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エンベデッドファイナンス(組込型金融:銀行以外の企業が、融資、保険、デジタルウォレットなどの金融サービスを提供すること)は、かつてはレンタカー保険や小売系カード等のホワイトラベルのサービスに限定されていたが、今や金融業界におけるイノベーションと将来の成長の中心的存在となっている。
オンラインストアやアプリの購入プロセスに組み込まれている決済、ハイパー・パーソナライズされた保険、即時決済やクレジット、多種多様な従量課金制サービスモデルなど、その使用例は多い。
預金、与信、保険、投資の手段が、非金融系のアプリやウェブサイトへ統合されることが増加する中で、エンベデッドファイナンスのアプリケーション市場は、2022年の543億米ドルから2032年には2,484米億ドルと、5倍に成長すると予測されている。
市場における急速かつ広範囲なイノベーションは、既存企業がビジネスモデルを再構築し、新たな成長を実現する機会を生み出す。
これまで、新たな技術やサービスの開発は、フリクションレスな金融サービスに対する消費者の強い要望に応えようとする新規参入者や非銀行組織によって主導されてきた。
ネット銀行やデジタル化に前向きな保険会社は、引受業務から当座貸越までの従来型の金融サービスを変革し、民主化を図るプレーヤーの一部にすぎない。
例えば、顧客が多額の購入を少額支払に分割できる「後払い決済(BNPL)」は、小売ブランドの売上を増加させることもできるため、急速に人気が高まっている。その世界全体の取引額は、現在の1,418億米ドルから2026年までに5,967億米ドルに達すると推定されている。
他の業界もこの動きに参入してきており、フィンテック企業はAPI提供等によって、複雑化している金融と非金融間のやり取りを簡便化している。
また、巨大なユーザー基盤と投資体力を有する大手テクノロジー企業にとって、エンベデッドファイナンスが大胆な統合戦略を実行する大きな機会になっていることは間違いない。
これらにはデジタルIDや決済ウォレットを通じた顧客エコシステムの拡大も含まれ、その総数は、世界で現在の34億から2026年には52億を超えると推定されている。
現在、フィンテック業界を含め参入に意欲的な企業は、銀行免許を求め、そして勝ち取っている。
使いやすく、カスタマイズしやすく、アプリケーションを通じた顧客との主要なタッチポイントとなるノンバンク・プラットフォームは、銀行のビジネスモデルに重大な影響を与えている。
PwCのレポート「Retail Banking 2025 and Beyond」では、エンベデッドファイナンス領域で発展している、フリクションレスな顧客体験の提供について説明している。
従来の銀行業務では、統合型ライセンス(銀行免許)保有者がエンドツーエンドのプロセスを運営していたが、エンベデッドファイナンスでは、プラットフォーマー、イネーブラー、ライセンス保有者など、複数の異なるプレーヤーが異なる役割を担っている。
出典:PwC
一部の銀行はすでに、銀行以外のプラットフォームへの参加や提携に向けて動き始めている。
しかし、プラットフォーマーによる価格競争の動向を考慮し、提携のメリットを慎重に見極める必要もある。プラットフォームとその提携先のためにバックオフィスの金融インフラ運営だけに専念すると、銀行は最も資本負担が多く、規制が集中する活動を負うことになり、その結果、商品やサービスのエンドユーザーとの接点が減る可能性があるためだ。
銀行が独自のプラットフォームをノンバンクに開放したり、保険やコンシェルジュサービスを組み込んで旅行やモビリティなどの銀行に隣接する分野に進出したりすることで、この課題に対処している事例も見られる。
エンベデッドファイナンスが、デジタル化、顧客中心主義、エコシステムの拡大といった強力なトレンドの波に乗り、銀行を取り巻く既成概念を覆しつつあることは明白である。
従来の金融インフラ(決済、後払いサービス、貯蓄、銀行免許など)に囲い込まれていた領域にもアプリケーションが浸透するにつれ、ビジネスモデル変革の機会と影響も急速に強まっている。
エンベデッドファイナンスは、10年以上にわたり業界全体で支持されていた4つの既成概念を超越している:
こうした考えには理由がある。
銀行は国家、および地域経済に不可欠であるが故に、世界的な金融危機以降、ルールや規制が増え続け、コンプライアンス負担が生じ、銀行が割くリソースと関心は、長期的なビジネスモデル検討から遠ざかっている。
そのことが、一部の銀行における停滞の一因となり、進歩や革新を遅らせている。さらに他の要因が問題を複雑にしている。第一に、銀行は、顧客が自分たちを支えている金融商品(決済や住宅ローンなど)よりも、必要としている商品やサービス(食料品や住宅など)に執着していることを認識していない。
同時に、エンベデッドファイナンスの市場規模に関する予測の多くは誇張されていると見なされており、銀行の経営層が日々の業務とコスト削減に追われ、実際の市場動向が見落とされやすくなっていた。
最後に、一般的に金融サービスにおけるイノベーションは、地域ごとにゆっくりとしたペースで発展している(アフリカでの電子マネーの爆発的普及や、ドイツでのクレジットカードの普及の遅れなど、地域により大きな乖離がある)。そのため、フィンテックとエンベデッドアプリケーションが業界に与える影響は過小評価されがちであった。
4つの既成概念が依然として支持されていることは、根本的な発想の転換の必要性を示している。エンベデッドファイナンスがもたらす大きな成長機会を活かすために、銀行やその他のプレーヤーは、進化するカスタマージャーニーの中での自社のビジネスモデルを再考する必要がある。以下では、前述した4つの既成概念がどのように覆されつつあるのかを分析している。
キャッシュレス取引への移行や、国境を越えた即時決済ソリューション、その他の重要なトレンドも含め、過去20年間、決済市場は新規参入企業によって再定義されてきた。それにもかかわらず、既存の銀行は、決済市場において自らは比較的安全な位置にいると認識してきた。彼らは、デジタル通貨やウォレットの出現、国境を越えた決済、金融犯罪などに対処するのに最適な立場にある、信頼できる金融仲介業者として獲得した評判を頼りにしてきた。
今後数年間で、決済サービスは銀行収益の3分の1と、有用な顧客データの約90%を占めると推定されている。しかし、銀行は多数の重要なプレーヤーのうちの1つにすぎない。州ごとに決済が規制されている米国では、PayPalが決済処理と決済ゲートウェイの提供を行う多様な企業をリードしている。大手テクノロジー企業は決済分野でも積極的に活動しており、Apple Pay、Google Pay、Alipay(中国のアリババ)は巨大な顧客基盤を確立し、3つのプラットフォームを合わせると世界中に32億人以上のユーザーを抱えている。
アジアでは、多様な通貨と高度に細分化された決済環境により、他のどの地域よりも多くのキャッシュレス決済がなされている。
例えば、インド準備銀行傘下で小売支払い・決済システムの運営を統括するインド決済公社(NPCI)は、モバイル専用の即時決済システムとして大成功を収めたユニファイド・ペイメント・インターフェイス(UPI)を開発した。NPCIのデータによると、UPIは2022年半ばまでに月間60億件以上(1,000億米ドル相当)の取引を処理し、さらにアジアの7カ国に事業を拡大した。
エンベデッドファイナンスの継続的な成長は、決済分野における既存銀行からの移行をさらに加速させる可能性がある。最近のPMV(事業家的市場価値)の低下にもかかわらず、企業価値100億米ドル以上を誇る世界的なデカコーン決済サービスプロバイダー(PSP)たちの台頭により、販売者と代金支払者の双方へ優れたソリューションが提供されるようになった。
これらの企業は、単に安全な方法で決済を包括的な取引に組み込むだけではなく、フリクションレスやコンバージョンロスの低減を実現している。さらに、多くのPSPが、取引、照合、データ分析、商品の流れ、返品フローを加盟店の会計システムやERPシステムに組み込むことで、大きな付加価値を提供している。
包括的なサービスを提供するPSPは、銀行よりも高い取引単価を請求することができるうえに、市場シェアも獲得できる。また、PSPは膨大な顧客データにアクセスできるため、顧客との関係をより豊かにし、新たな商品提供を促進できる可能性がある。一方で、銀行は収益と顧客行動データを得る機会を逃すことが増えている。
多くの銀行にとって、消費者や法人向けの与信サービスは最も収益性の高い事業である。規制のハードルやリスクへの懸念が新規参入を阻むと多くの銀行が想定してきたが、これはすでに誤りであることが証明されつつある。大手ハイテク企業や大手小売企業は、主に決済やホワイトラベルの与信提供を通じてエンベデッドファイナンスに参入し、現在はエンベデッドレンディングにも進出している。これには、銀行やクレジットカード発行会社との提携、フィンテック企業の戦略的買収、さらには銀行そのものの買収が含まれる。
オンラインプラットフォームに直接組み込まれたBNPLサービスは、2027年までに世界全体で4,370億米ドルに達し、2022年の1,120億米ドルから291%増加すると予測されている。これは、Klarna、Affirm、Afterpay/Clearpayなどのフィンテック企業の成功が一因となっている。
一つの注目すべき例として、米国の買い物客が購入代金を4回の分割払いで支払うことができる、Apple のBNPL機能「Apple Pay Later」が挙げられる。この機能はApple Walletのインフラに直接統合され、決済サービスはサードパーティプロバイダーによって管理されている。
特筆すべきは、通常は銀行のような第三者のローン発行会社によって行われるはずのローンの与信判断をAppleが担い、金融子会社を通じて自社のバランスシートにローンを反映させることである。
大手小売銀行とクレジットカードネットワークは、BNPLスキームに対して予想される規制変更を活用するための体制を整えている。BNPLローンは通常無利子で提供されるため、他の金融商品と同様、規制されてこなかった。しかし、米国、英国、ドイツ、その他の国の消費者保護団体が債務と透明性の欠如について問題を提起しているため、この状況は変化すると予想される。
エンベデッドレンディングは、非金融機関の新規参入者にとっても大いに魅力的である。特にソフトウェアプロバイダーは、外部顧客データ、次世代意思決定モデル、API対応技術を活用してエンベデッドファイナンスサービスを提供している。例えば、金融ソフトウェアプロバイダーのIntuitは、会計ツールの提供だけではなく、銀行免許を持つ子会社を通じて、会計ソフトに入力された財務情報と信用履歴を利用した中小企業向け与信によるサービスを提供するまでに拡大した。
既存銀行は、特に与信サービスが消費者の購買行動や中小企業の資金運用に組み込まれるにつれて、新規参入者に与信分野の市場シェアを奪われるリスクを抱えている。こうした非従来型プレーヤーの多く、特にテクノロジー業界は従来のような信用情報ではなく、データに基づいて信用を判断している。また、顧客に明確な価値を提供し、成長を支援している。銀行は、BNPL商品を模倣するだけでは非従来型プレーヤーには追い付けず、顧客の離脱による利息収入の低下を警戒する必要がある。
2020年頃は、大手テクノロジー企業の経営者は大きすぎるリスクを恐れており、本格的な銀行免許の取得までを求めていないという意見が一般的であった。実際、この問題に規制当局がどのように対応するかは現在検討中であり、国際協力が必要になる可能性もある。
しかし、多くの大手テクノロジー企業はすでに、電子マネー機関(EMI)ライセンスとしても知られる欧州の銀行免許を保持しており、電子マネーの発行が認可されている。これは、規制された金融環境に参入する意図を示している可能性がある。
銀行は長い間、規模、顧客からの信頼、規制への精通という点で固有の優位性を持っており、そのため規制に係る全ての免許を独占する資格があると信じてきた。しかし、この考えは環境変化にさらされつつある。大手テクノロジー企業の潜在的な脅威に加え、銀行免許を持ちエンベデッドファイナンス分野で活躍するフィンテック企業の数が増加しているためだ。
例えば、オランダの決済プラットフォーマーAdyenとスウェーデンのBNPLフィンテックKlarnaは、すでに欧州の銀行免許を取得している。英国では、規制当局が2022年にフィンテック企業2社に銀行免許を認可した。1つはモバイル専用の銀行/アプリを提供するKroo、もう1つは消費者が銀行を変えることなく厳しい経済状況を乗り切ることができるプラグイン貸越サービスを提供するFiinuである。これらのフィンテック企業の多くは、既存銀行を排除する可能性のある金融サービス・エコシステムの形成に向けた動きの一部である。
銀行経営層は、より多くのフィンテック企業、特に大手テクノロジー企業が銀行免許を取得した場合に、どのようにして自行の存在意義と収益性を維持できるかを検討する必要がある。顧客の把握(KYC)など、今日の主要なコンプライアンスの課題の一部は、AIの活用により管理しやすくなり、規制当局も注目し始めている。データドリブンのコンプライアンスソリューションが一般的になるにつれ、データを最大限に活用することに優れたフィンテック企業や大手テクノロジー企業は、規制要件の順守を達成するための障壁を乗り越えやすくなるだろう。そして、一人勝ちシナリオに潜む報酬は、銀行免許の取得を本格的に促すのに十分に値する可能性がある。
イノベーションに占めるメイン口座の役割を過小評価するべきではない。
顧客によるエンベデッドファイナンスサービスの利用はコアバンキング業務を補完するもの、あるいは純粋に新規消費者を開拓するためのものと解釈されることが多い。
この考え方は、銀行がメイン口座を所有し、中核的な顧客層に対する現在の役割を維持することが前提となっている。
銀行口座は顧客データの重要な情報源である。顧客データを使用することで、フリクションレスな製品やサービスの提供を改善できるため、さまざまな新規参入企業にとって魅力的である。顧客が携帯電話番号に紐づいた支払いに慣れ、取引の背後にある銀行口座のことを意識しなくなることが、未来の変革につながっている。
フィンテックやビッグテックが、市場シェアの獲得や金融サービス分野への参入から後退することを期待していた金融関係者は、失望する可能性が高い。フィルムメーカーはデジタル写真に懐疑的であり、デジタルカメラメーカーは十分な性能をもったカメラが携帯電話に搭載されるとは考えていなかった。結果、どちらの想定も間違っていたことが判明した。
写真はいまだに健在だが、それを生み出すための技術や製造する企業は劇的に変化した。今後数十年で、銀行は同様の道をたどり、金融システムにおいてまったく異なる役割を果たす可能性がある。
ただ一つ、この潮流を阻む要因として、立法機関や規制当局による徹底的な市場介入が考えられる。しかし私たちは、リテールバンキングの将来に関する最近の研究の中で、この潜在的なシナリオと、それが短期的に実現する可能性が低い理由を検証した。
銀行は、何もしない場合と、エンベデッドファイナンスがもたらす課題に対処する場合における、真のコストを見極める必要がある。
特に銀行部門が直面する情勢を考えると、適切な投資を行うことで、顧客中心主義の強化から、全社的なデータ利活用の拡大、業務の効率化・簡素化に至るまで、さまざまな方法で競争力を高めることができる。
本稿原著者:
Eugénie Krijnsen
PwCオランダ グローバルフィナンシャルサービス アドバイザリーリーダー
Bauke Sprenger
PwCオランダ パートナー
Jeroen Crijns
PwCオランダ パートナー
翻訳した本稿はグローバル、かつ銀行業界目線での既成概念の変容について述べたものであり、日本のように元々銀行業界とクレジットカード業界が別々に発展してきた市場とは背景、環境が必ずしも同じではない部分もあるが、このようなエンベデッドファイナンスの発展は共通の潮流である。日本では銀行、クレジットカード会社、プラットフォーマー、小売・サービスなどの異業種業界の合従連衡により、決済サービスなどのアンバンドルした機能を顧客向けアプリに組み込むサービス形態が進展しつつあり、今後もさまざまなビジネスモデルが進化を遂げていくことが予想される。
※本コンテンツは、Challenging assumptions to chart new growthを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。