
保険業界におけるWeb3.0の動向と影響
近年日本でも新たなマーケットプレイスとしてLife Settlement(保険の買取ビジネス)が期待を集めているといった動向も踏まえ、本レポートでは、改めてWeb3.0に着目し、Web3.0関連技術の活用による変革の機会を見据えた今後の論点などを解説します。
2020年に寄稿した「地域社会を支えるデジタル通貨のあり方」から、コロナ禍による経済停滞を経た復調、円安の進展・物価の上昇、デジタル技術のさらなる進展・普及など、地域社会を取り巻く環境は大きく変化しました。消費喚起・生活支援による地域創生、スマートシティ・デジタル田園都市構想などの諸政策の後押しも加わって、デジタル地域通貨や地域共通ポイント事業は多様な進化と変容を遂げて普及しており、いまやローンチされた事業の累積数は3,000を超えています。事業者も自治体だけではなく、商店街や金融機関、地域・自治体DXプラットフォーマーなど多岐にわたるプレイヤーが多く関係し、それぞれの特色を生かした事業展開を行っています。
このシリーズでは合計3回にわたり、地域経済の需要喚起に資するデジタル地域通貨・共通ポイント事業、さらにはデジタル版プレミアム付商品券などの準ずる事業(以降、「デジタル地域通貨・共通ポイント(事業)」と記述)を取り上げ、事業面やデジタル技術の観点からその多様性を整理し、今後の持続的なあり方について考察していきます。
第1回は、デジタル地域通貨・共通ポイントの多様性、普及状況、運営者やプラットフォーマーの類型について概観します。
※本シリーズで提示する数字は全て、自治体をはじめとする運営者やプラットフォーマーなどが開示している情報をもとPwCが独自に集計したものであり、数字の内容等に関するお問い合わせは受け付けておりません。あらかじめご了承ください。
デジタル地域通貨・共通ポイントには、大きく「地域内での還流」と「地域外からの還流」の2つの事業があります(図表1)。
地域内で還流する事業では、チャージして利用する地域通貨、購入・チャージなどで付与される地域共通ポイントに加え、自治体等から消費喚起・生活支援策としてプレミアム付商品券のデジタル版が発行されています。住民の健康増進行動へインセンティブを付与する健康ポイント事業などの行政ポイントも普及し、自治体が提供するスマートフォンのアプリを利用することでポイントが貯まり、特産品や地域共通ポイントなどに交換ができるようになっています。
地域外から還流する事業には、ふるさと納税返礼品や観光クーポンとしてのデジタル通貨の発行があり、寄付先・旅行先自治体エリアの加盟店でコード決済などができる仕組みです。全国・広域展開の小売グループでは、自社電子マネーを各地で地域還元電子マネーとして発行、利用額の一部を自治体基金等へ寄付することで、地域貢献を果たしています。
また上記2つの類型が基本形となってはいますが、これら地域通貨・共通ポイント事業間を連携、併合したハイブリッド型事業も近年見られるようになりました。
2010年代前半までは、商店街・地域ポイントカード(PETカード型)や全国展開小売グループの地域還元電子マネー(ICカード型)の2つの事業ローンチが中心でした。
2010年代後半からは、デジタル地域通貨・共通ポイント事業ローンチが急激に増えています。この時期は「まち・ひと・しごと創生」「健康日本21(第二次)」といった長期ビジョンに基づく地方創生や、健康づくりに関する政策、金融機関・IT業界や省庁でのフィンテックに対する具体的な取り組みの開始が集中した時期で、デジタル地域通貨・共通ポイント事業がその後拡大する土台となった転換期に相当します。アプリ型の地域通貨が相次いで登場したほか、商店街・地域ポイントカードは施設老朽化を機に近代化し、PET型からICカード型へ置換・電子マネー化が始まっています。また、ふるさと納税返礼品の品揃えとして寄付先自治体エリアで利用できるデジタル通貨もこの時期に登場しています。
2020年代になると地域創生やコロナ禍で停滞・低迷した経済活性化対策として、デジタル版プレミアム付商品券や観光地域通貨/クーポンなども加わり、2023年にデジタル通貨・共通ポイントのローンチはピークを迎えています(図表2)。
地方区分別では、関東、中部、中国、九州では8割を超える自治体エリア内にデジタル地域通貨・共通ポイント事業が存在し、これは、自治体がプレミアム付商品券、ふるさと納税返礼品、健康ポイントなどの事業に積極的なことが背景にあると考えられます。北海道と沖縄で6~7割程度にとどまっているのは、両エリア内自治体数のうち町村が7~8割と高く(全国平均は5割)、知名度のある観光・特産資源が数多く分布するものの一部の自治体エリアに偏っているため、地域外からの還流事業が相対的に少なくなっているものと考えられます(図表3)。
自治体区分別では、全ての都道府県でその都道府県域をエリアとするデジタル地域通貨・共通ポイント事業があり、東京23区・市部の自治体エリアでは9割を超えるのに対し、町部では8割、村部では5割の自治体エリアにとどまっています。これは自治体の体力に依存するところもありますが、高齢者人口比率が高くDXに対する抵抗感が相対的に高いため、プレミアム付商品券や健康ポイントなどの事業自体が存在する場合でも紙ベース対応となっているケースもあり、デジタル事業の分布に地域差が生まれていると考えられます(図表4)。
事業の運営者としては、自治体が2,500件超と大半を占めています。また商工会・商工会議所、事業推進目的や広域・異業種を跨るために設立された社団法人・共同体や、観光協会・団体で運営されることもあります。一方、民間では商店街・振興組合、地域振興企業、全国・広域店舗網を持つ小売グループ、地元商店街・小売等の加盟店を持つ交通IC系事業者も運営主体者となっています。さらに地銀・信金・信組といった金融機関が自ら地域通貨を運営し、自治体や商店街のプレミアム付商品券の発行を兼業している場合もあります(図表5)。
デジタル地域通貨・共通ポイントアプリを提供するプラットフォーマーとしては、地域コミュニティ圏や自治体サービス向けのDXソリューション提供を主な事業とする地域・自治体DXベンダーが1,500件を超える事業を受託しています。一方で顕著なプラットフォーマーの存在として、大手コード決済事業者があり、これは本業アプリ・加盟店網を地域限定利用で提供することで、ふるさと納税返礼品事業を凌駕しています。また、地域通貨・共通ポイント事業と親和性の高い機能を提供する、各種ベンダー(ヘルスケア・医療・エコアプリ、商店街・地域ポイントカード、ギフト・クーポンアプリ、決済ソリューション、フィンテック、GIS・経路検索ベンダーなど)、決済代行会社、金融機関などの事業者がプラットフォーマーに参入しています。この他、スマートフォンの顧客基盤を活かしたい通信キャリア、リスクに備えるだけではなく健康増進でリスクを減らす新たな発想の保険サービス展開を狙う生命保険会社、地域ビジネスでの商機を狙うSIer・シンクタンクなど多種多様な業種がその資源を活かした戦略の一環として、アプリプラットフォーマーとして事業参入を果たしています(図表6)。
今回は、地域社会をめぐる大きな環境変化のなかで、デジタル地域通貨・共通ポイント事業が広く普及・派生し、その運営主体やプラットフォーム提供者も、自治体に加えて民間の幅広い業界にまで大きく変容・多様化している実情について、年代推移や多角的な類型で浮き彫りにしました。
次回は、デジタル地域通貨・共通ポイント事業に適用されているさまざまな技術が、事業自体にどのような影響を与えているかについての考察を予定しています。
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