リスク耐性強化のためのシナリオ分析整備支援

シナリオ分析とは

シナリオ分析とは、将来に起こり得るシナリオを作成したうえで、その影響がどのように波及し、どのような結果に至るかを分析することを指します*

将来について蓋然性の高いシナリオが想定できる場合には、結果に関する予測に用いることが可能となります。例えば、短期の収益計画の場合、当面の景気予測や受注動向などに基づいて収益予想を立てます。

一方、蓋然性の高いシナリオを想定することが難しい場合、すなわち、将来についてさまざまなシナリオが想定される場合には、その波及効果や結果は多様なものになります。つまり、将来の結果を予測するのは難しくなるのですが、むしろ、こうした場合にこそ、シナリオ分析が有用とされています。

シナリオ分析が活用される多くの場面において、その目的や用途は将来を正確に予測することではなく、シナリオに対するアクションを検討することにあります。ある特定のシナリオが望ましくない結果につながるようなケースにおいて、その結果を回避・抑制するためにどのようなアクションを取るべきかを検討します。実際に、事象やシナリオが発生してから考え始めるのではなく、あらかじめそうした状況を想定し、「どのタイミングでどのようなアクションを取るのか」「そのための準備として何をしておくべきか」といった点を検討しておくこと、そうした備えを通じてシナリオ発生時の対応力を向上させることこそ、シナリオ分析の利用価値と言えます。

*「シナリオ分析」と類似の用語として「シナリオプランニング」が存在します。「シナリオプランニング」は、「シナリオ分析」と概ね同様の目的と方法論を指しますが、主に経営戦略の領域において、予測が困難な中長期のシナリオに対する戦略を検討することを指すケースが多いです。なお、本稿ではそれも含めた総称として「シナリオ分析」を用いています。

なぜシナリオ分析が重要なのか

日本企業は、以下のような経営環境の急速な変化に直面しています。

  • 地政学リスクの高まり(紛争の勃発、国際経済摩擦、ポピュリズムの台頭、新興国の債務問題など)
  • 環境・社会問題への対応の必要性(SDGs、ESG、TCFD、生物多様性、人権)
  • テクノロジー(DX、AI、IoT、ブロックチェーンなど)の進化
  • 日本社会・経済の変化(少子高齢化、働き方改革、地域創生、規制・制度変更など)
  • コーポレートガバナンス強化に対する社会的要請(経営の透明性向上、非財務情報開示の拡充など)

こうした経営環境下においては、これまでの延長線上で将来を捉えることは適切ではありません。前例踏襲ではないフォワードルッキングな見通しに基づいて経営戦略や経営計画を立案するとともに、見通しに係る状況変化やその影響を適時適切に捉え、機動的に戦略・対応を見直し、社内外に対して円滑にコミュニケーションを図るといった組織運営が求められます。

そのためには、自社のビジネスモデルや業務運営を見える化したうえで、環境変化や自社施策が将来の損益、バランスシート、主要業績指標(KPI)に与える影響を機動的に検討・評価するための枠組みとしてシナリオ分析を整備することが期待されます。

シナリオ分析の典型的な活用事例として、以下が挙げられます。

  • 短期ないし中期の経営計画の策定、その妥当性の検証(ストレステストを含む)
    • マクロ的な経済・市場環境に関するリスクシナリオやストレスシナリオの影響予測、リスクアペタイトとの整合性評価
    • 経済指標や損益などの実績データに基づく予実分析
    • 地政学リスクをはじめとする急激な環境変化に対する緊急対応策や戦略変更の検討
  • 長期的な環境変化(メガトレンドなど)への適応に係る分析・評価
    • TCFD対応を含む気候変動・脱炭素に関する目標設定と実現可能性の点検
    • 地球環境、社会・経済構造、人口動態などの中長期的変化の下でのビジネスモデルの持続可能性検証
  • オペレーショナル・レジリエンス(業務の強靭性)に係る分析・評価
    • 特定の事象・シナリオによって自社業務・システムが停止した場合の影響範囲や復旧時間などを分析。自社や顧客への影響を評価のうえ、重大な影響を低減するための予防策や対応計画を検討
  • 金融機関のフォワードルッキングな信用損失見積もり
    • マクロ経済動向を踏まえて将来の投融資先のデフォルト(貸し倒れ)や格付変動を分析。貸倒引当金や資本による備えの十分性を評価するとともに、評価結果を踏まえたセグメント(地域、業種、メイン/非メインなど)ごとの融資方針および施策を検討

シナリオ分析フレームワーク

以下の事例では、3~5年の中期経営計画やその下振れリスクを検討・評価したうえで、それらに対応する施策を検討する場面を想定することで、シナリオ分析の標準的なフレームワークを紹介します。上述のとおり、シナリオ分析は多様な用途に活用されており、その目的に応じて分析対象の範囲や期間、考慮すべきリスク要素、定量的分析と定性的考察のバランスなどは異なります。しかし、基本的な概念や設計思想は変わりません。

  • 組織内外の情報・データの収集・蓄積
    シナリオ分析のインプット、アウトプットとなる情報・データを収集・蓄積することにより、シナリオ分析モデルの構築や有効性検証、起こり得るリスクシナリオ(リスク事象とその波及プロセス)の検討に活用します。
  • トップリスク管理、エマージングリスク管理などに基づく将来シナリオの検討
    内外の情報・データを踏まえ、経営計画の実現にあたって特に重要なリスク、新たに重要となりつつあるリスク(エマージングリスク)などを特定・評価し、影響評価や対応策検討を行うべきシナリオを検討します。
  • シナリオ影響を表現するモデル
    経済動向、危機事象などの外的要因、戦略・施策などの内的要因の前提およびシナリオが業績に及ぼす影響を表現します。多くの場合、シナリオ影響を構造式や回帰式に基づいて定型的に表現できる部分と、定性情報などに基づく総合判断を交えて表現する部分により構成されます。
  • 影響分析結果を経営戦略に還元
    リスクシナリオにおける業績結果(収益下振れ、資本毀損など)がリスクアペタイトなどに照らして受容可能かどうかを評価・確認し、そもそもの戦略を見直したり、シナリオ顕在化時の対応策を検討・整備したりします。

あるべきシナリオ分析フレームワークの詳細は、各社のビジネス特性や経営方針によって異なってきます。試験的・簡易的に運用を開始した後、戦略を策定する際にその効果を見極めつつ、強化すべきパーツ(データ、モデル、管理ツール)やその内容・優先順位を決めて高度化を図っていくアプローチが合理的です。

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主要メンバー

八木 晋

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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村永 淳

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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伊賀 志朗

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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