
カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの出会い
マーケットでの競争が激化するなか、成功しているビジネスリーダーは、価値の創出には体験から得られるリターンが不可欠であると認識しています。本レポートでは、顧客と従業員の体験に焦点を当てて企業がとるべき対応策を解説するとともに、日本企業に向けた示唆を紹介します。
顧客がヘルプデスクに電話する場合、何かしらの問題を抱えている可能性が高く、製品の素晴らしさや感動的なサービス体験に感謝を伝えるためにヘルプデスクが利用されることはまれです。
なぜ多くのビジネスリーダーがブランドに対する信頼の創出において、カスタマーサービスを頼るのでしょうか。PwCの「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」では、エグゼクティブの39%が、ブランドに対するロイヤルティプログラムの創出はカスタマーサービスの分類に入るとみなしていると回答しています。この選択肢は、次に多いマーケティングの2倍以上です。しかしながら、カスタマーサービスが主に関与しているのはブランドに対する信頼の創出ではなく、サービスに対する問題解決です。
顧客がサービスを利用する各段階で信頼度の高い顧客と接点を持つことができれば、単なる問題解決を超えた積極的な対応が可能となり、企業の真の価値を引き出すことができます。最も優良な顧客からの再購入、サービスの再契約に至るまで、信頼度を成長の原動力とした持続的な顧客関係の構築の推進を強く推奨します。
顧客との信頼の構築は、一つのチームだけで完結するものではありません。これは異なる部門が協力して行うプロジェクトです。私たちは、クリエイティブチーム、プロダクトチーム、ビジネスインテリジェンス、マーケティング、アナリティクス、そして財務・会計チームと手を取り合って協力しています。つまり、全チームの総力戦なのです。
顧客の継続利用を促すロイヤルティプログラムの多くは、カスタマーサービス部門が運営を担っています。
Q:貴社では、どの部門が主に顧客ロイヤルティ目標の策定を担当していますか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」。対象者:410人
サービスに対する信頼が獲得されるタイミングについて、経営者と消費者の意見は大きく異なります。経営者の多くは、サービスに対する信頼は、ユーザーが良質なカスタマーサービスを受けた時に獲得されると考えており(回答者の25%)、次いで顧客が商品を試して気に入った時(23%)に獲得されると考えています。しかし、消費者のうち、良質なカスタマーサービスによって信頼が形成されたと答えたのはわずか11%で、半数近く(46%)の消費者はサービス自体が信頼を形成する要因であると答えています。
多くの企業が、取り組みの範囲を狭めすぎることでロイヤルティを推進する機会を逃していると考えられます。真に成長を促進するには、信頼形成の機能をより積極的に活用し、カスタマージャーニーの早い段階で消費者とつながり、そのつながりを製品やサービスのライフサイクル全体にわたって維持する必要があります。とはいえ、果たして貴社のカスタマーサービス部門だけがロイヤルティを拡大できる唯一のグループなのでしょうか?
経営陣は、顧客のニーズや状況を的確に把握し、適切に対応することができていません。
Q:カスタマージャーニーのどの段階で顧客ロイヤルティが獲得された、または失われたと判断しますか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」。対象者数:410人
Q:引き続き、「ブランド」(前の質問で選択したもの)に関する体験についてお聞きします。どの時点で、そのブランドの使用または購入の継続について決定しましたか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティサーベイ2022年版」。対象者数:4,036人
全ての顧客エンゲージメントモデルが同じではなく、それ自体は問題ではありません。異なる業界や製品、サービスには、それぞれリピート顧客を引きつける独自の魅力があります。つまり大切なのは、貴社は成功が見込める市場に顧客エンゲージメントの取り組みを集中させているかどうか、もしくは、適切でない市場で苦戦を強いられているかどうかです。
消費者に定期的に使用または購入しているブランドを尋ねたところ、84%がすぐに会社名を挙げました。これらの企業の半数は消費財や小売業に特化しています。私たちが頻繁に利用するこれらの企業や食料品店にとって、顧客関係の強化の鍵は、優れた価値と一貫した高品質の商品です。一方、テクノロジー企業では品質が価格よりも重視され、食事や旅行ではリピート顧客向けの特典プログラムキャンペーンが大きな魅力となっています。
業界ごとに、顧客の購買・利用プロセス(カスタマージャーニー)中で、ロイヤルティが獲得されるタイミングは異なります。
注:上位の選択肢を表示しています。
Q:前の質問で選択した「ブランド」について、定期的に利用または購入している理由は何ですか?
出所:PwC,「顧客ロイヤルティサーベイ2022年版」。対象者数:4,036人
顧客関係の強化こそが、持続的な成長の鍵となる
顧客関係を築き、維持することは、顧客が貴社の商品やサービスを検討し始めた瞬間から、サービス、サポート、リピート購入に至るまで、顧客体験を向上させる鍵となります。
重要な瞬間を見極める
消費者が検索エンジンで貴社を見つけた瞬間から、製品のライフサイクル全体にわたって、顧客の維持だけでなく、引きつけることに注力しているか、リピート顧客が多い場合は、同じ体験を求めて再び訪れる理由を提供しているか確認します。多様な商品を販売している場合は、新しい商品を見つけやすく、楽しく発見できるような工夫も必要です。
従業員の経験を顧客の経験と同レベルに重要視する
従業員を積極的に関与させることで、顧客も引きつけられます。良好なカスタマーサービス経験は今でも顧客関係の強化に役立つ重要な要素です。まず貴社にとって最も効果的な顧客中心のモデルケースを定め、その後、目標達成へ向けたリーダーとなる従業員を検討すべきです。
PwCは、2022年10月15日から11月22日に、消費者に関わる分野の企業の410名のエグゼクティブを対象にした調査を行いました。このオンラインサーベイの回答者には、米国のCxO、事業主、経営幹部、取締役、取締役会のメンバーが含まれています。回答者のおよそ3分の2(64%)が、顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断において単独で責任を負っており、回答者の3分の1(36%)が顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断に対する影響力を他者と共有しています。
PwCの「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」は、2022年5月に実施した米国の消費者4,036人を対象とする「顧客ロイヤルティサーベイ」に続くものです。このオンラインサーベイの回答者は18歳以上の成人で、年齢、性別、人種、米国の地域、収入、就労状況および婚姻の有無に関して、偏りのない調査とするために人口統計上の重み付けを行いました。
上記のとおり、経営陣が顧客体験全体を理解・管理・改善することが重要ですが、もう少し掘り下げると、どのようなことができるでしょうか。
日本におけるPwCの支援事例からの学びを通して、以下の2点を提案します。
貴社の商品やサービスに対する顧客接点を全て洗い出すとともに、それらの接点が顧客の心理にどのような影響を与え得るか、さらにはそれらの心理的要素が最終的にどのように影響し、最終的な貴社への評価になるのか、そのメカニズムを整理します。貴社が働きかけるべき対象は同メカニズムにおける最もクリティカルなポイントです。
なお、このメカニズムは仮説で十分であり、さまざまな分析やトライアルなどを通して、それを継続的にブラッシュアップすることこそが重要です(メカニズムの仮説がない状態は「行き当たりばったり」の状態と言え、打ち手の成果に再現性・継続性を期待できません)。
経営陣が議論すべきは、顧客理解やそれに関するメカニズム、その中でのクリティカルなポイント、そこへの打ち手の実行状況と実行結果(効果検証)、さらにはそこから生まれる新たな仮説です。この議論をあいまいなレベルにとどめず、可視化し、データドリブン・ファクトベースで議論することが、さらにはステークホルダーでその議論を共有することが貴社の製品やサービスの利用拡大につながっていきます。
※本コンテンツは、Mastering life-cycle loyalty: Service with a smile (and a strategy)を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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