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2021-06-16
気候変動が深刻さを増す昨今、脱炭素社会へのシフトがグローバルで加速しています。企業においては脱炭素に向けた取り組みを進めるのはもちろん、ビジネスに与え得る影響を把握し、事業計画への反映をはじめ適切な対応を行っていくことが求められます。Daigasグループのうちの一社である大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation(以下、OGUSA))は、米国における社会情勢や世代などにおける広範かつ非連続的な変化を通じて脱炭素化の予兆を察知し、いち早く業務変革に落とし込む必要性を感じていました。ここでは2020年4月よりPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)の支援のもとで行ったSTEEP*の視点での脱炭素指標群作成とそれらを見える化するダッシュボード構築のプロジェクトを振り返りながら、人工知能(AI)活用がビジネスに与え得るインパクトや、人間とのあるべき役割分担を考えます。
* Society(社会・文化・ライフスタイル)、Technology(技術)、Economics(経済)、Environment(環境)、Politics(政治)の略
林 直久 氏
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 シニアヴァイスプレジデント(プロジェクト当時)。
香川 洋平 氏
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
津崎 賢治 氏
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
三善 心平
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
枝元 美紀
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
本記事は、2021年5月に日本と米国ヒューストンをつないで収録した内容をもとに作成しました。収録に際しては新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防対策に万全を期し、実施しました。
枝元:
プロジェクトのお話をいただいたのは2020年3月でした。当時は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大し、世界経済への不安が高まり出したころでしたが、皆様からお話を伺い、政権交代の可能性や若者の意識変化などから米国社会の気候変動への関心が高まっており、それが自社ビジネスに大きなインパクトを与え得るという危機感をお持ちだったのを印象深く覚えています。
林:
発端は当社の社長からの問題提起でした。2019年秋、当社が参画する大規模ガス火力発電所やフリーポートプロジェクト(天然ガス液化事業)の立ち上がりが目前に迫り、また関連事業へのさらなる参画も実現するなど、社内は活気に満ちていました。そんな中、2020年以降の活動を協議する場において、社長がこんなことを言ったのです。
「世の中の変化は激しい。今よいと思っていてもあっという間に陳腐化することだってあり得る。どういうリスクに備えておかなくてはいけないか、何に着目すれば変化の兆しを先んじてキャッチできるのか。そうした視点で時代と向き合っていかなくてはいけない」
この発言に触発され、まずは香川さんにどのようなトライが必要かを相談したのです。
枝元:
事業が好調なうちに変化を捉えてリスクに備えるということですね。あるべき経営を体現されているように思いますが、これを具現化するのは非常に難易度が高いと言えます。初めにどのような対応をされたのでしょうか。
香川:
2019年の冬から一定の時間軸ごとに、今後起こりそうな変化を予想することにトライしました。これから10年後の社会はどのようになるか、そこから3年・5年スパンでどんな変化が起こり得るかをホワイトボードに書き出し、意見を出し合いました。10年後の社会を考える上では、10年前・20年前がどんな社会であったかも振り返りましたが、10年という期間は世の中を大きく変えてしまうことを再認識しました。
ただ、いざやり始めると、どんな項目をどのように、どの程度深掘りしたらよいのかが分からず、ホワイトボードを前に悶々とする時間が続きました。そこで外部の専門家にアドバイスを求めることにしたのです。複数企業にお声掛けしましたが、日米の文化・人々の考え方・社会の構造などの違いを理解し、ヒューストンでの駐在経験のあるメンバーをコアに配置してくれたPwCコンサルティングと共に歩むことにしました。
林 直久 氏 大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 シニアヴァイスプレジデント(プロジェクト当時)。
津崎 賢治 氏 大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
香川 洋平 氏 大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
枝元:
当時のホワイトボードからはご苦労がうかがえました。そちらを見ながら思ったことが2点あります。1つは、従来型のフォーキャスト・分析思考では非連続的な変化をキャッチすることはできなくなっているという点、そしてもう1つは、日本人ならではの視点で米国の未来を予測しつつも、正解はないため、方向性や道筋に誤りがないかをローカルの有識者にインタビューすることでクイックに検証することが有効ではないかという点です。これらができれば道が開けるのではないか、と。
そこで、PwCコンサルティング独自の未来創造手法を基軸とした提案をさせていただきました。ヒトを中心に置いた視点から、既存のビジネスの延長線を超えたところに存在する「起こり得る未来」をお客様の考えをお聞きしながら具体化し、また、その未来を起点としたバックキャスト型のアプローチを採ることで、今どのような検討やアクションが必要なのかを整理するというものです。OGUSAのヒューストンとシリコンバレーのプロジェクトメンバーに対して短期集中型のワークショップを行い、2040年ごろの未来を具体化したストーリーや動画を作り、今後モニタリングしていくべきリスク要因としてKey Risk Indicators(KRIs)を設定していきました。
林:
現状の延長線上で将来を想像するというアプローチだけではイメージできなかったであろう未来ストーリーが動画に表現され、興味深かったですね。
香川:
ワークショップはリモート環境下、早朝の日本と夕刻の米国をつないで開催しました。私たちは米国にいるので、通常の業務が終了した直後に、未来創造のために多様かつ大量の情報に触れるワークショップに参加するわけですが、頭を切り替えるのが大変だったのを覚えています。
未来ストーリーと現実のギャップをどう咀嚼し、どう埋めるべきなのか、悩ましく感じた時もありましたが、最終的には、全てを理屈で考えるのではなく、直感に頼って考えることも、非連続な変化を意識し、乗り越える上で重要なことだと学びました。
枝元:
直感に頼るということは、先入観から脱却するということですからね。プロジェクトを成功に導くとても重要な要素に気付いていただけたことが伺えて、うれしいです。ローカル有識者へのインタビューでは、テキサスの電力、石油・ガス業界のプロフェッショナルやミレニアル世代に意見を聞きましたね。
香川:
ある大手エネルギー企業に勤める若者から、「化石燃料」に従事することで周囲からの評判が悪くなるのではないかと心配していた、という事例を聞き、気候変動は若い世代にとって、深刻かつ喫緊の課題として受け止められていると実感しました。私はついつい、環境政策を経済性の側面からも見てしまいがちなのですが、問題に対する意識や行動など、世代間で大きな隔たりがあるのではないかと疑問を持つきっかけになりました。
枝元:
私たちにとっても、ミレニアル世代の気候変動への意識や行動が予想を上回るものであり、ムーブメントが生まれる要因であることを実感できたのは大きな収穫でした。
香川:
若者の人口層が分厚い米国では、彼らの意識や行動が、変革を起こす上で強い原動力になりやすいという印象も抱きました。当ワークショップ期間中、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが世界的に注目を集めたり、SNSを通じてBlack Lives Matter運動が拡大したり、街のあちこちで電気自動車(EV)を目にする機会が増えたりと、変化の兆しを肌で感じる機会が多々ありました。こうした背景もあって、設定したKRIsを活用して企業としての対応力強化を加速させようと考えたのですが、ここで新たな課題に直面することになりました。
枝元:
将来に対するリスク予兆としてモニタリングしたい項目を広範に設定したため、フォローすべきデータが多岐にわたり、かつ膨大で、どう収集・分析したらよいかに迷ったのですよね……。
香川:
そうなんです。KRIsは過去に公表されたデータをもとに策定しましたが、データの種類は月次、年次、四半期とさまざまにあり、データ収集に膨大な時間を要したほか、有意義な分析に至らないケースも多々ありました。さらに、そもそも社会動向に関するデータや技術情報に関するデータは収集自体が難しく、KRIsを今のまま事業戦略策定のために活用してよいのかという迷いに、早い段階で直面しました。そこで、津崎さんにも相談にのってもらいながら、以前より関心のあったAIやRPA(Robotic Process Automation)といったデジタル技術を活用して、社会動向・トレンド情報の取得を含めた高度な情報収集と分析、かつ、これを通じて持続可能なビジネス手法を検討できないかと考えるようになりました。
枝元:
そこでPwCコンサルティングのData&Analyticsチームが登場します。先進テクノロジーを活用して非構造化データ(世論)を定量的に捉えることができるか、またそれらと構造化データ(ファクト)を相関分析することで脱炭素化の機運を高め得る先行指標を発見することができるか。この2つが、プロジェクトを成功に導く要因になると三善さんはお考えでしたね。
三善:
はい。初めに、SNSを活用して世論を数値化することに目を向けました。SNS上で投稿される世の中の声は「文字」という非構造化データとして、インターネット上にあふれかえっています。従来、人間がそれらを1つ1つ読み、傾向や時系列トレンドを把握することはほぼ不可能でした。しかし、AIの技術の1つである自然言語処理(テキスト分析)を活用し、文字を数値データと同じように分析・処理することができれば、意思決定のための情報量・質は飛躍的に増加・向上します。昨今ではマーケティング活動の一環として世の中の動きを把握するのに使われたり、自社ブランド・製品・サービスに対する反響の分析に役立てられたりするなど、多くの企業において活用が進んでいる領域です。
枝元:
KRIsを真に活用するための議論をする中で特に印象に残っているのは、三善さんの分析のアプローチです。
三善:
予測vs実績という分析スタイルに慣れていると、経験則からスコーピングして分析業務を効率化したいという発想に無意識的になりがちなのですが、そうすることで、新しい気付きやインサイトを抽出できる可能性は狭まってしまいます。人間が恣意的に優先度を設定するのではなく、可能性のあるデータ全てを投入して機械に分析させ、結果を人間が読み解いて示唆を得る。場合によってはデータを追加投入して再分析する。このサイクルを回すことが重要だと話していましたね。
枝元:
人間は誰しも先入観を持っています。それをもとに、ついついコンフォートゾーンに基づいた業務手法や意思決定を採ってしまいがちなのですが、試行錯誤型のデジタル活用が、あらゆる可能性を追求する上で有効なのだと実感しました。
三善 心平 PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
枝元 美紀 PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
林 直久
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 シニアヴァイスプレジデント(プロジェクト当時)。
1993年に大阪ガス株式会社に入社。導管企画業務、人事、秘書、家庭用営業マーケティングなどを経て2018年にOsaka Gas USA に出向。人事・総務、企画、IT、会計・財務、リスク管理を管掌。
香川 洋平
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
2000年に大阪ガス株式会社に入社。家庭用営業、経営企画業務、IR、海外計画業務などを経て、2018年にOsaka Gas USAに出向。計画業務、組織課題や社内横断的な活動への取り組み、デジタル化推進などを手掛ける。
津崎 賢治
大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)計画部 ヴァイスプレジデント
2004年に大阪ガス株式会社に入社。社内データ分析部門で金融工学や最適化技術を用いた業務改善を推進。2016年にOsaka Gas USAに出向。現地でのコモディティ取引基盤の確立・リスク管理業務に従事している。
三善 心平
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
日系大手自動車メーカー、外資系統計解析ベンダーを経て現職。
事業会社で生産管理、経営企画などに携わった後、さまざまな業種・業務課題におけるデータアナリティクス活用プロジェクトのリードを経験。PwCコンサルティングでは人工知能(AI)・機械学習に関するビジネス活用の構想策定、実証実験から仕組み化までのプロジェクトを多数手掛ける。
枝元 美紀
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
国内電機メーカーを経て現職。前職で海外営業部に所属し、業務改革や新規事業開発などに従事すると共に、基幹システム刷新プロジェクトをリード。PwCコンサルティング入社後は、BPR(Business Process Reengineering)やグローバルSAP導入プロジェクトなどに従事し、近年は石油・ガス業界や電力業界に対する未来志向型の新規事業開発を中心としたコンサルティングを多数手掛ける。
2016年7月より2年間、PwC米国ヒューストン事務所に出向し、大阪ガスUSA(Osaka Gas USA Corporation)をはじめとする日系企業をサポート。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。