
「アナリティクス&AIトランスフォーメーション」インサイト 第5回 データ利活用を実現するユースケース選定の障壁およびその乗り越え方
データ利活用を推進する際のユースケース(データ利活用シナリオ)の選定にあたり、発生しがちな代表的な3つの障壁とその乗り越え方について解説します。
2021-12-24
第5回は「ユースケース選定の障壁およびその乗り越え方」と題し、データ利活用を推進する際のユースケース(データ利活用シナリオ)の選定にあたり、発生しがちな代表的な3つの障壁とその乗り越え方について解説します。
本章ではインサイト解説の前提として「アナリティクス & AI トランスフォーメーション」において直接的な価値提供を行うユースケースの位置づけを解説します(「アナリティクス&AIトランスフォーメーション」の全体像は「第1回 データ利活用における6つの成功要因」にて解説しているため、そちらを一読頂ければと思います)。
ユースケースは「アナリティクス&AIトランスフォーメーション」にて提唱している「Assess」(現状評価)フェーズで検討するデータ利活用シナリオを示し、「アナリティクス&AIトランスフォーメーション」の検討領域である「データと情報」「技術とインフラ」「組織とガバナンス」「プロセスと統合」「文化と人材」の全ての検討を進めて行くための土台になります。
またユースケースを選定する流れとしては、図表2の通り関係者をワークショップに招聘し、他社事例や社内課題をもとにブレインストーミングを交えるなどして、ユースケースを洗い出すことから始まります。次に、洗い出したユースケースの実施優先度を決めるための評価軸を検討し、この評価軸に沿ってユースケースに優先度を付け、PoCを交えた実行につなげていきます。
ユースケースの選定がうまくいかず、検討が凍結したといった内容の相談が当社には数多く寄せられています。検討が凍結に至った経緯を分析すると、多くの場合は検討の際に発生した障壁に対し、適切な対処が行われなかったことに起因していると考えられます。本章ではユースケース選定の際に直面する代表的な障壁および、その乗り越え方について解説します。
ワークショップを開催するなどして複数の視点をもとにユースケースを洗い出す過程において、ユースケースの検討に注力するあまり、手段が目的化し、検討内容が飛躍してしまう場合があります。例えば、既存顧客のサービス体験の改善を目的としたデジタルマーケティングの促進をユースケーステーマとして検討していたものの、議論が進むに連れて検討スコープが新規顧客の獲得へも広がってしまい、結果としてユースケースの検討目的がいつの間にか新規顧客の獲得にすり替わってしまうような場合が挙げられます。この場合、ユースケースの検討過程で「既存顧客のサービス体験の改善」と「新規顧客の獲得」という異なる2つの目的を同時に検討することで、「どちらの目的を優先すべきか」という議論に陥ってしまったわけです。
どちらの目的も間違っているものではありませんが、ユースケース検討の観点からは、事業を展開している市場に置ける自社のポジショニング、市場の寡占状態、顧客の流動性などに鑑み、どちらの目的を先に達成すれば事業収益の改善につながるのかを見極め、実施順序の検討を行うべきだと言えるでしょう。ここで注意すべきは、ユースケースの検討過程で目的の数が増えてしまった場合です。この場合に重要なのは、実現手段から目的を選択するのではなく、目的ごとにあらためてユースケースを分類し、検討を行うことです。
ユースケースの検討を進めるにあたり、推進体のスポンサーシップの権限(執行役員権限、取締役権限など企業変革に要する予算に対する執行権限)により検討可能な範囲が異なってくることも理解しておく必要があります。例えば、現場主体のボトムアップアプローチによりユースケースの検討を進める場合、スポンサーシップの権限範囲を考慮していなかったばかりにユースケースの実行の段階で組織間の壁に阻まれ、推進そのものが頓挫してしまう可能性があります。
仮に、既存の複数事業の業務高度化を目的として、全社で活用可能なデータ基盤の構築を、特定事業の責任者の元で検討を進めているとしましょう。この場合、いきなり責任者の権限範囲を超えた事業においてデータ基盤の構築を推進しようとしても、そもそも業務の高度化を求めていない事業部門が存在するかもしれませんし、すでに各事業で個別最適化が図られているかもしれません。そうすると、実行の段階で推進が頓挫してしまう可能性が高まります。これは業務高度化という目的に対し、データ基盤構築という手段が先行してしまった結果、プロジェクトの推進が困難になったケースと言えるでしょう。
ここで重要なことは、手段は責任者の権限範囲と密接に関わることを理解した上で、事業高度化という目的を達成するために「どのスコープで、どのような手段で実現するのか」「そのスコープと手段は現実的なのか」「関連部門の協力は得られるのか」などを十分に検討することです。
当社では図表3で示すように、ユースケース推進の過程でチェックポイントを設け、ユースケースの実現性を確認し、適宜補正しながら推進するアプローチで目的達成に向けたサービスを提供しています。
ユースケースの検討を深めていく際、せっかく検討したアイデアであるにも関わらず実現性が乏しく、検討が頓挫してしまう場合があります。これは、外部の他社データ活用事例を自社にそのまま適用することを前提として試行し、自社における実現性を度外視して検討を進めたことが要因であるケースが多いです。
他社の成功事例を参照することは非常に有効な手立てであり、当社も2,000件を超える外部ユースケースデータベースを活用した支援を実施しています。しかし、他社の成功事例と同じ環境下での推進が難しい場合も実際には多々あり、自社の状況を考慮せずにそのまま置き換えて検討を進めることにはリスクが存在します。この障壁を乗り越えるために重要なのは、図4に示しているように、自社内で利活用可能なデータリソースをあらかじめ整理し、他社の成功事例を参照しつつも地に足がついた検討を行い、実現性を確認したうえでユースケースを設定していくことです。
また、自社内で利用可能なデータリソースを活用し、迅速にモックアップを行うことで現場部門での実現イメージをより鮮明に描くことも、深い納得感を社内に醸成するための重要な要素になります。
PwCではモックアップを行いつつユースケースを検討、選定していくために、BXT(Business eXperience Technology)というデザイン思考を基礎とする独自の方法論(図表5)をしばしば活用しています。事業部門の課題に対し、急速に変化するデジタル技術のトレンドに精通したプロフェッショナルの知見も交えてモックアップを行うことは、ユースケースを定義するため、納得感を醸成するための有効なアプローチだと言えるでしょう。
本稿ではユースケースの検討・選定の際に発生する代表的な障壁およびその乗り越え方をご紹介しました。
手段が目的化し、検討内容が飛躍してしまう場合があります。ユースケースの検討過程では、手段の議論に注力するあまり、異なる目的を同時に検討し、結果としてどちらの目的を優先すべきかという議論に陥りがちです。ユースケース検討の進め方としては、目的ごとにユースケースを分類し検討を行うことが重要です。
ユースケース検討を進めて行くにあたり、推進体のスポンサーシップの権限(執行役員権限、取締役権限など企業変革に要する予算に対する執行権限)により検討可能な範囲が異なることも理解しておく必要があります。スポンサーの権限と検討範囲にギャップが存在する場合、ユースケース推進の過程でチェックポイントを設け、ユースケースの実現性を確認の上、適切なスポンサーシップの配下で推進していくことが重要です。
ユースケース検討を深めていく際、せっかく検討したアイデアであるにも関わらず実現性が乏しく、検討が頓挫してしまう場合があります。この障壁の発生は多くの場合、外部の他社データ活用事例をそのまま自社に適用し、自社における実現性を度外視して検討を進めることに起因します。
他社の成功事例を参照することは非常に有効な手立てではありますが、自社の状況を考慮せずに、そのまま置き換えることにはリスクが存在します。重要なのは自社内で利活用可能なデータリソースをあらかじめ整理し、他社の成功事例を参照しつつも地に足がついた検討を行うことです。そのうえで迅速にモックアップを行い、実現性を確認しつつユースケースを設定していくことが重要であると言えます。
本稿で触れたインサイトが企業変革への一助となれば幸いです。
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