
株価向上に資する投資家視点のデータ分析とESGインパクト:週刊金融財政事情 2025年2月11日号
日本の上場企業の株価水準が諸外国と比べて見劣りしています。投資家と企業の視点にギャップがあるため、企業の取り組みが市場で評価されずに株価が低迷している側面もあるのではないかと考えられます。その処方箋として「投資家視点のデータ分析」の活用を提案します。(週刊金融財政事情 2025年2月11日号 寄稿)
2021-07-28
日本生命保険グループは2021年度をめどに、資産運用機能の一部を運用子会社のニッセイアセットマネジメントに集約します。その内容は、日本生命と大樹生命(旧三井生命)からクレジット資産とオルタナティブ資産、計約12兆円を委託するという大規模なものであり、日本生命についてはすでに集約され、大樹生命については目下集約に向けて検討が進められているところです。そこにはどのような背景があり、またどのような施策が講じられようとしているのでしょうか。プロジェクトを推進している日本生命執行役員の岡本慎一氏と、PwCコンサルティング合同会社の古賀弘之、PwCあらた有限責任監査法人の宇塚公一がこれまでの取り組みを振り返り、未来への展望を語り合いました。
鼎談者
日本生命保険相互会社
執行役員財務企画部長
岡本 慎一氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー/日本生命グループ グローバル・クライアント・パートナー
古賀 弘之
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー/PwC Japanグループ 保険インダストリーリーダー
宇塚 公一
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)岡本 慎一氏、古賀 弘之、宇塚 公一
古賀:私たちは、日本生命グループにおける資産運用態勢の高度化を目的とする資産運用機能の移管プロジェクトを通じて、非常に重要な経営アジェンダの支援に取り組ませていただいていると自負しています。
保険会社にとって、資産運用と保険引受は車の両輪のような関係だと思います。最初に、岡本さんがお考えの、保険会社における資産運用部門の役割や重要性についてお聞かせください。
岡本:保険は、お客様からいただいた保険料を運用し、万が一の時に保険金をお支払いするのが基本形であり、その点では長期で安定的に運用することが大原則になります。
一口に長期安定と言っても、保険の負債は3年、5年ではなく、10年、20年、30年といった期間のものになります。30年の運用商品はなかなかありません。その中で、長期の負債に対してどのように資産を割り当てていくのかを考える必要があります。また、いただいたお金を万一の時にお返しできないということがないよう、安定的であることは必須です。マイナスにならないようにしっかりと資産を守り、お約束した予定利率でお返しすることが基本です。私たちは「収益性」「安全性」「流動性」「公共性」といったキーワードを掲げています。「収益性」と「安全性」とは、すなわちお客様にお約束している利回りをお返しすることです。日本ではずっと低金利が続いています。更にコロナ禍により、先進国の金利もほとんどゼロになってしまいました。この中で、保険会社の資産運用部門の役割は大きくなっています。
「公共性」とはESG(環境・社会・ガバナンス)が軸となります。日本生命グループでは、ESGに力を入れていくと対外的にも発表しています。ESGというと、社会的貢献活動(フィランソロピー)や社会的投資責任(SRI)、更にはボランティアのような形で捉えられることもありますが、日本生命グループではそのようには考えていません。というのも、長期で安定的に投資をするにあたって、投資先の企業や団体のESGのリスクがダイレクトにリスクやリターンに直結する世の中になっているからです。3年、5年ではそこまでの影響はないかもしれませんが、私たちは先ほどお話したように、現在の投資が2050年まで続くことになります。そうすると2050年の温室効果ガス排出ネットゼロを相当に意識しなければ、今のポートフォリオが組めないのです。
日本生命保険相互会社 執行役員財務企画部長 岡本 慎一氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー/日本生命グループ グローバル・クライアント・パートナー 古賀 弘之
古賀:長期安定を考えると、運用環境の変化も考慮する必要があると思います。変化に対応し、高度化していかなくてはならないわけですが、どのように心がけているのでしょうか。
岡本:ダイナミック(動的)に考えなければなりません。決め打ちしないのも一つのやり方です。柔軟に動けるように遊びの部分を設けておくわけです。資産運用についても、ウォーターフォール型(システム開発で工程を一つずつ進めていく開発手法)ではなくアジャイル型(短期間で修正と実装を繰り返す開発手法)が必要になってきているように思います。
高度化の方向性としてはやはりグローバルです。日本は、人口動態的に高齢化が進むため、低金利から脱することができない可能性があります。そこで、海外に出てリスクとリターンの効率がいい資産を求めざるを得ません。
平たくいうと国際分散投資の推進です。国内だけではなく、米国や欧州、新興国を含めて分散投資を行うことで、よりよい投資機会の獲得によるリターンの向上と、分散効果によるリスクの低減を図ることが可能となります。
今回のプロジェクトにも関係するのですが、資産運用のグローバル化の背景には国債の金利低下があります。低金利を乗り越えていくためには、やはりクレジットと言われる信用リスクを取っていく必要があります。クレジット投資の中心は、海外の企業社債への投資になります。これまでは国内企業への社債投資や融資がメインでしたが、国際分散投資のメリットを享受し、少しでもよい利回りを得るために海外の社債に投資していきます。そして、オルタナティブ(代替資産)です。これまでの株式や債券など、伝統的な資産と違う値動きをする、連動性が低い資産を入れることによって、分散効果を享受できます。オルタナティブ資産のメインストリームは海外になりますので、海外の拠点と連携しながら、これまでやってきたことを結びつけるという方向になります。
そういう意味ではグローバル化と、クレジット投資、オルタナティブ投資の推進には極めて強い関連性があり、グローバル化を進めるためにはクレジット投資やオルタナティブ投資を強化しなければなりません。
古賀さんがおっしゃるように、運用環境は変化していくのですけれど、やはりグローバルでの分散投資の流れは変わらないと思っています。
宇塚:今回のプロジェクトは、日本生命グループの資産運用機能をニッセイアセットマネジメント(以下、ニッセイアセット)に移管するという大きな決断です。それを推進していく中で、どのような将来像を描いているのでしょうか。プロジェクトを通して日本生命グループとして運用機能をどのように変革しようとされているのでしょうか。
岡本:このプロジェクトは突然出てきたものではなく、長年検討、議論してきたことを形にしたものと私は考えています。
アセットマネジメント会社への資本参画や買収も2000年代から行ってきましたし、海外の運用現地法人もニューヨーク、ロンドン、シンガポールに設立し、20年、30年の歴史があります。
先ほどお話しした低金利環境においてリターンを得るにはクレジット投資やオルタナティブ投資が必須になるという考え方は、日本生命だけではなくグループの大樹生命にも共通する課題です。ならば、この課題を一度に解決する手段はないものかと考えていました。そこで、日本生命だけではなくグループ全体の最適化を考え、移管するだけではなく、ニッセイアセットや資産運用現地法人がこれまで積み上げてきたものとも有機的につなげていくのが、目指すべき姿だろうと思いました。それが、たとえ長い道のりであったとしても、です。
グループを網の目状につなげていったときに1+1が2ではなく3になり、それを時間的にずっとつなげていく力が生かせるような将来像を描きたいと思いました。日本生命のグループ企業一つ一つは別の組織体で動いていても、同じ目標に向かって世界中のみんなが知恵を出し合っていく。また駅伝のように人が代わっても、次の代にタスキを渡して、長い距離を走っていくような時間と地域という面積を広げていくという一体感が日本生命グループの強みだと思っているので、それを生かせるような組織やデザインにしたいと常々思っています。
(後編では、この戦略的プロジェクトにおいて、PwC Japanグループがどのような役割を果たすことができたのかをお話しいただきます。)
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー/PwC Japanグループ 保険インダストリーリーダー 宇塚 公一
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