世界の経済成長を支えてきた「グローバリゼーション」が揺らぎ始めています。
1947年、貿易の自由化を促す世界共通のルール「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」が生まれました。第2次世界大戦の遠因となった国・地域ごとのブロック経済を溶かし、お互いに手を携えて経済効率を高め成長を目指す、グローバリゼーションの礎が築かれたのです。
1995年、世界貿易機関(WTO)の設立を機に貿易の自由化はさらに強まりました。世界銀行によると、2021年の世界のモノとサービスの輸出額は27兆8,800億米ドルと1990年に比べ6.5倍に膨らみました。日本企業もグローバル化の恩恵を受け、世界を舞台にヒト・モノ・サービスを自由に行き来させることで一歩ずつ、成長への歩みを進めてきたのです。
そして今。成長への道筋はかつてないほど見通しづらくなっています。
ロシアによるウクライナ侵攻は1年経っても解決への糸口を見出せていません。ウクライナ侵攻は日米欧を中心とする民主主義と、中露を軸にする権威主義の対立を表す「新冷戦」に発展しています。米国は中国を念頭に半導体などハイテク分野の輸出入管理を厳しくし、その影響は日欧など他の国・地域にも及んでいます。原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギーの需給は当面、和らぎそうにありません。東アジア周辺の地政学リスクは日増しに高まっています。
各国・地域の金融政策は2022年から利上げ局面に入り、物価や為替相場は見通しづらくなっています。企業統治改革など資本市場からの要求も強まっています。ESG対応への投資家の視線はますます厳しくなるでしょう。デジタル分野の技術革新のうねりはさらに大きくなり、デジタル課税など新たな国際ルールにも対応しなければなりません。
今までの成功体験はもはや通用しない、という現実に日本企業は向き合わないといけません。PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)は2022年に調査・公表した「日本企業のグローバル戦略動向調査2022-2023」において①グループガバナンスなどによる経営管理体制の確立・強化、②中国市場を中心とする不確実性を考慮した準備と行動計画の策定、③経営効率を高める経営環境変化への対処、の3つを仮説的に課題解決のヒントとして示しました。
こうしたヒントをもとに今回、グローバル展開する日本企業の経営幹部に「トランスフォーメーション(ガバナンス改革を含む)」「地政学リスク(中国市場の不確実性)」をテーマに直接ヒアリングする実態確認を実施しました。その結果、日本企業がさらなる成長を実現するには、これらのテーマはいずれも重要度が高く、課題によっては地域をまたいで対応する必要があるとの認識が再確認されました。
また、中国市場を取り巻く不確実性には、台湾海峡で不測の事態が起きるリスクだけではなく、米中の大国間でのパワーバランスが変化する地政学的な地殻変動に対処する必要があることも、PwC Japanのフレームワークを通じて整理されました。この地政学的な地殻変動は、事業環境の変化に対する適応という点で、トランスフォーメーションを日本企業に迫ることを意味します。
本レポートは「日本企業のグローバル戦略動向調査2022-2023」の続編として、「トランスフォーメーション」「地政学リスク」の2部構成で俯瞰的に考察しました。日本企業の課題や今後とるべき対応策に焦点を当て、日本企業の「成長への未来」を拓く手がかりを探ります。