オペレーションのデジタルトレンド調査2024

際立った成果の創出が難しい理由と対処すべきこと

69%

のオペレーションおよびサプライチェーンリーダーが、テクノロジーへの投資から期待する成果を十分に得られていない

37%

が、自社のオペレーティングモデル(サプライチェーンネットワーク戦略、セグメンテーションなど)をここ数年内に変更している

70%

は生成AIを試行ないしは実装済み

企業がオペレーションおよびサプライチェーンの改善を目指してさまざまなテクノロジーに多額の投資を行う場合、多少の試行錯誤はつきものです。しかし、PwCが実施した「オペレーションのデジタルトレンド調査 2024」の結果からは、依然としてあまりにも多くの難題が発生していることが分かりました。このことは、CxOや株主にとって受け入れ難い事実と言えるでしょう。

600名のオペレーションおよびサプライチェーンリーダーを対象とした本調査では、新たなテクノロジーに期待する成果と現実との間には大きなギャップがあることが分かりました。このギャップは、成果にこだわるリーダー達の*1、自社のオペレーションおよびサプライチェーン全体でより多くの価値向上を目指そうとする努力を妨げると考えられます。さらに、世界のCEOの45%が、現在のビジネスのやり方を継続した場合、10年後には自社が存続していないと考えていること*2を踏まえると、容認し難い問題でしょう。

継続的に投資が行われていますが、多くの場合、目的や期待する成果が明確になっていません。

  • 多くの企業は新たなテクノロジーに投資していますが、投資先は極めて多岐にわたり、それぞれがどのように関連しているかを把握できていません。特に、統合的ソリューションにはあまり投資がなされていないケースがほとんどです。
  • 回答者のほぼ全員が、生成AIに関して少なからず取り組んでいると答えました。しかし、自社のオペレーションおよびサプライチェーンに対し、広範囲に活用していると回答したのはわずか20%で、生成AIの恩恵が得られているか否かは、現時点で、各社で差があると言えます。
  • デジタルスキルについては、依然として二の次になっています。デジタル人材の強化、デジタル化・自動化・分析の向上が最優先事項であると回答したのは3分の1未満でした。
  • オペレーションへのテクノロジー投資から期待する成果を十分に得られていない理由について、調査回答者の59%が複数の理由を挙げましたが、これは上述したことが背景にあると考えられます。

明瞭かつ一貫したビジネスケースと企業戦略がなければ、マイルストーンは変化し、短期的な利益が優先され、従来通りのビジネスからの変革は望めません。

  • 回答者の最優先事項は、引き続きコスト削減・管理と効率性向上で、長期視点での価値および柔軟性の向上につながるような戦略的な取り組みをはるかに上回っていました。
  • オペレーションのデジタル化の主目的として、新たなイノベーションの模索や、多様なビジネスモデルの構築よりも、コスト削減や意思決定スピードと質の向上が挙げられました。
  • 回答者の約半数が、サイバーセキュリティおよびデータプライバシーに関する規制や、品質・安全基準に準拠するために、新たなデジタル投資を行うことを予定しています。一方で、気候変動や貿易規制への対応にデジタル投資を予定しているのは3分の1未満でした。
  • 回答者の半数以上(53%)が、サステナビリティを自社のオペレーションに組み込む必要があることに強く同意していますが、具体的な行動に移せている企業はそこまで多くありません。

オペレーションのデジタル化における課題は山積みであり、根本的に思考を変える必要があります。デジタルに投資し、強固なビジネスケースに基づいた新たなモデルを創り出せなければ、オペレーションおよびサプライチェーンにおける、差し迫った重大課題を乗り越えることができず、長期的な成長と成功は難しいでしょう。

オペレーションの刷新と効率化に多額のテクノロジー投資を行っているものの、成果につながらない理由

多くの企業が、オペレーションのデジタル化に向けて、多様なテクノロジーに投資しています。クラウド(62%)と機械学習を含むAI(55%)への投資が最も多く、ERPの機能強化・拡張(27%)とデータエコシステム(33%)への投資が最も少ない結果となりました。各種オペレーション領域において、テクノロジーが最も活用されているのは品質管理で、AIやオペレーション可視化・分析に関するテクノロジーが導入されています。テクノロジーの活用度が最も低い領域はサービスと保守で、計画、調達、製造、流通の活用度合いは中間レベルにあります。

そういった状況下で、オペレーションへのテクノロジー投資から期待する成果を十分に得られていないことに対して、調査回答者の69%が1つ以上、半数以上(59%)は2つ以上、37%は3つ以上の理由を挙げました。期待する成果を十分に得られていないと回答した割合は、昨年の調査からは減少したものの、依然として調査回答者の3分の2以上がテクノロジー投資の期待成果の不足を主張している事実から、問題の根深さがうかがえます。

生成AIは多くの可能性を秘めているが、さらなる注力が必要

生成AIに関して、調査回答者の10人中7人が試行ないし実装していると回答しており、この結果は、テクノロジーに対する期待値の高さとも一致します。PwCが実施した第27回世界CEO意識調査でも、世界のCEOのうち7割が、生成AIは自社の価値創造・提供・獲得方法を大きく変えるだろうと答えています。

一方で、多様な領域に生成AIを実装済みであると回答したのは、オペレーションおよびサプライチェーンリーダーのわずか5人に1人です。加えて、各種活動に対する画一的な実装にとどまり(生成AIソリューションに関する従業員トレーニングから、生成AIスキルを有する人材やサービスプロバイダーの新規採用に至るまで)、オペレーション全体における生成AI戦略が欠如していると言えます。

長期的な価値向上を遂げるためには、オペレーションのデジタル化に向けたビジネスケースを練り上げる必要がある

支出を抑えて効率を高めたいと考えるのはごく当たり前であることを踏まえると、コスト削減と意思決定スピード向上がオペレーションのデジタル化における回答者の最も重要な目的の1つであり、総じて継続的な最優先事項として言及されることは納得がいきます。

しかし、新たなイノベーションの探索や多様なビジネスモデルの構築といった、より長期的な目的の実現に向けた投資が極めて少ないことは憂慮すべきことです。

上記の懸念は、調査結果の数字に基づいています。調査回答者の50%が、今後12カ月でテクノロジー投資予算を増やすと述べている一方(もちろん、それ自体は称賛すべきことですが)、サプライチェーンネットワークを再構築したという回答はわずか36%であり、オペレーティングモデルを変更したという回答は37%にとどまりました。PwCの経験上、その「再構築」や「変更」は多くの場合、ビジネスモデル全体の刷新というより、機能強化や進化の域を出ないケースが大半です。この結果は、自社の最優先事項として、サプライチェーンネットワークの再構築を挙げた回答率の低さとも一致しており、その割合はわずか26%でした。

個人のデジタルスキルを強化するだけでは不十分

企業は、数年にわたってデジタルスキル向上を声高に唱えてきました。調査回答者の39%が、オペレーションをデジタル化する(データ問題への対処、レガシーシステムの段階的撤廃など)うえで、デジタル人材不足が最大の障壁であると述べています。さらに、調査回答者の74%が、人材の獲得・維持は、自社の経営において中程度ないし重大なリスクであると回答しています。

これは単に口先だけの主張なのでしょうか?上記結果に反して、デジタル人材の強化、デジタル化・自動化・分析の向上が最優先事項であると答えたのは、オペレーションおよびサプライチェーンリーダーのうち、わずか3分の1未満です。また、PwCが実施した第27回 世界CEO意識調査の結果からは、経営幹部は、ミーティング・管理業務・メールに費やしている時間のうちの40%が非効率だと感じていることが分かっています。

オペレーションへのデジタル投資を行う際、企業は、自社人材に焦点を当てがちです。回答者の多くが、デジタルテクノロジーの活用方法に関する従業員向けトレーニングを強化している(87%)、デジタルスキルを有する人材を新規採用している(84%)、新たな職務のために従業員を再トレーニングしている(80%)と挙げています。一方で、全社レベルで従業員数を見直している(72%)、スキルギャップを埋めるためにサードパーティーベンダーを活用している(64%)、アウトソーシングへの依存を見直している(61%)といった回答率は、前者グループよりも低い結果となりました。

リスクと規制に対する長期視点の欠如-コスト増加を招く可能性

オペレーションおよびサプライチェーンに携わる人々にとって、リスクを低減し、激動の中を巧みに立ち回ることが必要不可欠です。ゆえに、人件費の高騰、人材の獲得と維持、高金利よりも、サプライチェーンの断絶(46%)、サイバー脅威と攻撃(40%)が企業経営における主要リスクに挙げられたことは当然と言えるでしょう。これらのリスクは、企業規模によらず各社のオペレーションに影響を与え得る世界的問題(例えば、米国外の規制動向(21%が主要リスクであると回答)、地政学的緊張の高まり(23%)、気候変動(25%)など)を上回る結果となりました。

このことは、長期計画にレジリエンス要素を取り入れる必要がある一方で、短期的な規制対応も必要であることを示唆しています。回答者の多くは、気候変動や貿易規制への対応よりもサイバーセキュリティやデータプライバシー要件への対応に新たなデジタル投資を行うことを予定しています。多くの企業は(仮に、サプライチェーンやオペレーションモデルの再構築の必要性を認識していたとしても)、見える範囲で漸進的に考えるにとどまり、広範かつ抜本的に考える能力が不足していると言えます。

サステナビリティに関する機会には開拓余地がある

オペレーションおよびサプライチェーンリーダーの半数強が、自社のオペレーションにサステナビリティを組み込むことへの重要性の高まりに強く同意しています。このことは、サステナビリティに関連する戦略的機会を上手く活用できている企業が一定数存在することの表れと言えます。戦略的機会とは、持続可能な製品・サービスの開発、サプライチェーン全体での脱炭素化、企業成長を牽引する要素となり得るESGに関するレポーティングなどが含まれます。多くの企業では、自社のサステナビリティ目標達成に向けてサプライヤーの巻き込みを図っているため(回答者の45%が「強く同意」と回答)、サプライヤーもまたサステナビリティへの対応を優先事項として位置付けるようになるでしょう。適切にサステナビリティに取り組むことで、新規ビジネスの成功および市場シェアの獲得により、デジタル投資の成果を得られる可能性が高まるでしょう。

期待する成果を得るために必要なこと

今こそ、特定のテクノロジー導入にとどまらず、デジタル投資により著しい成果を生み出すために、成果へのこだわりを持ち続けながら真剣に取り組むべき時期が来ています。

  • 複雑さを受け入れ、総合的に考えること。デジタル投資にありがちな複数の物事や事象が絡み合った問題の多くは、つまるところ、それぞれのチームが個別最適に陥っていることに端を発します。すなわち、エンドツーエンドで全体を俯瞰するのではなく、個別に検討していることが原因と言えます。デジタル化に向けたビジネスケースを確立するためにフロントエンドに投資し、そのうえで、長期目標達成に向けて従業員の理解を得ることを目指しましょう。
  • テクノロジーの導入は顧客と従業員双方の体験(エクスペリエンス)を考慮すること。期待する成果を得るためには、顧客と従業員それぞれのユーザーグループにとって何が必要かを見極めなければなりません。生産性の鍵として俊敏性を重視しながら、オペレーションのデジタル化は単にテクノロジーを導入するだけではないことを認識しましょう。
  • より良い意思決定を行うために、データ品質の問題を克服すること。データ品質と分析精度の向上には継続的に取り組んでいく必要がありますが、真剣にデジタル投資を行うにあたり、目的を明確にして進めなければなりません。チームを従来の働き方から変えるには、どのようにデータを発掘するか、そのデータの方向性決定や実際の成果創出に向けてどう有効活用するかについてビジネスケースを描くことが必要です。
  • 生成AIを短期的ではなく、長期的な視野で取り扱うこと。生成AIは、あらゆる可能性を秘めているにも関わらず、オペレーションにおける活用は初期段階にあります。有効活用の方法を検討することなしに性急に導入してしまうと、広範囲への適用チャンスを逃すことになるでしょう。PwCの経験上、生成AIの効果的なトライアルには、「つなげばすぐ使える」といったプラグ・アンド・プレイの考え方ではなく、入念に戦略を練ることが重要です。
  • リスクの管理範囲を広げ、ニーズをチャンスに変えること。混乱は避けられませんが、混乱によって自社のリスク管理範囲が決まるわけではありません。目の前の混乱に短期的対処をするのではなく、現行のケイパビリティを徹底的に見直すことで、自社のオペレーションを前進させ、サプライチェーンネットワーク全体を進化させられる新テクノロジーは何かを見極めましょう。
  • デジタルスキル構築を企業文化に根付かせること。新たなテクノロジーを活用し、効率性とレジリエンスを向上させるにためは、従来と異なる働き方を浸透させるための具体的なステップが必要となります。オペレーションおよびサプライチェーン各機能のデジタル化推進に何が必要かを検討することで、部門横断的なデジタルスキル再教育の規模を拡大することができます。
  • 優先事項を幅広く捉えることが、目下の懸念事項の解決にもつながることを理解すること。新たなビジネスモデルやレジリエンスの構築に積極的な企業は決して多くはありませんが、これらに取り組むことは、コスト削減や意思決定スピード向上など他の問題の解決にも寄与します。どちらか一方だけを優先するのではなく、両方に取り組みましょう。
  • ビジネス成果を測定する手段として、テクノロジーを活用すること。デジタル投資の成果を報告することは当然ながら必要ですが、成果測定の対象は、特定の部署・部門に限りません。コスト削減や収益向上の段階的実現に留まらず、新たなテクノロジーを活用することで、どのようにイノベーションを推進し、目に見える成長が実現できるかを考えましょう。

本調査ついて

オペレーションのデジタルトレンド調査 2024は、2024年1月から2月にかけて、600名のオペレーションおよびサプライチェーンに関わる企業の幹部を対象に実施しました。オンライン調査の回答者は、米国に拠点を置き、オペレーションおよびサプライチェーンの意思決定について単独で責任を持つ、もしくは意思決定に関して影響力を他者と共有しているCxO、経営幹部、取締役、管理職、役員となります。また、調査対象の業種は、消費財、エネルギー、電力・鉱業、医療サービス・医薬品、工業製品、テクノロジー・通信となります。

※本コンテンツは、PwC米国が公開した「PwC’s 2024 Digital Trends in Operations Survey」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

オペレーションのデジタルトレンド調査2024 際立った成果の創出が難しい理由と対処すべきこと

主要メンバー

田中 大海

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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藤倉 麻実子

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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向井 沙央理

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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