データマネタイゼーションの実態と成功の要諦【後編】

成功のカギは、早い段階からの「仲間探し」

スマートフォンやIoTデバイスといったデジタル機器の普及および多用化、インターネット通信の高速化、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う生活環境の急激なデジタル化――。このように、企業が自社の保有するデータを「資産」として活用し、事業活動に付加価値を創出する「データマネタイゼーション」の機会はますます増加しています。

本稿では「データマネタイゼーションの実態と成功の要諦」と題して、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のデータ・アナリティクスチームが実施した「データマネタイゼーション実態調査2022」をもとに、データマネタイゼーションの実態や現在の潮流、事例とともに、データマネタイゼーション成功へのポイントを前後編に分けて解説します。後編となる今回は、データマネタイゼーションの実際の事例とともに、成功に近づくためのポイントを解説します。

データマネタイゼーション推進上の課題

データマネタイゼーションを推進する上での課題としては、「データを適切に扱えるスキルを持った社員がいない」(13.7%)、次いで「自社のどのデータがマネタイズに適しているのか分からない」(11.3%)、「データをマネタイズするためのアイデアがない」(11.1%)の順となりました(図表1)。

データマネタイゼーション推進上の 課題

最も回答の多かった「スキルを持った社員がいない」は、データマネタイゼーションに限らず、これまでもデータ活用に取り組む多くの企業が直面してきた課題ですが、「どのデータがマネタイズに適しているのか分からない」「マネタイズのアイデアがない」という回答は、特にデータマネタイゼーション検討における特有の課題です。以降では、これらデータマネタイゼーション特有の2つの課題に着目し、実際の事例を踏まえた検討すべき論点を解説します。

課題1.「どのデータがマネタイズに適しているのか分からない」に対して

自動車業界では長年、車載機器から得られる情報(テレマティクスデータ)の活用が模索されていました。従来、テレマティクスデータは業務効率化やサービス品質向上など、あくまで自動車向けのデータ活用が一般的でした。例えば機器搭載車両の管理やデータを用いた渋滞予測・ルート予測などが挙げられます。

しかし、近年では保険業界におけるテレマティクス保険への活用や、小売業界の商圏分析、ゲーム業界などからの引き合いが増えています。自動車業界以外からの需要があることが分かり、同データの価値が見直されるきっかけとなりました(図表2)。

自動車テレマティクスデータが異業界で ニーズあり

この事例から言えるのは、自社が保有するデータの価値を正しく評価するためには、同じ業界内に留まらず、広くさまざまな業界からの需要を把握する必要があるということです。データの価値は、それを利用する企業や、その結果もたらされるインパクトの大きさによって、初めて評価可能となります。

成功のカギ:足りない知見は外部から補う

実際にこれを実現するためには、幅広い業界に精通し、かつそれぞれの業界におけるビジネスへの深い知見が必要となるため、企業が単独でデータの価値を適切に評価することは極めて困難と言えるでしょう。自社でカバーしきれない領域や知見については、社外の第三者へ協力を仰ぐ、異業種間の企業交流を目的とするコンソーシアムに参画するなどの姿勢がカギになります。

PwCコンサルティングでは、世界154カ国のPwCネットワークを活用して最先端のデータ利活用事例をテンプレート化・ユースケースDB化を行っており、その数はおよそ全世界で2,000件超に及びます。これらを活用することで、企業が求めるデータやデータ利活用の取り組みを業界横断で把握でき、データの価値の見極めと、データ利活用のアイデア創出支援が可能です。

課題2.「マネタイズのアイデアがない」に対して

ある欧州の送電事業者では、過剰な電力供給や供給量の圧迫を防ぐための新たなビジネスモデルが求められていました。しかし、電力需要は需要家の種類や場所、タイミング等によっても変化するため、それらを送電事業者がつぶさに捉えることは非常に困難でした。

そこで送電事業者は、需要家ごとの電力需要を束ねてエネルギーマネジメントを図る「アグリゲーター」との協業により、電力需要の正確な予測を実現。電力調整のプラットフォームビジネスの具体化を果たしました(図表3)。

送電事業者とアグリゲーターが協業して 新たなビジネスモデルを構築

成功のカギ:企画・構想の段階から共に検討できる仲間を探す

前述の事例では、送電事業者には「電力供給を調整したい」というミッションはあったものの、具体的にはビジネスモデルの検討の段階において自社単体では制約が存在していました。そこで、アグリゲーターという「外部企業との協業」の選択肢をとることで、双方が保有する情報を組み合わせた具体的なアイデア創出に至ることが可能となりました。優れたビジネスアイデアの創出のためには、自社だけに留まらず外部からの知見をどれだけ取り込めるかが重要です。データマネタイゼーションにおいても例外ではなく、異業種の社員の採用や自社社員の他業種への出向、オープンイノベーションで自社データを公開し他社からの事業化提案を受け付けるなど、積極的な異業種交流を通じた「仲間探し」がデータマネタイゼーション成功のカギとなります。

しかしながら、社外の企業を巻き込むことはそれだけ検討の難易度を高めることにも繋がります。協業先の企業を適切に選択し、多岐にわたるステークホルダーに対し、魅力的なエコシステムを描けるかどうか、がポイントとなるでしょう。PwCコンサルティングには、データアナリティクス、サイバーセキュリティ、企業間エコシステム形成(アライアンス)など、クライアントのデータ利活用推進を網羅的に支援するための複数の専門チームが存在します。各専門チームと連携し、協業先や協業スキームの検討、データの外部提供リスク評価等を一貫して支援することで、ビジネスアイデア企画・ビジネスプラン具体化を推進することが可能です。

終わりに

本稿では、全2回にわたって、データマネタイゼーションの基本的な考え方から実現における課題、具体的な事例を踏まえた対応策などを取り上げました。データマネタイゼーションの市場はまだまだ各社が試行錯誤を重ねている段階であり、参入する全てのプレイヤーにチャンスが存在しています。本稿がデータマネタイゼーションを検討される企業への一助となれば幸いです。

データマネタイゼーション支援ソリューションのご紹介

上記のデータマネタイゼーション課題に対し、PwCコンサルティングではデータマネタイゼーション実現を目指す数々のクライアントを支援してきた知見を集約した「データマネタイゼーション支援ソリューション」を提供しています。現在保有するデータのマネタイズ可能性を評価する「アセスメント」、目指すゴールやトレンドを加味した「計画策定」、計画に基づきマネタイズ実現に向けて必要な支援を実施する「実行推進」の3ステップで支援します。

データマネタイゼーション支援ソリューションの アプローチ

詳しくはこちらをご覧ください。

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主要メンバー

藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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河野 美香

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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辻岡 謙一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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宿院 享

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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