―会計データの標準化における2つの施策を起点として

DXの成否を決めるデータ標準化

 
  • 2021-09-14

はじめに

テクノロジーが急速な発展を遂げるにつれ、生み出されるデータ量は爆発的に増加しています。インターネット利用の増大とIoT(Internet of Things)の普及はさまざまなヒトやモノを瞬時に結び付け、相互に影響を及ぼし合う状況を生み出しました。データを活用した新たな商品やサービスも次々と登場しています。個人、企業そして社会が保有するデータを活用して、新たな付加価値を創出できるかどうかが、これからの社会における競争力の源泉になりつつあります。企業にとって、蓄積された膨大なデータの利活用は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で重要な課題となっています。
至る所で絶え間なく生成、収集、蓄積されるデータには、表計算ソフトのように「列」と「行」の概念をもつ構造化データだけでなく、テキストデータや画像データのようなデータベースで扱うことが難しい非構造化データも含まれます(図表1)。構造化データだとしても、カラムの名称や属性が揃っていない、データの粒度にばらつきがある、同じ意味でも表記が異なっているなど、データに統一性がない場合が多く見受けられます。人工知能(AI)をはじめテクノロジーを活用してデータを解析するためには、処理しやすいデータ形式への変換を事前に行う必要があり、担当者にとって大きな負担となっています。

このように、企業におけるテクノロジー導入においてデータ標準化は重要な論点です。本稿では、テクノロジー導入までのアプローチを検討し、その中でテクノロジー導入の前段階として重要となる標準化に焦点をあてます。そして、標準化の1つであるデータ標準化が必要とされる背景と世の中の取り組みを踏まえて、企業集団におけるデータ標準化を実現する2つの施策について考察します。

1.DX推進に必要な段階的なアプローチ

DXを推進する手段の1つとしてAIの開発やデジタルツールの購入が想定されます。しかし、これらのテクノロジーがそれ単体で効果を最大限に発揮することは難しいといえます。AIやデジタルツールを正しく機能させるためには、その材料となるデジタルデータが重要です。また、同一のテクノロジーを複数の業務プロセスに適用する場合、プロセスごとに開発の要否の検討や設定を行う必要があり、期待通りの効果や効率化を実現するためには段階的なアプローチを踏むことが求めらます。

テクノロジー導入までに必要となるのは、①標準化、②デジタル化、③AIや自動化といったテクノロジーの導入、という段階的なアプローチです(図表2)。テクノロジー導入の前段階として、その材料となる情報を紙媒体ではなくデジタルデータとすること、そしてデータ標準化の検討が必要です。

図表2:デジタル化の段階

図2 デジタル化の段階

出典:PwC、2021、「監査の変革 2021年版」

2.DXを推進させるデータ標準化

経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』では、わが国の企業は、多くのデータ・情報資産を保有しているにもかかわらず、各事業の個別最適化を優先してきた結果としてシステムが複雑化しており、企業全体での情報管理・データ管理が難しく全社最適に向けてのデータ利活用が困難となっていると指摘しています。そのような状況では、AI、IoT、ビッグデータなど、先端的テクノロジーを導入したとしても、その基盤たる企業のデータ利活用・連携が限定的であり、その効果も限定的となります。テクノロジー導入の効果を最大限享受するためには、まずデータ標準化を行い、企業集団全体でデータ利活用・連携ができる環境を整備する必要があります(図表3)。

本稿でいう「データ標準化」とは、データの書式や列の並び、データの入力規則などが企業ごとに異なる場合、それらを統一することを指します。データ標準化は、企業の枠を越えた横断的なデータ解析を容易にし、データ利活用・連携の促進につながります。

図表3:テクノロジー導入の効果を限定的にする事例と最大限享受可能にする事例

図表3 テクノロジー導入の効果を限定的にする事例と最大限享受可能にする事例

3.データ標準化に関する世の中の取り組み

データ標準化の取り組みには、国や業界の壁を越えて進められているものがあります。本稿では、グローバルレベルで標準化を進める機運が高まっている試算表、総勘定元帳、各種補助元帳などの会計データを事例として、ISO21378 Audit Data CollectionとXBRLGLの2つを紹介します。また、わが国において官民が協力して進めている全銀EDIシステム(ZEDI)と電子インボイスを取り上げます。

4.企業集団におけるデータ標準化の2つの施策

グローバル規模での成長や新規事業の参入を実現するためのM&Aなどにより、多くの企業が、グループ内で複数のシステムを使用しています。グループ内で異なるシステムを使用する場合、システムごとにデータフォーマットが異なるため、事前にデータを加工しなければ複数の企業を横断的に分析できないことがあります。また、データを基礎とした事業経営や意思決定を行えるようにするためにも、データ標準化が必要となります。

そこで、企業集団におけるデータ標準化を実現する施策として「システム移行によるデータ統一」と「データ標準化プラットフォーム」の構築の2つについて考察します。

システム移行によるデータ統一

システム移行とは、企業のシステムを新しいシステムに切り替えることをいいます。

どの企業においても、システム移行を避けることはできません。システムを長期にわたり使用していると、セキュリティの問題や保守サポートの終了などにより古いシステムを使い続けられなくなることがあります。新規事業の立ち上げなどにより発生した新たな業務に対応するため、追加のシステム開発を行い既存のシステムと連携するということを繰り返すうちに、システムが複雑化し不具合が頻繁に起こるようになることもあります。このようにシステムの老朽化や複雑化が進み問題を見過ごせなくなった場合、システム移行を行わなければならなくなります。また、企業買収や組織再編により、企業のグループ内でシステムの統合が必要となる場合もあります。

システム移行は、マスタースケジュールをベースにして大きく10のフェーズに分けることができ、各フェーズごとに課題、解決策、留意点を説明します。

データ標準化プラットフォームの構築

データ標準化プラットフォームとは、ERPなどで管理されている企業のデータを取り込み、標準フォーマットに変換して格納するプラットフォームを指しますいう。データフォーマットの統一を企業のシステムの外にあるプラットフォーム内で行うことで、各企業がシステムの設定や現場の業務オペレーションを変更することなくデータ標準化を実現できます。データ標準化プラットフォームによりシステム移行よりも低コストでデータ標準化を実現することが可能となり、企業間で円滑なデータ交換が促進され、企業グループにおける積極的なデータ利活用が期待されます。

データ標準化が実現すれば、会計データに含まれる取引先企業などの取引内容を示すデータや勘定科目の対応関係などにより、企業間で会計データを照合できるようになります。プラットフォーム内で会計データ同士の照合が可能となれば、その照合結果を参照することで、連結決算におけるグループ企業間の債権債務や取引の相殺を自動化し、決算業務における工数削減や決算早期化を実現できると考えています。

図表4:データ標準化プラットフォームの全体像

図表4 データ標準化プラットフォームの全体像

おわりに

本稿では、企業集団におけるデータ標準化の施策として、システム移行によるデータ統一とデータ標準化プラットフォームの構築を取り上げました。テクノロジーの発展は著しく、これからも新しい商品やサービスは次々と登場してくると見込まれます。データ標準化の取り組みが進展し、世界標準として新たなルールが整備されることも予想されます。変化の激しい時代において、既存のシステムを活かしつつ変化に柔軟に対応できるデータ標準化プラットフォームの構築は、データおよびテクノロジーの活用を企業全体で促進させる選択肢の1つとなるでしょう。

さらに企業や業界の枠を超えて、世の中全ての取引に関するデータが大きなデータ標準化プラットフォームに集約されるようになれば、取引先企業や取引日、勘定科目、金額などの取引内容を基にプラットフォーム内でデータ同士を照合し、当該取引の確からしさを検証できるようになる可能性があります。データを標準化し、データ間の照合を自動で行うプラットフォームの存在は、循環取引などの不正を識別できるようになるだけでなく、抑制する効果も見込まれます。デジタル化の加速は、私たちの生活を便利にする一方で、ディープフェイクやデータの恣意的な改ざんなどのリスクを増大させています。デジタル化社会において人々が安心して暮らすためには、経済活動や意思決定の基礎となるデータの信頼性を担保する仕組みの構築に加え、その仕組みが適切に運用されていることに対する保証が重要となります。その役割を担うのが監査法人であり、新たな監査領域に対応できるよう技術開発やスキル向上、ナレッジの蓄積に取り組んでまいります。

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