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日本企業の多くが今後の成長の源泉として考える海外事業において、経営課題や事業運営を取り巻く不確実性を認識していることが、今回の調査で改めて浮き彫りになりました。今後の海外事業の課題解決へのカギを何に求めるべきでしょうか。今回の調査結果に加え、PwCグローバルネットワークが実施した他の調査結果も参照し、北米(米国市場)、APAC(中国・ASEAN)、欧州(西欧)の3地域ごとに考察します。
米国は世界最大の経済大国です。また、安定した安全保障環境も特徴の1つに挙げられます。欧州はロシアと地理的に近く、ウクライナ侵攻の影響を経済、社会の両面でより強く受けています。APACは台湾海峡を巡る緊張に伴い、域内における地政学リスクの高まりが指摘されています。太平洋と大西洋に隔てられた北米の地政学リスクは欧州やAPACより相対的に低いと言えます。
その一方、米国政府は中国を「国際秩序をつくり替える能力と意思を持つ唯一の競争相手」1と定義したうえで、半導体やスーパーコンピューターに関連する複数の規制や米国内への拠点誘致を促進する法律を導入するとともに、新疆ウイグル自治区で強制労働により生産された産品の輸入を原則禁止するなど、対中国の規制を導入しています2。これらのルールは米国企業だけでなく、日本企業の米国事業はもちろんのこと、米中両方に製造拠点のある企業であれば本社と米国事業が一体として遵守すべき規制(コンプライアンス)上の課題です。
2021年10〜11月にPwCグローバルネットワークが全世界で行った 「第25回世界CEO意識調査」3では、日本を含む他地域と比べ、米国に本社を置く企業のCEOがサイバーリスクにより高い懸念を抱いていることを示しました(図表16)。これは、米国事業が他地域よりもサイバー攻撃を受ける可能性があることを示唆していると分析できます。
サイバーリスクへの懸念は、成長を見込めるデジタル領域でのオペレーション実践やコンプライアンスなど、複雑に入り組むリスク因子に対して適切に対処する体制構築の必要性を示唆するものと言えるでしょう。
これらを踏まえると、米国における今後の事業課題解決のカギの一例には、下記が挙がるものと考えます。
・リアルタイムで統一されたデータを基にした日米間での経営管理体制の確立・強化(グループガバナンス、データ・デジタルガバナンス、ESGなど)
1 バイデン政権公表の「国家安全保障戦略」 ( ”NATIONAL SECURITY STRATEGY” )より。
2 2021年12月に成立したウイグル強制労働防止法 (UFLPA)や2022年7月可決のCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)はそのような側面を代表する事例として挙げられます 。
3 PwC「第25回世界CEO意識調査」。
中国とASEANを含むAPAC地域における事業展開を考えるうえで、自社ビジネスにおける中国事業の将来的な位置づけは避けては通れない課題です。本調査でも、中国は有望と考える事業展開先である半面、縮小・移転・撤退の検討先でも上位となりました。
PwC Japanグループの別の調査4でも、上記の二極化の傾向を示しています(図表17)。海外事業を展開する企業309社に対する質問では、29%が生産・調達プロセスの中国国外への移管を「検討または検討を予定している」と回答した一方、「検討または検討予定はない」との回答も31%に上りました。巨大な内需と豊富な労働力を持ち、技術革新のサイクルが回る魅力と、権威主義の高まりを背景に民主導で海外とモノやサービスを自由にやり取りしにくくなるリスク。この2つの顔を併せ持つ特殊性こそ、市場としての中国の評価を難しくしていると考えられます。
中国市場の今後の成長可能性や収益性を考慮すると、再編・移転ありきで検討を開始できるケースは少ないと考えられるだけではなく、アプローチとしても妥当性に欠けると考えます。また、今後も中国市場にコミットするか否かの単純な二元論での判断が困難な状況も多く発生するでしょう。
このような不確実性の高い環境への対処の一例として、シナリオ策定を通じた戦略検討(戦略的シナリオプランニング)が挙げられます。戦略的シナリオプランニングはビジネスに関連したものだけではなく、政治、経済、テクノロジー、天然資源、地理、環境など多角的な観点(パラメーター)から複数のパターンを組み合わせて発生し得るシナリオを策定し、それを基に対応・行動計画の策定につなげる方法です5。
本調査で得られた重要な経営課題(図表12・図表 13)の上位に入った生産・供給体制の構築は、この対応・行動計画の一部に該当するため、これらを統合的に用いることが不確実性への対処のヒントになると考えられます。
上記を踏まえると、APACにおける今後の課題解決のカギの一例には、下記が挙がるものと考えます。
・リスクや不確実性を考慮した準備と行動計画の策定(戦略的なシナリオプランニング、サプライチェーン管理、機能再配置など)
4 PwC Japanグループ「企業の地政学リスク対応実態調査2022」 。
5 用いるパラメーターは事業内容や産業によって大きく変わります。
一般的な日本企業にとって、欧州市場は良くも悪くも規模や収益を広げるのが難しい、という位置づけだと考えられています。一定の市場規模は魅力的に映る一方、人件費などコストの高さ、データ保護規則や解雇規制といった厳格なルール、市場シェア拡大のための人的ネットワークの重要性など、北米市場やAPAC市場にはないハードルがあるためです。このような日本企業の評価を反映してか、本調査でも、進出・強化・追加投資を考える事業展開先、縮小・移転・撤退の検討先のいずれにおいても上位に西欧諸国は入りませんでした。
欧州ではロシアによるウクライナ侵攻以降、安全保障上のリスクが大きく高まり、ガスパイプラインを通じてロシア産天然ガスへの依存度を高めていたことで、エネルギーの代替調達という大きな問題にも直面しています。欧州における重要な経営課題の上位に選ばれた「生産・供給体制の構築」(図表14)は、今の状況を反映した結果だと言えます。その点で、短期的には足元の逆風を乗り越えるために欧州事業の経営効率改善に取り組む必要のある日本企業も多いと考えられます。
その一方、欧州では欧州委員会がEUタクソノミーや環境投資(SFDR)に代表されるESGなどの特定分野でルールメイキング力(いわゆるデジュールによる標準化)を発揮しています。また環境だけでなく、サプライチェーンにおける人権の重視なども欧州における見逃せない流れでもあります。このように、世界に影響を与え得る欧州にどのような機能を配置し企業統治の形態を構築すべきか、中長期的な観点から検討を行う余地は大きいと考えます。
このようなことから、欧州における今後の事業課題解決のカギの一例には、下記が挙がるものと考えます。
・経営環境悪化への対処と中長期的な欧州事業における戦略の検討(経営効率の改善、グループガバナンス、ESGなど)
本レポートにおいて地域ごとに仮説として検証した課題解決のカギですが、一例として提示したヒントは地域をまたいで当てはまる可能性の高いものがあります。例えば、グループガバナンスやESGは、北米と欧州において優先度を上げて取り組むべき課題の一例であると考えられます。地域特有課題と地域通貫(グローバル)の課題を峻別し、対処策を講じていくことが、今後の海外事業においてより重要となっていくものと考えます。
昨年の本レポートの中で取り上げた米中デカップリングも含めた地政学リスクに対する各社の対応状況については、本年度は独立した調査として実施しました。調査結果の詳細については本レポートでも参照した「企業の地政学リスク対応実態調査2022」にてご確認ください。
本レポートの続編として、「トランスフォーメーション」「地政学リスク」をテーマとした「未来を拓く日本企業のグローバル戦略」を公開しています。併せてご一読ください。
調査名 | 日本企業のグローバル戦略動向調査 2022-2023 |
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調査日程 |
2022年7月 |
調査方法 |
インターネットパネルを用いた調査 |
調査対象 |
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サンプル数 |
全体サンプル数合計:600人 上記基準に該当する企業に勤務する回答者数:253人 |
回答者属性 |
下記参照 |
注1) 全ての数字の合計値が100%にならない場合があります。
注2) 本調査は個人を特定せずに実施しているため、所属企業については重複している可能性があります。
注3) 小数点第1位を四捨五入しています。