
顧客が真に求めるパーソナライズされたロイヤルティ体験を提供するには 金銭的報酬だけではない顧客一人一人に合わせた価値ある体験を提供することの重要性
顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。本稿では、PwCが実施した顧客ロイヤルティに関する調査からの洞察を紹介するとともに、日本企業が取るべき対応策を解説します。
パーソナライズされた顧客体験の提供、コミュニティの構築、ブランドロイヤルティの獲得。表現の仕方はどうあれ、顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。直接的な収益化から、ユニークなブランド体験の推進、顧客行動への影響に至るまで、その効果は多岐にわたります。
「ロイヤルティは成長の原動力です。会員顧客はリピーターであるだけでなく、再訪時にはより多く支出し、訪問頻度も高くなります。また、友人や家族に『このホテルに泊まるべき』と推奨する傾向も強いのです」
PwCの「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ 2023年版」では、顧客ロイヤルティを獲得しているビジネス慣行と失っているビジネス慣行を明らかにしました。顧客がブランドを継続して購入または利用する主な理由について尋ねたところ、4人に1人(26%)のエグゼクティブが「顧客体験が個人的で、自分のために作られたものと感じているから」と答えました。これは、高品質で信頼性があり一貫した製品を提供することや、価格に見合った価値を提供することに次ぐ理由です。では、ロイヤルティプログラムを改善して利益を増やすにはどうすればよいでしょうか?
Q:顧客ロイヤルティを活性化させるにあたり、貴社は以下のそれぞれをどの程度優先させますか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」。対象者数:410人
本調査では、大多数のエグゼクティブが顧客ロイヤルティを高めるために顧客体験のパーソナライズを重視していると答えました。その一方で、多くの企業が適切な便益の組み合わせを見つけるのに苦慮しています。割引やリベートは、最も一般的に求められる便益ですが、他にも多くの便益が顧客の興味を引きます。多様な顧客層を満足させる柔軟なロイヤルティプログラムを作るには、コミュニティ、喜び、利便性、独自性、価値の最適なバランスを見つけることが重要です。
顧客体験において何が重要かを適切に優先順位がつけられているでしょうか?
企業は顧客に提供するものの中で製品やサービスへの簡単または迅速なアクセスを最も重視しており、ほぼ半数の企業がこれを提供しています。しかし、顧客のうちそれが最も重要だと答えたのはわずか5人に1人でした。また、ブランド間のパートナーシップは4分の1以上の企業が提供していますが、パーソナライズされたサービスにおいてそれが重要だと答えた顧客はわずか7%でした。
「膨大な数のアプリが存在し、私たちはスマートフォンのスペースを巡って競っています。顧客体験には、単なる特典や無料のものを提供するだけでなく、より深いつながりを生み出す価値のある魅力的な何かが必要です」
顧客は依然として割引を重視していますが、顧客体験の影響力は高まっています
Q:以下のパーソナライズされた体験のうち、貴社はどれを顧客に提供していますか?(あてはまるものを全て選んでください。)
出所:PwC,「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」。対象者数:410人
Q:ある企業/ブランドにおけるパーソナライズされた体験に関して、あなたにとってそのパーソナライズされた体験のどの要素が最も重要ですか?(最大3つまで選んでください。)
出所:PwC,「顧客ロイヤルティサーベイ2022年版」。対象者数:4,036人
大多数のエグゼクティブが、自社のロイヤルティプログラムが競合他社に比べて独自の便益を提供していると回答しています。
…しかし、それと同時に、圧倒的多数のエグゼクティブが、自社のロイヤルティプログラムは競合他社に類似しているとも回答しているのです。実際、さまざまな業界のエグゼクティブの91%が会員特典や他の便益を増やす必要があると回答しており、特定の業界ではさらに高い割合となっています。
Q:以下の意見にどのくらい同意しますか/しませんか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」。対象者数:410人
企業が顧客から収集しようとする個人データの量と、その顧客がより良い顧客体験を得るために共有するデータの量との間には大きな隔たりがあります。さまざまな業界のエグゼクティブの44%が、個人情報をブランドと共有している顧客はロイヤルティを示していると回答しています。この割合は、銀行では57%と高く、メディアとエンターテインメントでは27%と低くなっています。しかし、これがロイヤルティを示す方法の1つであると答えた消費者はわずか19%でした。
個人データを収集しないと答えた企業はわずか4%ですが、消費者の約5分の1(18%)は、よりパーソナライズされた体験と引き換えに個人データを提供したくないと回答しています。この数字は、高齢の消費者によってけん引されています。ベビーブーマーの約4分の1(24%)は、データを一切共有しないと回答していますが、その数字はミレニアル世代ではわずか15%、Z世代では10%にまで低下しています。
興味深いことに、若い消費者は特定のデータに対して寛大ではない傾向があり、Z世代は家族情報(世帯内の子供の数、年齢や性別など)、婚姻状況、収入を共有する可能性が最も低く、ベビーブーマー世代と同等かそれ以上です。
また、若い世代は、あるブランドと関わり合ったり、あるブランドを支持したりする可能性も高く、サブスクリプションサービスの市場をけん引しています。
「今日の消費者は、自分たちが持つ選択肢について以前よりも深く考えるようになり、自分たちの価値観と一致するブランドを選んで取り引きするようになっています」
貴社のターゲット層はサブスクリプションサービスを受け入れていますか?
サブスクリプションの種別
Q:会社によっては、ユーザーが商品やサービスにアクセスするために定期的に支払いを行うサブスクリプションを提供しています。以下の種別のサブスクリプションサービスのうち、あなたはどのサービスを利用しますか?(あてはまるものを全て選んでください。)
出所:PwC,「顧客ロイヤルティサーベイ2022年版」。対象者数:4,036人
大多数のエグゼクティブが業績不振、高いコスト、または低い利益を挙げています。
PwCは、2022年10月15日から11月22日に、消費者に関わる分野の企業の410名のエグゼクティブを対象にした調査を行いました。このオンラインサーベイの回答者には、米国のCxO、事業主、経営幹部、取締役、取締役会のメンバーが含まれています。回答者のおおよそ3分の2(64%)が、顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断において単独で責任を負っており、回答者の3分の1(36%)が顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断に対する影響力を他者と共有しています。
PwCの「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」は、2022年5月に実施した米国の消費者4,036人を対象とする「顧客ロイヤルティサーベイ」に続くものです。このオンラインサーベイの回答者は18歳以上の成人で、年齢、性別、人種、米国の地域、収入、就労状況および婚姻の有無に関して、偏りのない調査とするために人口統計上の重み付けを行いました。
上記はPwC米国が発行しているレポートを翻訳した内容ですが、PwC Japanグループでは「パーソナライズされた体験において企業が顧客にどのような便益を提供するか適切に優先順位を付けられていない」という点に着目しました。
このような事が起きてしまう原因としては、パーソナライズやサブスクリプションなどのトレンドの手法やバズワードを取り入れることが目的化してしまい、根幹となる顧客理解が十分にできていないことが挙げられます。日本でも「パーソナライゼーション」「CX」「サブスク」などはトレンドのキーワードになっていますが、トレンドの手法を取り入れはしたもののうまく軌道に乗っていないケースはよく見受けられます。手法はあくまで手段で目的は顧客体験を向上させることにあり、そのためにはまず顧客が何を求めているかを深く理解し、そこから立脚して手法が設計されなければなりません。
ではどのようにすれば深く顧客を理解することができるのでしょうか。深い顧客理解には、定量と定性を行き来しながら両輪で顧客を分析していくことが重要です。当たり前に聞こえるかもしれませんが、CDP(Customer Data Platform)などの導入により膨大な顧客データを取得できるようになった今だからこそ、改めて両輪の分析が重要であることを再認識する必要があります。定量データに偏重した分析は広く顧客を捉えられる分、一見それらしく顧客を理解できたように思えますが、定量データから導出できるのは仮説の原石と捉えるべきです。複数の顧客IDの特徴を抽象化した架空のペルソナになっていないでしょうか。描いたジャーニーはフィクションの物語になっていませんか。仮説の原石をそのまま顧客理解とするのではなく、そこから仮説をクリティカルに検証し磨きあげていくことが必要であり、実際の顧客の生の声を聴くことは初期仮説の磨き上げにおいて非常に有効なアプローチとなります。顧客自身の言葉で動機や背景、感情の動きなどを聴くことによりデータの裏にある意味や意図を捉え、仮説の修正や補強を行うことができます。そして、その仮説をさらにアンケートなどで再び定量的に受容性調査をしたり、あるいはこの時点でプロトタイプをローンチさせ実績データをもとにした定量分析で精度を高めたりしながら、顧客理解をより一層深めていくことができるのです。
PwC Japanグループでは定量と定性を行き来する深い顧客理解において多くの支援ケースを有しており、本稿では、改めて重要性を説いた顧客インタビューの一例をご紹介します。
顧客戦略立案に向けよく実施するアプローチは以下を繰り返すことです。
①初期仮説の構築
②データ収集とAIを活用したその定量分析(クラスタリング等)
③分析結果の解釈(顧客理解の仮説構築)
④インターロックによるその仮説の検証および理解の深掘り
⑤戦略への展開
⑥戦略の展開結果の分析…①へ
特にAIを用いた分析は非常にパワフルで、初期仮設の具体性が一定以上であれば、かなり切れ味の鋭い結果を導き出します。ただ、この分析結果はあくまで「数字」であり、無味乾燥です。したがって、顧客理解を深めるには定性データを分析し「腹落ち」を目指す必要があります。「腹落ち」すれば戦略の質が向上し、また戦略の推進力もアップします(PwCはアナリストやデータサイエンティストがデータを分析しただけで、現場感のあるメンバーが「腹落ち」するレベルまで至らないケースでは、分析がリアルなビジネス成果につながることが少ないことも経験しています)。
定量のみならず定性情報も重視し、深く顧客を理解することを心掛けることが肝要です。
顧客は間違いなく時間とともに変化していくため、定量と定性を行き来した分析を一時的に行うのではなくループし続けなければいけません。言い換えれば顧客理解は一度で完結するものではなく必ずどこかで理解できていない部分が出てきます。そのため、十分に顧客を理解できていなかったとしても、それを失敗とせずにそこからまた新たな仮説を生み出し検証していけばいいのです。終わりのない分析に失敗はなく、常に過程であるというマインドセットが顧客理解において最も重要なのかもしれません。
※本コンテンツは、Beyond the Benjamins: Giving your customers what they actually want in a personalized loyalty experienceを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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