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今、世界では自動運転車の実用化と普及に向けて、自動運転技術の国際基準・標準化に向けた動きが活発化しています。自動車の安全・環境基準の国際調和に取り組む組織である国連の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」では、国際法規の検討も進んでいます。こうした動きのイニシアチブをとっているのが日本です。
国土交通省の自動車局審査・リコール課企画係長を務める河野成德氏に、2020年に日本で施行される自動運転法規について、全3回にわたって話を伺います。
鼎談者
国土交通省 自動車局 審査リコール課
企画係長 河野 成德氏
PwCコンサルティング合同会社 デジタルトラスト
シニアマネージャー 奥山 謙
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー 井上 雄介
(左から)奥山 謙、河野 成德氏、井上 雄介
国土交通省 自動車局 審査リコール課 企画係長 河野 成德氏
井上:
現在、自動運転システムを制御するソフトウェアのアップデートに関する法規対応・策定が、世界的に求められています。そこにはどのような背景があるのでしょうか。
河野:
自動運転車の開発はグローバルで加速しています。また、自動車技術が高度化したことで、無線通信(OTA:Over-The-Air)によるソフトウェアのアップデートが可能になっています。
OTAは、自動車業界における従来のビジネスモデルを大きく変える技術としても注目されています。OTAの活用により、例えば自動車メーカーは、車を販売した後でも自動運転機能を追加・強化することができます。また、ソフトウェアに起因する不具合が発生した場合には、ディーラーなどに車を持ち込むことなく、迅速に修正プログラムを配信し、不具合を改善することができます。特に自動運転車は、安全な自動運転(機能)を維持するためにも、ソフトウェアの継続的なアップデートが必要になることから、その適切性を確保しなければなりません。
奥山:
自動運転車の場合、ソフトウェアの脆弱性を放置すればサイバーリスクは高まり、命を危険にさらす重大事故を引き起こす可能性すらありますからね。
河野:
はい。自動運転車をはじめ通信機能を搭載した自動車は、外部からのサイバー攻撃のリスクを常に意識しなければなりません。実際、海外のセキュリティカンファレンス(Black Hat USA 2015)では、不正アクセスによりエアコンやワイパーなどを遠隔操作(ハッキング)した事例が紹介されました。これを受け、米国ではハッキングの対象となった車両約140万台がリコール(回収・無償修理)されています。
このように、安全な自動運転車の維持にはサイバーセキュリティ対策と適切なソフトウェアアップデートが重要であり、これは世界的な課題です。また、自動車は国際流通製品であることから、安全性能の高い自動運転車やコネクティッドカーを幅広く普及させるため、国際的に調和した基準の策定が必要とされているわけです。
井上:
国によって保安基準(※1)がバラバラでは、安全確保は難しいです。国際基準の策定を担っているのはどの機関なのでしょうか。
河野:
現在、国連の「車両等の型式認定相互承認協定(1958年協定)(※2)」の枠組みの中で、サイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する協定規則の草案が検討されています。具体的な検討は、国連の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」の「自動運転分科会(GRVA)」において行われており、日本は、これらの草案作りを担う同分科会傘下のサイバーセキュリティ専門家会議において、英国と共同で議長を務めています。
奥山:
日本は自動運転車を巡る国際的な検討会議でイニシアチブをとっているのですね。
河野:
はい。国際基準の策定を含めた「自動運転の実現のための制度整備」は、政府の成長戦略の1つとしても位置づけられています。自動運転分野における日本の自動車産業の国際競争力を強化するためにも、官民一体で国連における国際基準化の議論を主導する必要があります。
国土交通省としても、引き続き「オールジャパン」の体制で、国際基準の調和活動を積極的に推進していきたいと考えています。
※1 保安基準
自動車がその運行に際し満たさなければならない安全・環境上の技術基準
※2 車両等の型式認定相互承認協定(1958年協定)
自動車の装置ごとの安全・環境に関する基準の統一、および相互承認の実施を図ることを目的として締結された国連の多国間協定。日本は1998年に加入。
PwCコンサルティング合同会社 デジタルトラスト シニアマネージャー 奥山 謙
井上:
日本では2019年5月に「道路運送車両法」の一部を改正する法律が成立・公布され、2020年4月から施行されました。同法律では国が定める保安基準の対象装置に、「自動運行装置」が追加されています。なぜ「自動運行装置」が追加されたのでしょうか。
河野:
「自動運行装置」は、自動車をプログラムにより自動的に運行させるための装置(自動運転システム)であり、一定の条件の下で、従来の運転者が担ってきた「認知・予測・判断・操作」の能力の全てを代替するものですが、これまでの道路運送車両法は、自動運転を想定したものとはなっていませんでした。
一方、自動運転は、交通事故の削減のみならず、高齢者の移動手段の確保や物流の生産性の向上、渋滞の緩和といったさまざまな社会課題を解決するものとして、早期の実用化が期待されています。
このため、政府は「官民ITS構想ロードマップ(※3)」などにおいて、高速道路における自家用車の自動運転(レベル3)を2020年を目途に、限定地域における無人自動運転移動サービスを2020年までに、それぞれ実現することを目標として掲げているところです。
2020年4月1日に施行した改正道路運送車両法は、この政府目標の実現のために、設計・製造過程から使用過程にわたり、自動運転車などの安全性を一体的に確保するための制度整備を行うことを目的とするものであり、保安基準対象装置への自動運行装置の追加はその柱の1つとなっています。
井上:
自動運転レベルの「レベル3」は「条件付き自動化」ですね。これは「加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが要請した時のみドライバーが対応する状態」です。つまり、自動走行モード中は、運転の主体がこれまでの「ドライバー」から「システム」になるという、非常に重要な法改正です。自動運行装置の安全基準とはどのような内容でしょうか。
河野:
自動運行装置の保安基準には、(1)国土交通大臣がその装置ごとに付与した走行環境条件内で自車の搭乗者、歩行者や他車に危険を及ぼすおそれがないこと、(2)走行環境条件外で作動しないこと、(3)走行環境条件を外れる場合には運転者に運転引き継ぎの警報を発し、引き継がれないときは安全に停止することなどの自動運転システムの性能に関する要件の他、その作動状態を記録する装置に関する要件が定められています。(※4)
また、自動運転車の安全確保のためには、自動運転システム自体の性能に加え、サイバーセキュリティ対策やソフトウェアアップデートに関する基準を定め、国がその適合性を確認する必要があります。このため、自動運行装置の保安基準の施行に合わせ、同装置を搭載する自動車に対し、サイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する保安基準を適用することとしています。
※3 官民ITS構想・ロードマップ
ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)・自動運転についての日本の方針を示した、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にて決定された国家戦略文書。2014年に策定され、最新状況を踏まえ、毎年改定されている。
※4 「自動運行装置の保安基準等の概要[PDF 132KB]」(国土交通省)を参照
井上:
日本が世界に先駆けてサイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する保安基準を施行するのですね。
河野:
はい。国内の保安基準は、関連する協定規則の成立・発効に先行して施行することとなりましたが、その具体的な要件については、保安基準の策定時点における最新の国際議論を十分に踏まえたものとなっており、国際調和に最大限配慮しています。
奥山:
仮に、日本の保安基準と今後WP29で策定される協定規則で“差分”が生じた場合はどうなるのでしょうか。
河野:
最速で2020年6月のWP29への上程が予定されているサイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する協定規則の最終案と日本の保安基準とを比較しても、規制の趣旨やコンセプトに相違はないと考えていますが、最終的にWP29で本規則が成立・発効した際には、これを直ちに国内に導入し、国際基準との完全な整合を図ることとしています。
奥山:
自動運転の実用化を加速するためにも、サイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する法令は必要ですね。
河野:
そのとおりです。なお、現在国際的に議論されている協定規則案は、自動運転車に限らず、従来の自動車についてもその要件を適用する方向で検討が進められているところです。国内では、現時点において自動運行装置を搭載した自動車に限定してサイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートに関する保安基準を適用していますが、本協定規則が成立・発効した際には、この保安基準の適用範囲を拡大していくことになると考えています。
井上:
つまり、「コネクティビティはあるが、自動運転車ではない」という車両も、将来的にはサイバーセキュリティに関する保安基準の対象になるという理解でよいでしょうか。さらに、本保安基準は、OTAだけではなく、有線通信にも適用される可能性がありますか。
河野:
コネクティビティがあれば、当然外部からサイバー攻撃を受ける可能性があるわけですから、自動運転車でなくともサイバーセキュリティ対策は必要になると考えています。また、有線通信によるアップデート機能を有する自動車に対してもサイバーセキュリティに関する保安基準を適用するかどうかについては、WP29における国際的な議論を踏まえつつ検討を進めているところです。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 井上 雄介
自動車に関する国際法規であるWP29 UNR155に適合するため、車両OEMとサプライヤーは、適切なサイバーセキュリティ要件を導出し、それを満たす製品を開発することが求められています。PwCが提供する「WP29 Cyber Security Management System(CSMS)支援プラットフォーム」は、セキュアな製品開発において最も重要である脅威分析を効率的に実施するためのウェブツールであり、脅威や攻撃に関する最新の情報を提供します。
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車両のデジタル革命によって、次世代のモビリティ社会が形作られる一方で、各国の政策や規制により変化の速度が決定されている面があります。その要因の一つがサイバーセキュリティへの懸念です。
車両サイバーセキュリティに関する国際規格や製品ライフサイクルにおける重要論点の解説やクライアントとの対談を通じ、車両サイバーセキュリティの将来をひもときます。