
COOやオペレーションリーダーが取り組むべきこと PwCパルスサーベイに基づく最新の知見
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
企業がオペレーションおよびサプライチェーンの改善を目指してさまざまなテクノロジーに多額の投資を行う場合、多少の試行錯誤はつきものです。しかし、PwCが実施した「オペレーションのデジタルトレンド調査 2024」の結果からは、依然としてあまりにも多くの難題が発生していることが分かりました。このことは、CxOや株主にとって受け入れ難い事実と言えるでしょう。
600名のオペレーションおよびサプライチェーンリーダーを対象とした本調査では、新たなテクノロジーに期待する成果と現実との間には大きなギャップがあることが分かりました。このギャップは、成果にこだわるリーダー達の*1、自社のオペレーションおよびサプライチェーン全体でより多くの価値向上を目指そうとする努力を妨げると考えられます。さらに、世界のCEOの45%が、現在のビジネスのやり方を継続した場合、10年後には自社が存続していないと考えていること*2を踏まえると、容認し難い問題でしょう。
多くの企業が、オペレーションのデジタル化に向けて、多様なテクノロジーに投資しています。クラウド(62%)と機械学習を含むAI(55%)への投資が最も多く、ERPの機能強化・拡張(27%)とデータエコシステム(33%)への投資が最も少ない結果となりました。各種オペレーション領域において、テクノロジーが最も活用されているのは品質管理で、AIやオペレーション可視化・分析に関するテクノロジーが導入されています。テクノロジーの活用度が最も低い領域はサービスと保守で、計画、調達、製造、流通の活用度合いは中間レベルにあります。
そういった状況下で、オペレーションへのテクノロジー投資から期待する成果を十分に得られていないことに対して、調査回答者の69%が1つ以上、半数以上(59%)は2つ以上、37%は3つ以上の理由を挙げました。期待する成果を十分に得られていないと回答した割合は、昨年の調査からは減少したものの、依然として調査回答者の3分の2以上がテクノロジー投資の期待成果の不足を主張している事実から、問題の根深さがうかがえます。
生成AIに関して、調査回答者の10人中7人が試行ないし実装していると回答しており、この結果は、テクノロジーに対する期待値の高さとも一致します。PwCが実施した第27回世界CEO意識調査でも、世界のCEOのうち7割が、生成AIは自社の価値創造・提供・獲得方法を大きく変えるだろうと答えています。
一方で、多様な領域に生成AIを実装済みであると回答したのは、オペレーションおよびサプライチェーンリーダーのわずか5人に1人です。加えて、各種活動に対する画一的な実装にとどまり(生成AIソリューションに関する従業員トレーニングから、生成AIスキルを有する人材やサービスプロバイダーの新規採用に至るまで)、オペレーション全体における生成AI戦略が欠如していると言えます。
支出を抑えて効率を高めたいと考えるのはごく当たり前であることを踏まえると、コスト削減と意思決定スピード向上がオペレーションのデジタル化における回答者の最も重要な目的の1つであり、総じて継続的な最優先事項として言及されることは納得がいきます。
しかし、新たなイノベーションの探索や多様なビジネスモデルの構築といった、より長期的な目的の実現に向けた投資が極めて少ないことは憂慮すべきことです。
上記の懸念は、調査結果の数字に基づいています。調査回答者の50%が、今後12カ月でテクノロジー投資予算を増やすと述べている一方(もちろん、それ自体は称賛すべきことですが)、サプライチェーンネットワークを再構築したという回答はわずか36%であり、オペレーティングモデルを変更したという回答は37%にとどまりました。PwCの経験上、その「再構築」や「変更」は多くの場合、ビジネスモデル全体の刷新というより、機能強化や進化の域を出ないケースが大半です。この結果は、自社の最優先事項として、サプライチェーンネットワークの再構築を挙げた回答率の低さとも一致しており、その割合はわずか26%でした。
企業は、数年にわたってデジタルスキル向上を声高に唱えてきました。調査回答者の39%が、オペレーションをデジタル化する(データ問題への対処、レガシーシステムの段階的撤廃など)うえで、デジタル人材不足が最大の障壁であると述べています。さらに、調査回答者の74%が、人材の獲得・維持は、自社の経営において中程度ないし重大なリスクであると回答しています。
これは単に口先だけの主張なのでしょうか?上記結果に反して、デジタル人材の強化、デジタル化・自動化・分析の向上が最優先事項であると答えたのは、オペレーションおよびサプライチェーンリーダーのうち、わずか3分の1未満です。また、PwCが実施した第27回 世界CEO意識調査の結果からは、経営幹部は、ミーティング・管理業務・メールに費やしている時間のうちの40%が非効率だと感じていることが分かっています。
オペレーションへのデジタル投資を行う際、企業は、自社人材に焦点を当てがちです。回答者の多くが、デジタルテクノロジーの活用方法に関する従業員向けトレーニングを強化している(87%)、デジタルスキルを有する人材を新規採用している(84%)、新たな職務のために従業員を再トレーニングしている(80%)と挙げています。一方で、全社レベルで従業員数を見直している(72%)、スキルギャップを埋めるためにサードパーティーベンダーを活用している(64%)、アウトソーシングへの依存を見直している(61%)といった回答率は、前者グループよりも低い結果となりました。
オペレーションおよびサプライチェーンに携わる人々にとって、リスクを低減し、激動の中を巧みに立ち回ることが必要不可欠です。ゆえに、人件費の高騰、人材の獲得と維持、高金利よりも、サプライチェーンの断絶(46%)、サイバー脅威と攻撃(40%)が企業経営における主要リスクに挙げられたことは当然と言えるでしょう。これらのリスクは、企業規模によらず各社のオペレーションに影響を与え得る世界的問題(例えば、米国外の規制動向(21%が主要リスクであると回答)、地政学的緊張の高まり(23%)、気候変動(25%)など)を上回る結果となりました。
このことは、長期計画にレジリエンス要素を取り入れる必要がある一方で、短期的な規制対応も必要であることを示唆しています。回答者の多くは、気候変動や貿易規制への対応よりもサイバーセキュリティやデータプライバシー要件への対応に新たなデジタル投資を行うことを予定しています。多くの企業は(仮に、サプライチェーンやオペレーションモデルの再構築の必要性を認識していたとしても)、見える範囲で漸進的に考えるにとどまり、広範かつ抜本的に考える能力が不足していると言えます。
オペレーションおよびサプライチェーンリーダーの半数強が、自社のオペレーションにサステナビリティを組み込むことへの重要性の高まりに強く同意しています。このことは、サステナビリティに関連する戦略的機会を上手く活用できている企業が一定数存在することの表れと言えます。戦略的機会とは、持続可能な製品・サービスの開発、サプライチェーン全体での脱炭素化、企業成長を牽引する要素となり得るESGに関するレポーティングなどが含まれます。多くの企業では、自社のサステナビリティ目標達成に向けてサプライヤーの巻き込みを図っているため(回答者の45%が「強く同意」と回答)、サプライヤーもまたサステナビリティへの対応を優先事項として位置付けるようになるでしょう。適切にサステナビリティに取り組むことで、新規ビジネスの成功および市場シェアの獲得により、デジタル投資の成果を得られる可能性が高まるでしょう。
今こそ、特定のテクノロジー導入にとどまらず、デジタル投資により著しい成果を生み出すために、成果へのこだわりを持ち続けながら真剣に取り組むべき時期が来ています。
*1 PwC「Become obsessed with outcomes」
https://www.pwc.com/us/en/services/consulting/business-transformation/library/digital-business-transformation-strategies.html.
*2 PwC「第27回世界CEO意識調査」
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/ceo-survey240202.html
オペレーションのデジタルトレンド調査 2024は、2024年1月から2月にかけて、600名のオペレーションおよびサプライチェーンに関わる企業の幹部を対象に実施しました。オンライン調査の回答者は、米国に拠点を置き、オペレーションおよびサプライチェーンの意思決定について単独で責任を持つ、もしくは意思決定に関して影響力を他者と共有しているCxO、経営幹部、取締役、管理職、役員となります。また、調査対象の業種は、消費財、エネルギー、電力・鉱業、医療サービス・医薬品、工業製品、テクノロジー・通信となります。
※本コンテンツは、PwC米国が公開した「PwC’s 2024 Digital Trends in Operations Survey」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
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