
株価向上に資する投資家視点のデータ分析とESGインパクト:週刊金融財政事情 2025年2月11日号
日本の上場企業の株価水準が諸外国と比べて見劣りしています。投資家と企業の視点にギャップがあるため、企業の取り組みが市場で評価されずに株価が低迷している側面もあるのではないかと考えられます。その処方箋として「投資家視点のデータ分析」の活用を提案します。(週刊金融財政事情 2025年2月11日号 寄稿)
2021-08-03
日本生命グループは2021年度をめどに、資産運用機能の一部を運用子会社のニッセイアセットマネジメントに集約します。その内容は、日本生命と大樹生命(旧三井生命)からニッセイアセットマネジメントにクレジット資産とオルタナティブ資産、計約12兆円を委託する(日本生命についてはすでに委託済みであり、大樹生命については目下委託に向けて検討中)だけでなく、担当の運用者やアナリストも運用子会社に集約するといいます。決して容易な道のりではないと思われますが、数多くの課題にどのように対応しているのか、プロジェクトを推進している日本生命執行役員の岡本慎一氏と、PwCコンサルティング合同会社の古賀弘之、PwCあらた有限責任監査法人の宇塚公一がこれまでの取り組みを振り返り、未来への展望を語り合いました。
鼎談者
日本生命保険相互会社
執行役員財務企画部長
岡本 慎一氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー/日本生命グループ グローバル・クライアント・パートナー
古賀 弘之
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー/PwC Japanグループ 保険インダストリーリーダー
宇塚 公一
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
(左から)岡本 慎一氏、古賀 弘之、宇塚 公一
古賀:前編の議論を通じて、重要なキーワードがいくつか出てきたと思います。今回のプロジェクトには日本生命、大樹生命、ニッセイアセットマネジメント(以下、ニッセイアセット)、更には海外現地法人など、多くのステークホルダーが関わりました。もちろん、皆が同じ方向を向くことが理想だと思いますが、難しい部分も多かったと思います。同じ方向を向くために必要なこととは、何だったのでしょうか。
岡本:私はオーストラリアで大手銀行傘下の生命保険会社の買収案件に携わったことがあり、その時の経験が役立ちました。私はよく、「ファイナンシャル(財務)フィット」「ストラテジック(戦略)フィット」「カルチャー(文化)フィット」の3つがうまくかみ合わないと合併・統合は成功しないと話していますが、そのオーストラリアでのプロジェクトではそれが身にしみました。オーストラリアは移民の国であり、国民の人種も多様です。社内を見ても、中途採用がほとんどで、キャリアのバックグラウンドもさまざまでした。いわゆるジェンダー(性差)のダイバーシティも進んでいます。そこでよく経営陣や社員から言われたのが、相手の立場に立って考える、ということです。
今回の資産運用態勢高度化プロジェクトでも、日本生命だけではなく、ニッセイアセット、大樹生命、システム子会社のニッセイ情報テクノロジー、そしてPwCなど、目標、行動原理が異なるさまざまな方がいるということを意識し、ことあるごとに、相互尊重、相互理解が大事だと言ってきたつもりです。
古賀:オーストラリアでのプロジェクトに関しては、私もよく覚えています。あのプロジェクトもそうでしたが、ステークホルダーが多岐にわたる中でプロジェクトを推進していくうえで、私たちのような外部のアドバイザーに対して期待する役割はどのようなことでしょうか。
岡本:大きく2つあります。1つ目は、コーチと言いますか、道しるべを示してほしいと思います。日本生命は、歴史が長く堅牢な意思決定の仕組みができているため、ともすると自己流でやってしまいがちです。時には強い言葉で私たちの間違いやプロジェクトの懸念を指摘し、行先を照らしてもらいたいと考えています。もちろん、そのためにはお互いに遠慮せず意見を言い合えるような関係になれないとうまくいきません。今回のプロジェクトでは、PwCと私たちは、そういった信頼関係を築くことができました。また大規模なプロジェクトではステークホルダーも多く、組織間で利害が衝突する場面もありますが、アドバイザーとしての立場から言い難いことを各ステークホルダーに明確に伝えてほしいと思います。今般のプロジェクトでは、PwCが道しるべを示すだけでなく、私たちの進行方向を修正してくれたことが大きかったです。
2つ目は、タスクを遂行するためのフレームワークを提供してもらいたいと考えています。今回のプロジェクトでは、PwCの複数のメンバーに日本生命に常駐してもらいました。そのうえで、日本生命の社員、あるいはニッセイアセットの社員と丁々発止でやってくれたわけです。プロジェクト全体のリズムを維持するうえで、PwCが提供してくれたフレームワークはとても助かりました。日本生命にはこうした大規模プロジェクトに参加したことのある者は少なく、遂行のためのステップやセオリーを知らない者が多い。その点、PwCの経験に裏付けされたフレームワークやツールはとても役立ちました。特に昨年はコロナ禍でスケジュールの進捗管理が難しい局面があったのですが、そうしたフレームワークがプロジェクトの共通言語になり、遠隔での意思疎通を可能にし、難しい局面でも全体のリズムを維持することができました。
宇塚:「リズム」という言葉は、とても印象的です。今回のプロジェクトの日本生命の機能移管フェーズは2019年から始まって2021年の3月まで続くものでした。先ほどの3つのキーワードに加えて、岡本さんのプロジェクト推進のスタイルは、「ここで決めたものは次、ここに行く、不可逆的にする」というリズム感をすごく意識されていると思いました。
日本生命保険相互会社 執行役員財務企画部長 岡本 慎一氏
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー/PwC Japanグループ 保険インダストリーリーダー 宇塚 公一
岡本:2年間もやっているのですから、長いですよね。その中での大きな特徴は、コロナ禍にぶつかったことです。通常のプロジェクトであれば、節目節目でいわゆる中締めもできたでしょうが、コロナ禍において、それはかないませんでした。タスクが先送りされたり、ずるずるとプロジェクトが延期されたりする懸念もありましたが、PwCは豊富な経験に基づき、タスクの進行の観点から「検討範囲をこれ以上は広げない方がいい」とアドバイスをくれたり、一度決めたことが逆戻りしないように意思決定層から現場まで広くサポートいただくなど、スピードの調整役を担ってくれました。
宇塚:コロナ禍でなかなか膝を詰めて仕事ができなかったので、再度の感染拡大のリスクも視野に入れながら、少し先読みをするような形を取るようにしました。手前みそになりますが、PwCのメンバーは日本生命の方の出社タイミングを踏まえ、出社とリモートの活用のメリハリを付けながら、タスクの進捗を冷静に見極め、支援を続けることができました。
岡本:本来決められたタイミングでやるべきことも、ともすれば「コロナ禍だから仕方がない」と、「なあなあ」になりがちなところを、PwCのメンバーの方々はしっかりとくさびを打ってくれました。最初の緊急事態宣言が出る直前には、このまま全員がリモートワークになるという最悪の事態を想定しながらも、「できることをやろう」ではなく、諦めずに「どうやればできるか」といった観点で徹底的に分析して、プランA、プランBなどのオプションを提示いただき、安心感につながりました。
また、私はよく、ピッチャー、キャッチャーのたとえ話をします。ピッチャーは相手にいい球を投げないと取れません。資産運用機能の移管になぞらえると、日本生命がピッチャーで、ニッセイアセットがキャッチャーです。日本生命がいい球を投げないとニッセイアセットが受けられないという関係です。キャッチャーが後逸した時に、「なんで捕球できないんだ」となじるのではなく、「良い球を投げられなくてすまない」と言える精神が大事だと言い続けてきたつもりです。PwCのメンバーやパートナーの方はその精神をとても理解してくれていて、同じ言葉で会話ができると感じていました。プロジェクトメンバーの価値観の共有がとても浸透していたプロジェクトだったと思います。
古賀:そうおっしゃっていただいて、大変ありがたく思います。私たちはお客さま様との一体感を大事にしていますし、お客さま様を理解することを重要視しています。一方で外部のアドバイザーとして、常に第三者目線視点も忘れないということを同時に意識しています。
岡本:相反するように思えるかもしれませんが、そのバランスはまさに重要だと感じていますし、PwCはそれもしっかりやってくれていたと思います。部署間の利害が対立する局面などもありましたが、PwCにはアドバイザーという立場から、感情的な点を除いた、論点の冷静な明確化と妥協点の提示をしていただくなど、どうしたらWin-Winになれるかという観点からの提案を随所でいただきました。
宇塚:今回、監査法人のメンバーとコンサルティングのメンバーという、異なる専門性を持ったメンバーによるチーム体制で支援いたしました。どちらかというと監査法人のメンバーは「心配屋さん」です。それに対して、コンサルティングのメンバーは、その心配をどうしたらいいかを考えるのが得意です。その組み合わせが生む相乗効果こそが、PwC Japanグループが提供するサービスの一つの特徴です。
岡本:アクセルとブレーキは大切ですね。よく言われますが、いいブレーキが付いていないと思い切ってアクセルを踏めません。
スピードが落ちてきてる時には「もう少し進めましょう」というアイデアもいただきましたし、逆に監査的な視点も含めて「ここは抑えたほうがいい」と、はっきり言ってもらえたのは、とてもありがたかったですね。
宇塚:今回のプロジェクトの背景や日本生命グループの具体的な施策、そこでPwCが果たした役割などについて伺いました。日本生命グループは日本の保険業界をリードする存在です。少し大きな視点で見た場合、金融業界の活性化という点でも、取り組みの意義があると思いますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。
岡本:日本生命グループは単体でも70兆円以上、グループでは100兆円近い資産をお客様からお預かりして運用しています。保険会社として、また機関投資家としての役割、責任はとても大きいと思っています。
私が毎回いろいろなことを考える時に悩むのは、金融の世界は米国を中心とした欧米の考え方が主流であり、大きな流れを作っていると思います。日本の金融機関は歴史的経緯、制度的な背景もあり、なかなか一度に欧米企業のようにはなれません。そこで、日本のよさや強みを生かしながら、どうやって欧米勢と伍していき、自らをトランスフォームさせていくのか。
和魂洋才という言葉もありますが、それぞれの強みを活かしていくことができると思っていますし、それを探していくのが日本生命の資産運用部門の役割だとも思っています。ゴルフで言えばフェアウエーは狭いかもしれませんが、今回の資産運用態勢高度化プロジェクトがその狭いフェアウエーを射抜く武器になるといいなと思っています。
宇塚:お話の中にあった、時間と地域の面積で考えるという発想も、和魂洋才の要諦を突いてるように思います。きちんと時間をかけて合意形成を行い、組織が一体となって所属部門や世代を超え、一貫した方向性で物事を押していく力は日本生命がこれまでずっと取り組まれてきたことの賜物であり、欧米の会社とはまた異なるユニークな点だと思います。その中にこのプロジェクトがあり、PwCがご支援できたことを光栄に思います。
岡本:大切なのは、コンセプトやアイデアをそこで終わらせずに、方法論に落とし込み、プロジェクトベースで回していくことです。
すでにいくつかのアイデアが頭の中にはありますが、本プロジェクトの応用問題として進めていきたいと考えています。引き続き力を貸してください。
古賀:日本生命グループにおける資産運用戦略の重要性と、今回のプロジェクトご支援を通じてPwC Japanグループが果たした役割の大きさを再確認することができました。本日は大変力強いメッセージをありがとうございました。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー/日本生命グループ グローバル・クライアント・パートナー 古賀 弘之
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