
Hello, tomorrow. 明日を見通す。未来をつくる。
変化が当たり前となった世界で、成功し続けるためのカギは?
本稿の元となる記事は、「strategy+business」に2020年7月に掲載されたものです。
※一部のサイトへのリンク先は原文に則って英語のページとなっております。
2020年は、これまでと全く異なる予測不能な医療・公衆衛生上の危機、つまり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を根本から変えてしまいました。コロナ禍以前においても、この不確実性が高く不安定な環境で変化を起こすことは複雑な挑戦といえるものでしたが、現在ではそのハードルがさらに高く上がっています。
PwCが、ADAPTというフレームワークで要約した今日の世界が直面する5つの喫緊な課題、すなわち「非対称性」「破壊的な変化」「人口動態」「分断」「信頼」は、何百万人もの生活と仕事の在り方を変えました。そして、COVID-19の世界的流行がそれを急加速させました。その結果、大きく変化する世界の中で、企業が生き残りをかけて自らを再設定するためにかけられる時間は、想定よりもかなり短いものとなりました。
PwCネットワークのストラテジー&リーダーシップ部門のグローバルリーダー、ブレア・シェパードは著書『Ten Years to Midnight――世界に迫り来る4つの危機とその戦略的な解決策』において、世界が直面する最も差し迫った課題を解決するために私たちに残された時間は10年しかないと指摘しました。そして、物事が急速に変化している今となっては、残された時間はさらに短くなっているのかもしれません。しかし、社会が直面する課題を認識し、COVID-19の世界的流行で得た教訓をいかして、身近なツールやテクノロジーを採用することで、私たちはより望ましい未来をつくり出すことができるでしょう。ただ、より望ましい未来を実現するということは、リーダーたちに全く新しい要求と厳しい重圧が課せられることを意味しています。
すでに世界の各方面で活躍しているリーダーたちでさえ、今までこれほど多くのジレンマやパラドックスに直面したことはありません。自らのビジネスの慣れ親しんだ側面に取り組むだけでなく、従業員の健康や幸福、安全、財政上の健全性といった経営における根本的な問題に対処しなければなりません。しかもその矛盾は極端に根深いものです。答えは相反するものであり、判断は常に誤っている可能性があります。多くの企業は自身が属する業界やコミュニティ、経済圏が生き残れるよう、COVID-19が流行する以前のビジネスに戻ることを考えているようですが、かつて慣れ親しんだやり方に戻ろうとする行為こそが、将来の成功を阻害しかねないのです。
意思決定に求められるスピードは上がっています。1カ月前、場合によっては1週間前に下した、一見、賢明に思える決定さえも、すぐに冗長なものとなり、慎重さに欠けたものとなる可能性があります。この終わりのない「今日一日」の連なる世界においては、中長期的な計画は無意味に思え、短期計画といえば数時間単位の計画を指すことすらありえるでしょう。しかし、このような時代だからこそ、人々はリーダーが安定や希望、将来への展望をもたらしてくれることを期待しています。私たちが現在経験している危機は、リーダーが真の能力を発揮し、その評価を確固たるものにする上で避けられない試練の一つなのです。
PwCは2018年に発表した「リーダーシップにまつわる6つのパラドックス」というレポートにおいて、今日成功しているリーダーとは、急速に変化する世界で生き延びるために、一見相反するかに見える能力や感性を取り込み、バランスよく発揮しているものだ、と指摘しました。リーダーは明確な戦略を立てるだけの自信を持ちながらも、必要であれば進路を改め、変化を認める謙虚さを持っていなければなりません。また、地に足をつけて経営を確かなものにしつつも、同時に9,000メートル級の山の頂上から景色を見渡すような能力にも長けていなければなりません。絶えずイノベーションを取り入れつつも、自らの企業を成功に導いた伝統に根差すことも必要です。従業員が達成すべきものは何かを考え、さらにその助けとなるテクノロジーを効果的に利用しなければなりません。グローバルな規模で考え、身近なマーケットでの事業に取り組むことも求められています。さらに、リーダーたちは清廉さを維持しながらも、総意を得るために異なる見解を調整し、まとめる能力も持っていなければなりません。
世界がCOVID-19によって受けたトラウマやダメージから回復し、再起を試み、将来起こり得る新たな危機に備えている今、リーダーたちには一刻も早くこのようなパラドックス(一見相反するかに見える能力や感性)を理解し、受け入れ、力を発揮することが求められています。
回復のための第一段階は、壊れたものを修復することです。素早く、賢く対応するためには、リーダーたちは不確実な世界の中で自信を持って意思決定をし、行動する必要があります。それと同時に、広く助言を受け入れ、自身が下した意思決定が間違っている場合にはそれを認め、進路を変更する謙虚さを持ち合わせていなければなりません。彼らは「謙虚なヒーロー」でなければならず、これこそ私たちが論じる、リーダーシップの第1のパラドックスなのです。
COVID-19の拡大により、世界のリーダーたちには決断力が試されるようになりました。中国やニュージーランド、ドイツ、南アフリカ、さらには世界中で、自国および自国民の利益を最優先するよう強烈な重圧がかけられました。ウイルスを抑制し、ウイルスと戦う術がほとんどわかっていない時でさえ、政府の一挙手一投足は厳しい視線にさらされました。間違った決定をすれば壊滅的な代償を払うことになるとわかっていながらも、勇気と信念を持ち、決断力を伴った行動を取ることが求められました。COVID-19の流行初期においては、十分な共感力や謙虚さをもって決定をする必要があり、明確な未来が見えていなくても結果を受け入れる覚悟が必要でした。医師や経済学者、伝染病学者、技術者、公衆衛生の専門家らと慎重に協議すれば、取り得る選択肢の結果はより明確になるでしょう。このような不確実性に直面して、リーダーたちが圧倒され、行動できなくなるのは当たり前のことであり、明確な決定を下してそれを効果的に周知するのに苦労するのは当然です。また、状況が変化した時に、それに応じた調整を行うことも困難です。
政策が公表されると、リーダーたちにとっては国民の行動を変化させ、足並みがそろうよう、まとめることが重要になりました。米国でCOVID-19の感染が確認されて間もなく、米国プロバスケットボール協会(NBA)のある選手が検査で陽性になると、NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏は、各チームのオーナーや選手、公衆衛生の専門家と協議を行い、すぐに行動を起こしました。そして、NBAは3月11日に2019~20年度シーズンの中断を決定しました。「私たちがこの問題から一歩引いて、深呼吸をしてから、NBAに関わる誰もが安全・健康でいられるよう、またその家族を守るためにやるべきことをすべてやると決めた瞬間でした」とシルバー氏は語っています。
この行動が方向性を定め、他のスポーツがそれに追随する前例となりました(その後の急速な感染拡大を考えれば、非常に意義のある決断でした)。シルバー氏は「当時、自分の決定が正しいかどうかはわからなかったが、その時点での最善の選択だった」と話しています。なお、NBAは7月30日に短縮されたシーズンをフロリダで再開させました。
COVID-19による被害を抑え、修復するためには、リーダーたちは広い視野をもって物事を見なければなりませんでした。つまり、世界的な流行の本質、世界におけるその意味、あらゆる結果の可能性などを考慮する必要がありました。その一方で、企業の経営を安定させるために事業の詳細を把握し、サプライチェーンを再び機能させ、従業員がリモートワークを実施できるよう担保しなければなりませんでした。言い換えれば、リーダーたちは「リーダーシップにまつわる6つのパラドックス」の1つである、「戦略的な実行者」でなければならなかったのです。
COVID-19によるロックダウンは、多くの企業や業界にとって即時的かつ壊滅的な影響を及ぼしました。企業のCEOたちは自身の決定が従業員の安全に直ちに及ぼす影響と、事業の持続可能性やその意義に与える長期的な影響を天秤にかける必要がありました。事業の存続を死守することを選んだ者もいれば、迅速な行動に苦慮し、その過程で企業の評判を落とした者もいました。危機にさらされた場合は、目先の問題にとらわれ、既得権益を守ることにばかり目が行き、生き残るための場当たり的な策を取りがちです。
しかし、そういった行動を取ってしまったリーダーは、アジャイルな組織への移行、将来を見据えたポジショニングの転換、インスピレーションや希望を求める従業員や顧客との継続的な意思疎通を図る機会を逸してしまいました。同様に、長期的な展望を見いだすことや、世界がどのように変化していくかを予測すること、戦略を立案することに時間を割きすぎて行動が伴わないと、バランスシートが乱れ、サプライチェーンが機能しなくなることにすぐに気づくでしょう。今ある危機にうまく対処できなければ、ビジネスは破滅的な結果を見ることになります。たとえ彼らが将来に対する明確なビジョンを持っていたとしても、です。
国家レベルでは、ニュージーランドの首相、ジャシンダ・アーダーン氏ほど戦略と実行の間の緊張状態をうまく操れたリーダーはいません。アーダーン氏は、2月28日に国内で初めてのCOVID-19患者が報告されたのち、わかりやすい言葉で対応策を公表し、500万人のニュージーランド全国民に対して、一丸となってウイルスに立ち向かおうと励ましました。アーダーン氏はCOVID-19に対して4段階の警戒システムを採用し、国内感染者の発生から間もないうちに機能させることで感染の拡大を防ぎました。そして6月8日、ニュージーランドはすべての制限を解除し、COVID-19に対する勝利宣言を行いました。
COVID-19への対応にあたっては、それが新たな治療方針を策定した病院であれ、対面式のサービスをリモートに切り替える方法を開発した企業であれ、数々の迅速な意思決定が必要とされました。そして多くの場合、優れた経営を行ってきた伝統的な企業は、新たなニーズを満たす製品やサービスを迅速に開発することができました。そういった企業はたとえ主たる事業が中断しても、自社の中核となるパーパス(目的)を維持しながら新しい製品やサービスの開発を行うことができたのです。このコロナ禍において、私たちは「伝統を尊重するイノベーター」の台頭を何度となく目撃しました。
例えばイタリアでは、高級衣料品の需要が急速に減少したため、職人たちがその能力を生かして地元の病院向けに個人用防護服を作り始めました。国外から輸入されるマスクが国境で足止めされた時でも、職人たちがすぐにそのニーズを満たしました。イタリアの包括的ファッション団体「コンフィンドゥストゥリア・モーダ」の前会長であるクラウディオ・マレンツィ氏が述べているように、この転換は印象的なものでした。
同様に、人工呼吸器がアメリカ全土で不足した際に、1世紀にわたりエンジニアリングのイノベーションを起こし、長い伝統を持ちながらもこれまで複雑な医療機器を製造したことはなかったゼネラルモーターズが、サプライチェーンや熟練した従業員たちと協力して数週間のうちにその設計を行い、救命用の人工呼吸器を数千台も大量生産しました。
これらの企業は、自身がこれまでに築いてきた信頼の上に成り立っています。彼らはこの信頼を生かした上で、迅速にイノベーションを起こし、自身の中核事業に忠実にあることで、社会が必要とするリーダーシップを発揮したのです。私たちが危機と戦い続ける中で、企業が社会に有意義な存在として、パーパスに従って行動することがこれまで以上に重要になっています。
2019年初め、ファイザーの社長兼CEOであるアルバート・ブーラ氏は、「患者の運命を変えるようなブレイクスルー」を見つけるという同社のパーパスに引き続き注力しながら、新薬試験の従来のやり方をくつがえす、研究開発の新たな手法を打ち出しました。その結果、新たな製剤がFDA(米国食品医薬品局)の認可を得るスピードを上げることができ、それによって、誰もが切望しているCOVID-19のワクチン開発において、同社は良いポジションに立つことができました。
リーダーたちは本物の、本質的な方法でイノベーションを起こすことができた場合のみ生き残ることができ、世界の再設定に貢献することができるでしょう。
企業が新たな現実に合わせて変化する中、テクノロジーが重要な役割を果たしました。すでに社会に非常に大きな影響を及ぼしてきたテクノロジープラットフォームは、さらにその勢力や価値を急速に拡大させました(アマゾンやネットフリックスの株価は2020年の最初の4カ月間で3割も上がり、ズームの株価は倍増しました)。しかし、テクノロジーが社会に等しく貢献しなかった例もあります。テクノロジーを人類の利益のために活用する最良の方法を考える場合、リーダーたちはテクノロジーがもつ本当の力と人々のニーズの橋渡しをしなければいけません。すなわち、人工知能に精通しているのと同じくらい、人間の心理についても熟知していなければならないのです。
こうした「テクノロジーに精通したヒューマニスト」に対する社会的ニーズが最も高い場所は、日々、数十億人の人生に関わる教育機関をおいて他にありません。COVID-19によって、学校や大学はその物理的インフラを迅速かつ完全に閉鎖しなければならなくなり、若い生徒や学生は自宅で教育を受けることを余儀なくされました。この突然の移行がどのような結果を生むかはまだわかりませんが、多くの場合、生徒たちは何ら最適な仕組みや規則もないまま、これまで学校で受けることができた必要な精神的サポートを受けられずに放置されているのです。
テストのために授業をオンラインで提供し、バーチャルに評価することは可能ですが、テクノロジーだけでは教育の真の価値を完全に伝えることはできません。友人との関係を築いたり、課題に直面したり、活発な対話を行ったりといった人間的なニーズを満たす教育システムの中で学ぶ機会を持てなければ、生徒たちが失うものは大きいのです。このような、人間的なニーズがテクノロジーによって急場しのぎに作られたものに支配されないよう、私たちは細心の注意を払わなければなりません。
テクノロジーを教育の手段にすでに組み込んでいた教育機関は、バーチャルクラスルームへの移行を成し遂げる一方で、生徒同士のつながりを維持し、教師と生徒の継続的な結びつきを支えてきました。そして、多くの教育機関が、このCOVID-19による危機の間に進歩しています。ドバイのハートランド・インターナショナルスクールで校長を務めるフィオナ・コッタム氏は最近のブログへの投稿で、教員たちがバーチャルクラスルームを通じて授業を行うため、マイクロソフト社のTeams上ですぐに研修を行い、他の教育者との情報交換手段としてツイッターのエキスパートとなることで生徒やその家族にとって最高の経験を提供するのに必要な、極めて人間的な支援のネットワークを確立していった様子を伝えました。教育のリーダーたちが進化し、テクノロジーと教育の橋渡しをすることが今ほど重要視されることはありません。
COVID-19の世界的な流行により等しくもたらされた甚大な影響が明らかになるにつれ、私たちは世界を新たな方法で再設計することになりました。個人や家族としては、自分のことは自分で行い、強靭な精神をもつ方法を学ばなければならなくなりました。地域コミュニティは危機に瀕した弱者を保護し、中小企業を支援しなければならなくなりました。企業レベルでは、各国がそれぞれの方法、かつ異なるスケジュールでCOVID-19対策に取り組むようになったことで、地域ごとに自社の従業員のことを考えざるを得なくなりました。グローバルなサプライチェーンが寸断されたことで、多くの企業は国ごとにサプライチェーンを再設計する必要に迫られました。
いずれのレベルでも、リーダーたちは自らのコミュニティを守るために奮闘しています。多くの場合、その結果としてナショナリズムが台頭し、既存の世界の秩序の中に潜んでいた分断と非対称性が加速しています。私たちはこれまで以上に、世界の情勢や市場の構造を理解し、社会のニーズを把握することのできるリーダーを求めており、同様に地域コミュニティについて心を砕き、理解することのできるリーダーを求めています。つまり、「グローバル思考のローカリスト」を必要としているのです。
COVID-19から得た最も明確な教訓は、ウイルスに国境はなく、一国を飲み込むのに何ら招待状を必要としないということです。究極的に言えば、ほぼすべての人に免疫ができない限り、感染を免れることはできないのです。治療法やワクチンが開発・製造され、流通するには、これまで以上に世界が一致団結する必要があります。同時に、世界中の無数の文化や行動様式、医療制度の違いに鑑みれば、ウイルスにはローカルレベルで戦いを挑み、打ち勝たなくてはならないのです。
グローバルレベルで解決策や対応法を開発する必要性と、それをローカルレベルで実施しなければならない現実との間で、うまくバランスをとることができるリーダーを、私たちは求めています。億万長者の起業家であり、テクノロジー大手アリババの創設者であるジャック・マー氏は、150以上もの国に医療用品を輸出するという野心的な取り組みを成し遂げた、立役者でした。中国の外交慣習を守り、自らの国が最優先されるよう確保しながらも、マー氏は同時に医療に欠かせない物品を自らの財団を通じて必要とされる国へ送り、大きな影響を与えました。
パンデミックの影響が世界各地で落ち着き始めた段階で、企業は生き残りをかけて自らを再設計する必要があるでしょう。それは同時に、経営方針を再考する機会にもなります。企業の再設計を成功させるためには、リーダーたちは広範囲のステークホルダーに十分な影響を及ぼせるほどの賢明さを持つと同時に、必要不可欠な信頼を醸成できなければなりません。有意義な変化を実現し定着させるためには、「清廉な策士」としてのリーダーが必要なのです。
気候変動やサステナビリティの問題は、理念と政治が重なり合う分野です。資産運用会社ブラックロックのCEOであるラリー・フィンク氏を含む多くのビジネスリーダーたちが議論の基軸を打ち出していますが、フィンク氏は気候リスクを投資判断に組み込み、企業のリーダーたちに現代の金融市場の核となる前提を見直すよう求めています。実際に、COVID-19が一筋の光をもたらしたとすれば、それは私たちのリーダーが社会をより持続可能な未来に導いてくれるのではないか、という期待の高まりなのかもしれません。基本的な事実と科学の間に齟齬がある場合、ある種異なる道を切り開いていくには、信頼に根差したリーダーシップが必要です。また、システムの大規模な変化においてあまり求められることのない、ある程度の包括性が必要となります。つまり、時には衝突するさまざまな見解をまとめ、結果が個々の提案よりも良いものになるよう、その齟齬を乗り越えることのできる包括性が必要なのです。
化学の素養を持つドイツのアンゲラ・メルケル首相は、COVID-19の流行という最悪の状態から自らの国を導き、その名声を不動のものとしました。メルケル首相は自身の科学に関する経歴と高度な分析手法をうまく活用して、強固な信頼を築き上げました。その結果、ドイツはウイルスと効果的に戦いながら、比較的高いレベルの社会的・経済的安定を維持することができました。高度に発展した製薬業界の支援を受けたおかげで、ドイツは4月上旬にはおよそ50万件のウイルス検査を実施することができました。同じ時期、英国では約7,000件の検査をするのがやっとでした。これらの取り組みにより、メルケル首相は4月後半にはロックダウンの緩和を発表することができました。これはその他多くの欧州諸国よりもずっと早いものでした。
「リーダーシップにまつわる6つのパラドックス」を受け入れることは、誰にとっても大きな挑戦です。私たちはこれまでもリーダーたちに大きな期待を寄せてきました。リーダーたちはビジネスに精通し、複雑な制度を把握し、効果的なコミュニケーションを図れなければいけません。その上で、これら6つのパラドックスを体得することは、リーダーの責務にさらに何層もの複雑さを重ねることになります。すべてのパラドックスを兼ね備えた人材を見つけるのは極めて難しいでしょう。リーダーもしょせんは人であり、欠点もあれば複雑な心も持ち、失敗し、また失望させることもあります。しかし、人間だからこそ、とてつもないスピードで学習し、進化することもできるのです。
では、自分自身のリーダーシップについて考えてみましょう。あなたの強みはどこにありますか。また、同様に重要なことですが、あなたの弱みは何ですか。前述したパラドックスのうちのいくつかをすでに体現していますか。すべての能力がやる気で決まったり、成長したりするものではありませんが、人は自分が才能に長けていない領域はさほど気に留めない、あるいはさらに悪いことには、その領域に秀でている人を尊敬しない傾向があります。相反する性質の中でうまくバランスを取るために、リーダーは自らが長けていない分野で力を発揮してくれる人々に敬意を示し、うまく連携しなければならないのです。
6つのパラドックスを考える時に重要なのは、どれか1つの項目がその他の項目よりも重要であることはない、ということです。これらのパラドックスは1つのシステムとして調和した時に最も効果を発揮します。この種のリーダーシップの要素すべてを自ら持ち合わせることは難しいですが、そうあるために励むことは可能であり、重要です。COVID-19がいかに困難な課題であったとしても、これは恐らく、私たちが直面する最後の危機ではないからです。
※本コンテンツは、PwCが2020年7月に発刊したstrategy+businessの「The urgent need for sophisticated leadership」の一部を抜粋し翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
変化が当たり前となった世界で、成功し続けるためのカギは?
PwCは今日の世界的な課題を「非対称性」「破壊的な変化」「人口動態」「分断」「信頼」の5つに整理し、その影響を洞察しています。
世界が直面する最も差し迫った課題の解決策は、手の届くところにあります。しかし、私たちに残された時間はあと10年しかありません。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が、"コロナ以前"の世界が直面していた課題によって生じていた変化を加速させています。