
顧客が真に求めるパーソナライズされたロイヤルティ体験を提供するには 金銭的報酬だけではない顧客一人一人に合わせた価値ある体験を提供することの重要性
顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。本稿では、PwCが実施した顧客ロイヤルティに関する調査からの洞察を紹介するとともに、日本企業が取るべき対応策を解説します。
多くの企業において、ステークホルダーとの信頼度が低下しています。ビジネスを進める中で信頼はとりわけ重要であるにもかかわらず、です。PwCが実施した第4回信頼度調査では、ビジネスエグゼクティブ、消費者、従業員のそれぞれの間で信頼を構築することの重要性と、機会が明らかになりました。回答を見ると、ビジネスエグゼクティブの95%が、企業には信頼を構築する責任があると認識しています(2023年調査における同様の回答92%から増加)。この認識は、消費者(回答は92%)や従業員(同94%)の間でも、ビジネスエグゼクティブと同様です(2023年調査と同水準)。信頼を構築する目的は、モラルだけではありません。ビジネスにおいてもその目的があるのです。実際、ビジネスエグゼクティブの93%は、ステークホルダーと信頼を構築して維持できれば、収益の増大に結び付くと認識しています。
調査の結果から、企業が主要なステークホルダーとの信頼を構築できる機会があることは明らかです。信頼の重要性から判断すると、従業員、消費者、投資家などのステークホルダーとの信頼が現状でどの程度であるかを認識して、信頼の構築に能動的に取り組む企業は、競合他社よりも明らかに優位に立つことができます。
信頼のギャップを認識することは、企業にとって重要な最初の一歩です。ビジネスエグゼクティブは、従業員や消費者から自身に寄せられる信頼について、相変わらず過大に評価しています。そして、このような傾向は、過去2年間よりも一層拡大しています。
企業側は、自らが高く信頼されていると過度に楽観的な見方をしています。その理由の1つとして、この信頼のギャップがどこに存在しているかを定常的に認識する内部組織が整備されていないことが挙げられます。多くの企業は自社に寄せられる信頼のレベルを計測していると言及しています。しかし、エグゼクティブと会話してみると、計測の尺度は主観的なことが多く、現時点での従業員、顧客、投資家などのステークホルダー全般にわたる見解を十分には捉えきれていません。判断の尺度として、顧客満足度や従業員エンゲージメントなどが採用されることがしばしばあります。これらは、信頼と関連性はあるものの、信頼を判断する指標としては、その一面を表しているに過ぎません。企業は、このような一面的な尺度から脱却することで、どこに注力したらよいか、より的確に認識できるようになります。
今年の調査においては、ビジネスエグゼクティブの94%が、ステークホルダーの信頼獲得に少なくとも1つは課題を抱えていると回答しており(2023年調査から11ポイント上昇)、以前よりも信頼の構築が困難になっていることが分かります。
例えば、エグゼクティブの30%は、コスト上の理由によりサプライチェーンプロセスや原材料を変えられないといった、他の要因以上に、自らが直面している課題のトップ3に入るとしています(2023年調査での同様の回答である23%から上昇)。その背景には、価格上昇からのプレッシャーがあるのかもしれません。なぜならエグゼクティブは、生産コストの上昇分を消費者に転嫁すべきか否か、判断を下す必要があるからです。
それとは別に、リーダー間で信頼の主管が誰にあるのかが不明確なことも課題となっています。これを解決困難な3つの難題の1つに挙げるエグゼクティブは24%に上り、2023年調査時より10ポイント上昇しています。会社側としては、特定のリーダーに信頼が偏在することを望んでいない可能性があり、信頼の主管が不明確なことは、これを反映しています。むしろ、確固たる目標、判断基準やインセンティブの下で、個々人が信頼に対する責任を負うべきです。このように、信頼というのは連帯して取り組むものであり、CEO、CHRO、COO、CFOやビジネスユニットの代表がその中心的役割を担います。
エグゼクティブのおよそ4人に1人(24%)は、ステークホルダーが何を求めているか分からないことが最大の課題であると回答しています(2023年調査の同様の回答の17%から上昇)。ステークホルダーとのエンゲージメントの計画が確立されていれば有益です。計画を立てる際には、各々のステークホルダーに自社の戦略に沿った行動をしてもらうためには、いつ、どのようにステークホルダーと交流すればよいかを想定しておくべきです。目指すべきは、全てのステークホルダーとの間で一様に理解を図ることではなく、コミュニケーションを築いて自社の戦略を理解してもらうことと認識してください。
ビジネスエグゼクティブの圧倒的多数は、ステークホルダーが自社に信頼を寄せていなければ、それは少なくともリスクの1つであると考えています。その影響はステークホルダーによって異なりますが、価値の喪失につながる点では共通しています。
信頼を獲得するには、基本的なことが重要です。消費者は、信頼の獲得に向けて、個人情報の保護(79%)、迅速な回答と問題解決(74%)、一貫して信頼できる顧客体験を提供すること(73%)が極めて重要であると指摘しています。自社がこれらの項目を的確に実行していると考えているエグゼクティブは、10人中9人近くに上ります。従業員は公正な賃金(77%)を最も重視しており、公正な処遇(77%)、従業員の個人情報の保護(72%)、倫理的な行動(72%)がこれに次いでいます。
このことは、リーダーにとっては心強いメッセージといえるかもしれません。従業員や消費者からの信頼を獲得するには、長期にわたる粘り強い取り組みを必要としますが、それは必ずしも解決困難な問題というわけではありません。
今回の調査から、上記以外にも認識のギャップが存在することが分かっていますが、それはよりポジティブなものです。エグゼクティブが従業員をどの程度信頼しているかに関する調査を実施したのは今回が初めてですが、86%が非常に高く信頼していると回答しています。他方、企業のリーダーから高く信頼されていると回答した従業員は、60%に過ぎません。この結果から、リーダー層が従業員を信頼している事実を明確にすることの重要性が明らかになります。従業員の多く(61%)は、企業のリーダー層から信頼されていないと、仕事の成果に影響すると考えています。
やや意外なことに、エグゼクティブたちが従業員に寄せる信頼度には、対面でもリモートでも、あまり相違がありません。ハイブリッドの職場環境に関しては、以下の結果が得られています。
ハイブリッド環境の場合、リーダー層は、自分の部下がどこで仕事をしようと信頼のレベルには影響しないことを、明確に繰り返して伝えるべきです。
職場においては、仕事上で接点が多い仲間に対する信頼感がより高くなる傾向があります。例えば、取締役層をかなりの程度信頼しているとするビジネスエグゼクティブは全体の53%であるのに対し、経験の浅い従業員に対しても同様だとする回答は38%に過ぎません。
ただし、CEOやCIOなどC-suiteの間での信頼のレベルはもっと低位にあります。C-suite間の信頼度は44%(「かなりの程度信頼している」との回答の割合)と、C-suite以外に対する信頼度(53%)を下回っています。これは、いくつかの理由があるでしょう。信頼されていることを従業員が実感するためには、C-suite間の信頼関係が不可欠です。このような関係がなければ、組織全体に信頼感が浸透することはあり得ず、オープンで協調的な企業文化が醸成されることはありません。さらに、企業の取締役層の間に信頼関係がなければ、他の課題にも影響し、企業戦略を決定して完遂することに悪影響が及ぶ可能性があります。
従業員全体の間で信頼関係をどのように構築するかを検討するにあたって、マネージャー層が考慮すべき事項がいくつか存在します。
根本的な問題は、会社内の広範囲にわたる部門の(または年功を異にする)人材を本質的に信頼できないということではありません。問題は、知らないものに対しては、誰も信頼を寄せないということです。定期的な交流がない状況においては、信頼の絆を形成することは困難です。どうすれば、こうした状況を改善できるでしょうか。ジョブローテーションや配置換え、取締役層との「何でも聞いてください(Ask me anything)」セッションを通じて、組織内の異なる部門の人々と接触する機会を増やしましょう。そして、何を選択するにしても、それが従業員の成長とチームメンバーの長期的な成功を目的としていることを、はっきりと示すことが重要です。
従業員がどこで仕事をしようと、エグゼクティブが従業員に寄せる信頼には通常は影響しません。しかしながら、会社の方針の中には、従業員の信頼を損ないかねないものもあります。
リモートワークを採用している場合、従業員が頻繁に席を離れていないか追跡すること、または、ログインした時間などにより従業員のオンライン行動を監視することは、従業員の信頼を損なう可能性があります。実際のところ、リモートワークの方針を採用している企業で働く従業員の35%は、自分のオンライン行動が会社側に追跡されるならば、会社に対する信頼は低下するだろうと回答しています。
ビジネスエグゼクティブは、従業員が生産的に業務を行っていることを確認する必要があります。それ自体は理解できるものですが、デジタル上の監視には負の側面もあり得ることを同時に認識しておくべきです。こうした負の影響によって信頼が損なわれる恐れがあり、そうなれば、労働の生産性は低下します。従業員を監視する目的は生産性の低下を回避することにあるのですから、これは皮肉な結果といえます。
ビジネスエグゼクティブの10人中9人は、自社は環境への影響の負荷低減に向けた活動をしていると回答しています。さらにその85%は、こうした行動が従業員との信頼の向上に結び付くと考えています(従業員は70%が、このような環境行動が信頼の向上につながると考えています)。環境に関する活動が他のステークホルダー(顧客、投資家、サプライヤーなど)の信頼の向上にもつながると考えるエグゼクティブも、同様の割合を占めています。
環境に関する活動には注目すべきです。一方企業側から見れば、自社の取り組みをもっと発信する機会があります。取り組みについて前向きかつ率直に開示すれば、ステークホルダーは、その企業が信頼に値するか、そして究極的にはその企業に積極的に関わるべきか否かを、情報に基づいて意思決定できるようになります。調査の結果を見れば、ステークホルダーが期待する透明性と、企業側からの現状の開示レベルとの間に差異があること分かります。
例えば、従業員の45%は、ネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすること)に向けた取り組みなど、環境への影響について企業が開示することが非常に重要であると回答しており、消費者の41%も同様の回答をしています。しかし、このような情報を実際に開示していると回答したビジネスエグゼクティブは36%にとどまります。環境関連リスクの開示についても、同様の差異が生じています。すなわち、従業員の40%、消費者の39%が、このような開示は非常に重要であるとする一方で、環境関連リスクを開示している企業は31%しかありません。このような齟齬が生じるのは、「開示」という言葉の解釈の相違によるのかもしれません。というのは、ほとんどの企業において、環境への影響やリスクに関する報告は、サステナビリティ担当部門を通じて行われているからです。
世界中の規制機関は、環境関連リスクや環境への影響に関する開示について注視する姿勢をさらに強めています。手をこまねいたところで、得るものはありません。
企業の多くは、「責任あるAI(RAI)」戦略にも注目しています。この分野には、対処しなければならない事項が数多くあります。ビジネスアプリケーションへのAIの組み入れがますます進むにつれて、AIの管理やAIの活用(その根底にあるデータの活用を含め)を巡る安全策の確立が、ステークホルダーの信頼を大きく左右するようになるかもしれません。
現時点において、RAIへの対応は企業間で大きく異なっています。RAI戦略の進捗状況についてエグゼクティブに質問したところ、一部の事業で戦略を策定済みとの回答が30%、戦略の策定中との回答が19%、全社的に戦略を展開済みとの回答が39%となりました。ただし、より広範な概念であるサイバーセキュリティとRAIとの相違について、多くのエグゼクティブの間で十分に理解されていない可能性があり、実際にはエグゼクティブたちが考えているほどには企業側の対応は進んでいないと、PwCは捉えています。既に実行されているサイバーセキュリティプログラムやプライバシープログラムが、もっと全体的なRAI戦略の構成要素となるのです。
今回の調査において、自社のAI管理体制について開示していると回答したエグゼクティブは、全体の33%にとどまりました。他方で、従業員の69%、消費者の66%は、企業がこれを開示することが重要であると回答しており、両者間の相違は歴然としています。AIを管理する必要があるという意識が消費者と従業員の間で高まるにつれ、この問題の重要性がさらに増してくるものと思われます。
現時点において、データに関するプライバシーポリシーへの意識が最も高いのは従業員と消費者です。従業員の89%、消費者の88%は、企業がプライバシーポリシーを開示することが重要だと回答しています。他方、自社においてこれを開示すると回答したエグゼクティブは32%に過ぎず、意外なほどの低水準にとどまっています。
PwCは、米国においてさまざまな産業に従事する企業のエグゼクティブ548名、消費者2,515名、従業員2,039名を対象として調査を行いました。フィールド調査は2024年1月12日から1月17日にかけて実施しました。
ここまで見てきたとおり、ステークホルダー(顧客、従業員、投資家)との信頼の構築はビジネスにおいて重要な意味を持ちます。その中でも、PwC Japanグループでは特に、顧客との関係について着目しています。
私たちは、良い顧客基盤があれば、十分な利益率を確保し、また安定的・持続的な成長を実現しやすくなると考えています(参照:顧客基盤価値マネジメント)。
以下は、2024年3月時点での東証プライム上場企業(一部企業を除く)に対して、決算報告書・決算説明会資料に「顧客基盤作り」(顧客基盤を強化する・拡大する等)について言及している企業と言及がない企業でROE、PBR、ROICを分析した結果です。いずれの指標も有意差0.05以下をもって、顧客基盤作りに取り組んでいる企業で高くなっていることが分かります。
調査・分析方法
※2024年3月中旬時点の国内上場企業のうち、主要上場・取引市場が東証プライム市場の企業を対象。
※「顧客基盤作り」については、有価証券報告書・決算説明会資料を対象に、キーワードを用いて該当する資料を抽出の上、フラグ立てを実施。(キーワードの例:顧客基盤、クロスセル・アップセル、生涯価値、顧客への価値提供、顧客満足の向上、優良顧客、価値創造ストーリーなど)
※決算期の関係上、2023年度については財務情報の公表が限定的であるため、ブランクとなっている企業は2022年度の値を使用。
※D/Eレシオが2σの範囲内にあるものを抽出。
統合思考経営が進む中、その本質は無形資産の有効活用ですが、その無形資産において最も重要なものの1つが顧客資産です。売上・利益はそこからしか生まれ得ず、さらには企業の存在目的も顧客への価値提供(さらに、それを通したビジョンの実現)です。
今後、顧客との間で信頼を構築し、中長期での事業の成長を実現していただきたいと思います。なお、私たちは「顧客基盤価値」の最大化に向けたコンサルティングの提供も行っています。皆様と本テーマに関して協働し、事業の成長に貢献できることがあれば嬉しく思います。
※本コンテンツは、PwC米国『PwC’s 2024 Trust Survey 8 key findings』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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