いまだ軌道に乗らないアジア太平洋地域の気候変動対策

取り組み表明に甘んじることなく、真の移行に向けた行動を

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  • 2024-02-14

執筆者 Lit Ping Low、Daisy Chee

2050年までの地球温暖化による気温上昇を(産業革命以前に比べて)1.5℃に抑制するためには、アジア太平洋諸国は、年間17.2%というかなり意欲的な脱炭素化進展率を達成しなければなりません。

PwCは先ごろ、第15回目となる「ネットゼロ経済指標」(NZEI)を発表しました。これは、エネルギー関連のCO2排出量の削減と経済の脱炭素化状況を示すPwC独自の年間指標です。本稿では、アジア太平洋地域の脱炭素化の現状と進展率についてレポートし、脱炭素化に特有の今後の課題と機会に迫ります。

アジア太平洋地域は、経済成長率3.9%1(世界全体の成長率3.5%2を上回る勢い)を達成し、世界最速ペースの成長を遂げています。しかし、温室効果ガス排出量に占める割合(世界全体の排出量のほぼ半分)の面でも、世界の他の地域と同様に気候変動の物的影響の面でも、気候危機の中心にあります。アジア太平洋地域の途上国は、地域の成長エンジンであるとともに、気候変動の影響の脅威に最もさらされる地域に位置しているのです。気候変動対策がない状態で、高排出シナリオをたどった場合、2100年までに気候変動の影響で国内総生産(GDP)の24%を失う可能性があります3


図表1:2022年の世界全体のCO2排出量と脱炭素化進展率におけるアジア太平洋地域の占める割合(他の経済圏との比較)

出所:PwC「ネットゼロ経済指標2023」、Emissions Database for Global Atmospheric Research(EDGAR)4
注:
アジア太平洋地域の指標に含まれる国:オーストラリア、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、ベトナム
E7:BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)、インドネシア、トルコ
G7:カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国


アジア太平洋地域では、2022年も引き続き脱炭素化の進捗が見られたものの、脱炭素化が十分なペースで進んでいるとは言い難い状況にあります。この地域は2022年に炭素集約度が2.8%減少し、2021年の1.2%と比べると2倍以上の減少を記録しました。しかし、地球温暖化による平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑えるために必要とされる17.2%の減少率には遠く及ばない状況にあります。これは極めて厳しい数字と言えます。再生可能エネルギーや電気自動車(EV)から、農業、建造環境、産業全般を対象とした幅広い緩和行動へと重点が移る中、アジア太平洋諸国は、政策主導と市場主導で移行を加速する必要があります。

アジア太平洋地域の脱炭素化で課題となるエネルギー、投資、成長への対処

アジア太平洋地域で炭素集約度の高いエネルギー源への依存が続いている背景には、以下の重要な要因が挙げられます。

  • 世界的なエネルギー危機
  • 再生可能エネルギーへの投資不足
  • 当該地域の各国経済の急成長

エネルギー危機を受けて社会政治上の優先課題が変わり、多くの国々で市場自由化の取り組みが失速する一方、エネルギー安全保障が最重要課題になっています。エネルギー供給の混乱、エネルギー価格の高騰、ポストコロナのエネルギー需要急増に加え、2022年の酷暑の影響もあって、計画外の停電や光熱費の高騰を招き、これがきっかけとなって一般市民や政府が、石炭などCO2排出量が多くて安価なエネルギーに後戻りする動きが見られました5 6

再生可能エネルギーへの投資も不足しています。アジア太平洋地域は、2022年に世界の新規設備容量の約60%、世界の再生可能エネルギー容量の48%を占めました7。しかし国際エネルギー機関(IEA)によれば、アジア太平洋地域が2050年までにネットゼロの公約を守るためには、2022年に623億米ドルだった年間のクリーンエネルギー投資額を2026~2030年には年間1,386億米ドルへと倍増以上の水準に高め、さらに2031~2035年には年間1,658億米ドルへと引き上げる必要があります。また、IEAによれば、中国を除くアジア太平洋地域では、2031~2035年までに年間投資額を2022年実績の6~8倍に増加させる必要があります8

さらに、アジア太平洋地域の経済規模は2000年以降に倍以上に拡大しており、エネルギー供給量が過去20年間に年平均成長率3.7%増で推移しています9。発展途上にあるアジア太平洋地域諸国は、2040年までに世界のエネルギー需要増加分のおよそ3分の2を占めると見られ、こうした国々で経済成長を維持するために石油やガスを中心にエネルギー輸入依存が高まる見通しです10

変革には犠牲を伴うが、後れを取れば被害はさらに拡大

最近の世界の動きがアジア太平洋地域各国の政府に深刻な課題をもたらしていることは間違いありません。しかし、このまま脱炭素化の取り組みの減速が続けば、気候の転換点(取り返しのつかない壊滅的な影響を与える分岐点)の到来を早めることは、逃れようのない現実です。すでに今年はその一端と思われる事象が垣間見られ、詳細な分析からは、他の危機にさらされる可能性も浮かび上がっています。

2023年、この地域は、記録的な異常気象にたびたび見舞われました。その連鎖反応がはるかに大きな問題に発展する恐れもあります。例えば、アジアの主食であるコメの供給は、インドの干ばつによって脅威にさらされており、オーストラリアでは記録的な暖冬を受けて夏季に森林火災が増えるのではないかと不安の声が上がっています。

また、アジアで人口密度が高く海抜の低い沿岸部は、世界でもとりわけ海面上昇や高潮、洪水、地盤沈下の影響を受けやすい地域となっています。世界で海面上昇の影響を受ける人口のうち、およそ70%はこの地域に暮らしています。輸送インフラ資産は62%以上が内水氾濫の影響を非常に受けやすく、地域内の巨大都市の多くは海面上昇と高潮の危険にさらされています11

約束の水準を下回る実績


図表2:2022年のアジア太平洋諸国の脱炭素化進展率とNDC(tCO2/GDP)

出所:PwC「ネットゼロ経済指標2023」、IMF12、EDGAR、Energy Institute13、Climate Resource14
注:
1.各国の脱炭素化進展率(炭素集約度)は、1次エネルギー利用のみが対象のため、森林・土地・農業(FLAG)分野の排出量・除去量を除く。
2.シンガポールの数値は、エネルギーからのCO2排出量のみを含む。燃焼・工業プロセスからのCO2排出量とメタンは対象外。


上の図を見ると、アジア太平洋諸国のうち、5カ国がそれぞれの国別排出削減目標(NDC)の達成に必要な脱炭素化進展率を上回っていますが、2022年の脱炭素化進展率では、どの国も1.5℃目標の達成に必要な数字に届いていないことが分かります。ただし、この5カ国はエネルギーの純輸入国であり、そのほとんどで燃料係数の減少(つまり、エネルギー生産で化石燃料への依存度低下)が見られる点が共通項として挙げられます。

例外はパキスタンで、2022年に世界的なエネルギー価格の高騰を背景に深刻なエネルギー危機に見舞われたために、エネルギー生産量と化石燃料輸入量が落ち込む結果となりました15。このため、排出量の面では良好な効果が表れたものの、経済・社会への影響は大きく、停電が頻発して2億2,000万人近くが電力を利用できない状態に陥りました。この結果から、アジア太平洋諸国がネットゼロに移行するうえでは、エネルギー安全保障と公正なエネルギー移行に対処する必要性が改めて重視されます16

パキスタンを除くと、脱炭素化進展率が最も高いのがシンガポール(10.8%)で、ニュージーランド(8.5%)、ベトナム(6.5%)、韓国(4.4%)が続いています。

このように一部の国ではひとまず良好な兆候が見られたとはいえ、その他の国々は、2021年に比べて2022年の脱炭素化進展率が減速し、炭素集約度の上昇が見られました。

インドネシアでは、15~21%の範囲と推定される炭素集約度の顕著な上昇が見られました17。その一因として、2020年から2021年にかけてコロナ禍で大幅に落ち込んだエネルギー消費量が、景気回復に伴って2022年にコロナ禍前の水準を上回ったことが挙げられます。とりわけ同国の発電用の石炭消費量は、産業活動の全般的な回復も手伝って、特に鉄鋼セクターやバッテリーセクター向けのニッケルを中心に、国内選鉱量の拡大とともに増加しました。2019年に1億6,200万トンだった石炭消費量は、2022年に2億2,200万トンに増加しています18

他の国々は、脱炭素化の目標に対して進捗が遅れており、2021年からほとんど変化が見られません。代表的な例がフィリピンとインドで、脱炭素化進展率はそれぞれ0.1%、0.8%となっており、エネルギー生産において依然として化石燃料への依存が続いています。

ほとんどの国々で、2022年のNDC脱炭素化目標と実績との間に著しい乖離が見られます。2022年のNDC目標を達成またはほぼ達成となった国々であっても、年間の炭素集約度低減率17.2%の条件は満たせませんでした。

気温上昇を1.5℃に抑えるのに必要な排出量削減量と現行の排出量削減計画の差が著しいことから、2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)後、各国に対して2022年のNDCの強化・再提出が求められました19。これまでのところ、アジア太平洋地域でこの求めに応じたのは6カ国にとどまり、しかもこれまで以上に野心的な目標を提出した国はこのうちの半数に過ぎません20。NDC目標の強化に踏み切ったのは、オーストラリア、タイ、シンガポールの3カ国で、NDCを据え置いたのは、インドネシア、ベトナム、インドでした。

意味のある進展につなげるためには、経済やエネルギーの個別の課題に対処しつつ、包括的・一体的なアプローチも求められます。その1つとして、再生可能エネルギー、EV、エネルギー転換にとどまらず、広範な分野に重点を置いて幅広い基盤を築く取り組みもあります。これが極めて重要な理由として、エネルギーやモビリティのセクターが温室効果ガス(GHG)排出量の49%を占め、残る51%が食料・農業・土地利用や工業・建造環境に起因する点が挙げられます21

アジア太平洋地域の炭素集約度


炭素集約度がしかるべき方向(低減)に進んでいる状況には期待が持てますが、アジア太平洋諸国の半数は世界平均値に近いか、それを上回っています。また、炭素集約度に関して、先進国と途上国の間には明確な違いがありません。その背景としては、人口、資本、エネルギー需要などの国内要因が挙げられます。オーストラリア、ベトナム、マレーシアなどの炭素集約度は同等水準にあり、インドと韓国の水準も同等です。このため、脱炭素化に万能の施策は存在しません。


図表3:アジア太平洋諸国の炭素集約度1(tCO2/GDP)(2021年、2022年)と脱炭素化進展率(2022年)

出所:PwC「ネットゼロ経済指標2023」、IMF、Energy Institute
注:
1.各国の炭素集約度の数値は、森林・土地・農業(FLAG)の排出量・除去量を含まず、1次エネルギー利用のみが対象。
2.シンガポールの数値は、エネルギーからのCO2排出量のみを含む。燃焼・工業プロセスからのCO2排出量とメタンは対象外。


図表4:2000年、2010年、2020年、2022年のアジア太平洋諸国のエネルギー原単位、燃料係数、炭素集約度

出所:PwC「ネットゼロ経済指標2023」、IMF、Energy Institute
注:
ネットゼロ経済指標は、国内と世界の炭素集約度(CO2/GDP)を算出し、気温上昇を1.5℃に抑えるのに必要な変化率を追跡したものです。炭素集約度は、単位GDP当たりのエネルギー関連排出量を表し、以下の要素の積として算出します。
- 燃料係数(CO2/エネルギー):エネルギー消費量1単位当たりのCO2排出量で、エネルギー消費の環境配慮の度合いを表します。
- エネルギー原単位(エネルギー/GDP):単位GDP当たりのエネルギー消費量で、GDPを生み出す際にエネルギーが効率良く使われているかどうかを表します。


図表4が示すように、各国は、エネルギーミックスに占める化石燃料の割合を減少(左へ移動)させ、エネルギー原単位を低減(下へ移動)させることにより、矢印を一番左下の四角枠に向かって移行させる必要があります。

過去20年を見ると、アジア太平洋諸国のうち、一貫して炭素集約度の減少に対処できているのはごく少数にとどまります。目覚ましい進展が見られた国には、オーストラリア、中国、マレーシア、ニュージーランド、韓国、タイがあります。

脱炭素化に課題があるとはいえ、ほとんどの国々は、下降方向への傾向線が示すように、エネルギー原単位を着実に低減させており、この点は明るい兆候と言えます。

この図から、現在、アジア太平洋諸国が選択している方針は大きく3つに分けられます。

黄色で示した国は、排出削減に向かって進展しています。

その進捗状況は、取り組みの方向性と進捗率の両面で期待が持てます。ほとんどの国は、炭素集約度が高止まりしていますが、サステナブル関連政策に一貫性があり、再生可能エネルギーやEV利用が急拡大していることから、前途有望な勢いがあります。

灰色で示した国は、低排出に向かっているものの、エネルギー生産では依然として化石燃料への依存が続いています。

日本とシンガポールは、エネルギー輸入依存国であり、エネルギー輸入を維持しつつ、排出フットプリント削減に取り組むため、水素や二酸化炭素回収貯留(CCS)などの新技術に着目しています。短期的には、両国は、新技術を実用化・大規模化できるようになるまで、化石燃料への依存を続ける見通しです。

赤色は、退行しているか、進捗が遅い国を示しています。

主として国民1人当たりGDPの低い途上国であり、手頃な価格のエネルギーを供給するため、化石燃料に大きく依存しています。こうした国々のエネルギー原単位がG7平均より総じて低い点は評価できます。つまり、(再生可能エネルギーの積極的採用と、化石燃料の段階的廃止により)燃料係数を下げれば、炭素集約度が大幅に減少する可能性があります。

気候野心を現実のものとするために

今後を考えるうえで、実態は明白であり、憂慮すべきものです。私たちは、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑えられるかどうかの瀬戸際にあります。国際連合環境計画(UNEP)による2022年の報告書は、世界が破滅への道を歩んでいることを気づかせてくれる、驚愕の内容となっています22。同報告書によれば、現在実施されている政策では、今世紀末までに2.8℃の気温上昇を招き、生態系や社会、経済にとって破滅的な結末をはらんだシナリオになります。関係各国の総意の下、現行の気候変動対策に関する誓約を実行に移し、全てが最良の形で進むシナリオだとしても、今世紀末までの気温上昇は2.4~2.6℃とわずかな改善にとどまります。世界の脱炭素化ペースの遅れで、人類は危ない橋を渡ることになります。全体的、集団的な行動が求められています。

共同での計画、政策、規制の策定(や実施)が複雑であることを踏まえ、これまで以上に政府の関与を深め、国境を越えた協調的な取り組みに注力することが急務です。アジア太平洋地域のネットゼロ移行を促進・加速するためにビジネスリーダーができることはたくさんあります。

企業が解決策の一部を担うために

的確な目標設定を実行に移す

ネットゼロ達成の野心を実施可能な状態にする企業の取り組みは遅れています。ダブルマテリアリティの検討事項を考慮し、ネットゼロ移行の実現に向けてあらゆるビジネス機能を活用する必要があります。製造、購買、資金調達から、マーケティング、テクノロジー、人事に至るまで、全ての関係者が人材や資源の運用、扱い、管理のあり方を転換する必要があります。

完璧を目指すよりも進歩を優先

脱炭素化は長丁場の取り組みであるうえに、市場の不確実性を背景にますます複雑化し、困難になっています。サステナビリティとネットゼロは、基準や規制、枠組み、期待、技術、科学が絶えず進化していることから、複雑な課題と言えます。

この環境で企業が進展を見せるためには、確実性を期待する姿勢から脱却し、一貫性を持って段階的に高めていく臨機応変なアプローチへと意識改革を図る必要があります。その結果、企業には、総合的なネットゼロ目標に向けて適応していくアジリティ(機敏さ)やレジリエンス(強靭さ)が生まれます。

脱炭素化による価値創出の可能性を見通す

多くの企業は依然として、法令順守という短期的なレンズを通してサステナビリティと脱炭素化を捉えています。しかし、このような見方では、企業側に有利に働くはずの長期にわたる財務上の桁外れのメリットを過小評価することになります。サステナビリティを企業の戦略や運用モデル、プロセスに組み込むことにより、巨大な価値創出の可能性が生まれます(以下の「企業にとってのこれからの道筋」の項を参照)。

公正な移行を支援

低炭素の未来を実現する途上で脆弱なコミュニティを取り残さず、また、気候変動対策の便益と費用が公平に配分されるよう取り計らうためには、公正な移行が不可欠です。

その典型と言えるのが、零細・中小企業(MSME)です。そのような企業はアジア太平洋地域のGDPの41%、国の労働力の69%を占めており23、東南アジア諸国連合(ASEAN)はMSMEの経済貢献度がますます高まり、雇用全体の85%を占めると見ています24。また、OECDによれば、世界の中小企業全体で、産業部門の温室効果ガス排出量の少なくとも50%を占めています25

したがって、アジア太平洋地域におけるネットゼロ移行の達成は、MSMEの積極的な参加にかかっていると言えます。しかし、MSMEがこの移行を効果的に実現するためには、相当な支援が必要になる点を忘れてはいけません。国際会計士連盟(IFAC)によれば、MSMEを個別に見ていくと、ネットゼロへの移行を順調に進めていくうえで必要なイノベーションの資産や資源が不足しています26

この分野こそ、大企業が大きな貢献を果たすことができるのです。大企業が自社のサプライチェーンを使って協力すれば、MSMEは、バリューチェーン全体でスコープ3の排出量削減に必要な調整を行うことができます。

企業にとってのこれからの道筋

脱炭素化に向けた事業機会と価値創出戦略

  • スコープ3排出量削減に寄与する他組織への支援:社会や投資家から企業に対して、気候変動に効果的な措置を講じるよう圧力が高まっています。主な課題の1つとして、ほとんどの企業のカーボンフットプリントの65~95%を占めるスコープ3排出量の削減が挙げられます。
  • 循環型経済(CE)への移行:CEは、可能な限り資源循環の維持を目指す生産・消費モデルです。CEへの移行は、再使用(reuse)、改修(refurbishment)、再製造(remanufacturing)で30~50%の価値獲得機会があり、ASEANで3,240億米ドルの経済成長機会が見込まれます27
  • 自然を基盤とした解決策(NbS)への投資:NbSは、企業が自然の力を事業に取り入れて排出量削減、レジリエンス強化、災害リスク低減に取り組みつつ、環境・社会の面で財務的に割の合うメリットが得られる措置を指します28。国際連合(UN)の推定では、こうした解決策によってCO2換算で年間最大12ギガトン(ギガトン=10億トン)が除去され、クライメートレジリエンス(気候対応力)が向上するとともに、新たに2兆3,000億米ドルの生産的成長を世界経済にもたらすことになります29
  • 気候テックの活用:企業が気候テック(気候関連技術)をいち早く導入することにより、市場創出に寄与できます。気候テック専門企業に投資するベンチャーキャピタル部門を設立し、気候テックを活用した製品・サービスを導入して温室効果ガスの排出削減に取り組むことにより、この成長市場に進出できます。また、自社グループのポートフォリオ全体に気候テックを導入すれば、投資先企業やサプライヤーの脱炭素化の取り組みを後押しすることになります。
  • 気候変動適応施策の導入:公共部門、民間部門の双方が気候変動適応施策に投資し、気候変動への悪影響を低減させる必要があります。世界経済フォーラムは、気候変動適応によって2030年までに4兆3,000億米ドルの追加収益と2億3,200万人の新規雇用創出につながると予想しています30。気候変動適応は、新建材の設計・製造、リスクモデリング、早期警戒システム、気候リスク保険、洪水管理構造物、農業(気候適応能力のある種苗・品種の開発など)といった分野で雇用拡大につながると期待されています。

世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑えるためには、並外れた行動力、ビジョン、努力が欠かせません。現状と目指すべき姿の間には、気が遠くなるほどの乖離があり、ビジネスや経済の重大な転機となるような新たな時代の到来が求められます。重要なのは、ネットゼロ経済への移行の中で、どの企業が勝ち組になり、どの企業が負け組になるか、という点なのです。

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