し始めています。全てのソリューションがすぐに利用可能なわけではありませんが、それらの中から、最も重要なものを紹介します。

飽くなきエネルギーへの欲求の軽減

経済成長と生産活動をエネルギー生産から切り離すことが喫緊の課題です。そのための最善の方法は、より少ないエネルギーで同量またはそれ以上の商品やサービスを生産し、効率性を倍増させる方法です。これは、世界のエネルギー消費に占める割合が不均衡な先進国にとっては特に重要です。北米および欧州は、世界人口の割合は15%であるのに対し、世界のエネルギー消費量の31%を占めています。

開発途上国は、生活の安定を確保し、生活水準を向上させるために、エネルギー消費水準を伸ばす自由を持つ必要があります。

エネルギー消費を削減するための主な手段として、技術的手段と行動的手段の2つが挙げられます。技術的手段には、プロセスの最適化、より省エネルギーな家庭用電化製品の導入、より効果的な住宅用断熱材の使用など、総合的なエネルギー効率化が含まれます。行動面では、リーダーはステークホルダーに対し、こまめに照明を消す、自動車の代わりに自転車で通勤する、あるいは飛行機の代わりに列車に乗る、といった習慣の変化を求めなければなりません。効果的なインセンティブと明確なコミュニケーションの組み合わせで、良い習慣を動機づけることができます。IEAによれば、習慣の変化によるエネルギー消費削減量は、2050年までに必要とされる累積排出削減量の4%を占める可能性があります。

電化の促進

今後数十年の間に、カーボンフリーな電力供給が世界全体で大幅に拡大されるでしょう。そこで必要なのは、かつて炭化水素に依存していた製品やサービスを電化し、カーボンフリー電気の需要を同等に拡大することです。この取り組みの例として、ガス燃焼ボイラーからヒートポンプへ、燃焼エンジンを搭載した自動車やトラックから電気自動車へ、ディーゼル船から燃料電池を搭載した船舶への転換や、芝刈り機、フォークリフト、建設機械などの電動化が挙げられます。まさに、大きなモメンタムが形成されつつあります。2022年、EUではヒートポンプの売上がボイラーと炉の売上を上回りました。そして、世界の全新車乗用車販売台数に占める電気自動車のシェアは、2020年のわずか5%から、2022年には15%に達しました。

炭化水素消費の脱炭素化

可能な限り、炭化水素をグリーンな代替物に置き換えることが重要です。

プラスチックから有機系包装への代替や、灯油から持続可能な航空燃料(SAF)への転換など、バイオ系原料への転換などが有効です(詳しくは、Sustainable aviation fuels cost less than you thinkを参照してください)。

すでにさまざまな企業が、脱炭素化が困難(hard-to-abate)な分野のサプライチェーンを構築するための措置を講じています。スウェーデンに本社を置くH2 Green Steel社は、世界の年間鉄鋼生産量の1%に相当する5メガトンの鉄鋼を2030年までに生産する能力を持つグリーンスチール工場を建設しています。同社はすでに自動車メーカーに鉄鋼を供給する合意書を結んでいます。

ストックとフローの管理

中央銀行は、通貨の安定に責任を持ち、短期的な政治的関心や目的とは独立して、完全雇用の奨励や物価の安定の維持などの政策を講じます。エネルギートランジションを確実に実施するためにも、エネルギー供給の安定性を確保しつつ、ネットゼロの目標達成に向けた前進を促すという使命を持った、中央銀行のような存在が必要であることは明らかです。

このエネルギーシステムにおける中央銀行は、既存の国際機関の中で発展する可能性があります。各国が高い政策目標を掲げた後、達成に向けて実行に移るためのサポートに注力していくことになるでしょう。このようなアプローチは、地域的または世界的な開発における各国の実行の足並みを揃え、システム内の炭素コストを設定された総合的な政策目標と整合させ、安定性を確保し維持するためのエネルギー源のストックとフローに関するインサイトを提供するのに役立つでしょう。

Chapter two

3. グローバルな未来への構想

私たちが特定した数々のギャップを埋めることは、現代の大きな課題であり、急務であり、チャンスでもあります。エネルギートランジションを確実に進めるためには、現実を見据えた上でしっかりと調整された、有機的で包括的なロードマップが不可欠です。エネルギーのロードマップは、以下の一連の相補的な設計原則に基づいて構築されます。

目標を達成するための詳細かつ具体的なステップにフォーカスする。

橋の建設にたとえると、1枚ずつ着実にスラブを組んでいくことで、丈夫で長い橋が建設されます。私たちが取り組もうとしているアジェンダは、広範で深く、そして何十年にも及ぶものです。短期的なインセンティブを長期的な目標から切り離すことが、今後ますます重要になります。

真にグローバルな視野を持つ。

各国が、自国での取り組みと、地域や世界の発展との足並みを揃えなければなりません。移行期には相互依存の度合いが高まり、ある国での脱炭素政策と執行のスピードが、エネルギー価格設定と利用可能性に影響することで、他の国にも直接影響を及ぼすようになるためです。

手頃な価格設定、供給の安定性、持続可能性の間で適切なバランスを取る。

炭化水素が今後数十年にわたって存在することはどう考えても明らかです。2050年までにネットゼロを達成するシナリオにおいても、石油・ガスの消費は2050年も続くとIEAは予測しています。その時点で、一次エネルギー需要のおよそ18%が炭化水素分子によって供給されることになります。これらの重要なエネルギー源への過小投資は、需給のミスマッチにつながりかねません。価格が突然変動したり高騰したりすることにより、全てのシステムが不安定な状態になる可能性があります。移行期には、手頃な価格設定、供給の安定性、脱炭素化に向けた進展という複数の目的のバランスを取ることが、極めて重要です。

ソリューションを定義する際には、サプライチェーンのダイナミクスを考慮する。

エネルギートランジションには、大規模で有機的かつ組織的な変革が必要です。すなわち、電気自動車の生産能力、クリティカルミネラルの供給量、電力の生産量、充電能力などを、全て同時に急速に増強させなければなりません。この変革は、間違いなくサプライチェーンを圧迫するでしょう。投資を決定する際には、リーダーはより広範なサプライチェーンのダイナミクスを考慮すべきです。新しい採鉱現場の建設には長いリードタイムを要することを把握し、豊富に得られる資源を利用したソリューション(特に蓄電池)の導入を検討したり、輸送に伴う排出量を削減できる地域生産のハードウェアに着目したりすることなどが含まれます。

GHG排出量削減への影響力とコストの両面から、ソリューションの優先順位を決定する。

エネルギートランジションは、気候変動対策とGHG排出削減の必要性によって突き動かされています。GHG排出量を削減する技術的ソリューションは数多く存在します。しかし、これら全てのソリューションを同時かつ即時に実行することはできないため、送電網・インフラなどの長いリードタイムを持つソリューションへの投資を維持しながら、インパクトとコストに基づいてその他のソリューションの優先順位を決定する必要があります。さらに、重大なトレードオフを理解し、評価しなければなりません。例えば、原子力発電は排出量を伴わないベースロード電力を供給できる一方で、莫大な資本や時間、多大な政策支援を必要とします。

Chapter two

4. ギャップ解消のための橋渡し

橋を建設しようとする場合、建築家、技術者、環境問題研究者、金融業者、鉄鋼労働者、クレーンオペレーターなど、豊富な専門知識を持つ専門家が集結します。同じように、現在私たちが置かれている状況と、脱炭素化が実現した未来とを結ぶ架け橋を造るためには、膨大な協力、信頼、相互の善意が必要になります。成功のためには、官民および金融セクターのリーダーからなる巨大な連合体を構築するとともに、より広範な社会や主要産業を巻き込む必要があります。そのためには、まず気候変動の影響と私たちが直面する共通の課題を明確に説明し、現代の暮らしと経済におけるエネルギーの役割を理解し、それぞれの地域や国の具体的なロードマップを人々とともに作成し、人々がその恩恵を確実に享受できるようにすることが重要です。

世界的なネットゼロ達成という挑戦に立ち向かうとき、私たちは皆、地球の持続可能な未来という共通の目標を共有していることを、決して忘れてはなりません。

※本コンテンツは、Bridging the gaps: Setting the stage for an orderly energy-system transitionを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

執筆者

片山 紀生

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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神島 文平

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小野寺 香織

シニアマネージャー, PwC Japan合同会社

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