「植物工場」で存在感を放つ中国
トレンドになっている「植物工場」の技術クラスタでは、中国が存在感を示しています。出願特許に占める中国企業及び研究機関の割合も高く、中国がこの技術クラスタ全体に大きな影響を与えており、日本や欧州のスコアはマイナスとなっています2。例えば、中国では植物工場に関する技術の一部(特に排水処理など)が高層建築物による養豚などに活用されており、他の国とは異なる方向性と言えるでしょう。ほかにも、中国は植物工場の垂直方向への多段化、大型化を進める一方、日本や欧州は照明や排水などを含む高度な環境制御に関連する特許が比較的多く見られ、また消費地で必要な農産物だけを生産できるユニット型、モジュール型の植物工場の技術開発も進んでおり、こうした点にも方向性の違いが見られます。
畜産を代替する技術開発を進める欧米
畜産由来のGHG削減に関する技術は欧州、米国が高いスコアを示しています。「細胞農業」は細胞培養を用いて農産物(特に畜産物)を生産する技術で、再生医療に関する技術を転用できる分野でもあることから、医療機器メーカーやバイオテック企業がこの分野における高い技術競争力を有しています。「その他代替たんぱく質」は、いわゆるプラントベースドミートのような植物性代替食品に代表される技術や製品のことで、技術開発は欧州の食品メーカーがリードしています。
ネイチャーポジティブに対する貢献と、技術への市場の評価
技術がもたらすネイチャーポジティブのシナリオ
植物工場によって、一部の農産物の生産が土耕栽培から植物工場での栽培に切り替わることが考えられ、この移行によって窒素やリンなどの肥料成分を効率的に利用するとともに土壌や水域への流出を防ぎ、その環境負荷を削減することが可能です。また、代替食品開発技術の発展によって、畜産物が培養肉やブラントベースドミートなどの代替食品に切り替わっていく可能性もあります。この技術によって、GHGの主要な排出源となっている畜産物や乱獲、漁具などによる海洋生態系への影響が大きい魚介類の代替が進むことで、環境への影響を抑えられる可能性もあります。さらに、ECおよびスマートフードチェーンなど、先端技術の利用拡大や進展によって商流・物流が効率化され、食品を購入する方法やチャネルもさらに変わり、それによって食品ロスを削減、食品の廃棄に係る環境負荷削減に貢献することも考えられます。今後より一層の技術開発や適用拡大によって、フードバリューチェーン全体の自然への影響を軽減させることが期待されます。
「植物工場」、「Eコマース」の技術開発が進み、資金を獲得している
本調査では、GHG削減、持続可能な農業、食品ロス削減等に関係する特許情報と、企業および投資情報をIBAによって分析しました。その結果、「植物工場」および「Eコマース」が技術スコア、市場性ともに高く、新市場形成の中心となっている技術領域であることがわかりました。先端技術を活用して需給調整や保管、流通を最適化することで食品ロス削減につながる「スマートフードチェーン」は、技術開発の余地がありながら比較的大きな投資を獲得しており、今後さらに技術開発が進む可能性が高いと言えます。技術スコアも市場性もまだ十分ではないですが、「細胞農業」や「その他代替たんぱく質」に関する技術は、技術スコアの成長率も大きく、次世代のトレンドになり得る可能性を秘めていると言えます。