信頼度調査2024

「信頼」にまつわる8つの事実

  • 2024-06-24
93%

ビジネスエグゼクティブの93%は、ステークホルダーとの信頼を構築して維持することにより、収益が改善すると考えています。

94%

エグゼクティブの94%は、ステークホルダーとの信頼を構築するにあたって、少なくとも1つは課題を抱えているとしています。

86%

エグゼクティブの86%は、従業員を高く信頼しているとしています。一方、会社から高く信頼されていると感じている従業員は60%に過ぎません。

ステークホルダーとの信頼によって収益が増大

多くの企業において、ステークホルダーとの信頼度が低下しています。ビジネスを進める中で信頼はとりわけ重要であるにもかかわらず、です。PwCが実施した第4回信頼度調査では、ビジネスエグゼクティブ、消費者、従業員のそれぞれの間で信頼を構築することの重要性と、機会が明らかになりました。回答を見ると、ビジネスエグゼクティブの95%が、企業には信頼を構築する責任があると認識しています(2023年調査における同様の回答92%から増加)。この認識は、消費者(回答は92%)や従業員(同94%)の間でも、ビジネスエグゼクティブと同様です(2023年調査と同水準)。信頼を構築する目的は、モラルだけではありません。ビジネスにおいてもその目的があるのです。実際、ビジネスエグゼクティブの93%は、ステークホルダーと信頼を構築して維持できれば、収益の増大に結び付くと認識しています。

調査の結果から、企業が主要なステークホルダーとの信頼を構築できる機会があることは明らかです。信頼の重要性から判断すると、従業員、消費者、投資家などのステークホルダーとの信頼が現状でどの程度であるかを認識して、信頼の構築に能動的に取り組む企業は、競合他社よりも明らかに優位に立つことができます。

1. 信頼ギャップの拡大

信頼のギャップを認識することは、企業にとって重要な最初の一歩です。ビジネスエグゼクティブは、従業員や消費者から自身に寄せられる信頼について、相変わらず過大に評価しています。そして、このような傾向は、過去2年間よりも一層拡大しています。

  • ビジネスエグゼクティブの90%は、自社が消費者から強い信頼を寄せられていると考えています。一方消費者は30%しかそのように捉えていません。これら両者の間に横たわる60ポイントのギャップは、2022年および2023年の調査で見られた57ポイントから、さらに拡大しています。
  • 消費者に比べて、従業員は企業をより高く信頼する傾向がありますが、それでも、ギャップは拡大しています。例えば、企業に対する従業員の信頼は高いと考えるビジネスエグゼクティブは86%に上りますが、雇用主を高く信頼していると捉えている従業員は67%に過ぎません。従業員と雇用主の間で認められる信頼のギャップは19ポイントですが、これも過去に比べると拡大しています。

企業側は、自らが高く信頼されていると過度に楽観的な見方をしています。その理由の1つとして、この信頼のギャップがどこに存在しているかを定常的に認識する内部組織が整備されていないことが挙げられます。多くの企業は自社に寄せられる信頼のレベルを計測していると言及しています。しかし、エグゼクティブと会話してみると、計測の尺度は主観的なことが多く、現時点での従業員、顧客、投資家などのステークホルダー全般にわたる見解を十分には捉えきれていません。判断の尺度として、顧客満足度や従業員エンゲージメントなどが採用されることがしばしばあります。これらは、信頼と関連性はあるものの、信頼を判断する指標としては、その一面を表しているに過ぎません。企業は、このような一面的な尺度から脱却することで、どこに注力したらよいか、より的確に認識できるようになります。

2. 信頼の獲得は以前にも増して困難に

今年の調査においては、ビジネスエグゼクティブの94%が、ステークホルダーの信頼獲得に少なくとも1つは課題を抱えていると回答しており(2023年調査から11ポイント上昇)、以前よりも信頼の構築が困難になっていることが分かります。

例えば、エグゼクティブの30%は、コスト上の理由によりサプライチェーンプロセスや原材料を変えられないといった、他の要因以上に、自らが直面している課題のトップ3に入るとしています(2023年調査での同様の回答である23%から上昇)。その背景には、価格上昇からのプレッシャーがあるのかもしれません。なぜならエグゼクティブは、生産コストの上昇分を消費者に転嫁すべきか否か、判断を下す必要があるからです。

それとは別に、リーダー間で信頼の主管が誰にあるのかが不明確なことも課題となっています。これを解決困難な3つの難題の1つに挙げるエグゼクティブは24%に上り、2023年調査時より10ポイント上昇しています。会社側としては、特定のリーダーに信頼が偏在することを望んでいない可能性があり、信頼の主管が不明確なことは、これを反映しています。むしろ、確固たる目標、判断基準やインセンティブの下で、個々人が信頼に対する責任を負うべきです。このように、信頼というのは連帯して取り組むものであり、CEO、CHRO、COO、CFOやビジネスユニットの代表がその中心的役割を担います。

エグゼクティブのおよそ4人に1人(24%)は、ステークホルダーが何を求めているか分からないことが最大の課題であると回答しています(2023年調査の同様の回答の17%から上昇)。ステークホルダーとのエンゲージメントの計画が確立されていれば有益です。計画を立てる際には、各々のステークホルダーに自社の戦略に沿った行動をしてもらうためには、いつ、どのようにステークホルダーと交流すればよいかを想定しておくべきです。目指すべきは、全てのステークホルダーとの間で一様に理解を図ることではなく、コミュニケーションを築いて自社の戦略を理解してもらうことと認識してください。

3. 顧客は信頼を購入、従業員は信頼を実感、そして投資家は信頼を要求

ビジネスエグゼクティブの圧倒的多数は、ステークホルダーが自社に信頼を寄せていなければ、それは少なくともリスクの1つであると考えています。その影響はステークホルダーによって異なりますが、価値の喪失につながる点では共通しています。

  • 顧客:エグゼクティブの42%は、自社が顧客からの信頼を得ていない場合、顧客エンゲージメントが最大のリスクになると回答しています。新規市場や顧客セグメントの拡大(41%)、収益(38%)がこれに次いでいます。企業が収益を追求して競争を繰り広げていることを、顧客は十分に承知しています。顧客は、企業を根本的に信頼できなければ不満を漏らすこともありますが、多くの場合、単に他の企業に乗り換えてしまいます。加えて、消費者の61%は、自分が信頼を寄せる企業を友人や家族に勧めたことがあると回答しています。また、消費者の46%は、信頼できる企業からより多くを購入しており、さらに消費者の28%は非常に高額の購入をしています。他方、顧客の10人中4人は、企業を信頼できないという理由で購入を中止しています。
  • 従業員:エグゼクティブの42%は、従業員が雇用主を信頼していない場合の最大のリスクとして、生産性を挙げています。これに次ぐリスクとして、製品やサービスの品質(41%)、業務の効率性(40%)、そしてここでも収益(38%)が挙げられています。意外なことに、離職のリスクはこれらよりも低位にあります。企業はこれまで、従業員から信頼を得ることは、有能な人材を採用し、つなぎ止めるために重要であると考えてきました。しかし、調査の結果からは、従業員からの信頼が低い場合、日々の業務に直ちに影響が及ぶという事実が分かりました。つまり、リスク要因は、従業員が離職することではなく、企業に在籍したまま、身の入らない状態で仕事を続けられることにあるのです。さらに、従業員の60%は、自社を良い職場であると友人や家族に勧めた理由は、企業を信頼できることだと回答しています。これとは逆に、従業員の22%は、離職した理由は企業への信頼に関係するものだと回答しています。
  • 投資家:エグゼクティブの41%は、投資家から信頼されていない場合、企業が直面する最大のリスクとして資本コストを挙げており、資金調達と時価総額(ともに38%)がこれに次いでいます。現在のマーケットにおいて、新規株式公開(IPO)やM&Aが低水準で推移している実情に鑑みれば、特に、資本に関するリスクは時宜を得たものといえます。この環境下で企業は民間資本への依存を強めており、遠からず公的資金の利用も視野に入ってくる可能性があります。こうした中で、信頼を獲得することは、極めて重要な意味を持っています。

信頼を獲得するには、基本的なことが重要です。消費者は、信頼の獲得に向けて、個人情報の保護(79%)、迅速な回答と問題解決(74%)、一貫して信頼できる顧客体験を提供すること(73%)が極めて重要であると指摘しています。自社がこれらの項目を的確に実行していると考えているエグゼクティブは、10人中9人近くに上ります。従業員は公正な賃金(77%)を最も重視しており、公正な処遇(77%)、従業員の個人情報の保護(72%)、倫理的な行動(72%)がこれに次いでいます。

このことは、リーダーにとっては心強いメッセージといえるかもしれません。従業員や消費者からの信頼を獲得するには、長期にわたる粘り強い取り組みを必要としますが、それは必ずしも解決困難な問題というわけではありません。

4. 従業員:リモートワークであっても、雇用主からは想像以上に高い信頼

今回の調査から、上記以外にも認識のギャップが存在することが分かっていますが、それはよりポジティブなものです。エグゼクティブが従業員をどの程度信頼しているかに関する調査を実施したのは今回が初めてですが、86%が非常に高く信頼していると回答しています。他方、企業のリーダーから高く信頼されていると回答した従業員は、60%に過ぎません。この結果から、リーダー層が従業員を信頼している事実を明確にすることの重要性が明らかになります。従業員の多く(61%)は、企業のリーダー層から信頼されていないと、仕事の成果に影響すると考えています。

やや意外なことに、エグゼクティブたちが従業員に寄せる信頼度には、対面でもリモートでも、あまり相違がありません。ハイブリッドの職場環境に関しては、以下の結果が得られています。

  • ビジネスエグゼクティブの3分の2以上(68%)は、リモートワークであるか対面であるかを問わず、従業員に対する信頼は変わらないと回答しており、対面の従業員への信頼がより高いとする回答は20%に過ぎません。
  • 一方、従業員側では、リーダー層が自分に寄せる信頼はどこで仕事をするかに関係しないと考える者が全体の60%、対面の方が信頼されると考える者が31%となっています。

ハイブリッド環境の場合、リーダー層は、自分の部下がどこで仕事をしようと信頼のレベルには影響しないことを、明確に繰り返して伝えるべきです。

5. 職場でのつながりが信頼を醸成

職場においては、仕事上で接点が多い仲間に対する信頼感がより高くなる傾向があります。例えば、取締役層をかなりの程度信頼しているとするビジネスエグゼクティブは全体の53%であるのに対し、経験の浅い従業員に対しても同様だとする回答は38%に過ぎません。

ただし、CEOやCIOなどC-suiteの間での信頼のレベルはもっと低位にあります。C-suite間の信頼度は44%(「かなりの程度信頼している」との回答の割合)と、C-suite以外に対する信頼度(53%)を下回っています。これは、いくつかの理由があるでしょう。信頼されていることを従業員が実感するためには、C-suite間の信頼関係が不可欠です。このような関係がなければ、組織全体に信頼感が浸透することはあり得ず、オープンで協調的な企業文化が醸成されることはありません。さらに、企業の取締役層の間に信頼関係がなければ、他の課題にも影響し、企業戦略を決定して完遂することに悪影響が及ぶ可能性があります。

従業員全体の間で信頼関係をどのように構築するかを検討するにあたって、マネージャー層が考慮すべき事項がいくつか存在します。

  • 経験が浅いスタッフは最も信頼を得にくい立場にあります。このようなスタッフをかなりの程度信頼できると回答したのは、エグゼクティブの38%、従業員全体の32%に過ぎません。このことからも、こうした従業員に対するサポートや、教育、メンタリングプログラムの強化を通じ、信頼の構築や自信につなげていく必要があることは明らかです。
  • これとは別に、従業員の回答では、対面でのチーム構築に向けた機会を会社側から与えられることが重要だとされており、回答者の57%は、その結果として雇用主に対する信頼度の向上につながるとしています。また従業員によるインプットを評価していることを明らかにすれば、非常に大きな効果が期待できます。例えば、従業員の83%は、重要な意思決定の場への参加を直属の上司から認められるならば、会社への信頼は一層高まるだろうと考えています。
  • チームメンバーの声に耳を傾けることによって、マネージャーは、自らのチーム内での信頼の構築と関係の強化に向けて、大きく前進することができます。従業員の3分の2以上(68%)は、信頼を構築する上で、これが非常に重要であると考えています。
  • キャリア形成の機会を設けることも、従業員の信頼を構築するためには、極めて重要な側面の1つです。回答の61%は、これが非常に重要であると示しています。キャリア形成に投資することは、信頼の醸成ばかりでなく、従業員エンゲージメントや従業員のモチベーションを高め、仕事への満足度を全般的に向上させるためにも有効です。

根本的な問題は、会社内の広範囲にわたる部門の(または年功を異にする)人材を本質的に信頼できないということではありません。問題は、知らないものに対しては、誰も信頼を寄せないということです。定期的な交流がない状況においては、信頼の絆を形成することは困難です。どうすれば、こうした状況を改善できるでしょうか。ジョブローテーションや配置換え、取締役層との「何でも聞いてください(Ask me anything)」セッションを通じて、組織内の異なる部門の人々と接触する機会を増やしましょう。そして、何を選択するにしても、それが従業員の成長とチームメンバーの長期的な成功を目的としていることを、はっきりと示すことが重要です。

6. リモートワークの監視は信頼を侵食

従業員がどこで仕事をしようと、エグゼクティブが従業員に寄せる信頼には通常は影響しません。しかしながら、会社の方針の中には、従業員の信頼を損ないかねないものもあります。

  • 従業員の10人中7人以上(71%)は、執務時間に関する自由度は信頼の向上につながると回答しています。しかし、このような形での自由度を現状で確保していると考えるエグゼクティブは、全体の43%に過ぎません。リモートワークやハイブリッドワークを採用している企業で働く従業員では、時間に縛られずに仕事できることが信頼に結び付くと考える者がほぼ同じ割合(72%)であるのに対し、このような企業のうち従業員に自由を与えているのは45%にとどまります。
  • 同様に従業員の69%は、仕事場所に関する自由度があれば、より一層の信頼につながると考えています。しかし、現時点においてこれを認めているエグゼクティブは全体の39%に過ぎません。リモートワークやハイブリッドワークで働く従業員の72%は同様の回答をしています。一方、このような企業の42%は、どこで仕事をするかは従業員の自由であるとしています。

リモートワークを採用している場合、従業員が頻繁に席を離れていないか追跡すること、または、ログインした時間などにより従業員のオンライン行動を監視することは、従業員の信頼を損なう可能性があります。実際のところ、リモートワークの方針を採用している企業で働く従業員の35%は、自分のオンライン行動が会社側に追跡されるならば、会社に対する信頼は低下するだろうと回答しています。

ビジネスエグゼクティブは、従業員が生産的に業務を行っていることを確認する必要があります。それ自体は理解できるものですが、デジタル上の監視には負の側面もあり得ることを同時に認識しておくべきです。こうした負の影響によって信頼が損なわれる恐れがあり、そうなれば、労働の生産性は低下します。従業員を監視する目的は生産性の低下を回避することにあるのですから、これは皮肉な結果といえます。

7. 環境に関する透明性の確保は不可欠

ビジネスエグゼクティブの10人中9人は、自社は環境への影響の負荷低減に向けた活動をしていると回答しています。さらにその85%は、こうした行動が従業員との信頼の向上に結び付くと考えています(従業員は70%が、このような環境行動が信頼の向上につながると考えています)。環境に関する活動が他のステークホルダー(顧客、投資家、サプライヤーなど)の信頼の向上にもつながると考えるエグゼクティブも、同様の割合を占めています。

環境に関する活動には注目すべきです。一方企業側から見れば、自社の取り組みをもっと発信する機会があります。取り組みについて前向きかつ率直に開示すれば、ステークホルダーは、その企業が信頼に値するか、そして究極的にはその企業に積極的に関わるべきか否かを、情報に基づいて意思決定できるようになります。調査の結果を見れば、ステークホルダーが期待する透明性と、企業側からの現状の開示レベルとの間に差異があること分かります。

例えば、従業員の45%は、ネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにすること)に向けた取り組みなど、環境への影響について企業が開示することが非常に重要であると回答しており、消費者の41%も同様の回答をしています。しかし、このような情報を実際に開示していると回答したビジネスエグゼクティブは36%にとどまります。環境関連リスクの開示についても、同様の差異が生じています。すなわち、従業員の40%、消費者の39%が、このような開示は非常に重要であるとする一方で、環境関連リスクを開示している企業は31%しかありません。このような齟齬が生じるのは、「開示」という言葉の解釈の相違によるのかもしれません。というのは、ほとんどの企業において、環境への影響やリスクに関する報告は、サステナビリティ担当部門を通じて行われているからです。

世界中の規制機関は、環境関連リスクや環境への影響に関する開示について注視する姿勢をさらに強めています。手をこまねいたところで、得るものはありません。

8. 責任あるAIの活用が信頼を醸成

企業の多くは、「責任あるAI(RAI)」戦略にも注目しています。この分野には、対処しなければならない事項が数多くあります。ビジネスアプリケーションへのAIの組み入れがますます進むにつれて、AIの管理やAIの活用(その根底にあるデータの活用を含め)を巡る安全策の確立が、ステークホルダーの信頼を大きく左右するようになるかもしれません。

現時点において、RAIへの対応は企業間で大きく異なっています。RAI戦略の進捗状況についてエグゼクティブに質問したところ、一部の事業で戦略を策定済みとの回答が30%、戦略の策定中との回答が19%、全社的に戦略を展開済みとの回答が39%となりました。ただし、より広範な概念であるサイバーセキュリティとRAIとの相違について、多くのエグゼクティブの間で十分に理解されていない可能性があり、実際にはエグゼクティブたちが考えているほどには企業側の対応は進んでいないと、PwCは捉えています。既に実行されているサイバーセキュリティプログラムやプライバシープログラムが、もっと全体的なRAI戦略の構成要素となるのです。

今回の調査において、自社のAI管理体制について開示していると回答したエグゼクティブは、全体の33%にとどまりました。他方で、従業員の69%、消費者の66%は、企業がこれを開示することが重要であると回答しており、両者間の相違は歴然としています。AIを管理する必要があるという意識が消費者と従業員の間で高まるにつれ、この問題の重要性がさらに増してくるものと思われます。

現時点において、データに関するプライバシーポリシーへの意識が最も高いのは従業員と消費者です。従業員の89%、消費者の88%は、企業がプライバシーポリシーを開示することが重要だと回答しています。他方、自社においてこれを開示すると回答したエグゼクティブは32%に過ぎず、意外なほどの低水準にとどまっています。

エグゼクティブのための信頼プレイブック

  • ステークホルダーとの信頼のギャップを認識する。ビジネスエグゼクティブは、自らとステークホルダー(従業員、顧客を含む)との間に存在する信頼のギャップを認識して対処すべきです。エグゼクティブは、信頼度を推定するとともに信頼に関連するモニタリングや確認を行っているつもりでいますが、実際には、このような行為を通じて信頼に関する的確な理解が得られるわけではありません。例えば、エグゼクティブの多くは、従業員の満足度や雇用の維持は信頼を裏付けるものと考えて、これに注目しています。これらは信頼度に影響を与える重要な尺度ではありますが、より全体的に信頼度を知るためには、十分とはいえません。
  • 関係者が一丸となって、信頼の機会を築く。その第一歩として、信頼が低下した場合に、あなたの事業のさまざまな側面にどのような悪影響が及ぶかについて理解することです。例えば、顧客エンゲージメント、販路拡大の機会、そして収益全般に影響するかもしれません。組織の総力を挙げて信頼という課題に対処します。信頼のレベルは、広く一般に採用されている尺度によって推定することとします。信頼の構築は共同責任です。したがって、エグゼクティブが力を合わせ、戦略の中心に据えて取り組みを強化しなければなりません。
  • 信頼のカルチャー構築に注力する。C-suiteの間で信頼を育むことがその第一歩です。C-suite間の信頼がなければ、従業員の間で信頼のカルチャーを築くことは容易ではありません。あなたの会社の従業員を信頼していることを伝え、態度で示します。そして、従業員が互いの信頼を一層高められるような機会を与えます。全従業員を対象とする研修やメンタリングを強化するとともに、キャリア形成の機会や双方向フィードバックのための公開討論の場を設けます。キャリア形成に対する投資は、信頼を促進するだけでなく、従業員エンゲージメントやモチベーションを向上させ、仕事に対する満足度を高めることにもつながります。信頼が高まれば生産性が上がり、収益も増大します。
  • ステークホルダーとのエンゲージメント計画を策定する。関係者をステークホルダーとして選任し、彼らとのコミュニケーション戦略を整理します。ステークホルダーの意見を聞いて、その見方をより的確に理解するとともに、見解の変化に対応できるようにします。ステークホルダーの見解を課題ごとにマッピングすることによって、課題間の関連性を全社的に把握して、ステークホルダーの要望をより的確に理解できるようになります。必然性とのトレードオフで、戦略を定義します。信頼は流動的なものであり、ステークホルダーのニーズや要望が進化する可能性があることを認識します。取締役層は、どのようにしたら、ステークホルダーとの定常的な関係性を構築できるか考えておくべきです。
  • 自社の取り組みを一貫して伝える。企業にとって、開示資料に記載の内容と、ホームページで公表する内容との整合性を保つことは極めて重要です。環境への影響に関する内容は、サステナビリティレポートと矛盾していないでしょうか。企業の説明が一貫していて、内容に矛盾がないことは、混乱や不信を避けるために不可欠です。ステークホルダーに率直に伝達するとともに、意図的かつ頻繁に、透明性を確保してステークホルダーと対話することにより、説明を充実させることができます。こうした継続的な取り組みによって、企業に対する信頼を強め、評価を高めることができます。また、組織内での調整や目標の明確化も促進できます。
  • 新技術の利活用においては、最初から信頼を念頭に置く。例えば、新技術の導入または新技術への投資に際しては、最初から信頼を考慮して設計します。それによって、より長期にわたって価値を生み出せるようになり、信頼のギャップの埋め合わせを事後に迫られる事態も避けられます。開示規則に取り組むにあたっては、技術と透明性を報告戦略の中心に据えます。そうすることで企業に対する信頼が高まり、サステナビリティ情報の収集、保管、報告を行うための管理や手順の策定が容易になります。自社がサステナビリティに真摯に取り組んでいることを実証し、ステークホルダーと積極的に向き合うことで、価値の共有と責任ある事業の実践という基盤の上に、信頼を育み、長期にわたる関係を構築することが可能になるのです。

本サーベイについて

PwCは、米国においてさまざまな産業に従事する企業のエグゼクティブ548名、消費者2,515名、従業員2,039名を対象として調査を行いました。フィールド調査は2024年1月12日から1月17日にかけて実施しました。

顧客基盤の強化と事業の成長

ここまで見てきたとおり、ステークホルダー(顧客、従業員、投資家)との信頼の構築はビジネスにおいて重要な意味を持ちます。その中でも、PwC Japanグループでは特に、顧客との関係について着目しています。

私たちは、良い顧客基盤があれば、十分な利益率を確保し、また安定的・持続的な成長を実現しやすくなると考えています(参照:顧客基盤価値マネジメント)。

以下は、2024年3月時点での東証プライム上場企業(一部企業を除く)に対して、決算報告書・決算説明会資料に「顧客基盤作り」(顧客基盤を強化する・拡大する等)について言及している企業と言及がない企業でROE、PBR、ROICを分析した結果です。いずれの指標も有意差0.05以下をもって、顧客基盤作りに取り組んでいる企業で高くなっていることが分かります。

調査・分析方法

※2024年3月中旬時点の国内上場企業のうち、主要上場・取引市場が東証プライム市場の企業を対象。
※「顧客基盤作り」については、有価証券報告書・決算説明会資料を対象に、キーワードを用いて該当する資料を抽出の上、フラグ立てを実施。(キーワードの例:顧客基盤、クロスセル・アップセル、生涯価値、顧客への価値提供、顧客満足の向上、優良顧客、価値創造ストーリーなど)
※決算期の関係上、2023年度については財務情報の公表が限定的であるため、ブランクとなっている企業は2022年度の値を使用。
※D/Eレシオが2σの範囲内にあるものを抽出。

統合思考経営が進む中、その本質は無形資産の有効活用ですが、その無形資産において最も重要なものの1つが顧客資産です。売上・利益はそこからしか生まれ得ず、さらには企業の存在目的も顧客への価値提供(さらに、それを通したビジョンの実現)です。

今後、顧客との間で信頼を構築し、中長期での事業の成長を実現していただきたいと思います。なお、私たちは「顧客基盤価値」の最大化に向けたコンサルティングの提供も行っています。皆様と本テーマに関して協働し、事業の成長に貢献できることがあれば嬉しく思います。

※本コンテンツは、PwC米国『PwC’s 2024 Trust Survey 8 key findings』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 賢

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小笠原 光優

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

清水 遼一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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