会計士として磨いた"思考力"で大手業務ソフトウェア企業・弥生株式会社を牽引
弥生株式会社
代表取締役 社長執行役員
前山 貴弘
(インタビュー当時)
PwC Japan グループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。前山貴弘氏は、プライスウォーターハウスクーパース税務事務所(当時)卒業後に個人・中小企業向け業務ソフトを開発・提供する弥生株式会社に入社。現在、代表取締役として同社を牽引しています。今回は現在の仕事に生きているPwC時代の経験や将来の展望について語ってもらいました。
私が代表取締役を務める弥生株式会社は、スモールビジネスを支えるインフラとして日本の発展に能動的に貢献するというミッションを掲げ、業務効率化を支援する会計ソフト「弥生シリーズ」などを開発・提供しています。
弥生シリーズのユーザー数は個人事業主、中小規模法人、またそれらを顧客に抱える会計事務所を中心に310万以上となり、おかげさまで中小企業向け会計ソフトの領域では最大手という評価をいただいております。
弥生では会計ソフトに限らず、給与計算ソフト、販売管理ソフト、見積・納品・請求ソフトなど各種製品を、クラウドとオンプレミス環境で提供しています。さまざまな製品開発を通じて、スモールビジネスのあらゆるニーズにお応えしていくのが私たちの目標です。
私が2007年に入社する以前、弥生はlivedoorグループの100%子会社でした。私が入社したのは、グループ再編成の流れのなかで弥生が独立するタイミング。グループを抜けることになった弥生にとって管理部門の強化が課題となり、一方で上場準備の方針も掲げられていました。関連業務に従事する人材が求められるなか、PwCの卒業生の方からお声がけいただき、私は弥生に入社することを決めました。
弥生では、マーケティングや社内販売管理システムのリードなど、専門領域とは異なるさまざまな業務を経験しました。会計士としてのバックグラウンドをベースにビジネスの理解に努めながらさまざまな業務に取り組んだ日々は、とても新鮮かつ貴重な時間となりました。
その後、あるファンドが弥生の新しいオーナーとなり、紆余曲折を経て上場の話は霧散します。株主変更後も社内でのさまざまなチャレンジを牽引しつつ、当初の目的である管理部門の強化を含め一定の役割を果たせたのではないかという自負もあり、次のキャリアを模索することになりました。
2011年に退社した私は、MBA取得のための米国留学などを経て2020年に弥生に再入社します。きっかけは、弥生の前社長から打診いただいたことです。弥生の雰囲気や事業に関わった経験はとてもポジティブなものでしたので、再入社という選択肢は前向きに検討する余地があるものでした。
また私が再入社を検討していた頃は、テクノロジーが加速度的に進化していた時期でもあります。会計士としてユーザー側の視点に立っていた私は、テクノロジーを駆使することで世の中の業務ソフトをより洗練させることができると考えていました。弥生で新たな可能性を追求したい。そう結論を得て再入社を決心しました。
会計士試験の勉強をしていた頃は、二次試験に受かっても落ちてもしばらく海外に行きたいと考えていました。試験勉強の日々に精神的な閉塞感を感じていて、どこか解放されたいという心理があったのだと思います。
漠然と進路に悩んでいた大学の夏休み。同級生であり、後に同僚となるPwC税理士法人の現パートナーに誘われ、PwCの説明会に参加しました。話を聞くうちに興味をそそられ、その流れで採用面接を受けることになりました。いわば友人の誘いがプライスウォーターハウスクーパース税務事務所入社のきっかけになったのです。
プライスウォーターハウスクーパース税務事務所ではタックスコンプライアンスの仕事から始まり、年次が進むにつれ国内およびクロスボーダーの税務コンサルティングに携わるようになりました。当時のクライアントには、外資系企業の日本子会社や支店が多かったです。私が担当したクライアントもほとんどが外資系企業の関連会社で、申告書のサポートやその後の対応が主な業務でした。
PwCで学んだことは年が経てば経つほど自身の血肉になっていると痛感します。なかでも物事を捉えて考える力や、思考を深める方法を養えたことは、その後のキャリアにおいて大きな財産となりました。
物事や仕事について、知らないことや初めてのことはたくさんあります。その際、PwCでは「そもそもこの取引の本質は何なのか」「どういう目的で経済取引が行われているのか」など根本的な問いから出発し、時間が許す限り論理を積み上げることを真面目に徹底していました。これは当たり前のようで、実はとても難しいことなのです。
プライスウォーターハウスクーパース税務事務所を辞めてほどなくして、私は弥生で管理部門の仕事に従事していました。ある日、社内の販売管理システムでトラブルが発生するのですが、社長は私に「何とかしろ」と命じました。私はエンジニアでもないですし、ソースコードを書くこともできません。システムに関しては全くの専門外でした。それでも何とか乗り切ることができたのは、PwC時代に培った新しい仕事の整理の仕方、解決策の見つけ方、会計士として習慣化されたロジックの積み上げがあったからです。
世の中は全てつながっていて、知らないことでもしっかりとアプローチすれば専門家とも大枠で議論を進めることができる。その経験と確信は、私のキャリアにおいて大きなターニングポイントになりました。
真面目に徹底して論理を積み上げるカルチャーがあること、またその論理を現実に落とし込むことを可能にする意識・能力が高いメンバーが多く在籍していることがPwCの大きな魅力です。
正しいことに正しくアプローチする姿勢やマインドセットは、自分ひとりで保ち続けることは難しいものです。自分もしっかり頑張らないといけないと思わせてくれる環境があることは、働き手にとって非常に恵まれたことです。また多少の冒険であれば、上司やパートナーが積極的に背中を押してくれます。挑戦に対して寛容な文化もまた、他社では得難い魅力の1つでしょう。
またPwCはワールドワイドでさまざまなケースを扱っており、それらの課題解決を担う多様な知見を持ったメンバーが揃っています。専門性を突き詰めるタイプの人材、全体を俯瞰的に捉えて総合力で勝負するタイプの人材いずれにとっても、しっかりと自分の武器を磨くことができる場所であると私は考えています。
テクノロジーの加速度的な発展に大きな影響を受けるビジネスシーンにおいては、今後、ソフトウェアを通じてデータをしっかり管理していく世界に進むことがますます求められるでしょう。
弥生はそのような時流に対応すべく、溜まったデータ、もしくは将来的に溜めていくデータの精度を上げ、事業者や会計事務所にフィードバックする情報の質を高めていく方向により軸足を移していきたいと考えています。言い換えれば、「入力しやすい会計ソフト」ではなく、「情報を確実かつ精度高く、必要な時に取得できる仕組み」として製品・サービスを発展させる方向に進んでいく方針です。
多くの中小企業や個人事業主の方々に利用いただいている弥生は、日本の経済実態を取り扱う企業でもあります。中小企業および個人・フリーランス向け経済施策のインパクトや波及効果をタイムリーに把握することで、国や自治体をサポートする。そんな社会的価値も追求していきたいと考えています。
PwCは、最前線のテクノロジーをプロフェッショナルワークに取り入れる取り組みにおいて、量・質ともに先頭に立つファームです。テクノロジーとの共存を意識した仕事の仕方や知識/経験は、これからの時代に欠かせないスキルとなっていくでしょう。キャリアの初期にその最先端の環境に身を置くことは、若い方々にとって有益な経験になるはずです。
またPwCには、仕事に対して高いモチベーション、要求水準、使命感を持つ人たちが多く集まります。次世代を担う人材の皆様には、切磋琢磨できるPwCのような環境でキャリアの広がりを担保する土台を築いてほしいと願っています。