税務ガバナンス実態調査2024

企業価値に貢献する魅力的な税務組織の構築

税務ガバナンス実態調査2024
  • 2025-03-27

2023年3月31日に東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関するガイダンスが発出されるなど、近年、企業では、資本効率を改善し企業価値を高め、投資家との対話を行うことが、かつてなく期待されています。

一方、税務においては、各国税務当局からの税務リスク管理強化への要請の高まり、デジタル経済課税と国際ルールの変更への対応、サステナビリティ・ESGの観点からステークホルダーへの説明責任など、外部環境の変化に伴い、企業の税務の在り方も大きく変わることが求められています。特に、日系企業においては、日本の労働人口が減少する中、税務組織が、このような税務環境の変化を踏まえたうえで、いかにして企業価値に貢献できるかが重要な課題となっています。

こうした背景のもと、PwC Japanグループが実施した「持続可能な成長と企業価値の向上に向けたCFO意識調査2024」(以降、「CFO意識調査」)から、さらに税務領域を掘り下げたものとして、PwC税理士法人は、グローバルにビジネス展開をしている国内上場会社を中心とした日系多国籍企業を対象に、税務ガバナンスに関する調査を追加実施し、それをもとにレポートとしてまとめました。

企業の税務ガバナンスの現状と課題や取り組み状況を明らかにし、皆様が企業価値に貢献する魅力的な税務組織を構築する際の一助となれば幸いです。

以下では、調査の概要および調査結果から導き出された課題の概要について紹介します。

1.本調査概要

本調査では多くの業界の上場企業を対象として税務ガバナンスに関する調査を実施し、その結果の分析・考察を行いました。

  • 回答社数:国内上場企業54社
  • 回答の属性(業界):食品・繊維・化学・製薬・鉄鋼・機械・電気機器・自動車・商社・銀行・リース​
    • 企業規模:「連結グループ全体での売上高」(図表1)および「海外子会社の総数」(図表2)を参照
  • 質問内容:税務ガバナンスに関して、戦略、組織、人材、業務プロセス、テクノロジーという5つの観点から質問を行った。
  • 調査方法:ウェブアンケートシステムによる回答
  • 調査実施時期:2024年8月~2025年1月

※各アンケートの結果では、一部の企業に対してのみ質問しているものや、各質問では未回答のものもあるため有効回答数をn=XXXで表記している。

図表1:連結グループ全体での売上高

図表2:海外子会社の総数

2.税務組織における課題認識

経営層と税務担当者とで共通して最も認識されている課題が「人材」であることが顕著に表れています(図表3)。日本における労働人口の減少という環境下で、不足する人員をどのように補うのか、また育成していくのかという課題は、それ単体のものではありません。企業価値向上のための税務組織の役割の見直し、それに対応する業務改革、税務組織やそこに所属する人材の適切な評価およびキャリアプランなどから税務組織の地位の向上を図り、魅力ある組織にすることを通じて、適切な人材が確保されるという好循環をいかに作り出すかがポイントであると考えられます。

図表3:貴社において、税に関してどのようなテーマが重要であると考えていますか。以下の中から当てはまるものをお選びください(いくつでも)。

左:本調査、右:CFO意識調査

3.企業価値の向上と税務組織への評価

CFO意識調査によると、多くの企業が経営指標として重視するKPI(重要業績評価指標)としてROE(自己資本利益率)を挙げている一方で、税務組織で定量的な指標をKPIとして設定しているケースはほとんどありません(図表4、図表5)。全社の経営指標に関連づけて税の観点から企業価値への貢献度を定量的に測らない場合、税務組織や所属している人材の貢献度が適切に評価されず、適切な予算が配分されない可能性があります。

また、KPIの設定は税務組織単独の問題ではありません。経営企画や事業部門など税務以外の組織を含めて全社的に整合性のあるKPIを設定することで、事業部が税後利益への感度を上げ、それを税務組織がサポートすることができます。その貢献度を経営層に対して可視化することで、企業価値が向上し、税務組織の魅力も増すと考えられます。

図表4:全社にて定量的な目標を定めている項目をお選びください(いくつでも)。またそれぞれ何年先の目標として定めていますか。

図表5:税務組織のKPIの設定状況についてご回答ください。

図表7: 「無形資産への投資の強化」において、特に注力して取り組んでいることを お選びください(いくつでも)

4.投資家の目線と企業における意識

最近のデータ分析においても税務情報の開示は資本コストに影響を与えることが分かってきていますが、上述の、税に関してどのようなテーマが重要であるかについての質問(図表3)にも見られるように、企業の納税情報の開示への意識は依然として高くありません。また、開示している内容もグループ税務ポリシーのみを開示しているケースがほとんどです(図表6)。今後は、欧州などの法令におけるCbCR(国別報告書)の開示要請など、規制面から開示情報が増えることが見込まれているため、積極的に投資家の判断に資するような情報を提供する意識や姿勢が資本コストを下げ、企業価値に貢献すると考えられます。また、そのためには開示するに足る情報の集約と、開示内容を裏づける実態の整備が不可欠になります。

図表6:貴社の税務情報で外部に公表されている情報について選択ください(いくつでも)。

本調査により以上のような課題が明らかになった中でも、国内上場企業では、税務ガバナンスを向上するためのさまざまな取り組みが実施されています。その内容や、各企業の状況およびそれを踏まえた考察や提言(レポート本編*)へのお問い合わせについては、下記お問い合わせフォームよりお尋ねください。​

*調査に協力いただいた企業様に向けて提供する、本レポートのフルバージョンとなります。

本ページに関するお問い合わせ

執筆者

白土 晴久

パートナー, PwC税理士法人

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塩田 英樹

パートナー, PwC税理士法人

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松尾 陽一

ディレクター, PwC税理士法人

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前浦 宏美

シニアマネージャー, PwC税理士法人

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起塚 雅也

マネージャー, PwC税理士法人

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